1-A.18
三人は、格納庫に収まったカヴェナンターを横目に、ウドミが持ってきたテーブルを囲んでいました。手元にはリアシュが淹れてくれたコーヒー。アコは飲むだけの人。
ウドミが口を開きます。
「実は、高速走行中の接地圧が随分高いように感じまして。最高速度に踏み切れないのですわ」
『履帯状況把握』というスキルがあります。操縦席にいる時、文字通り履帯の状況を把握できるというもので、操縦手必携のスキルです。ウドミも持っているのでしょう。操縦手は、このスキルで履帯の負荷を窺いながら、切断したりしないように気をつけながら運転するのです。
「履帯を幅の広いものにしてみましょうか?どのみち、足回りは装甲を含め多少の改造をしようと考えておりましたわ。いえ、いっそのこと複合転輪に!?」
「複合転輪って、整備性の割にそんなに効果ないらしいですよ……?」
ロマン主義に鼻息荒いリアシュに、半眼のアコが軌道修正を加えます。そもそも、足回りに信頼のおける戦車というのがもともとの要求でしたね。
「まあ、わかりましたわ。履帯は、パーツが調達出来次第、足回りの改装をしますのでその際に変えてみます」
「よろしくお願いいたしますわ」
解決です。
「次は、アレですわね」
リアシュの指示語に、ウドミはピンとこなかったようですがアコは察しがつきました。
「アレ、ですね」
「ええ、アレですわ」
「もうっ!意地悪なさらないでください」
「あはは、ごめんなさい。アレっていうのは、私の腰を破壊した……」
「あの、ハッチですわ」
ウドミが納得の表情をしました。まあ、ウドミは唯一痛い思いをしていませんから、印象が薄いのは当然かもしれません。
「危険はもちろんですし、交換したいのはやまやまなのですが……」
そこまで言ったリアシュが言いよどみました。
「あれを交換するとしたら、クルセイダーⅢ以降で採用された観音開きのハッチです。どうせ規格は合いますわ」
「なら、そうすれば良いんじゃありませんか?」
否定されるためにされたようなアコの提案を、リアシュが目を伏せて否定します。
「それが、そうもいかないのですわ。砲塔で変更が利くのは、砲か、砲塔そのもののみです。ハッチだけというのはできないのです」
なるほどですね。むしろ、ハッチに欠陥のあるというこの事態そのものがイレギュラーとも言えます。ハッチだけの為に砲塔ごと買い替えるのは、さすがに躊躇われました。
「そういうことなら……まあ、開けたときにロックをしっかりすれば良いだけのことですしね」
「ええ、ではそういうことにしましょうか」
「賛成ですわ」
解決です。
「あとはやはり、装甲でしょうか?言っても栓のない事ではありますけれど」
ウドミが挙げた防御力の低さも、問題の一つです。最大でも四十ミリしかない装甲では、マイン・スコーピオンの遅い針砲弾にもビクビクしなくてはいけませんでした。
「しかし、本当に栓のない事ですわ。機動力を損なわない範囲では、どれだけ厚くしてもせいぜい五十ミリ程度でしょう」
「アハトアハト理論に従うなら、三倍くらい欲しいですね」
アハトアハト理論とは、砲を自由に変更できるPBOにおいて、結局88ミリ程度の砲を載せておけば最強なんじゃね?という言説を揶揄したものです。転じて、その砲から最低限身を守ることができるラインである150ミリを下回る装甲には意味がないのではないか、という話にも発展しています。が、時流からは外れつつあります。
「そこまでは言いませんが、下手に重くなって狙撃の的になっては本末転倒です。やはり、厚い皮膚より速い脚ですわ」
「当たらなければどうということはありませんしね」
先ほどから独自言語で通じ合っているアコとリアシュを、ウドミが羨ましそうに見ていました。
ともあれ、解決です。
「最後は攻撃力、なんですけど」
アコが言いながらチラッと視線を送る先は部屋の隅。布にくるまれた、長い筒状の何かです。まあ十中八九、戦車砲です。
「ええ、これが気になるのでしょう?」
リアシュはもったいぶって微笑みながら席を立つと、優雅な足取りで戦車砲と思しき物体の方へ歩いていきます。
そして、一気に布を剥ぎ取りました!
「これは……!」
そこにあったのは予想を裏切らず戦車砲。アコとウドミはなんとなく驚いて見せました。
「オードナンスQF75ミリ砲ですわ」
アコは、その名に聞き覚えがありました。
「あの……それって確か、6ポンド砲と大して変わらないんじゃ……?」
「数字だけ見れば、そうかもしれませんわね。むしろ貫徹力では6ポンド砲に劣りますわ」
「ならどうして……」
アコの苦い記憶がよみがえります。あれはそう、2ポンド砲から換装した6ポンド砲もどんどん硬くなる敵に歯が立たなくなってきて、バレンタインの次の砲を考えていた時でした。順当にいけば17ポンド砲だったのですが、財布への負担が重いし、そもそもバレンタインには物理的に重いしで購入を躊躇していた時です。オードナンスQF75ミリ砲を見つけたのです。6ポンド砲が積める砲塔ならそのままで搭載できるという触れ込みで、しかも手頃な値段。6ポンド砲の口径が57ミリで、75ミリ砲は文字通り75ミリなので、77ミリである17ポンド砲に対して良い中継ぎに思われました。
そして、口径だけ見ていたのではダメということを学んだのでした。75ミリ砲の威力は、リアシュの言う通り6ポンド砲と大して変わらないどころか僅かに劣る始末。アコにしてみれば、言われなくとも身をもって思い知っています。
最終的には、アコの購入した75ミリ砲は数十発撃っただけで売却され、アコの手元に残ったのは雀の涙ほどの額のみ。まさか、6ポンド砲とこれを交換しようというのでしょうか?同じ轍を踏ませるわけには行きません。
口を開こうとしたアコに先んじて、リアシュが言いました。
「アコさん、榴弾というものをご存じ?」
「え……?爆発する砲弾、ですよね」
「ええ。PBOには、6ポンド砲で撃てる榴弾がありませんの。これでは歩兵戦車のくせに歩兵を撃てませんわ」
「はあ……」
そう、ソロで対戦車戦ばかりやっていたアコには分からないメリットでしたが、オードナンスQF75ミリ砲は榴弾が撃てるのです。というかそもそもこれは榴弾砲なのです。
「BCSはPVP。きっと、大きな意味があるはずです」
不敵に微笑むリアシュに、アコは反論の口を閉ざしました。




