1-A.16
カヴェナンターの車内に、リアシュの作戦を伝える声が響きます。
「本来、ブラックプリンスは単騎ならばそこまで怖い相手ではありませんわ。足元こそ地雷原ですが、やることはいつもと変わりません。アコさん、残弾は?」
「35発です」
69発積んできたので、そのおよそ半数をマイン・スコーピオンに叩きこんだことになります。
「十分ですわ。ウドミ、私が合図したら左から飛び出して、地雷を躱しながら真横に回り込むように移動してください。できるだけ大回りで」
「大回り、ですか?」
「動きを奪ってから近づいて確実にとどめを刺します。ですのでまずは、足元を狙ってください。もちろん倒してしまっても構いませんわよ、アコさん?」
「努力します……」
カヴェナンターの六ポンド砲で抜けるのは、100メートルからでもブラックプリンスの履帯側面くらいでしょう。回り込むというのは正しい作戦です。
「それに、ことが最も上手く進めば……あるいはそんな苦労は要らないかもしれませんわ」
リアシュは、意味深なことを言うとハッチを開き、砲塔から頭を出しました。
そして、しばらく前進してくるブラックプリンスを観察する様に眺めていたかと思うと、「今ですわ!」と車内に叫び、頭を引っ込めました。
ウドミがレバーを倒し、カヴェナンターが発進します。リアシュの指示通り、直進するのではなくむしろ真横への軌道で進むカヴェナンターに、ブラックプリンスが反応します。
進路をあちらから見て右手に転換し、発砲します。砲弾がカヴェナンターの背後を駆け抜けていきました。
「ウドミ、もう少しだけ近づいて!」
何かを調整するようなリアシュの指示に、ウドミが左手のレバーをさらに強く倒し、カヴェナンターはブラックプリンスの進路を横切るように高速で走り抜けます。ブラックプリンスは一旦前進を停止し、左の履帯を前に、右の履帯を後ろに動かし始めました。超信地旋回です。
カヴェナンターは尚も、その速度を緩めることなく大回りで地雷原を曲進します。
そんなカヴェナンターに回りこまれまいと、ブラックプリンスが九十度くらい回転したとき、その足元が爆発しました。車体からせり出した巨大な履帯が爆炎に包まれます。
「地雷!?」
「やりましたわ!」
ウドミとアコが目を剥いて驚く横で、リアシュがガッツポーズでもしそうな満面の笑みを見せます。
「ブラックプリンスの全幅は三メートル強であるのに対し、その全長は九メートル弱もありますわ。いかに前方の地雷を処理しながら進撃できても、その場で回転してしまっては、真横に残った地雷が起爆します」
「なるほど!」
「流石はリアシュ様です!」
まさに鼻高々でトリックを説明するリアシュを、二人は何の含むところもなく尊敬しました。
「右の履帯が切れたみたいです」
「このまま回り込みますわ」
足が止まれば、あとは定石通り。動きを奪い、弱点部位を撃つ。簡単ですね。
下半身は動かずとも、砲塔を回し必死の射撃をするブラックプリンスの砲撃を、カヴェナンターは軽やかに置き去りにし、がら空きの側面を容赦なく砲撃しました。
6ポンドの鉄と爆薬の塊は砲塔と車台のちょうど間くらいを抉り、弾かれます。
「流石にしぶといですわ」
「もう一撃!」
被弾によって最早、砲塔を回転させることすらできないブラックプリンスの砲塔後部に、とどめの一撃が炸裂しました。
三人が固唾を飲んで見守る先で、ブラックプリンスは黒煙を吐いて動作を停止、撃破タグを上げたのでした。
「私、マイン・スコーピオンの方回収してきますね!」
「あら、よろしくお願いしますわ」
そんな会話をしたのが約一分前ですが、アコは既に若干の後悔をしていました。ブラックプリンス撃破地点とマイン・スコーピオンの死骸は300メートル近く離れています。カヴェナンターなら往復一分もかからない距離ですが、人の足では数分かかる距離。
足元が対戦車地雷原であることを踏まえれば、『地雷探知』を持つリアシュとその足であるウドミがカヴェナンターでマイン・スコーピオンの回収に向かい、アコがブラックプリンスを担当するべきでした。きっと、リアシュたちの方も気づいた頃でしょう。テンションが上がっていて後輩根性から余計なことを言ってしまいました。
待たせてはいけないとダッシュしつつ、少し思いついて、ステータスウィンドウを開きました。スキルの欄には、高レベルになってくると余りがちとなる大量のスキルポイントが表示されています。アコは指を滑らせ、取得可能なスキルの一覧に移動しました。そしてお目当てのものを見つけます。
一覧のかなり上の方に、『走行』『長距離走』など、いわゆる走る系のスキルがまとまっていました。これらは戦車ではなく、プレイヤーが走るときに効果を発揮するスキルです。要件であるDEXも十分。アコは、とりあえずまとめて全部取得しました。先輩方を待たせないための必要経費です。余ってしょうがないスキルポイントの有効活用とも言いました。
そうこうしながらながら辿り着いたマイン・スコーピオンの死骸に手を翳し、表示されたウィンドウを操作します。
「むう……」
モンスターからは基本的に戦車部品は回収できません。代わりに、レア目なオーブが回収できるのですが、このマイン・スコーピオンが落としたのは『砂漠Ⅲ』。レアはレアでも使えないレアです。確かに珍しいし、天然でⅢまで育っているのは美味しいですが、そもそも地形系のオーブが外れ枠。今度のBCSにしても主なフィールドは森林、草原とのことです。およそ、使えないでしょう。
まあこんなこともあるか、と切り替え、アコはリアシュたちの待つブラックプリンスの方へ、再びダッシュで帰っていきました。




