1-A.15
黒煙を上げて停止するチャーチルの尻目に、ブラックプリンスが鈍重な動きで前進を続けます。その傍らを固めていた四輌のチャーチルは、既にアコの砲撃で屠られていました。遥か手前には尻尾を振り回すマイン・スコーピオン。
マイン・スコーピオンが徐々にこちらに向かって移動しているせいで逃げ場が狭くなっていくカヴェナンターを、その超重量の尻尾が捉えつつありますし、ブラックプリンスからの射線も通りやすくなってきました。チャーチルが残っていたらもう被弾していたかもしれないと思わせるほどにヒヤッとさせられる場面が増えています。
「このままではジリ貧ですわ!」
「ええ。そろそろこちらから動きましょう」
リアシュが、砲塔に開いた細いスリットからマイン・スコーピオンとその先のブラックプリンスを覗きながら言いました。左手は口元に添えられています。
「アコさん、マイン・スコーピオンを撃ってください。押し返して地雷まで誘導し撃破します」
「わかりました、けど……」
マイン・スコーピオンを地雷地帯まで追い立てるということは、この巨大な障害物を、守りやすい窪地から出してしまうことになります。
アコは、ブラックプリンスの砲撃に晒されることを懸念しました。
「前方の地雷でマイン・スコーピオンを撃破後、巣を脱出して打って出ます。足回りを破壊したら、至近距離から止めを刺しましょう」
「……了解です!」
たしかに、チャーチルを処理した今となっては敵の弾幕も存在しません。緊張感はありますが、籠城戦よりは地雷原の上での叩き合いの方が勝算は高いように思われました。
アコは照準をつけるまでもない近距離にいるマイン・スコーピオンに向けて発砲します。こちらに頭を向けているマイン・スコーピオンの頭部にほとんど垂直に当たった砲弾でしたが、爆煙が晴れ、表れたのはへこみ一つない綺麗な頭。まったく気が滅入る防御力です。
しかし、これがプライヤーの戦車だったならそのまま攻撃の手ならぬ尻尾を休めないところを、砲撃に怯んで後退してしまうのが所詮プログラムであるということ。マイン・スコーピオンは、巨体を引きづって少し下がりました。
間を置かずに次弾が装填され、アコはほとんど狙いもせずに発砲。先ほどの光景が繰り返されます。
アコがマイン・スコーピオンに砲弾を無数に送り込む間、ウドミはマイン・スコーピオンから付かず離れずの位置で尻尾攻撃を避け続けていました。近づきすぎればその尻尾の餌食となってしまいますし、あまり距離を取ると今度はブラックプリンスの射撃が怖いです。
そんな駆け引きを続けること十数回、ついに、マイン・スコーピオンが巣の外縁部からその体をはみ出させました。
「方向はそのまま、あと十メートルの位置に地雷がありますわ!」
「はいっ!……ぬぇ!?」
このまま押せ押せで地雷の上まで押し込もうと、次弾の装填も待ちきれずに引き金に指をかけていたアコは、マイン・スコーピオンがそれに抵抗する様にこちらに大きく足を踏み出したのに驚き、変な声を出してしまいました。
「何事!?」
「……っ!ブラックプリンスですわ!」
ブラックプリンスは、すでに最も遠い地雷よりもこちら側に足を踏み入れていました。
そして、カヴェナンターを狙って砲弾を撃ちまくり、結果的にはマイン・スコーピオンの向こう側の甲殻を叩いているのです。叩かれたマイン・スコーピオンは、当然こちらに向かってノックバックします。
距離がかなりあるので、そのノックバックはそこまで大きいものではありませんが、ずっとこうであるわけがありません。こちらが進んでいて、あちらもこちらに向かってきているのですから。そして、こちらの砲弾は6ポンドで、あちらは17ポンドなのですから。
「地雷を無視しているんですか!?」
「いえ……まだ疎らにしか敷設されていない地帯であることもありますが、それだけではありません。あの鈍足のせいですわ……」
リアシュの言葉にアコはハッとしました。ブラックプリンスは、その足が極端に遅く、そのために史実でも量産にまでは至らなかった戦車です。そして、マイン・スコーピオンの卵地雷は、極端に敏感。そう、戦車が直上にいなくても起爆してしまうほどに。
「まさか……!」
「ええ、ブラックプリンスは、最高速度で走りながらも地雷のダメージを受けない……ということですわ」
機動力の欠如、過敏な地雷、そしてそれをさらに早く起爆させる超重量。砂上ではせいぜい時速十数キロしか出ていないでしょうブラックプリンスは、さながらローラーを装備した地雷処理戦車のように、地雷原を悠々自適に闊歩しているのです。今も、その車体の手前で地雷が起爆しましたが、爆風と卵の破片が強固な前面装甲を叩いただけでした。
「アコさん、距離のある今のうちにサソリを押し出します!これ以上近づかれたら押し負けてしまいますわ!」
そうなれば、また窪地に後戻りです。今度は、至近距離にブラックプリンスがいる状況で。
アコはなせる最高速度で砲弾を撃ち込み続けます。幸い、優秀な自動装填装置のおかげで、その砲撃の間隔はこちらの方が短いです。
しかし、三歩下がらせたら一歩戻っていたところが、次第に二歩になり、そして……。
「あと五メートルですわ!」
「距離を詰めます!」
尻尾攻撃の被弾覚悟で、ウドミがカヴェナンターを前進させます。さらに超近距離からの砲撃に、マイン・スコーピオンが四歩下がりました。
「あと三メートル!」
撃ちます。頭上で鳴るガシャコンという音に、条件反射で引き金を引きます。
「二メートル!!」
撃ちます。歯を食いしばりながら、その単純作業を延々と続けます。
「一!!!」
撃ち続けます。手が塞がるのでやりませんが、PBOの神様に祈りたいくらいです。
そしてついに、目の前のマイン・スコーピオンが動きを止めたかと思うと、その腹の下から閃光が溢れ出し、轟音が空気を揺らしました。
しきりに振り回されていた尻尾が力を失いぐたりと地に倒れます。倒れ落ちた長い尻尾がさらに二つの地雷を起爆させ、連続した爆発音が三人の耳朶を打ちました。
「やりましたわ!」
「ええ、このままブラックプリンスもやってしまいましょう!」
当のブラックプリンスは、無感動にマイン・スコーピオンの死骸に砲弾を撃ち込み続けていました。




