1-A.14
興奮冷めやらぬ車内にお構いなしに、戦闘は進行します。
マイン・スコーピオンとの距離がついに50メートルを切りました。これでようやく、地雷地帯を抜けたことになります。普段ならここからもう一度、マイン・スコーピオンを追い立てながら地雷地帯に戻るところですが、今回は緊急事態です。
後方500メートルにまで迫るブラックプリンスが、その存在を主張する様に発砲し、追従してチャーチル達も砲弾を送り込んできます。
今度は、先ほどのマイン・スコーピオンの針のようにはいきません。リアシュ達のティーガーⅡならいざ知らず、カヴェナンターの装甲では17ポンドが掠っただけでも容易く貫かれてしまう事でしょう。
ウドミはリアシュの当初の指示通り、新しい針が生えるまで何もできないでいるマイン・スコーピオンの横をすれ違い、十数メートル進んで急停止しました。そして、左手で口元を抑えるリアシュに指示を仰ぎます。
「向きはこのままで良いでしょうか?」
「ええ、最悪撤退を……」
そこで、リアシュは口唇の動きを一時停止しました。
「いえ、やはり反転してください。マイン・スコーピオンの尻尾には気を付けて」
「了解です」
カヴェナンターは超信地旋回できないので、ウドミは少しずつ左右の履帯を動かして車体を180度回転させます。その隣で、マイン・スコーピオンも鈍重な動きで四対の足を動かし、砂をかき分けながらカヴェナンターに向き合おうと体を回転させるので、天から見ると歯車が嚙み合って回っているように見えました。
そうしている間にも、ブラックプリンス率いる歩兵戦車部隊からの砲撃は続きます。しかし、マイン・スコーピオンの甲殻は、直撃する砲弾を難なく弾き飛ばしています。それを盾にしているとはいえ、戦車乗りには恐ろしい光景です。
「……こちらの6ポンド砲では、この距離からブラックプリンスの正面装甲を抜くのは不可能でしょう」
アコは、6ポンド砲で敵戦車に挑むこの状況が少し懐かしくも思えました。そういえば、ハンガーでカヴェナンターの横に新しい砲と思われるものがあったのを見ています。換装してから来れば、もっと楽だったでしょうか。
「6ポンド砲でもチャーチルならやれるはずです。取り巻きだけでも処理しませんか?」
「ええ、お願いしたいですわ。本当は地雷にでもかかってくれれば良いのだけれど……」
「地雷地帯に入るまで待っている時間は、無さそうですわね」
ウドミが急発進と急停止、時にはバックを織り交ぜてマイン・スコーピオンの尻尾を避けながら言うように、時間はあまりありません。
マイン・スコーピオンはその固い殻でチャーチルたちの砲弾を弾きつつ、反り返った尻尾をしならせカヴェナンターを攻撃してきているのです。その尻尾がいつカヴェナンターを捉えてもおかしくありませんし、歩兵戦車部隊の砲撃も激しさを増す一方です。
「一瞬で良いです。砲撃が途切れた瞬間に、少しだけマイン・スコーピオンの陰から出てください」
「わかりました」
アコは、ウドミに自分が言われたら嫌な難しい注文をして照準器を覗き込みます。狙うのは右端のチャーチル。今はマイン・スコーピオンの巨大な体しか見えませんが、チャーチルがうつり込んだ瞬間引き金を引くつもりです。
「行きます!」
ウドミの声に脇を締め、集中します。カヴェナンターが右へ動き出しました。マイン・スコーピオンの体が照準器の中で左へ移動して行き、見えました。敵チャーチルです。
カヴェナンターが急制動をかけ、左から右に働く慣性を感じつつ、アコは狙いを定めて撃ちました。一瞬後、カヴェナンターが後退を始めます。
果たして、アコの放った砲弾は、チャーチルのわずかに手前の地面に着弾して砂を爆発させました。
「すみません!外しました!」
思えば、これがこのカヴェナンターでのアコの初射撃です。癖の強いバレンタインの感覚で撃ってしまったのが原因ですが、できれば当てたかったというのが本音。
「構いませんわ!ウドミ、次を」
「はい。アコさん、行きますよ!」
落ち込んでいる暇はありません。ウドミの声に「はい!」と返事して、もう一度目を照準器にあてがいます。ガシャコン、という音がして、自動装填装置が動作を完了しました。
「今!」
再びマイン・スコーピオンの巨体の右から飛び出たカヴェナンターを狙って、右端のチャーチルが発砲しますが、ウドミにタイミングを外され、砲弾はマイン・スコーピオンの甲殻を叩いただけでした。
アコは、精神を落ち着かせるように努めながら引き金を引き絞ります。大丈夫、もう癖は掴んだのです。
爆発音とともに飛び出した砲弾は地面と平行に飛翔し、チャーチルの砲塔に吸い込まれるようにして直撃しました。
チャーチルの前進が停止し、一拍後に赤い撃破タグが立ちます。
「やりました!」
「でかしましたわ!この調子で、囲まれる前にあと三両もお願いしますわね」
照準器を覗き込みつつ、アコは頷いてみせました。




