1-A.13
彼我の距離が200メートルを切ります。ウドミがリアシュの指示に忠実に従い見えない地雷を完全に避けていく傍らで、アコは、当たっても効かないと知りつつもマイン・スコーピオンに照準をつけていました。
マイン・スコーピオンの尻尾がしなり、先端の針が撃ち出されます。半秒後、砲弾のような針はカヴェナンターの右に着弾し、ウドミが躱したばかりの地雷を起爆させました。
カヴェナンターを、凄まじい衝撃が襲います。
「くっ、これだからマイン・スコーピオンは……」
「申し訳ありません、もっと余裕を持って避けるようにします!」
せっかく躱した地雷も砲撃で起爆させられるという意地悪い仕様。リアシュが憎々し気にマイン・スコーピオンを睨みます。
衝撃でずれた進路上にあった地雷をギリギリで回避し、何とか持ち直したカヴェナンターとマイン・スコーピオンの距離は残り150メートル。これが対戦車戦ならば、とっくに決着がついていてもおかしくありません。
つまり、すでに一撃食らえば撃破され得る間合いに入っているということです。
「撃ってみますか?もしかしたら背中に当たるかも」
「……いえ、堅実にいきましょう。定石通りに」
マイン・スコーピオンの弱点とは、その腹と背中です。正規の攻略法は至近距離から撃って怯ませ、地雷の上へ追い立てて腹を爆破するというもの。自分の地雷で爆死するという、その正規攻略法の間抜けさが、本来強力なボスであるマイン・スコーピオンが若干のネタ扱いを受けている理由です。
また、遠方から第二のウィークポイントである背中を狙い撃つという方法もあります。ただし、反り返った幅広の尻尾が傘のようになって守っている上に、そもそも背中を狙うにはかなりの俯角が必要であり、地の利も必要な難易度の高い方法です。位置としてはデザートエリアの外縁側、つまり高所を取っているカヴェナンターですが、不幸なことにここはほとんど起伏のない地形。背中に当たる可能性は、低いでしょう。
正攻法を取るならば、マイン・スコーピオンを中心に半径50メートルほど広がる少し窪んだ地帯までたどり着かなくてはなりません。マイン・スコーピオンの巣という設定なのでしょう、その窪地までいけば地雷はないのです。
数秒、左手を口元に当てる例のポーズで考え込んでいたリアシュでしたが、すぐにアコに指示を出しました。
「100メートルを切ったら発砲してください。マイン・スコーピオンの右奥の地雷を使いますわ」
「了解です」
右奥の地雷の方に追い込むということは、左側に当てればよいのでしょう。流石にここまで近ければ外しません。よく狙います。
「今!」
リアシュの発砲指令と同時に、アコが引き金を引き絞った瞬間でした。
カヴェナンターの背後の地面が爆砕しました。
「何事ですの!?」
リアシュが血相を変えてハッチから顔を出し、双眼鏡を覗き込みます。そして、見つけました。
「あれは……!」
砂漠に一点穴が開いたような、漆黒の車体。
「後方五時に、ブラックプリンス出現!チャーチル四両がお供についていますわ!」
「!?」
「そんな!」
まさかの、ボスのバッティング。
ブラックプリンス歩兵戦車は、チャーチル歩兵戦車の車体を拡大しより強力な砲を搭載したというチャーチル歩兵戦車の発展型にして、最後の歩兵戦車です。PBOにおいては、歩兵戦車の王様ということでデザートエリアの全域に出現するエリアボスを担っています。わずか時速18キロメートルという低速ながら、左右に二両ずつチャーチルを伴って近づいてくるその姿は、凄まじい威圧感を持っていました。
その砲は、アコのバレンタインもかつて搭載していた17ポンド砲です。その76.2ミリの穴がこちらに向いているのを見て、リアシュはすぐさま車内に叫びました。
「マイン・スコーピオンの懐に飛び込んでくださいまし!盾にさせていただきますわ!」
その言葉に従って、ウドミは速度を弛めることなくマイン・スコーピオンに向かって直進します。
そんなカヴェナンターの四方に、チャーチルの放った砲弾が相次いで着弾しました。そして、運悪くその一発が、カヴェナンターの左前方に埋まった地雷を起爆しました。
砂が巻き上がり、爆風がカヴェナンターの車体を叩きます。幸いにも履帯を巻き込むほどの近距離ではなかったものの、カヴェナンターはその姿勢を大きく崩しました。
そして、デザートエリアの北方を預かるボスたるマイン・スコーピオンがその隙を見逃すはずがありません。
「まずい!」
ウドミが爆風の勢いを利用する様に進路を右に切って逃れようとするも、間に合いません。すでに針は放たれたのです。
そしてアコは、それよりもさらに速く動いていました。アコの左手は砲塔を回転させるハンドルを掴んで、回していました。照準器の中で針がグングン迫ってきます。今もウィーンと重い駆動音を立て旋回している砲塔への直撃コースです。
着弾の瞬間、カヴェナンターの平らな砲塔左側面は、ウドミによる進路転換と合わせてちょうど三十度の角度で針の砲弾を受け止めました。針の先端が装甲に触れ、滑り、針はカヴェナンターを穿つことなく、上方へ飛んでいきます。
砲塔内に「ゴンッ」という重い金属音が響き渡りました。
熟練した砲手が稀に見せる、砲塔を旋回させ最もダメージの少ない角度で砲弾を迎え撃つ、高等技術です。狙ってできるプレイヤーは、数えるほどしかいないでしょう。
「……っ!ウドミ、進路を戻して!」
「は、はい!」
一瞬異様な空気に包まれる車内を、リアシュの一声が現実に引き戻しました。ウドミも、声を出したリアシュも、神業を披露したアコ自身も、切り替えるように目をしばたかせます。それでも頭の一部はボーッとするような興奮状態のままでした。
アコはこの瞬間、PBOの楽しみを最大限享受していました。なんか脳から出ています。これだから、PBOはやめられないのです。




