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パンツァーブリッツ・オンライン  作者: りんごりあん
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1-A.10

 ウドミの格納庫は、久しく人が入った形跡がありませんでした。もちろん仮想空間ですから埃が溜まったりはしませんが、装備などの収納スペースである棚には何も置いておらず、代わりに、部屋の大部分を二輌の戦車が占めていました。床には、戦車砲の砲身と思しき長い筒が布にくるまれて置いてあります。

「普段はリアシュ様の格納庫を使わせていただいていますから、ここに入るのも久しぶりですわね」

「戦車を置かせてもらっているのはこちらの方ですわ」

 二人の会話をよそに、アコは二輌の一方の戦車に目を奪われていました。ものすごく、どこかで見たことがあるような。そんな強烈な既視感に襲われたのです。

 ベージュに塗られた車体と砲塔はドイツの中戦車、Ⅲ号戦車のもの。もっとも、アコから見ればⅢ号とⅣ号の砲塔の違いなんてよく分かりませんがともかく、その砲塔から伸びる50ミリ砲に、アコは見覚えがあったのです。

「あの、こっちの戦車は?」

「ああ、それは……預かりものでして。できれば勝手に使いたくはないのです」

 最後の手段ですわね、と微笑むリアシュに、アコはそれ以上何も聞けませんでした。

「見せたかったのはこちらですわ」

 リアシュが指したのは、Ⅲ号の右隣の戦車でした。特徴的な、潰れた六角形のような砲塔。アコは以前、こんな感じの戦車が高速で暴れ回るのを、BCSのSランク戦の中継か何かで見たことがありました。たしか、その戦車の名前は……。

「クルセイダー巡航戦車!」

「いえ、カヴェナンター巡航戦車ですわ」

 アコはズッコケました。

「同じじゃないですか!?」

「全然違いますわ!クルセイダーと違い、カヴェナンターは欠陥戦車。一緒にしては痛い目を見ますわよ」

「もっとよくご覧になって!転輪が四つでしょう。クルセイダーなら五つなんですよ!」

 リアシュだけでなく、ウドミにまで突っ込まれたのは意外でした。そんなウドミに苦笑しながら、リアシュが説明してくれます。

「以前、二人でBCSに出たときに購入したものですわ。あの時はダメでしたが、あれ以来かなりのバージョンアップを施しています」

「じゃあ、このカヴェナンターはもともとBCSにチームで出るために買ったものってことですか?」

「そういうことですわ。ウドミの初期戦車を売ってそのお金で買ったのです」

「私も初めは一人でやってみようと思っていたのですが……」

 結局リアシュと一緒に一台の戦車を動かす方が性に合っていた、ということでしょう。アコは納得した上で、気になったことを質問しました。

「それで……カヴェナンターって、欠陥戦車……なんですよね?なんでクルセイダーではなくカヴェナンターを……?」

「そこはまあ、いろいろあったと言いますか……」

 目を逸らすウドミとまた苦笑するリアシュ。聞かない方がよさそうかな、とアコは思いました。

「エンジンとラジエイターを交換して、乗れる戦車にはなりました。そこは心配いりませんわ。特にラジエーターが高くつきましたけど……クルセイダーを買った方が安かったくらいには」

 ウドミがむこうを向いて顔を覆ってしまいました。やっぱり聞かない方がよさそうです。

 カヴェナンターはイギリスの巡航戦車で、マークⅥであるクルセイダーの一つ前のナンバリングが振られたマークⅤです。「C」から始まる愛称をつけるというイギリス巡航戦車の伝統の始まりでもあります。欠陥戦車と言われる所以は、エンジン周りの特殊な構造からくる冷却不良によって、車内温度が大変なことになり戦闘どころではなくなってしまうこと。さらにエンジン自体もオーバーヒートしやすく、史実においては、ほとんど実戦で用いられなかったそうです。

 PBOでは、戦車ごとに装甲や砲力の評価と別に、居住性という評価が存在します。搭乗員の快適さなどを表す指標です。手を加えていない史実のままのカヴェナンターであれば、この居住性が最悪ということになります。居住性が低い戦車は乗員のプレイヤーのステータスを低下させ、時には体力も奪います。例えば世界初の戦車であるマークⅠ戦車はPBOにも実装されていますが、これにガスマスクやゴーグルを装備せずに搭乗すると何もしなくても数時間で体力がゼロになり死亡します。

 このような仕様から、居住性の悪さから史実で活躍できなかった戦車でもPBOではそのまま使える、ということはありません。リアシュとウドミは、より高性能で信頼性の高いエンジンとラジエーターに交換することで、カヴェナンターを少なくとも動かせる程度にまではしたのでしょう。聞いた様子ではかなりお金がかかったようです。

 リアシュにその金額を告げられ、アコは愕然としました。

「そんな大金どうしたんですか!?」

 目を剥くアコに、リアシュが言いにくそうに目を逸らしながら、人差し指と親指で円を作りました。

 これは、来迎印でしょうか?いいえ、お金のハンドサインですね。どうやらリアルマネーをつぎ込んだようです。アコは、財閥令嬢の課金というとどれだけの桁になるのだろうかと想像を膨らませました。

「そういう事なら、私はこのカヴェナンターでBCSに参加するのに俄然賛成です」

 そんなアコに、リアシュとウドミは嬉しそうに頷きました。出場戦車はカヴェナンターに決定です。

 しかしPBOは、課金すれば勝たせてもらえるほど簡単なゲームではありません。リアシュは愛くるしい表情を引き締めて言いました。

「お金で出来る強化は済んでいますわ。次は、実際に乗り込んで強化する段です。ウドミ、アコさん。このカヴェナンターを最強の戦車にしましょう?」

 アコとウドミが頷き返しました。

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