1-B.76
機関砲を秘める鉄筒の先端が火を噴き、推定直径48ミリの砲弾が発射されました。空中、その僅かに下を、直径75ミリの砲弾がすれ違います。カヴェナンターが発射したその弾は、鉄筒の先端を寸分違わずにその中に吸い込まれ、内部で炸裂しました。A42Vの機関砲が唯一発のみ発射できた弾は、カヴェナンターの後方にて地面をえぐり、炸裂しました。
「当てました!」
「でかしましたわ!よくやってくれました!」
その声の喜色と、後頭部の感触だけで十分に報われるというものです。
「ウドミ、良いと言うまで全速ですわ!」
その言葉の通り、カヴェナンターは速度を落とすことなくA42Vの腹の下に滑り込みます。
「これで一度、視線が切れたはずですわ。そして、後ろに『目』は無い……はず」
リアシュがそう言う間に、カヴェナンターはA42Vのお尻に差し掛かっていました。そのお尻もものの数秒で遠のいていきますが、そこについた機関砲が黙ってそれを見過ごすはずもありません。
「撃ってきてますが!?」
「ですが、頭側に獲物がいる限り追ってはこないはずですわ。ウドミ、右の路地に入り視線を切ります」
カヴェナンターが右手の路地に入ると、機関砲の射撃は本当に止みました。
「このままトンネルへ!M3が無茶すれば、状況はまだまだひっくり返り得ます。急ぎましょう?」
「かしこまりましたわ!」
カヴェナンターは、速度制限を戻すのも忘れてトンネルへ直行しました。
16時32分、BCS開始からすでに3時間半が経過しています。カヴェナンターは、民家と木々に巧妙に隠されたトンネルの入り口にて一息をついていました。何だかその民家が、前に見た時より少し形を失っているように見えるのも気になりましたが、専ら気にかかるのはマップ上の二つの点です。即ち、YNGとMAGIの二チーム。
既に別れてから20分、二チームがトンネルに着いたのを確認してからも10分以上が経っているにも拘らず、二チームはトンネルの中から移動していないのです。相変わらずトンネルの内部は光をも吸い込む本物の黒に満たされ、先の方を見通すことはできません。
改めてマップを確認し、CRSTの三人は顔を見合わせました。
「何か、事故かしら?」
「まあ、行ってみればわかるじゃないですか」
そうしてトンネルに突入したカヴェナンターでしたが、すぐに違和感に気が付きました。
「なんか、水増えてません?」
最も深いところでも履帯くらいまでだった水深が明らかに増し、車台の上面装甲が部分的に水面の下にあります。おまけに、そこいら中からピチョンピチョンという水の跳ねる音が聞こえてくるのです。
「降り止んだ雨が、時間差で染み出してきたと言ったところかしら」
「高低差の計算をなさらなかったのかしら……?」
窓から水が流れ込んでくる操縦手席に座るウドミが不機嫌そうです。
その時、コンコン、とハッチがノックされました。リアシュと視線を交わし、アコが懐中電灯片手にハッチを開きます。照らし上げられた赤い人影は、MAGIのレッドさんでした。
思いっきり肩を跳ねさせたアコの顔を認め、レッドが口を開きます。
「無事だったと見える。良かったです」
リアシュがハッチから上半身を出し、応答します。
「ええ、なんとか。そちらは……何かありまして?」
「はい。スタックです」
レッドのその言葉と前後せず、ウドミがカヴェナンターを停めます。そのライトが照らす前方には、手前にIS-2が、奥にARL44がどちらも向こうを向いて停まっていました。
「スタックしたのはARL44ですか」
「そうです。任されておきながら、申し訳ない」
「いえ、構いませんわ」
カヴェナンターに反応してか、濁った水面を破って黄色と青色の頭が出てきました。
「に゛ゃああああんでウチの車長が申し訳なさそうにしてるにゃあ!ニャギニャギはにゃんで働きもせずにいるにゃあ!?」
日本語でもう一度お願いしたいです。侠所につき、キンキン声がやかましく響きます。ARL44のハッチが開き、呼ばれてかは分かりませんが出てきたのは例の黒髪美少女でした。
「私、ニャギニャギじゃなくてナギナギよ?それよりCRST、来たわね」
その黒目をカヴェナンターに向けたナギナギは、背後で続くイエローの声を無視しつつそんなことを言いました。
「レッド、踏板の敷設を完了した」
いつの間にかカヴェナンターの上のレッドの近くに来、アコの見ている前では初めて喋ったブルーの報告を耳ざとく聞きつけたナギナギが、さらに口を開きます。
「だそうよ。そういうわけだから、カヴェナンターが前に行って引っ張ってくれない?後ろから押してもダメみたいだし」
「私もそうするべきだと思います。頼めるでしょうか」
既にIS-2はトンネルの左に寄っており、どうやら初めから、ARL44とすれ違うことの出来るカヴェナンター待ちだったようです。相変わらず横柄なナギナギと腰の低いレッドに頼まれ、リアシュは当然、首肯しました。
「もちろんですわ」




