1-B.75
「更新10秒前です。次は西ですわよ」
「心得ていますわ」
まさに更新の瞬間、村落エリア北端の例の道、いつぞやTSHBの襲撃を受けた道に出たカヴェナンターは左へ進路を切りました。
マップには、まんまと南東へ誘導されたM3中戦車の点と、その北200メートル余りまで迫ったA42Vの長方形が表示されています。
「M3は、私たちが南方を目指していると看破していたようです。まあ、今回はそれが裏目に出たわけですが」
リアシュが嗜虐的にすら見える悪い笑みを浮かべて見下ろすM3中戦車の点は、村落エリアの南端付近にありました。大方先ほどのアコと同じような思考をして、マップ更新後にカヴェナンターが南へ進路を切ると予想しての行動だったのでしょう。既に、CRSTの理想とするM3中戦車、A42V、カヴェナンターという直線関係が出来上がりつつあります。
「これでこちらの作戦にも気が付いたでしょう。今度は北に上がってくるはずです」
全ては微笑むリアシュの手のひらの上です。
「もうマップ更新のことは気にしないで、南に動き始めてもいいんじゃないですか?」
アコの提案に、ウドミも追随します。
「私も、その方が安全なように思えますわ。北に一直線で来られれば、安全地帯から追い出されてしまいます」
リアシュは左手を口元に当てていましたが、程なくして頷きました。
「では、そうしましょう」
ウドミが再び、左へ進路を変えます。今頃、M3中戦車はA42Vとドキドキのすれ違いをしながら北上しているはずです。幾何が得意なアコの脳内では、直線運動するM3中戦車と、今南下を始めたカヴェナンターを結ぶ線分上にA42Vが乗っている図が完璧に描かれています。
「このまま真っすぐ南に抜ければ、案外簡単にトンネルまで行けちゃんじゃないですか?」
アコがそんなことを抜かした時、カヴェナンターはちょうど、村落の東西を横切る大通りを跨いでいました。その左手、東から飛来した砲弾がカヴェナンターの鼻先を掠めて右手へ飛び去り、民家を破砕しました。
「砲撃ですわ!」
「どこから!?」
咄嗟にハッチを開き大通りの東側を見たアコは、こちらに向かってくるM3中戦車を見つけました。ウドミは加速をやめず、その姿はすぐに塀の影に隠れます。
「応射しますか!?」
「いいえ、いけませんわ!」
ハッチの上、アコの横に頭を出したリアシュが睨む先にあるのは、比較的背の高い木塀、正確にはその向こうに見える巨大かつ不思議な形状の柱のようなもの。
「……遅かったようですが」
より正確には、A42Vの脚の一本です。その巨柱が持ち上がり、一足でカヴェナンターの走る通りを跨いで、そしてさらに巨大な本体が右半身を現します。
「A42V、距離は100……」
リアシュの苦々しい声が妙に静かな車内に響きます。
「反転、しますか?」
ウドミがそう言いますが、振り返ればそこに、先ほどの大通りからM3中戦車が姿を現しました。
「なんでM3がここに……」
呻くアコに、リアシュは冷静さを崩さず答えます。
「完全に動きを読まれましたわね。あるいは、一点賭けの決め打ちに勝たれたか……」
「もう見つかったんですし、撃っていいですよね。M3を撃破して北に逃げるというのはどうですか?」
アコはそう言いつつ既に砲塔を旋回させ始めていましたが、リアシュはそれを制止しました。
「ええ、撃っても構いませんわ。ですが、砲塔はそのままです」
「えっ!?」
思わず前方を見たアコの目の前で、A42Vの前面の向かって右の方の機関砲が火を噴き始めました。瞬く間に通りの両脇の民家が吹き飛び、カヴェナンターの装甲をも砲弾が浅く捉えます。
「ウドミ、速力制限解除。そのまま前進ですわ」
「は、はい……!?」
ここに至っては、アコも理解せざるを得ません。リアシュがやろうとしていることとはつまり、宇宙の大提督もびっくりの死中に活を求める戦法です。即ち、正面突破。
「アコ、早く照準を!」
「本気ですかぁ……!?」
何を照準するか、もはや聞くまでもありません。しかし、できる気も微塵もしないのです。
唇を咥えながら照準器を覗くアコがそこに収めるのは、ちょうど射撃が途切れたA42Vの機関砲、それを覆う筒の先端の点です。
「……撃ちます」
トリガーを引き、発射された砲弾は筒の根元に着弾し黒い汚れになりました。
「もう一発!」
「はい……!」
リアシュは諦めるつもりはないようです。再び照準器を覗いたアコの両肩に、軽くて温かい感触が置かれました。
「大丈夫、あなたならできますわ」
アコは、返事の代わりに、トリガーを引きました。




