1-A.9
PBOは、その見所の一つに街の作り込みが挙がるタイプのゲームです。アコも昨日知ったことですが、昨日入った喫茶店のようなマップにも表示されない隠れた店があるようですし。誰にも見つからなかったら一体どうするつもりなのでしょうか。
もちろん、逃げも隠れもしない普通の店も数多くあります。そういった店はどんな街でも大体メインストリートに軒を並べており、主には戦車の部品の店、戦車のメンテナンスの店、戦車部品の買取の店、戦車の改造の店、また戦車の部品の店……といった具合です。そのメインストリートの突き当りに、戦車の格納庫であり、街の玄関口でもあるハンガーがそびえたちます。例にもれず、霧の街フォグバーグもまた、この構造をしていました。
ハンガーの一階部分は、言わずもがな格納庫です。と言っても天井が高く、一階だけで三階分くらいはあるのですが、その上の二階はカフェテリアになっています。メインストリートにも飲食店はありますが、多くのPBOプレイヤーはこの、ハンガーのカフェテリアを利用します。まあ、出撃前後に使うには近場が便利なのでしょうね。
ちなみに、BCSのSランク戦の際にはこのカフェテリアの天井から大きなモニターが吊られ、戦闘の様子が中継されます。
賑わうカフェテリアの窓際のテーブルを、三人の女性プレイヤーが囲んでいました。アコ、ウドミ、リアシュの三人です。三人が一様に眺めているのは、お昼に発表された五月のBCSの詳細を表示したウィンドウでした。
「5月25日13時0分開始……主なフィールドは森林、平野……」
リアシュが左手を口元にやりながら大会概要を読み上げます。アコの観察によれば、これが彼女の思案ポーズ。リアルの、リーゼロッテにも同じ癖があるのか近いうちに確かめるつもりです。そんなことを考えつつも、アコは真面目な顔で今回のBCSのルールに視線を注ぎます。
「『ウルトラ・タグ・ゲーム』ですか……。鬼ごっこ系の大会は、これで四回目になるらしいですね」
「ええ。私は一度だけ出場した経験がありますわ」
「私は初めてです……」
「私もですわ」
PBOは息の長いゲームですが、BCSはその歴史の中では割と最近始まった催しです。今回で第十九回となるBCS。PBO八周年の記念で開催された第一回は、現在と違い日本サーバーに限らず全世界からプレイヤーが参加したにも関わらず、参加者は現在の十分の一もおらず、当時はランカーが参加する難易度の高い世界大会というイメージでした。
アコが自分もやってみるかとソロ部門で初参加したのは第四回。それが去年の冬のことですので、数回参加した後はもう勉強で忙しくなり、その後一年近くBCSに参加どころかログインすらしていなかったアコからすれば、いつの間にこんな大きな催しになったのか、とちょっとした浦島気分です。
ちなみに、過去のタグ・ゲーム系の大会とは、第三回『タグ・ゲーム』、第七回『スーパー・タグ・ゲーム』、第十六回『ハイパー・タグ・ゲーム』、そして今回の『ウルトラ・タグ・ゲーム』だそうです。いずれも、デカい敵に追い回されるタグ・ゲームというよりもチェイス・ゲームという方が似合いそうなルールで、今回もどうせ似たようなものでしょう。
「エントリーは今週末から……それまでに出場戦車を準備しておきたいところですよね」
アコの言葉に、二人が頷きます。
「タグ・ゲームと言うからにはやっぱり、速力で選ぶべきでしょうか?」
「次回以降もBCSに参加することを考えると、一概にそうも言えませんわ。それに、私は出られませんでしたが『ハイパー・タグ・ゲーム』の時のSランク戦では鬼役がプレイヤーによって撃破されました。タグ・ゲームでも強力な砲が必要になるかもしれません」
「それでも足回りはやはり大事ですわ。大会中はきっと、整備や修理なんてできませんもの」
砲力があり、それでいて足回りも強い戦車。アコはハッとしました。
「前にも言いましたけど、バレンタインは無理ですよ!装甲が薄いし、積める砲弾も少ないから長期戦はできないし、そもそも二人乗りですし……」
「そうですわね……」
ウドミが嘆息します。昨日、試しにバレンタインに乗り込んでみて、狭くて低い砲塔内で体をぶつけまくって脱出するのも一苦労だったことを思い出したのでしょう。
「ティーガーⅡは足回りが不安で、バレンタインはソロ専用……新しく買うしかないんでしょうか?」
タイミング悪く金欠中のアコに、リアシュが言いました。
「大丈夫、何も準備がないわけではありませんわ」
「……?」
腑に落ちないアコに、ウドミが目配せします。
「ティーガーⅡの他にあと二両、私の格納庫に置いているんです」
「アコさんがよろしければ、そちらの戦車をベースに出場戦車を用意しようと思っています。早速お見せしましょうか」
アコが頷くのを見て、リアシュとウドミが腰を浮かせました。向かう先は、階下のハンガーです。




