第40話 秋の香り、そしてオリオン座
頭上でカラスが鳴きふと上を見上げてみれば、大量のカラスが電線に張り付いており、ゾットさせられる。
通常、カラスというものは木の枝などで休むはずだ。だというのになのにこんな町中にいるという事実に地球の緑が破壊されていることを実感させられる。
それか、《《何らかの理由で帰るべき場所に帰れなくなったか》》…
そして、そのさらに上を見れば、オリオン座が薄っすらと瞬いている。
さて、俺が一体どこにいるのかというと、お察しの通り、外である。簡単にホテルは抜け出せた。途中百合草に合ってビビったがなんとかバレずに済んだ。
桜だったら絶対にこう上手くは行ってない。
明日から、山本たちが動くようだしこっちもこっちで色々準備を進めなければなるまい。
しかし、秋だなー。なんせ秋の匂いがするからな。
この季節ごとに匂いが変わる現象、皆も心当たりがあるのではないだろうか?
上げた視線をもとに戻し、あたりを見回して見ると、酒を入れ、恋心をより一層燃え上がらせたカップルたちが抱き合って言る。
そんな、笑い声であふれている歓楽街の道を通り、町の中央へと足を向ける。
まちの中央は結構広い円形の広場でクリスマスに向けたライトアップがなされていた。
やっぱり、虫とバカというものは光物による習性があるようで、いささか人口の密度は高く感じられた。
しかし、頭も雰囲気もピンク色に染まっている、街中の広場で、ポツンと一人で佇んでいる少女は寒さで青白かった。
その彼女の名は、楓 美海今回の章の犠牲者の一人であり、後の章で出てくるヒロインの一人である。
紅葉のように赤い髪をサイドテールにしている。きっと、太陽のもとでは美しく反射し趣を増すのであろうが、残念かな。今は太陽なんて出ていない。
真っ青な顔が髪の毛まで青くしてしまうんじゃないか?
さて、どういうテンションで話し掛ければいいのだろうか。俺は血迷いに血迷った挙句、アニメでよく出てくるナンパ野郎の真似をしてみた。
「顔、すごく青いけど大丈夫?ハナシ、キコカー?」
「…?」
とりあえず、話聞こうか?と言っておけば大丈夫ってじっちゃんが言ってた!!!
しかし悲しいかな、ナンパのごとく胡散臭い笑顔で話かける俺は傍から見れば不審者であろう。
しかし、当の話し掛けられた相手は、まるで宇宙の猫のような顔をしていた。しかし、これが海外パクリアニメのようにとても質の悪いナンパであると気づいた彼女。
しかし、こんな寒い夜中に一人でいることに対しては自覚があるようで、反対に申し訳ないような笑顔を浮かべる。
「あははっ、わざわざ心配してくれてありがとう。でも大丈夫!」
口をカチカチと鳴らし、所々どもる彼女はもうすでに限界を迎えているいうに感じた。
それでも尚、否定する。
…………。
どうやら、俺のナンパ作戦は失敗に終わったらしい。つかみは最高だったと思うんだが…。しかし、このままでは、大丈夫!だいじょばない!の押し問答が繰り広げられるだけで、何も進展しないだろう。だから、
「何がだ?」
声を低くして、楓 美波の目を真っ直ぐ見据えながら話す。
楓の緑の目は限界を告げている。口も乾燥して皺皺になり、変色して紫色になっている。
いきなりスンッと真顔になった俺に戸惑っている。
「えっとーー」
相手の態度が明らかに変わったことに対する戸惑い、恐怖。長時間極寒の中で過ごしたことの疲労もあるだろうが、困惑によって低下した思考力。
『人間が最も弱ったときに説得すべし』、白銀の悪魔が言ったあのセリフは本当に的を射ていると思う。
「とりあえず、着いてきて。店に中に入ろう」
「でも…」
「大体のことは、予想できる。でもいつまでもここにいても、第2、第3の俺が湧くだけだ。」
まあこれに関してはただの原作知識なのだが。
この先の出来事に関して簡単に説明すると、この寒さの中にずっといた楓は次第に体力と精神に限界を迎える
すると、ある条件の元で必ずと言っていいほど発生するチャラ男が現れる。
ともに限界を迎えていた楓はいとも簡単にチャラ男の口車に乗せられてしまう。すると
(チャラ男)+(ラノべ)−(駆けつけない主人公) =同人誌
の方程式が成り立つわけだ。
そして皆さんの想像の通り、色々喪失してしまった彼女にさらなる悲劇が襲いかかる。
それが《《生贄の核》》としての誘拐。
古の時から生贄は純潔でなければならないとされている通り、汚れている儀式の行方なんてわかり切っている。
そんなわけで、チャラ男よりも早く遭遇しなければならなかったがなんとかできたようだ。
§
「ごめんね~わざわざこんなものまでご馳走してもらって」
「別に、大丈夫ですよ」
24時間のチェーン店に入り、価格割増の食品をドカドカと食べた楓さん。ご満悦そうで何よりです。
それにしても結構遠慮なく食ったな…まあいいけど。
少しばかり軽くなってしまった財布を思い出し、心が重くなる
まあ、美少女に貢いだと思えば……ホロリ
「あははは!ごめんって!後で、絶対返すから!あと別に、敬語じゃなくてもいいよ。君、いくつ?」
少し、彼女の罪悪感を刺激してしまったのか少し申し訳なさそうに、眉を八の字にする。
あと、流石陽キャ、距離の詰め方が早い。敬語に関しては、特に断る理由もないので了承しておく。
「わかった、じゃあそうさせてもらうよ。今は中3だ」
「へ~~中3か!じゃあ同じだね!それにしても、随分とイケメンだね?君」
イケメン?誰だソイツぶっ殺〇ってやる! あ、そのイケメン俺でした。
そうだった今の俺は、髪をしっかりとあげてセットしてるんだった。
じゃあイケメンだわ。
「ふ~ん、じゃあ私も遊びかな?」
此方を査定するように見てくる楓。まるで面接官のように、隅から隅まで隙なく観察してくる。楓の気持ちはよくわかる、いかにも遊びなれたような人からの親切、警戒するには十分な理由だろう。
「残念ながら、そういった経験はないな」
俺は肩をすくめながら自虐的に返答する。
これは、残念ながら真実だ。実際、相手もそれを見抜いたようで朗らかに笑う。
「あはは、こんな、夜に出歩いてちゃ説得力がないね!」
話すたびに、ケラケラと笑う彼女は陽キャだった。まごうことなき陽キャだった。
俺の持論なのだが、陽キャはよく笑う。そして、俺のくだらない話にも笑ってくれるのだ。
しかし、笑いの種類にも種類があり、中には苦笑いも含まれていることに注意したい
苦笑を笑っていると勘違いして話を続けてはいけない(戒め)
まあ、しっかりと自分で戒めたとこで、
「さて、ここでじゃあバイバイというわけには行かない。それは楓も分かっているだろう」
「おお、随分と痛いところをついて来るね」
そうじゃないと、こちらが助けた意味がないからね。
「楓、君には俺の自己満に最後まで付き合う義務がある。そう思わないか?」
「いや、思わない」
「……」
え? 予想外の返答に頭が真っ白になる。
「ぷはぁ!あははっ!ごめん!ごめん!何かカッコつけてたからからかいたくなちゃった」
べ、べ、別にカッコつけてね~し。そっちの勘違いだしッ!
「ア~、へそ曲げないで、ね?私の事情だね。分かった、話すよ」
十分に揶揄い、満足したのか、やっと、楓は身の上の事情を話し始めた。
「私は、こう見えてもいいところのお嬢様でね。結構豊かな生活をさせてもらってたんだけど…」
確かに、食べ方や話し方には品が出ていて、育ちの良さを感じる。
「でも最近、ちょっと、パパと喧嘩をしちゃってね。」
「喧嘩ね~。まあ年頃としては健全じゃないのか」
俺も親としょっちゅう喧嘩してた。くだらないことで…
「そうだね、そうかもしれないね…」
目に悲しい影がよぎる。そのまま椅子に深く座り込み窓の外に視線を向ける。
俺もつられて窓の外を見てみれば、まだ夜が降っていた。
「家でペットを飼っていたんだ…猫なんだけどね」
そのような前口上があった後、ポツリポツリとこぼし始める。でも、そのような言い出し方をすれば、誰でも察しが付くだろう。
「それが先日、いつの間にかいなくなっていて、逃げ出したんじゃないかって…いろいろ探したんだ…でも結局見つからなかった。」
「そうか…」
「そんな、探し回って疲れていた私に、パパが言ったの…『あの猫は捨てた』って…」
話している楓の目からは涙がこぼれる。相当、その猫のことを愛していたんだろうということが十二分に伝わってくる。
「その猫は、お母さんの形見で!!大切にって!!…思ってたのに…」
「…」
「それで、なんか全てが嫌になって家出をしたという訳」
成程ね~。大体の話の要を聞き終わった俺は、原作の流れと一致していることを再確認する。
ひとまず、ここにきてイレギュラーが起こっていなかったことに安堵しつつ、原作ではほとんど関係がなかった楓をどのように扱っていくかなどを考える。
そう、重要なのはここからどうするか。この楓をどうするかだ。
件のあれが始まるまで、もう少し時間があるから、それまでは呑気に過ごしてほしいのだ。その間に、いろいろとしなければいけない。
だから…
「パパがね〜…」
|クソどうでもいいことに《愚痴》時間をあまり裂きたくないのだ。
美少女に親身に寄り添うなんて、どっかの主人公がやればいいのだ。
俺は適当に相槌を打ち、話を聞き流す。
山本か霧島を連れてくるべきだったか?
ここで楓の好感度を俺が稼いでも意味ないんだけど
そんな俺の心の内を知らず、楓は愚痴を吐き続けた