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ブックマークして下さった皆様方、ありがとうございます。面白いお話になるように楽しんで執筆していきたいと思います!

 ――遡ること三日前。

 あれは毎年春に行われる王立魔法学院の新入生歓迎式典に出席した帰りの事であった。

「ねぇ、シルワ。今年の新入生は去年よりも大分少ないわよね」

「ああ、どうやら今年の筆記試験を担当したのはあのドクトス先生らしいよ」

 利発そうな青年は、片手に持った本から目を離さずにそう答える。真っすぐに肩のラインで切りそろえられたブロンドの髪が風にたなびく。

「あらそうなの。どうりで少ない訳ね」

「ドクトスの魔法理論試験の難易度は、他の奴らの比じゃねえよ。まぁ運も実力の内ってこった。来年また受けりゃいいんだよ」

 少し乱暴な口調で答えた青年は、いたずらっぽい笑みを浮かべる。くすんだ赤い髪は、寝ぐせが残っている所為か、所々ぴょんぴょん跳ねている。

「フランマ。貴方ってほんと辛辣ね」


 ここリーベルタース王国は肥沃な大地を活かした農業が盛んな国だ。また国民の約七十パーセントは魔法使いであり、魔法は人々の生活と密接に関係し、日々の暮らしを支えている。

 国は主に軍事力強化を目的として、王都フォルトナに王立魔法学院を設立した。学院で年に一回行われる入学試験には、男女身分を問わず王国全土から魔法使いが集結する。その難解な入学試験に合格した者は、四年間の学院生活を経て、国家魔道士や国家魔道騎士に認定される。(在学中に認定される事もある)卒業後殆どの者は、国防の要である侯爵領や辺境拍領へ派遣されたり、首都フォルトナを覆っている巨大な魔法防護壁を維持する役割を担うこととなる。

 国家魔道士や国家魔道騎士に認定されれば、将来安泰。また、平民でも高給取りになれる唯一の職業なので、毎年志願者は後を絶たない。


「それよかさ、お前らこれからなんか予定あるか? 今日、闘技場でクレメンス対グイドの決勝戦があるんだ! 一緒に見に行こうぜ!」

「僕はパス。父上に用事を頼まれてる」

 シルワは読み終えた本を、パタンと閉じる。

「あらシルワもなの? 実はわたくしも今日は予定があるのよね」

 学友二人に誘いを断られてしまったフランマは、両手を頭の後ろで組み、唇を尖らせる。

「んだよー。連れねぇなぁ」

「ごめんなさい。今日はどうしても外せない用事があるの。また、どんな試合だったか教えてちょうだいね」

「しかたねーな。――ま、偶には一人で真剣に観戦するのも悪くねぇか」

 丁度フランマの言葉を聞き終わったタイミングで、スピラが足を止める。

「じゃあ、わたくしはここで失礼するわ」

「どこまで行くの? 近くなら送って行こうか?」

「い、いえ! お気遣いは嬉しいのだけど、わたくしは平気よシルワ!」

 スピラはぎこちない笑みを浮べる。

 するとシルワは、どこか呆れた表情で嘆息する。

「――あまり無茶しないようにね」

(うっ。何なのその溜息は! 貴方なんだか最近お父様⦅国王⦆に似てきたのではなくって!? しかもジト目でこちらを見ないでちょうだい!)

 どうやらシルワにはスピラの行き先がバレているようだ。

(でもこの様子だと目を瞑ってくれるみたいね。ならばそのご厚情に、甘えられるだけ甘えさせていただくわ!)

「ええ! 心配ご無用よ。じゃあまた学院で!」






 二人と別れたスピラは、国家魔道騎士の専属護衛と合流し、乗用馬に跨がる。

 それから王都を囲う城壁を通り、何処までも続いて見えるのどかな麦畑を、颯爽と駆け抜ける。青々と茂る麦穂は、春の麗らかな日差しを反射し、波のように風にたなびいている。その美しい景色を堪能しながら平坦な道を進むこと約二十分。漸く目的地周辺へ到着した二人は、馬から降りると、適当な木に繋ぐ。

 ここからは、約十分の道程を徒歩で行く。


「姫様。またあの森へ行かれるのですか。危険だと何度申し上げれば分かっていただけるのか」

 不満げな表情で、不平を訴えながら隣を歩く大柄な男をスピラは見上げる。ここへ訪れるたびに聞かされるお説教は、これで何度目になるだろうか。

「あらアウィス。貴方こそ何度言えば分かって下さるのかしら。あの森は確かに一般市民にとっては危険な場所だわ。だけどわたくしは国家魔道士なのよ。それにちゃんと学院の許可も得ているわ。――貴方まさかわたくしの実力を疑ってるの?」

「そういう問題じゃないんです!! 私は貴方様の専属護衛です! 貴方様に危険が生じた時は、私がこの身を盾にしてでもお守り致します。しかしながらそれ以前に優先すべきは、その様な状況に陥らない為に配慮することにあり――……」

 いつもの如く始まった従者のお説教に、スピラはこめかみを揉む。

(――この男も中々の頑固者よね。お父様からわたくしを任された責任もあるし、何より本気で心配してくれているのは分かるのだけれど……。わたくしにも譲れないものがあるのです。 ――こうなったら仕方ないわね!)

 未だ留まる事を知らないお説教の嵐の中、スピラはぴたりと歩みを止める。それから踵を重心にくるっと回転してアウィスに向き直ったら、素早く両手を掬い上げる。


「貴方の言いたいことは充分理解しているわ。だけど、わたくしのことは貴方が守って下さるのでしょう? ならば、わたくしに恐れるものなど何もないわ」

 スピラは、真っ直ぐアウィスの瞳を見据え、にっこりと微笑む。

 意表を突かれたアウィスは一瞬驚いた様子だったが、今は視線をキョロキョロとさせ、どこか落ち着きがない。心なしか頬も赤くなっているように見える。

「――姫様……。し、しかし私は……」

 さっきまでの勢いは見る影もなくなり、アウィスはそれっきり口を閉じた。

 その一瞬の隙を見逃さなかったスピラは、しめた! と言わんばかりに、内心したり顔で言葉を継なく。

「さあさっ! 参りましょう!! せっかくここまで来たのよ? それに何度も言うように、魔物はあなたが思っている程危険な存在ではないわ。手出ししなければ何もしてこないし、よく見ると、とっても可愛いんですからっ!」

 スピラは恍惚とした表情で瞳を輝かせる。


 するとアウィスは、諦めたように溜息を一つ零し、己の至らなさに自省する。

 彼は代々王家に仕える伯爵家の次男だ。家督を継ぐ事は無い為、早々に騎士になる事を決めた。また、スピラの兄であるカエルムの友人であった事もあり、スピラとは幼い頃から交流があった。その頃からスピラの事を実の妹の様に大切にしてきた。――その気持ちが形を変え、恋心に変化したのはいつの頃だったか……。それ故に、スピラに懇願されるとどうにも抗えないのだ。


「あーもう!! 分かりました。どこまでもお供します!! ――ですが、本っ当に無茶はしないで下さいね!!」

 アウィスは半ばやけになって、返事をする。

「そうこなくっちゃ!! ――あーっ! 楽しみだわ!!」

 スピラは従者の失礼な態度を全く気にしていない様子で、意気揚々と歩き出す。

 一方アウィスは、どこか疲れた様子で前を行く主の後を追う。

 そうこうしている内に、二人は目的地まで辿り着いた。

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