第2部ー5話「神の話」
遅くなりました!
神という名を名乗るにしてもその姿はあまりにも前世で私が過ごした世界、科学が発展した現代の人間そのものである。そして何より、その神と名乗るそれからは魔力というものが欠片も感じることができなかった。大精霊達を前にしたような高揚感、この人はこの世界において重要な存在だという胸の高鳴りは全く感じることができないというのに、何故だろう、彼女を前にして首を垂れることが道理であろうというように体が地に伏したがる。
地に伏すことがこの世の道理だというように。
「うらぁぁあぁぁ!!」
「はぁぁああぁああ!!」
声がして地に伏せるように耐えていた私は驚きその方を見る。すると、剣を振りかざして大地を蹴り跳躍をしながら剣を振りかざし神に切りかかるクラースとノヴァがいた。神は顎に手を当ててから考えるような仕草をし、人差し指を立てた右手をゆっくりと前に出した。そしてそれをついっと上から下に動かすと、彼等の剣が彼女の指の動きを真似するように上から下に動きそれにつられたクラースとノヴァが体勢を崩して地面に落下しそうになる。
「兄さん!」
「クラース!」
インベルとアウィスの声が響き、彼等の体の落下速度が遅くなり何とか体を打ち付ける直前で受け身を取った二人は私の隣に立つと「すまない」と声を揃えて剣を構える。2人の表情を見るに、私と同じ重圧を受けているのだろう。抗っている証の汗が額からにじみ出ている。皆が頑張っているのだ、私が頑張らないでどうすると足にぐっと力を入れて負けずに震える足で踏ん張る。ちらりと隣に立っている2人に視線を送ると、彼等は頷く。すると後ろにいたフロース、インベル、アウィスも前に出て私の目を見て頷いた。
「・・・よかった。これで私は―」
後ろでどこか安心しきった、だが満足気なミールスの声を私は聞き逃してしまった。ここで、私が振り返って彼女に手を伸ばしていたのならばこれからの運命が変わっていたのだろうか。
『気骨がある若者が多いな。良い』
明らかに敵意を向けられているというのに神は余裕の笑みを浮かべながら空中で足を組む。機械の羽根が広がりゆっくりとその体制のまま降りてくるとそっとプルヌスの肩へと手をかける。
『息子以外は騒がしいと思い位置情報を変更してみたのだが、正解であったな。しかしまぁ、粗末な場所で呼ばれたものだ』
「申し訳ございません。神であり母よ。ここは魔物の母体であり我が一部を分け与えた配下“胎”がその身を隠していた故郷。この世界の規則たる魔力を持たない貴女の概念をこの世界に呼び戻すには、貴女の概念を植え込んだ“胎”の子を媒体にしなければ叶わなかったでしょう」
『まあよい。許す』
今、プルヌスは何を言ったのだろう。
暗闇から現れたあの女性が魔物の母体?つまりは、ここにいた魔物達は彼女から産まれて来たということだ。そして、プルヌスはこの村が先程の拘束されていた女性の故郷だと言った。そして、赤い外套が先程の女性の子だとも言った。
「まって。あの赤い外套は、人間、なの?」
「そうだよ?」
私の問い掛けにプルヌスはあっさりと返答する。
「何だ気が付いていなかったんだね。あの子はさっき会った“胎”から産まれたごく普通の人間だよ。この村はね、アウローラ。とっても大精霊が大好きな村人が沢山いてね。大精霊に選ばれるような子をつくろうと考えていたんだ。魔力の強さは遺伝性だから、魔力が強い母体がいろんな男と交配して、血縁とか何も考えずに交配していたんだって。人間ておかしいよね?あの子達は、“胎”が自分の子供達を守るために村を滅ぼしたあと最後に産まれた子達だよ。誓って、ボクの子じゃないよ」
「何で、原初の厄災なんて役割を押し付けたの?」
嬉々と話すプルヌスに怒りが小見え気てくると同時に、段々と悲しくなってくる。私が大好きだった彼の本性に触れて、胸が引き裂かれそうであるが、私は聞かねばならない。全て聞いて、彼を憎まねばならない。
よくぞ聞いてくれましたというように上機嫌にプルヌスは話始める。
「“胎”は最初ボクを信仰してくれた意識のある人間だったんだけれどね。彼女の子供達を使って魔物造ったり、厄災をばらまいたりしていたら発狂してしまって。使えないから捨てようかと思ったんだけれど、子供達に“何でもするから母を殺さないでくれ”って頼まれたものだから、母親もその子達もボクの手でしか死なないように加工して、原初の厄災と母の触媒になって貰ったんだよ」
「なんてことを・・・」
フロースが口元に手を当てて吐きそうな声でプルヌスへ非難するような視線を向ける。その瞳は潤んでいて、今にも吐き出しそうであるがそれよりも彼に対する憎悪の方が勝っているらしい。
フロースからの視線に心外だというようにプルヌスは首を傾げる。
「何故そのような視線を向けるんだい?寛大じゃないか。利用価値のないモノに価値を与えて手元においたんだ。子供の懇願なんて無視してもいいのに叶えてあげた。それのどこに責める要素があるんだ?」
「貴様!!」
「何故怒るの光の大精霊。というか、ボクがした事よりも村でやっていたことの方が変だと思うけれど」
「村の行いも許されざるものだが、貴様の行いも正しいとは言えない!」
「最初の聖女と鎖の事は棚に上げるの?」
プルヌスの言葉にアウィスがぴたりと動きを止める。そして「何のことだ?」と目を見開いた。その反応を見てプルヌスはたじろぎ、代わりに隣に立っていた神が声高に笑う。
『貴様!大精霊だというのに何も知らないのか!?これは傑作だ!ふふ・・・あの木偶人形の為に何人人が死んだと思っている。残虐さで言えば、あの頃の人間達の方が息子より勝っているだろうに。それほどまでに隠したいか、あの過去を。なぁ?最初の大精霊?』
問われたミールスが顔を背けて小さな声で呟く。
「あの子の、願いですから」
『ほう?木偶人形が?なんともまあ武器の分際で恥を隠そうとしたのか。保身を考えるあたり、あの狡猾なマーテルとパテルが造ったものと言えなくもないな』
「撤回してください!!」
初代聖女と大精霊達の侮辱に耐え切れなくなったフロースが叫ぶ。
「どんな存在であろうと、世界をお救いになった初代聖女様や母なる大精霊マーテル様と父なる大精霊パテル様の侮辱は看過できません!」
震えながらも前に出て神を睨み付けるフロースを彼女は一瞥すると『ハッ!』と鼻で笑い、蔑んだ様な視線を向ける。
『吠える。よい。活きの良いのはよきことだ。しかしながら、お前は本当に聖女か?なんとも、見た目だけでは判断できぬものよな』
一体何を言っているのだとフロースを見たが、彼女は僅かに瞳を揺らしたがすぐに再び神を睨み付ける。そんな彼女の様子に笑みを浮かべるが、すぐにすっとその瞳から温度が消えた。
『してもだ。母と父の名を冠するとはあの2人も何とも偉くなったものだ。このような泥人形共を創り上げて、嬉々としてその名を受け入れているに違いない。虫唾が走る』
「てめぇに泥と呼ばれる筋合いなんざねぇ!」
『はっ!泥を泥と呼んで何が―ほう?もしや大精霊の気配を纏いながら、貴様等何も知らぬのか?』
一体何のことだと皆が黙り、私はミールスへと振り返る。私と目が合うと彼女はバツが悪そうな表情をして「すみません」とだけ呟いて顔を背けた。彼女の名前を呼ぼうとした直後、自分の考えが的を射ていると分かったのか腹を抱えて笑いだした。息ができなくなるほど笑い転げ、まだ笑いが引かぬうちにこちらを指さした。
『貴様等、自分達という存在がどういうものかを知らずに生きていたのか!?全く持って滑稽だ!』
「神であり母よ。この世界で語られる知識をお与えになったはずですが。その中に神話はございませんか?」
『ん?んー検索してみよう。ふむ。あぁこれか。ははぁ。何ともまあ、あれらに好印象を与える様な記述であるな』
すると神の顔から表情が消えた。背筋が凍る様な無機質な表情に剣を持つ手が震えてしまう。一言言葉を発すれば首を撥ねられるような緊張感が漂い、唾をのむ。すると神は誰に聞かせるでもないように、口を開いた。
『よくもまぁ私を悪く言ったものだ。確かに、何度も世界を壊しはしたが、それは私が創った人間達が滅びの道を選んだからであるぞ。流石に何度も同じ種族同士で殺し合いながら世界が滅ぶさまを見たくはない。故に、滅ぶ直前に壊し続けたに過ぎない。輪が目的には程遠い故に』
「目的・・・?」
インベルの呟きに、神が微笑む。先程までの冷酷な表情とは打って変わって寂し気な微笑みだ。
『我は本来交わらぬ世界より来訪した異界人よ』
「!?」
驚き言葉を失う。
確かに彼女の風体はこの世界に不釣り合いなものだ。まさか、自分以外に異世界転生または転移をした人間がいたなんて思わなかった。もしかすれば、私の身の上を話せばわかってくれるのではないかという淡い期待を抱いてしまう。だが、その期待は、彼女の言葉により砕け散る。
『罪を犯した我が世界の住民は自らの世界を捨て、理想郷を見つけ出すためにこの世界へとやって来たのだ。だから、私はこの世界を壊そうとしているのだよ』
彼女の言っていることが全く理解できなかった。この世界は十分美しくて優しい。理想郷を求めているのであればここは十分理想郷と言えるのではないだろうか。思わず私は叫んだ。
「なにそれ・・・理想郷を求めているというのなら、この世界だって十分美しくて理想郷と言えるのではないの!?」
『何を言う?泥で造られ、ホムンクルス共が造った世界など廃棄物でしかないだろう?』
「・・・え?」
それも知らないのかと呆れきったような表情で神はこちらをじろりと見つめる。
『そもそもこの世界は、我が補佐として造り出した人間としての概念に満たないホムンクルスであるマーテルとパテルが、あろうことか何度も私が滅ぼした世界の屑から創り上げた世界だぞ。いわば汚い水をろ過した後に残った泥から創り上げたのだ。甘たるいマーテルの声を今でも忘れはしない。しかもだ、私がなしえなかった百年の壁を容易に越え、進化をせず低い文明水準で暮らし、誰も彼もが世界を理想郷だとして信じて疑わないような循環型ではない維持型の世界。私が願った、今まで創り上げて来た進化を尊重し、高みを目指し、神は私しかおらず、人間だけが生きていく世界をすべて否定したこの世界を見せられた私の気持ちなど分からないだろう。屈辱だ。全く持って気持ち悪い。貴様の発言も、全く持って気持ちが悪い』
「でも、だからと言って壊すなんて!」
彼女が言いたいことも分かる気がするのだ。
彼女は恐らく自らの世界の住民たちを助けるために何らかの方法で自発的に世界を転移してきたのだろう。どのような方法なのか、どれほど辛い物なのか想像もつかない。でも、だとしても、この世界を壊すことはないのではないか。
世界が創られた経緯はどうであれ、この世界は美しくて優しい。神の事情を知れば、彼女の世界の住民たちを受け入れそして彼女が描く理想へも理解してくれるかもしれない。
「どんなもので造られてもこの世界は美しいわ。マーテル様もパテル様もきっと貴女の力になりたくてこの世界を―」
『は?貴様は何を言っている?』
神は目を見開き、首を傾げる。
『確かに屈辱であり、私よりも遥かに下等な生き物が創った世界は気持ち悪い。だが、目的を履き違えている。私の理想郷に先住民など必要がない。だというのに、何故あれらはここまで人間どもを繁栄させ力を与えたのだ。他者を容易に殺し得る力を与えたのだ』
「―」
私は絶句した。
この人は世界を探しに来たのではなく、世界を侵略しに来たインベーダーなのだ。
世界を創り、ある程度反映したところで人間を排除しその世界に住むのが彼女の描く理想郷の作り方というものなのだ。神はふうっとため息をつくと、目元に指をあてた。
『このような気持ちの悪い世界でも妥協をしようかと思ったときもあった。故にあの2人に話を通したのだが、2人は首を縦に振らなかった。だからしょうがなく、破壊機構である息子を造り、人間達を掃討しようと思ったのだ。すると人間達は抵抗するではないか。世界の元々の主は私であるというのに。いうことを聞かないからマーテルとパテルを先に処分しようと思ったが、大精霊なんて言うものを作り出し抵抗し、兵器まで作り出した。簡単な話かと思いきや、この世界は私の世界ではない故に力だどうにも呼びにくく、油断し領域外に拘束されてしまったとは本当に失態であるよな。まったく』
「・・・それも故意に残さなかった記憶か?」
文句をぶつぶつと呟いている神から視線を外し、アウィスは振り返りミールスを見る。彼女は真っ直ぐ神を見つめて「はい」と呟く様に返答する。
「ピケアが・・・あの子が、きっと未来に残せば大精霊達が苦しむかもしれないと言ったから」
神話で語られていることは恐らく初代聖女が身をもって体験したこと。そして、その真実を後世に残すことを迷った末に、神を暴君としての神話を語らせていたのだろう。いや、暴君という点ではきっと違いはないだろうが。
ミールスの表情を見ていると分かる。きっとその初代聖女は優しく、誰よりも未来の心配をしていたのだろう。確かに、神が言ったことそっくりそのまま神話として語り継げば世界は混乱に陥ってしまう。安寧を選んだ結果が、今なのだ。
―しかし、神の話をそのまま鵜呑みにしてもいいものだろうか。
どこか冷静な自分の声が頭の中で聞こえた気がした。だが、神が嘘をついているようではない。といっても、真実を誤認するようにして切り抜かれた真実を話しているのだとしたらどうだろうか。
「母よ」
ふと先程まで黙っていたプルヌスが低い声て呟くと同時に、ひゅっという風を切る音が聞こえて音のした方向を見る。すると、鮮血と共に誰かが倒れていくのが見えた。
「フロース!!!」
反射的に体が動き、背中から倒れ行くフロースを受け止めて背中で受け身を取る。フロースは呻きながら右肩を抑えていて、その手の隙間からは夥しい血が流れていた。駆け寄ったインベルとミールスが治癒魔法をかけてくれているが、傷が完全に塞がっていないうちに風の刃がこちらへと飛んでくる。
「話が長いですよ。母よ」
昏く、感情が読み取れない声音でプルヌスが言うと神はふっと笑う。
『すまぬな。久方ぶりに人前に出た故に』
「まあいいです」
火と風の魔法が織り交ざった爆発をアウィスが前に出て防御魔法を使ってくれているお陰で何とか防げているが、彼の魔法の強さは並大抵ではない。その防御魔法もいつまでもつかどうかが分からない。
はっきりと向けられた敵意に、私の心が揺らぐ。大好きだった先生と、やはり殺し合いをしなければならないのだという実感が湧いてしまう。
「やはり、戦わなければならないのね」
ぽつりと呟くと、涙が一筋流れ落ちた。
戦おうにもフロースは負傷している。それに神という存在はどれほど強いのかも全く未知数だ。ここは慎重に行かなければならないと考え巡らせていると、ふと外の音が気になると同時に嫌な予感が背筋を冷たくする。
プルヌスはこのような戦い方をする人だっただろうか。もっと洗練された魔法を使い、このように大きな音を立てるような魔法は―
「アウローラ!!」
声がして建物の入口の方を見る。そこに立っていたのは、アルスお父様であった。
ぶわっと冷汗が噴き出て、プルヌスが何をしようとしているのかを理解する。
来てはダメと声を出そうとしたが、プルヌスの小さな笑い声と共に鋭い風の刃がアルスお父様の左肩を引き裂いた。
「お父様!!」
仰向けで倒れ込んだアルスお父様は微かにうめき声を上げている。生きている。
震えて動くことができない私に変わりクラースとアウィスが走り、アルスお父様を迎えに行く。その間もプルヌスからの魔法攻撃が襲いかかってきたが、何とか2人はかすり傷程度でアウィスの防御魔法内に入ることができた。とはいえかすり傷と言っても二人は明らかに消耗している。もしかししたら、この魔法の中に何か別の効果が付与されているのかもしれない。だが、今の私には考える力が失われてしまっていた。
「ミールス!そっちを!」
「はい!」
ミールスがフロースから離れてアルスお父様の方へと治癒魔法をかける。だが、明らかに傷の直りが遅い。フロースもそうだ。先程まで二人がかりだというのに、傷の治りが遅く最初よりはいいものの未だにジワリと血が滲んでいる。毒か何かなのか、全くわからない。頭が動かない。ふとクラース達を見ると、かすり傷だと思っていた傷からは血が流れ落ちている。
なんだ、どういうことなのだと混乱する。
プルヌスが大好きな人たちを傷つけている現実と何が起こっているのか理解できないことに焦り、呼吸が早くなる。考えろ、考えろと考えるほどに泥沼にはまっていくようだ。
『ふむ。あれらは殺していいのか?』
「できれば、アウローラだけは殺さないでいただきたい」
『愛しい我が息子の願いならば叶えねばならんな』
プルヌスの攻撃が止み、肩で息をしているアウィスが膝をつく。同時に防御魔法を消えてしまった。すると神はニコニコという笑みを浮かべて、右手を天に向けた。
『では。殺そうか』
何処か楽しんでいるような声音と共にその右手に光が収束し、大きな装飾のついた槍へと変化していく。神が小さく手首を動かすと、それは大きな光を放ちながら、こちらへと強烈な速さで向かってくる。
死を悟りフロースを抱きしめて、身を屈める。
だが、痛みや熱は一向に来なかった。
恐る恐る瞼を開くと、暖かい光のヴェールのようなものに包まれていた。ふとフロースを見ると、そのヴェールから降り注いている光の粒が彼女の傷口に集まり徐々に傷が治っていく。アルスお父様はとそちらを振り返ると、お父様も同様に傷がだんだんと治っていく。
何故先程まで治らなかった傷が治っていくのだろうと目を瞬かせる。
「あれは“原初の厄災”の呪い。全てを侵食し、腐敗させる力によるものだったのでこれで、大丈夫です」
前を見ると、そこにはミールスが立っていた。だが、その容貌はいつもと違っていた。
月光のような美しい腰まである長い髪。透けるような白い肌、黄金の瞳。人間離れしたその姿を見て、どこか嫌な予感がした。傷が治ったフロースが呻きながら、目を開く。
「フロース!?」
「私・・・はっ!すみません、油断してました・・・」
「ううん。いいの」
「この状況は・・・一体・・・」
「ミールスが、助けてくれたんだ」
アウィスが暗い面むちで呟く。まだどこか具合が悪いのかと心配するが、そうではないらしい。悲し気な瞳でミールスを見る。ミールスは固めを閉じて微笑むと指さした。
「そんな顔しないで。本当はこうだったんだから」
「・・・あぁ」
「アルス様には起きたら説明してあげて。呪いが深く刺さってしまったから、目が覚めるまでもう少しかかると思うから」
アウィスは「あぁ」と悔しげにつぶやくと、拳を握りしめた。いつもと雰囲気が違うミールスに、段々と不安になっていく。「ミールス?」と問いかけて手を伸ばそうとするが、私の手は彼女の体に触れることができなかった。よく見ると、ミールスの肌が僅かに透けている。嫌な予感に身を震わせながら、唖然としているとミールスはいつもの笑顔でこう言った。
「アウローラお嬢様。お別れです」




