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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第2部ー3話「廃村」

「騎士団の皆とミールス、アウィスは先に行って周辺の安全を確保してくれるそうだよ」

「了解。じゃぼちぼち行こうか」

「私、遠出したことないので、少しドキドキします」

「そうなんだ。クリュスタルス男爵とは一緒に仕入れとか行かないの?」

「はい。それよりも聖女のお勤めに集中して欲しいとの意向でして」

「ということは、初めてなのはインベルとフロースかい?」

「そうだね。私は騎士学校に入ってからクラースと一緒にプルヌス先生と出たことあるし」

「俺は兄様や国王陛下の付き添いで出たことあるともさ」


私達は武装し騎士団の宿舎の地下へと向かっている。地下へ行く通路は普段施錠されているが、今日だけは施錠が解かれ緊急の際はすぐさま応援に駆け付けるようにされている。では、この地下にはいったい何があるのかというと古代の魔法器具である転移装置があるのだ。見た目としては石造りの床にそちらと同様石造りの、大判の本が開いて余裕に置けるほどの大き目な台座があり、転移用の魔法陣が彫られている。しかもこれは石造りであるがどのような力でも壊せない代物で、ここにある者は何百年と経っているはずだというのに新品同様である。ちなみにこちらの転移装置は王族の管理下にある。


「なら説明した方がいいな」

「王族である俺から説明しよう」

「頼む」


クラースの言葉に得意げな笑みを浮かべるとワザとらしくノヴァは咳ばらいをした。


「世界はほぼ陸続きになっているが、広いため馬車で移動するにはかなり骨が折れる。更には緊急の伝令が“風鳥”で来た際に時間がかかってしまうと手遅れになってしまうので王族の管理が届く範囲にこれ“転移装置”があるのだ。これは遥か昔、初代聖女もいない頃で神話で語られる“神”の遺物だと言われているのさ。なので原理が判明しておらず、ただこの台座触れて魔力を流せば対となっている場所へ転移するということしかわかっていない。とはいえ、安全性は確認されているから安心していい」


転移装置の解析は国立魔法機関と呼ばれる光の国にあり様々な国の人々がこぞって魔法の研究をしている機関において最優先の解析事項で設立時点からの研究対象だ。であるのだが使用の仕方以外はほぼわかっていない。魔法陣を一寸狂いもなく描いて魔力を流しても転移魔法は使えず、台座の方にカラクリがあるのかと調べようにも台座は壊すことができず中を覗くこともできない。結局今は壊さずとも中を見ることができる魔法を創り上げようとしているのだが、上手くいっていないようだ。

初めて見るものにフロースは不安気と緊張が入り混じった固い表情をし「わ、わかりました」と頷いているのに対し、インベルは「世界が平和になったらじっくり研究したいな・・・」などと好奇の目を向けている。それよりもインベルは知らなかったのかと意外に思うが、すぐ彼の目の事を思い出した。

彼の目は魔力の障りによって高濃度の魔力を秘めている。古代魔法に近づければ彼自身と転移装置に何が起こるか分からないため秘匿していたということだろうか。今回彼が選ばれたということは、安全性が確立されているということなのだろうか。

インベルの好奇の目にノヴァがため息交じりに額へと手を当てる。


「ほら、知的好奇心今は顰めてくれ」

「わかってるよ」


久しぶりに兄と弟らしいやり取りに頬が緩む。だが、と私は台座の方へと視線を向ける。

少し前までは地下へ来たら台座をじっくり観察する機会などなく、今日ほど灯りが灯されていることはないためにはっきりと見たこともなかった。プルヌス先生との授業でこのような装置が大陸全てに散りばめられているということは聞いていたし、文献で読んだことがあるために最初見た時は「こういうものなんだな」とそれだけだった。だが、今じっくりと観察して分かる。これは石であるが大きな石を切り出した石ではない。

―コンクリートだ。しかも高密度の。

しかし何百年ももつのだろうかと思ったが、ここは魔法がある世界。魔法で補強すればどうとでもなるし、使用するための動力を僅かに強化魔法に変換し強度を高め続けているのではないのだろうか。しかし、この世界にコンクリートは無かったはずだ。この国の公道は石畳やレンガ、土魔法で作った物でそれは他国でも同じだと文献で読んだ。それにコンクリートが大昔に開発されているのならば国と国を結ぶ道も土を固めたものではないはずだ。他にも引っかかることがある。


「アウローラ?何かあったのか?」


黙って台座を見つめているので心配してクラースが声を掛けてくる。私は我に返り「ううん。いやちょっとね」と曖昧に濁しつつも心配げな皆の表情にポロリと言う。


「・・・この転移装置なんかこの世界にあってないなーって」


私が一番引っかかったのはこれだ。私の感覚の問題かもしれないのだが、この装置、見た目は古代遺跡に出てきそうな代物であるがその材質、見た目、肌触り、全てにおいてちぐはぐのように感じてしまう。どことなく機械的な物のように見えるのだ。とはいえ、使ってもモーター音など聞こえるわけでもないし、私のただの気のせいかもしれないが。そういえば、第1作目にもこの台座が出てきたような気がするが、記憶が曖昧である。

私の言葉にノヴァは首を傾げて台座に触れてまじまじと見つめる。


「んーそうなのかい?気にしたことなかったなぁ」

「アウローラ様の世界にはこのような物があったのですか?」


フロースに話を振られ「あー・・・」と呟きながら空を見る。どう答えたものかと逡巡した後曖昧な言葉しか浮かばず取り敢えずその言葉を口にする。


「あったと言えばあったし、無かったと言えば無かった」

「なんだそりゃ」


呆れたようなクラースの言葉に私はだよねと思いながら苦笑し、台座を見る。


「私の世界にあった私の世界より遥か未来を題材にした物語とかには登場していたんだよ。だけれど、私の生きていた時代科学がまだ発展途中で研究者たちがこぞって研究を重ねていたんだ」

「へぇ。そう言えば、アウローラの世界って魔法がない代わりに科学ってのが発達していたんだっけ」


魔法があるのだとしたらこのように過去の遺物として転移魔法などというものが発見されることもあるし、天才魔法士が未来開発する可能性もあった。だが、私がいた世界は魔法などというものには縁遠く火を起こすには摩擦をするか、水を生み出すには水素と酸素を化合しなければならない。よくみるSF小説では私達人間の体を量子分解しその向こう側で再構成するという方法を聞く。とはいえ、そうすると再構成する前の自分と後の自分が本当に自分なのかという問題が発生するのだが。

科学の事を彼等に話してもしょうがないし、コンクリートの事も話しても理解はできないだろう。それどころかインベルの知的好奇心が刺激されて遅れかねない。私は手を叩いて笑みを作る。


「そうそう。ま、私の話はどうでもいいよ。それより、行く前に確認」


皆が頷く。昨日話した事を復習するのだ。


「昨日話した通り、騎士団が周辺の魔物を掃討してくれる。騎士団は第一部隊と遠征部隊の混成で率いているのはクラースのお父様アルゲント伯爵様、私の父プラティヌム伯爵。部隊の中には私の兄カエルムもいる。この部隊はかなりの熟練ぞろいなので私達は安心してミールス、アウィスと合流し赤い外套がいるだろう奥へと一直線に行く。先人は私、次にクラース、アウィス、フロース、ミールス、インベル、殿はノヴァ」

「任せなさい」

「王子を殿にするの、ホントは気が引けるんだけど・・・」

「気にしないでおくれよ。それにインベルが傍にいるから何があっても対処できる」

「うん。兄さんの事は任せて。アウローラは前をお願いするよ」

「ごめんね。ありがとう」

「私は皆さんの支援ですね」

「そうしてもらえると助かるぜ。よろしくな」

「はい!」

「地図は皆頭に入っている?」


昨日の早朝父に渡され、作戦会議の前に皆に配った地図はどうやら皆の頭に入っている様だ。


「よし・・・皆、ごめんね」


謝る私にクラースが目を丸くする。


「何だよ急に」

「いや、だってこれゲームの続編の話のはずなのに、何も分からなくて」


私が実際にプレイしたことがあるのは1作目と2作目で、3作目は発売前であった。発売予定日は私が死んでしまう約1年後で大まかなあらすじや主人公陣営のメインキャラクターしか発表されていなかった。本来ならばもう少し情報が出てもいい物であるが、それ以外の情報は発売半年前に発表すると宣言されていた。もう少し情報が解禁されていれば今この場で私に知識が役に立ったかもしれないというのに。


「気にしないでください!その発売?前だったんですもの。アウローラ様が気負うことはありません」

「そうともさ。それに、おおよそ最初の流れは教えてもらったからね」


慰めの言葉を貰い曖昧に笑う。


「確か、フロースとアウィスが主人公の話だっけ?」


インベルの言葉にフロースが身を縮こませて「畏れ多いです」と肩を落とした。ここではアウィスと言われているが、3作目は光の大精霊エンド、所謂トゥルーエンドの続編であるため主人公はフロースと光の大精霊だ。


「聖女だからね。えっと、それで聖女として厄災を斃そうと世界中を回っていくって話だったよね。それで一番最初の依頼がこの前被害報告のあった村・・・なんだよね?」

「そう。私も村の名前とか聞いてもピンとこなかったけれど、村の景観は雑誌で見たとおりだったからわかったの。でその後フロースは光の大精霊と一緒に廃村に行ってボスと戦う・・・ってとこまでしか分からないの」


ここで3作目「ヒストリア~光の聖女と終焉の獣」のあらすじを復習しておこう。舞台は2作目の1年後。大まかに言えば光の聖女が光の精霊王と共に世界を救う物語となっている。詳しいあらすじはこうだ。


≪闇の大精霊が消えた世界。魔物が活発化し、世界のルールは崩れ国々は大精霊達と共に国の防衛に注力する“混沌の時代”へと突入してしまった。原因の一端と自責の念に駆られている光の聖女フロース・クリュスタルスは相棒である光の大精霊と仲間たちと共に日々魔物を討伐する日々を過ごしていた。そんな中“原初の厄災”を名乗る人物が現れる。フロース達は急ぎ現場となった廃村へと向かった。そこから世界の真実が紐解かれていく≫


といった物だった。

1作目と同様3作目はバッドエンド、ノーマルエンド、トゥルーエンドが存在しているがそれぞれ一つずつ。ちなみに各キャラクターエンドがあるのは、女性を対象にしている2作目だけだ。2作目だけは各キャラクターにバッド、ノーマルエンドが存在し、トゥルーエンドが1つ存在している。先のあらすじに様にこの事件は最初の事件、プロローグに過ぎない。それ以降何が起こるか分からないため、段々と皆を守れるかどうか不安になって来たのだ。すると、クラースが激励をするように私の背を叩く。


「でもその続きの話があるってことはフロースとアウィスがそのボスを斃したんだろ?ならフロースもいる、アウィスもいる、他に仲間がいる俺達が負けるはずねぇって」

「そう・・・だね、そうだね!」


皆の笑顔を見ると段々と不安が少なくなってくる。だが、なぜか心の奥にある胸騒ぎは消えなかった。両頬を叩き、意気込む。


「それじゃあ行こうか」


口々に言う返事を聞きながら、頷き私が最初に台座に触れる。台座へと魔力を流すと何の感覚も音もなく急に目の前の景色が変わった。台座から離れて周囲を見るが、誰もいない。どうやらここは洞窟のようであるが壁には明かりを発する魔法具が飾られている。騎士団が飾った物ではなく、以前からあるような気がする。それにしても騎士団の地下に同じ台座が置かれた部屋が数個存在し、私がプルヌス先生とくぐったのはこれではないのだが、見た目は同じでも全く違う場所に出るものだ。光が見える方へと歩を進むとふいに「アウローラ」と声を掛けられた。そちらをみると、お父様が立っていたのだ。


「お父様!?もう掃討は終わったんですか?」


私の驚きの声にアルスお父様は訝し気に、恐らく廃村があるだろう方向を見た。


「いや、奇妙な事に周辺に魔物の姿が見えないのだ」

「見えないとはどういうことだ?」


洞窟の暗闇の中からノヴァと皆が現れ、いつもの明るい声ではない少しばかり低い声でノヴァが尋ねるがそれよりもアルスお父様は久しぶりに見る皆の姿に喜びを隠せなかった。


「おぉ!ノヴァ殿下、インベル殿下、フロース嬢、クラースも来たか」

「お久しぶりです、プラティヌム伯爵様」

「久しぶりだな。皆元気そうで何よりだ」

「ありがとうございます。それで?話の続きを」


インベルが話の続きを促すとアルスお父様は「そうでしたな」と呟き咳払いをする。


「どうやら斥候を廃村中央に送った所、ここ村の入口付近ではなくほぼ中央に位置する大きな建物に集まっているようでして」

「そこが塒かい?」

「恐らく。よって騎士団は中央建物付近にて攻勢をかけることにします。赤い外套は建物内にいると思われるので、騎士団が魔物を抑えているうちにすまないが頼むことになる」

「はい。分かりました」


私が頷くと、大きな手を私の頭に軽く載せて頷いた。


「ところで、アウィスとミールスは?」


先に来ているはずの彼女達の姿が見えない。てっきり出向かてくれると思っていたので肩透かし感がある。するとアルスお父様が少し伸びている顎髭を撫でた。


「あの2人なら何やら話をしていたぞ。そろそろ前進する。2人を呼んできてくれないか?」


私は「分かりました」と返事をし駆け足で行こうとすると、皆も付いてこようとしたので一人で大丈夫と伝えようとしたのだが、アルスお父様の言葉に遮られる。


「フロース嬢とインベル殿下は申し訳ないのだが、騎士団に強化魔法を使ってくれまいか?」

「えぇわかりました」

「腕がなりますね」

「ノヴァ殿下とクラースは騎士団の皆と少し話をしてくれ。話を少しでもしていた方が息が合いやすいだろう」

「そりゃそうだな」

「おっし」


皆に仕事を振り分けたために自然と私一人になる。かえって良かったと胸を撫で下ろし「じゃあ私は二人をよんでくるよ」と手を振って駆け出す。


「あっちの小高い丘に行ったからな」

「わかりました」


アルスお父様の声に軽く手を振り応えて疲れない程度に急ぐ。

昔は子供達の遊び場だったのだろうか、村人の憩いの場だったのだろうか、小高い丘へは煉瓦で舗装された道が続いていた。それにしてもミールスはどうしたのだろう。こんなに積極的な人だっただろうか。そしてもう一つ解けていない謎がある。ミールスは何故ゲームの本編に登場時無かったのだろう。脇役にしては設定が詰め込まれすぎではないのか。それとも私がこの世界に来たことによって誕生したのだろうか。いや、そこまでの影響はないと思いたいのだが。

小走りで向かい少し経つと、2人人影が見えた。ミールスとアウィスだ。


「あ、いたいた。おーい」

「元からそうでしたので」

「―だがそれでは!」


初めて見るアウィスの強い怒りを含んだ表情と声音に驚き立ち止まる。いち早く私に気が付いたのはミールスで、恭しく頭を下げた。アウィスもすぐさま私に気が付き、罰が悪そうに顔を背ける。聞いてはいけないのか、聞いた方がいいのか分からなかったのだがするりと「何の話?」と尋ねてしまう。同じ光の大精霊の力をもつ同士何かあるとは思っていたが、今までこのような言い争いを見たことがなく、仲良くしていたはずだ。私の質問にアウィスが言い淀む。


「言えない話?」


視線を逸らすアウィスに対し、ミールスは微笑んでいる。


「はい。すみません。アウローラお嬢様。でも、悪口とか、そういうものではないのですよ」


どこか悲し気な色を帯びている彼女の声に私は思わず心の奥にあった言葉を言おうとする。


「やっぱり、今日の作戦ミールスは」

「いいえついて行きます」


普段しない私の言葉を遮ることをして、彼女がそこまで何かに切羽詰まっているのだと感じてしまう。


「ミールス・・・」

「絶対について行きますから」


やはり彼女の意思は固い。


「・・・なら、行こう。お父様が呼んでいるから」

「はい。アウィス」

「あぁ。行こう」

「アウィス。よろしくお願いしますね」

「無論だ」


二人を連れて私は元の場所へと向かう。既にみんな揃っているようで、お父様の姿はもうない。先程の雰囲気を悟られないように私は笑顔で手を振った。


「連れてきたよ」

「おー、作戦を始めるのか?」

「そうだね」

「行こうではないか」

「はい、行きましょう!」


いつになく気合が入っているフロースが意気込む。少しミールスとアウィスが気になったが、ちらりと見るといつも通りである。少し安心し、頭の中で地図を思い出しそちらの方向へと戦闘態勢を崩さずに走っていく。

村の入口は簡素な木で造られた門でありもうすでにかなり朽ちている。入口正面に広場らしく物があり、石畳になっているがひび割れ草が生えすでに枯れた噴水が哀愁を漂わせている。地図で見たとおりであり、思ったよりも広くない。民家は既に破壊されているか朽ちているので村の中は見渡し良いのだが、隠れる所は沢山あるようだ。

魔物の姿は無い。隠れているわけでもないようだ。更に前に進んでいき、他の民家よりはるかに大きな屋敷が見えて来た。木造のその建物は大昔の学校のような形をしており、屋敷というよりも施設のように見える。天井が落ちて、壁が崩れてしまっているその建物の前には魔物がいる。だが、大群というほどではない。数えてしまえる程度で警戒している様子もなく蹲っている魔物も多い。

物陰に隠れて様子を伺っていると、建物両脇にある建物の影に騎士団の姿が確認できた。アルスお父様の姿を確認すると私の気配が分かったのかこちらを見た。私が手を上げると彼も頷き大きく息を吸った。


「行けー!!」


叫び声と共に進軍した。「私達も行きましょう」と私が言うと皆返事をして建物の中へと走っていく。中に入ると天井が落ちてしまった広い教会のような内装になっている。木の長椅子は転がっており、ステンドグラスはもう崩れて何が描かれていたのか全く分からない。どことなく聖女の教会に似ていた。

僅かに残ったステンドグラスが太陽の光で照らす下、恐らく教壇があっただろうその下で赤い外套を纏った人物が何かを貪っている。


「来タんだ」


幾重の同じ声が重なる赤い外套振り返るその向こうには魔物の死骸。赤い外套の腹の部分黒い体液でべっとりと汚れていて、私も私の後ろにいる仲間たちもその光景に息を呑む。ぐらりと赤い外套が立ち上がると、以前よりも体が大きく、手はもう人のそれではなく体つきも歪であった。


「良かった、ヨカっタ」


口元と歪な手を拭う仕草をする赤い外套方向と共にこちらに襲いかかってくる。来ると思い皆が体に緊張を走らせた、が、その途中で赤い外套がべちゃりと体が地に落ちる。


「痛いいいいいぃぃいたいぃぃぃいいぃ」


赤い外套が泣き叫びながら地を這っている。よく見ると、足が膝から無くなっている。腐り落ちたように、地面に転がっているのだ。


「一体、これは・・・」


絶句するアウィスがどういうことかと困惑している様子が声音からわかる。私だってどうなっているのか分からない。ゲームで、ボスが自滅し始めるなんて言語道断であり、こんな展開あり得るはずがない。子供の様に泣き叫ぶ赤い外套を見つめながら、ただ呆然と立ち尽くす。次に瞬間、上空より殺気を感じて私はそちらへと剣を受け止める姿勢を取る。

金属と金属がぶつかり合う音が室内に広がり、私は重い一撃一撃を防いでいく。僅かな隙を捕らえ、上空から現れた人物を斬ろうとしたのだがそれを感じ取ったそいつが後方へと下がり、赤い外套を守るようにして立つ。

赤い外套はそれが見えていないのか、気付いていないのか、泣きじゃくるだけだった。

赤い外套の前に立っている人物を見て、私は目を見開く。


「何故、貴女がここにいるの・・・?」


私の声に目の前にいる彼女は、乱れた髪を掻き上げる。そして、剣先をこちらに見向けたままなにも答えずにこちらを見つめている。


「ねぇ答えてよ!」


風が彼女と私との間を吹き抜ける。


「―ソルバリア」



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