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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-63話「束の間の休息」

この国は雨があまり降らない。前世から雨が嫌いであった私にとってま願ったりかなったりなのだけれど。

今日も今日とて青い空が澄み渡り、いつもなら少なからずある雲は本日空に一つもない。つまり、晴天ということだ。さらに言うならば、ピクニック日和というわけである。

闇の大精霊連れ、いつものメンバーで今日は光の国の傍にある森へとやって来た。そこに、アウィスが好きな場所があるらしくそこに案内したいとのことで、どうせなら一度もやったことのないピクニックをしてみたいですというフロースの提案によりミールスお手製のサンドウィッチを籠に入れて和気藹々と話をしながら歩いている。他の大精霊達も誘おうかと思ったのだが、事件が一段落したことにより大精霊達は特別に許可されていた他国間の行き来が自由にできなくなったらしく、残念だがという返事が来た。

私が貰った彼等の結晶はまだ生きているらしく、それで呼び出せば一応は来れるとのことだ。しかし、今まで無制限であったそれ

は私の魔力を消費して召喚ということになってしまうらしく、必要時のみ呼び出すように諭された。大したお礼もできずに申し訳ない様な気持ちがある反面、今、ロサに会えないという安心感が私の中にある。

ロサの事を信じていないわけではないが、明らかにロサは何かを隠している。でもいつか、話してくれることを待とう。皆が私にそうしてくれたように。


「ついたぞ」


アウィスの声に皆が前を見て、歓声を上げた。

大侵攻の時には気が付かなかったが、森の中にある泉であった。最初にアウィス達と出会ったところと反対側に位置するこの泉はあの場所よりも数倍大きく、ぽっかりと開けている場所であるため明るい。さらにここ周辺の木々は白樺の木であるために、青と白、緑の色合いが美しい。


「すごいですわ!」

「行きましょう!」

『わわっ』


ルミノークスとフロースがはしゃぎながら闇の大精霊の手を引いて泉へと駆けていく。レウィスがその後ろを慌てた様子で追っていく後ろ姿に思わず微笑んでしまう。

周囲を見渡し、赤い外套の気配や魔物の気配があるかどうか確かめたがどうやらないようだ。すると、アウィスが私の肩を叩いて笑う。


「大丈夫だ。この場所には厄災関係の者等や悪意ある者等が入れないようにしてある」


そしてアウィスは遠くを見つめて「特別な場所なんでな」と穏やかな口調で言う。私は「そう」と小さく返事をして、共にこの美しい風景を見つめる。後ろから咳払いの声が聞こえて振り返ると、ノヴァはにっこりとわざとらしく笑い、クラースは眉間に皺を寄せている。それを見柄アウィスは一言。


「余裕のない男は嫌われるぞ?」

「「は?」」


彼の言葉に隠し切れていない苛立ちが漏れ出した声で彼等が口を揃えた。


「というか。兄さんアウローラの婚約者じゃないでしょー」


ウェリタスと共にミールスの準備を手伝っているインベルが感情のこもっていない声でこちらを見ずに言い放つとノヴァはインベルへと振り返る。表情は見えないが、長年一緒にいると嫌でもわかる。かなり怒っている様だ。


「私は気にしない」


突如の発言にノヴァとクラースがさらに眉間の皺を寄せていく。


「ちょっと待って。何の話してるの?」


全く話についていけない私は悲鳴のような声を上げて彼等に問うと、ノヴァとクラースは口を噤み、それを見てウェリタスが笑い声をあげ、インベルはしらーっとしている。ミールスは黙々と作業を続けていた。


「アウローラを好ましく思っている話だ」


あっさりと彼が言って、ドキリとしたがそのあっさりとした言い方に私の勘違いだと首を振りおほんと咳払いする。少し顔が熱いが、急な言葉で驚いただけだと自答する。そして、笑顔で皆に言う。


「えぇ。私も皆の事大好きよ」


少しはにかんでしまったような気がするが誤魔化せただろうか。泉の方から「アウローラ様―」とフロース達の声がしてそちらに振り返り「今行くー」と声を変えて駆けた。どうも照れくさくてそそくさとその場から離れた。彼等がどんな顔をしていたのかは、どうしてか見ることができなかったのだ。

泉の方に行くとドレスの袖を捲り、フロースとルミノークスが泉に手を付けていた。透明度が高く。そこが見えている。ふと横に立っているレウィスが周囲を警戒している様なので、アウィスからこの場所が安全だということを伝えると、彼は「そうっすか」と安堵したような表情を浮かべたのだがどうも肩の力が抜けていないようだ。

それが彼のいい所だろう。


「アウローラ様、見て見て!お魚さんもいらっしゃりますよ!」

「アウローラ様!あちらには面白い形の石が!」


私の袖を引きながらはしゃぐ彼女等に「はいはい」と苦笑いを浮かべて返事をしていると、それを見ていた闇の大精霊がクスリと笑った。それにフロースとルミノークスは不思議そうな表情を浮かべて、闇の大精霊が慌てた様子で手を振る。


『あ、いえ。すみません。お二人は、本当にアウローラ様のことが大好きなのだなと思いまして』

「えぇ、好きです。とても、お慕いしております」


何処か熱がこもったような声のような気がしたが、気のせいだろう。ルミノークスはぱぁっと表情を明るくする。


「大好きですわ!レウィスもそうでしょ?」

「へ!?あ、まぁ、そうっすね。尊敬もしています」

「・・・なんか照れるね」


今まで手放しでそのような事を言われたことがないので段々と顔が熱くなっていく。パタパタと手で扇ぎ、顔を冷やそうとするがどうも冷えない。皆で笑い合い、泉の水に触れる。穏やかな時間だ。


『・・・私、本当は闇の大精霊の素質がなくて、ある人の身代わりで闇の大精霊に成ったんです』


突然の彼女の告白に、皆が泉の水に触れるのをやめて闇の大精霊を見る。膝を抱えて水面を見つめて、彼女は言葉を続けた。


『だから、今回捕まったのも、こんな騒動に成ったのも素質のない私が闇の大精霊に成ったからなのかなって思ってて。こんな私、誰も助けに来てくれないんじゃないかなとか。色々思っちゃって。でも、でも』


闇の大精霊が微笑み、こちらに顔を向ける。


『皆様に助けてもらって、こんな私でも誰かが手を差し伸べてくれるんだって。手を差し伸べてくれた人の為にもっと頑張らなきゃって思ったんです。本当に、ありがとうございました』

「いえ。闇の大精霊様がご無事で何よりです」


頭を下げる彼女に私が言う。

身代わりというのはどういうことなのだろうか。


「身代わりで大精霊に成ることができるんすか?」

「ちょっと!レウィス!」


レウィスの言葉にルミノークスが叱責する。するとレウィスが肩を落とし「すみません」としおらしい声を出したが、闇の大精霊は眉を下げて笑い首を左右に振った。


『大丈夫ですよ。えっと、私と彼が兄妹であることは知っていますよね?』

「はい。アウィス様からそのようにお伺いしておりました」

『私達はここより少し離れた町の出身で、私達が18の時に光の大精霊と闇の大精霊が後継者を探しておりました。教会は全ての人々の属性とその強さを把握しているので、私の兄と幼馴染である町の有力者の女の子が候補として上がりました。兄はそれを受け入れ、幼馴染も受け入れました。代替わりの儀の直前、私は兄の身内なので話す機会がありまして、一緒に幼馴染と話をするおともできました。幼馴染には当時恋人がいて、ちゃんと話し合いをして決めたと言っていたけれど、彼女の表情は悲しそうだった。教会に連れられて町を出た時、私もこっそりついて行きました。そして代替わりの儀の前の夜、彼女が泣いていて、兄がそれを必死に慰めている声がしました。私はそこで、彼女の身代わりになろうと考え付いて、身代わりとなりました。背格好は同じだったので、すんなりといったんです。そして、前闇の大精霊様も了承して下さって、兄も最初は反対したけれど、一緒に居られるならと頷いてくれました』

「そうな経緯があったんすね・・・」


軽はずみに聞いてしまったことを後悔しているのか、レウィスの表情は暗い。闇の大精霊はその彼の表情を見て『気にしないで』と言うが、その表情は切なそうである。ふっと闇の大精霊は空を見上げて、呟いた。


『あの子。ちゃんとあの人と結ばれたかな・・・』


静かな風が私達の間を吹き抜ける。


「ルミノークス?どうしたのですか?」


黙って考え込んでいるルミノークスを心配そうにフロースが覗き込む。はっと気が付いたルミノークスは視線を彷徨わせたあと、おずおずというように口を開く。


「あの・・・闇の大精霊様・・・その幼馴染様のお名前は・・・?」

『え?あ、ルナ・・・です』


名前を聞いて、ルミノークスは目を丸くする。そして震える唇で言った。


「ルナは、わたくしの御先祖様のお名前ですわ」


闇の大精霊が目を見開く、呆けたようにして口を開ける。私もその驚きの事実に開いた口が塞がらない。


「セレーニーティ男爵家の創始者たるルナ・オブシディアン様は当時恋人ととある町で事業を起こしましたの。その町は土の国に近く、魔鉱石の産出量が高く、元より操作系を得意とする闇の力をもつルナ様は魔鉱石の加工や効果の付与を生業とし、成功を収めました。その後故郷であり魔法事業の盛んな光の国に戻り商いを続け、爵位を貰ったと記録にありますわ」


ルミノークスが泣き出しそうな顔で、闇の大精霊へと近寄りその手を取る。


「爵位を頂いたとき姓を変更しましたの。名の由来は“助けてくれた月の様な美しい髪を持つ優しい双子の名。月の石を意味するムーンストーンの古代語”。ねぇ、教えてくださる?貴女の名前を」

『・・・私の名前は、アーラ、アーラ・ムーンストーン・・・』


闇の大精霊から涙が零れ落ちていく。ルミノークスは、闇の大精霊をきつく抱きしめた。


「あぁわたくしが聖女に選ばれた理由を、今、理解いたしましたわ。恩人たる貴女を、救うためだったのですね」


2人は抱き合いながら静かに涙を流していく。それはまるでお互いがお互いの感謝を伝える様な神聖なものに見えた。すると遠くから「皆様―!準備できましたー!」という声が聞こえてくる。少し名残惜しそうには離れた2人は、私達に振り返り、笑顔で言う。その表情は、明るく無邪気だ。


「皆様行きますわよ!」

「あ、ちょっと!走ると転ぶっすよ!!」


闇の大精霊の手を取って走り出し、それをレウィスが追いかける。それをフロースが静かに見つめていた。仲がいい二人を見て何か思うことがある野だろうかと不安げに彼女を見つめると、彼女は苦笑し首を振る。


「アウローラ様が心配している様な子とは思っておりませんよ。なんというか、妹離れのような寂しさはありますけれど。でも、よかった。理由は分からないですけれど、ルミノークスと彼女が笑い合っている姿がとてもよかったなと思うのです」

「・・・うん。私もそう思うよ」

「私も、選ばれた理由が分かる日が来るのでしょうか?」

「そうだね。きっと、分かるよ」

「・・・でも、聖女に選ばれてよかったなって思うことの方が多いんですよ?」


囁く様な声でフロースが言う。どういうことかと首を傾げると、彼女は悪戯っぽく笑い頬を染める。そして、視線を彷徨わせた後「少し、目を閉じてくださいませんか?」と問われ、「え、うん」と促されるまま目を閉じる。すると、僅かに髪が引っ張れて触れられる感触があり、思わず目を開く。フロースは照れ臭そうに笑い、私の髪を持っていた。

一体何をしたんだろうか?

理解できずにいると、今度は私の手を両手でつかんだ。


「私達の騎士様。どうかこれからも共に戦ってくれますか?」


その言葉に私は目を見開く。それは、エピローグでフロースが相手に対していう言葉だ。

陽の光に照らされているフロースの姿は、聖女と云うよりも女神と形容できるほどに美しく、心臓が高鳴ってしまう。彼女の好感度が誰に対して高いのかは分からないが、恐らく私が聖騎士であるからこの言葉を言われたのだろう。

握られているその手を私は握り返して笑いかける。


「えぇ勿論。いつまでも、傍にいて守ると誓いましょう」

「いいえ、違います!」


フロースが頬を膨らませて人差し指を私の鼻に当てた。


「“一緒に戦いましょう”でしょう?」


彼女の言葉に一瞬面食らったが、思わず破顔してしまう。彼女自身は面白くなさそうにしているが、私が笑っている姿を見てつられて笑う。私は立ち上がり、フロースに手を貸す。


「そうだね。うん。これからも、一緒に戦おう」

「えぇ、勿論です。アウローラ様」


手を取り合って、見つめ合い笑う。


「アウローラ様お嬢様―!」


ミールスの声がして私は返事をする。フロースと共にミールス達の元へと行くと、大きな布の上にはミールスの軽食と紅茶が並べられている。


「いつまでいちゃついているのよぉ」


ウェリタスのからかうような言葉に「ごめんごめん」といいながら謝ると、急に彼に腕を引かれてその場に座る。それを見て「あ!」と声を上げたのはクラースだ。ウェリタスは聞こえないふりをして目の前にあるデザートを指さす。


「見て見て!このデザート!アタシが盛り付けしたのよ!かわいいでしょー」


自慢げに言う彼が指さす先にあるデザートや焼き菓子は可愛らしくアイシングがしてあったり、フルーツで飾りつけされている。パティシエさながらだ。


「流石」

「でしょー!ふふん。好きなものを共有できるって楽しいわねー」


楽し気に私に頬を寄せて笑うウェリタス。ゲーム内では見られないようなその表情に頬が緩む。すると後ろからやってきた人物にウェリタスは引き剥がされた。


「くっつくすぎだ馬鹿」

「えーいいじゃないー乙女同士―」

「誰が乙女だアホ」

「ひっどーい」


クラースがウェリタスと言い争いをし始めて騒がしくなる。


「そう言えば、アウィスは大精霊の姿に戻らないの?」


長くなりそうな二人を置いてアウィスの隣に私が行くとインベルが彼に質問していた。彼は静かに腕を組む。


「赤い外套がどのように行動するか読めない以上、大精霊の姿よりもこちらの方が隠れ蓑になる。それに今までの制限が解除されたようで力が出しやすくなっているしな。なので、暫くプラティヌム伯爵邸に居候させてもらうぞ」

「それはどうぞ、ご勝手に」

「・・・」


私は軽くあしらうがミールスは僅かに眉間に皺を寄せた。嫌というわけではないようだが、その表情から仕事が増えることを懸念している様だ。するとインベルが表情を明るくしてアウィスへと詰め寄る。


「だったら魔法を教えてもらっていい!?最近プルヌス先生忙しいみたいだから教えてくれる人がいなくて!」

「それくらいならお安い御用だ」

『あ、私もお手伝い致しますか?』


フロースとルミノークスと話をしていた闇の大精霊がこちらに声を掛けてくる。


「闇の大精霊である君がこちらにいても大丈夫なのかい?」


ノヴァの質問はごもっともだ。闇の大精霊は頷く。


『えぇ。私が解放されて事により小精霊達の動きが活発になったようなので大丈夫かと。それにこの体から外に出るために暫く聖女お二人の魔力を分けていただき、力を取り戻すというお話をしていたのです。最低でも15日くらいはここに留まることになるので。知識ぐらいでしたら、お役に立てるかと』

「なら王族の方からも何か支援できることがあれば言ってくれ。大精霊の為ならば力を貸すぞ」

『お気遣いありがとうございます』

「大精霊二人から見てもらえる日が来るなんて・・・」


感動するインベルは祈るように手を組んで噛みしめている様だ。インベルの魔法への向上心は人一倍であり、ゲーム内では騎士的な部分が多く寡黙であった彼の年相応な表情に安心する。すると、フロースがおずおずと手を上げる。


「あのぉそろそろ食べてもいいですかね?」

「あ、そうだね。ほらほらーそこ2人は喧嘩をやめる」


言い争いをしていた二人はぴたりと喧嘩をやめて「はーい」と不満ありげに返事をした。そして皆円状になり、手を合わせた。


「頂きましょう!!」


私の言葉に皆が「頂きます」と声を揃えて手を伸ばしていく。


「ミールス」

「はい。何でしょ―む」


サンドウィッチを一つ手に取り、後ろに控えていたミールスの口に入れる。そして、私の隣を僅かに開けてそこを軽く叩く。


「君も座って。一緒に食べよ?」

「・・・えぇ。ありがとうございます」


はにかんだ笑顔を浮かべたミールスが隣にちょこんと座る。


「ミールス」

「はい?」

「いつもありがとう」


どれに関しての礼か、彼女は目を見開くがすぐにふっと笑みを浮かべる。


「いいえ。アウローラお嬢様の笑顔が、私にとって一番ですから」


ミールスは軽食へと手を伸ばしていく。思えば、彼女とこうしてご飯を食べるのは初めてかもしれない。今度は、私が何かを作って彼女に食べさせてあげたいものだ。

泉に明るい声が響いている。穏やかな風、暖かい日差し。これが束の間の休息かもしれなくても、今この時間はただただ幸せであり穏やかだ。

騒がしい中、静かな声が私の耳に届く。


『・・・兄様』

「なんだ?」

『楽しいですね』

「・・・あぁ。悪くない」


短い会話。だが何より、あぁよかったと安心できる会話。

長い、長い年月思い描いた未来を掴んだ様なそんな感覚に陥り、涙を流してしまいそうになったので、私は美味しい焼き菓子を沢山頬に詰め込んだ。



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