第1部-62話「終わり、疑念」
「ハッピーエンドなんてつまらない。そう思わない?」
突如声がして悪寒が走る。体が勝手に動いて剣を抜くが、全てが遅かった。
悟ったウェールがステルラを突き飛ばして彼女はその場に転んでしまう。そして体を起こした時、目の前の光景に悲鳴を上げた。ウェールの後ろには赤い外套がいて、そいつの腕は深々とウェールの胸を貫いている。血で赤く染まった腕へウェールは視線を落として、苦し気に血を吐いた。躊躇いもなく赤い外套はその腕を抜くと、その手には橙色の光放つ魔鉱石が握られている。私は大地を蹴り赤い外套へと切りかかるが、赤い外套はひらりというように軽々とそれを避けて私達から距離を取る。
「ウェール!ウェール!!」
聞いたことのない程のステルラの声に私は視線だけそちらに向けると、彼女が涙を浮かべながらウェールの体を抱き起こしていた。目は開いているがその表情は虚で、ステルラの必死の言葉にウェールは反応しない。
「フェーリーク!!!」
私が呼ぶと直ぐにフェーリークが現れて『どうしたの?』と尋ねてくる。私がウェールの方へと視線を向けると、インベルとフロースが必死に治療を施しているところだった。フェーリークに「彼を助けて」と短く伝えると、彼女はウェールを見るやいなや目を見開く。その傷にではなく、別の何かに気が付いたような表情だが彼女はただ静かに『出来ることはする』と告げて彼に近づく。
治療をしている皆を守るようにして他の全員は赤い外套へと向き直ると、赤い外套は不思議そうに首を傾げた。
「何で守るのさ?」
「君が彼を傷つけ、これからも傷つける可能性があるからよ」
私の敵意がこもった言葉に赤い外套は鼻で笑う。
「あのさぁ。後ろの奴がどんなことを舌か分かってる?そこにいるクーエナの両親や友人共々村人たちを皆殺しにして、自分の親さえも殺して、たった一人の恋人を蘇らせたいという私利私欲の為に数百年で何百人、何千人って殺してきたんだよ?死んでもいい大罪人でしょうが」
「死んでもいい大罪人でも“死ぬべき”だとは言えないわ。死んだらすべて終わりだもの。生きて苦しんで罪を償うべきよ」
「それさ。殺された人間の家族の前で言えるの?」
ニタニタという気味の悪い笑みを浮かべた赤い外套が後ろを振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。貴族のような華やかな姿ではなく、ごく普通の10歳も行かないくらいの少女であった。乱れた髪から覗く表情は暗く、瞳には怒りが滲んでいる。その少女の両肩に赤い外套は手を置き囁くようにして彼女へと声を掛ける。
「あそこで横たわっているのがお前の母と兄と父の仇だよ。あぁ憎いね。殺したいね」
滑るように赤い外套は手を動かし、少女の小さな手にどこから取り出したのか太い短剣を握らせる。「行っておいで」そう赤い外套が囁くと叫び声と共に少女は短剣をこちらに向けて走ってくる。それをウェリタスはひらりと受け止めて短剣を落として抱き留める。
「殺す!!殺してやる!!よくも、よくも、皆を!!!殺してやる!!」
血走っている目はウェールを見据え、暴れながらウェリタスを引き剥がそうとしている。彼女の強化魔法を使っているのか力が強い様でウェリタスが辛そうに表情を歪め、クラースとノヴァが助太刀に入ろうとするが「動かないで」と赤い外套の低い声に2人は動きを止める。
赤い外套の手からは魔力で造られた赤い糸が伸びており、それは少女の首へとつながっていた。一歩でも動けば少女の命が危ないのだろう。何も出来ぬ歯がゆさに歯を食いしばっていると、赤い外套は先程ウェールから取り出した魔鉱石を取り出してこちらに見せびらかすようにして持つ。
「大精霊って食べると沢山魔力を貰えて寿命が延びるんだよ。普通の人間が食べるととても不味いし、とても痛いんだけれどね。しかも定期的に食べ続けなければいけない。で、段々と体に蓄積していくとこういう風に塊になるの。高純度の魔鉱石ってやつだね。これ、欲しかったんだよ。ちゃんと思った通りに作れてよかった」
「・・・もしかしてこれを作るために?」
赤い外套はこれを作るためだけにウェールに助言をして手助けをしていたのではないのだろうか。赤い外套は何も言わずに笑みを深くする。
「我はこれを作れて、それは目的を達成する手段を手に入れてお互いに有難いってやつじゃないか」
思わず剣を握る手を強くする。この人物はやはり人間を道具か何かだとしか思っていないのだ。次の瞬間赤い外套は後方に飛び去り、図書館の屋根へとあがる。
「じゃ、我はこれで。あ、そうそう」
赤い外套はウェールを指さす。
「美学かなんか知らないけれど、それ、家族単位で殺しをしているんだ。だから遺された家族とかいないんだよね。ということで」
あいつが赤い糸をくいっと引っ張るような仕草をすると、赤い糸はぷつんと切れた。すると少女の体からがくんと力が無くなり、ウェリタスへ寄りかかるようにして動かなくなった。彼が少女の様子を見ると小さく舌打ちをする。私はもう一度赤い外套の方へと視線を向けるが、そこにはもうすでにアイツの姿は無かった。全員でウェリタスに近づくと、少女を抱き上げてため息をついた。
「これ、精巧に作られた人形だわ」
動かなくなった少女に触れると柔らかさはあるが、球体間接人形に人間の肉を付けたような不自然な硬さが体にある。それによく見ると皮膚の下に血管が一切見えない。ウェリタスは「何で気が付かなかったのかしら」と落ち込んだ様子で少女の人形を柱に置き、ウェールの方へと視線を向ける。
私はそちらに駆け寄り、フェーリークへと尋ねる。
「容体は?」
『・・・母なる大精霊マーテルは彼の生を許可した』
どういうことだと私が首を傾げると、アウィスと闇の大精霊が目を丸くする。
「・・・固有魔法が使えたのか?」
『えぇ。驚いたわ』
「えっと、どういうことなんだ?」
クラースの質問に闇の大精霊が答える。
『大精霊には普段皆さんが使っている様な魔法の上位版が使えるのですが、こちらは母なる大精霊マーテル様の許可が必要なのです。特に水の大精霊さんは如何なる傷も治す魔法を使えるので、母なる大精霊マーテルがその人の行いや周囲に与える影響を鑑み許可を出すんです。それが結構厳しいので、このような罪を犯した人が対象になるのはあり得ないのですよ』
つまりもしかしたら彼は今後世界にとって何らかの影響をもたらすということだろうか。しかも、母なる大精霊マーテルが許可をしたということは利をもたらす影響なのだろうか。
『でも・・・』
フェーリークがちらりとウェールへ視線を向ける。
『先程の大精霊の力を抜かれた影響でしょう。長い年月素質もないのに大精霊の力に曝され、人の寿命を遥かに超えて生きていたから・・・もって、1年といったところかな・・・』
「・・・そっか」
傷が塞がり、静かに寝息を立てているウェールの手をステルラは握っている。彼女は何も言わずにただ、涙を流していた。
その後駆けつけた騎士団とお爺様、フォリウにより現場検証と事情聴取などが行われて解放されたのは夕方だった。その後寮に戻った私達は何も言葉を交わさずにお風呂を終えると、深く眠りについた。
次の日私を含めて皆が目を覚ましたのは昼過ぎであった。慌ててミールスに確認すると、今日は臨時休校として通達されたとのことだった。再開は明後日、つまり今日と明日は何もない完璧な休日である。そして闇の大精霊も寮にいて、取り敢えず朝食兼昼食をみんなで食べている途中、寮側の扉がノックされ、現れたのはステルラだった。
「昨日はありがとうございました」
昼食後のお茶をステルラと共にして、彼女は深々と頭を下げた。
『あの、どうして、貴女は彼に何も話さなかったのですか?』
少し怯えたようにして闇の大精霊は問いかける。ステルラは「あぁ」と目を細め、俯いた。
「そうですね。貴女には全てをお話ししないといけませんね」
※
教会の方がいらっしゃって事情を聞いたときから薄々私に声がかかるだろうということは薄々気が付いていました。案の定村長が私の元へやってきて、待ち合わせの場所へと言ってきたのです。その場所というのが、私と彼が将来を誓い合った海が見える丘で、教会の方はこう言ってきました。
“貴女の人間としての生と世界の命を天秤にかけること、人にはたくさん大切な人がいて、本来ならばその人たちと添い遂げるのが一番だけれど、世界の要たる大精霊を祀る者として貴方と選ばせてしまうことを許して欲しい”
教会の方は私が大精霊として代替わりをすれば、村の支援、両親への支援をするというものだった。金銭的には貧しいことは知っていたし、両親にも楽をさせてあげたいと思っていたけれど、それでも、あの人と離れ離れになるのは嫌だった。教会の方はずっと待ってくれていて、私は思わず“他に候補者はいるのですか?と尋ねたました。そしたら教会の方はいることにはいると、だけれど一番適性が高いのは貴女で適性が低い人がなったらまたすぐに代替わりなるか最悪失敗して闇の大精霊がいない空白の時間ができる。大精霊の再構成には数多くの人間の命が必要なのと、泣きながら頭を下げました。
そこで私は覚悟を決めました。
両親と村長は反対してくれましたが、私の意志は固く揺るぎませんでした。何より、私が断って闇の大精霊がいなくなり再構成となったら、もしかしたら私や彼、親しい人が死んでしまうかもしれない。それは堪らなく嫌だったのです。条件として、村人から私の記憶を消すことをお願いしたらすぐに了承してくれました。私がそうしようと思ったのは、彼の事だから、私が大精霊になったら探し出そうとするかもしれないと思ったから。だけれど村長は記録として記憶を残すということになってしまって、辛い役目を押し付けたことを今でも後悔しています。その後準備をすると教会の人と別れ、両親と村長さんへ別れを告げて一人きりになった後、最期に彼の顔を見ようかと思ったけれど、そうしたら決意が揺らいでしまいそうでただ彼との思い出の場所を眺めているだけに留めていたのです。でもそこへ彼が来てしまった。そこで私は重いが溢れて、彼と一緒にいたいと言ってしまった。そしたら「行かないでくれ」と彼は言ってくれたから、それで私の覚悟は再び固まりました。ここまで愛してくれた彼がいる世界を守っていこうって。
教会の方が彼を気絶させて、その後村人全員に私の記憶を消してもらい村からは私がいた痕跡を全て消してもらいました。その後は多分他の大生たちと同様で、代替わりの儀式を終え私は大精霊になりました。当時の大精霊様達は私の境遇を知っており、名により大精霊に成り立ての私をよく気にかけてくれていました。時折行われる大精霊の周回では、私の寂しさを紛らわせようとしてくれてまるで兄や姉のように良くしていただきました。彼の事や村の事を忘れることは出来なかったけれど、徐々に他の大精霊達と笑い合えるようになっていきました。
そんな中、事件が起こりました。
ある日の周回の日、土の大精霊様が何者かに襲われて腕をもぎ取られてしまったのです。すぐに水の大精霊による治療と他の出し精霊達の力を分け与えることでなんとか一命を取り留めましたが、彼女は暫く怯えたようにして震えていました。なぜか私は、とても嫌な予感がして他の大精霊達に事情を話し、自分が生まれ育った村へと飛び立ちました。1人では危険だと、風の大精霊様の領域でしたので、風の大精霊様が一緒に来て頂いて私は向かったのですが、その光景を見て私は言葉を失いました。
家々は焼け落ち、家の壁には大量の血がこびり付いていたのです。何とか生き残りを探そうと捜索していると、床下に隠れていた1人の少女が怯えた様子で小さく丸くなっておりました。そこ子に事情を聞くと、ウェールが村人を虐殺しその死体を持ち去り、隣には赤い外套の人物がいたという話でした。その赤い外套は当時“原初の厄災”を名乗り村を襲っている危険人物で何かを探している様子だと度々大精霊同士の集会で話題に上がっていた人物でした。
何故、ウェールがそのような事をしたのか。思い当たるのは、私の事でした。
風の大精霊様と一緒に保護した少女を教会へ預けるついでに、当時私の担当だった方に話を聞くと先日光の国周辺で大精霊の事を市きりに聞いてくる男性がいたという報告が上がっていたとのことでした。教会も調べているところだったようで、村の事と何らかの理由でウェールの記憶が戻ったのだと謝罪されました。
全ては私の責任なのだと、教会の方は悪くないと私は彼女に伝え教会に全面的に協力し共にウェールの情報収集をしましたが、赤い外套が上手く彼を隠しているようでその後はウェールの情報は全く現れず、大きな事件も起こりませんでした。大精霊の危機もなく、私の時代は聖女が産まれず淡々と国を守り私は代替わりの年を迎えました。
・・・何故、教会の方から説明を受けていたのに闇の大精霊の候補ではない貴女を闇の大精霊にした理由ですか?
それは貴女達が彼女を逃がそうと必死にしていたからです。貴女達の親しい友である彼女は愛しい人と添い遂げるべきだという貴女達の決意と私のような思いをもう誰にも味わってほしくないという私の願いが一致したということですね。
貴女に力を渡した後、私は水の国の年に住んでいる女性の次女として誕生しました。今の両親と暫く暮らしていましたが、私の事を知ったあの教会の方が引き取りにやって来たのです。私には特別な大精霊の加護があるという名目で。今の両親は特に大精霊様達への信仰が厚い方たちだったので、あっさり私は教会に身を置くことになりました。
そこで、ミールスと会ったのです。彼女は一目見て私の素性を見破り、同じような境遇同士仲良くなりました。すると時が来てミールスはアウローラ様の元へ。
数日後、ウェールの居場所が分かったと教会の方が話しをしてくれて、居場所は光の国にある学園だと言われた時はとても驚きました。教会の調査員の調べによると、赤い外套と接している様子はなく虐殺や非人道的な行いをしているという証拠は掴めなかったという事でした。だけれど彼への疑いは消えたわけではなく、闇の大精霊消失事件の容疑者であるので私を其処へ送ることは難しと言われたのですが、私は彼の調査を私自らやると申し出ました。
彼に対する情があるという面で彼等は難しい顔をしましたが、それでも頭を下げてお願いして私は彼の調査を任されました。学園の先生という立場を作ってもらい、私は学園潜入、ウェールへ挨拶をしました。
彼は私の顔を見て僅かに目を見開きましたが、小さく笑って「よろしく」取ってくれました。話して分かった。この人はやはり私が愛したウェールだと。気付かれないのは寂しかったのですが、髪色も変えていたしクーエナの頃とは正反対の出で立ちですし、しょうがないのですが、それでも話せてとても嬉しかった。
普段の彼はよき先生で、学園全体的に信頼されているようでした。だけれど、彼がいつから先生をやっているのかは誰も分からないと首を傾げるのです。考えたこともなかったと。次の日同じ質問を同じ人に尋ねると、また同じように「考えたこともなかった」と返答するのです。同じ質問を機能しましたよねと尋ねると、「そうだっけ」と首を傾げるのでした。調べれば調べるほど、嫌な予感が頭の中を巡ります。数日に一度教会へ調査結果を報告しなければいけなかったのですが、彼への疑いが深まってくるのが悲しかった。
ある日、私は決定打を見つけてしまいました。
彼が行った恐ろしい研究の記録でした。そう、図書館の奥にある秘密の書庫です。その下に研究室があるということは気付かなかったのですが、その書庫だけで彼が赤い外套と繫がっている事、私を蘇らせようとしていることがすぐにわかってしまいました。もうすでに引き返すことは出来ないけれど、止めなければいけないと私は思ったのですが、言えなかった。彼の気持ちを考えずに一方的に突き放して記憶を消し、そして今は彼が生きてきたことを否定する資格があるのかと思ってしまったのです。書庫の事を教会に説明しようかしないか、彼に言おうか言わないか、彼に言ったところで私がクーエナだと信じてもらえるはずがない。もし言ったとして、嫌われたらどうしようと自分の事ばかり考えてしまいました。
ずるずると先延ばしにして、現実から目を背けて、貴女達が色々調べていることも分かっていましたが、私は何も言わず見て見ぬふりをしていました。
貴女達が行ってくれなければ、ウェールがこれから行うであろう悪行も見て見ぬふりをして目を背け、私の事を考えてくれていた教会の人々も裏切ってしまう所でした。
本当にありがとうございました。
私を見つけ出してくれて・・・
※
話し終えたステルラが頭を深々と下げる。そんな彼女へミールスが肩に手を置いて、軽く叩く。ステルラもウェールと同じように苦しんだのだろう。「それにしても」とレウィスが呟く。
「赤い外套って何もん何すかね?」
「ステルラさんは何か知らないのですか?」
フロースの質問にステルラは首を左右に振った。
「いいえ。当時の私達にも情報が入ってこず。調べても調べても何も出てこなかったのです。性別、容姿、顔立ち、何もかも分からずじまいでした」
「そう・・・ミールスは?」
「あ・・・えっとその・・・」
ミールスは視線を泳がせて、顎に指をあてる。
「赤い外套はミールスとして生を受けた時に初めて知ったもので・・・そもそも“原初の厄災”の姿は全く違いましたし」
「確かロサが説明していたね。赤黒い獣の姿・・・だったかな?」
「はい。ノヴァ様の言う通りです。姿は一つの街を飲み込むほどの巨躯で黒い体毛を生やした四つん這いの獣。少し、溶けかかっていましたけれど」
「溶けてってーとどういうことだ?」
「少し、早かったのです。産まれるのが・・・」
ミールスは思い出したくないよう言うように顔を顰めて顔を背ける。
「・・・そう言えばそんな大きな存在をどうやって倒したんですの?」
ミールスの動きがぴたりと止まる。しばしの沈黙の後、小さく彼女が「ごめんなさい」と呟く。
「・・・言えません」
談話室にある時計が大きく鐘を鳴らした。ステルラが時計を確認すると立ち上がる。
「そろそろお暇させていただきますね。ウェールの所へ行かないと」
「では、途中まで送ります」
「ごめんなさい。ありがとう」
頭を下げて部屋を去るステルラを逃げるようにしてミールスは追う。鐘が鳴り終えた部屋は静まり返っていた。
「大精霊って、初代聖女の話結構避けるよね」
インベルが悪意のない声で呟く。そこの言葉にアウィスは「まぁそうだな」と呟く。
「といっても代替わりを繰り返している大精霊は初代聖女の話は殆ど抜け落ちている。他の聖女の記憶はほぼ残っているのにそこだけ抜け落ちているのは分からんが。一番記憶が残っているはずのロサが避けるのは不思議だが」
確かに、何でも質問に答えると言っていたロサでさえ、初代聖女の話を振ると露骨に避ける。何かある野かの知れないと思うが、資料が無くなっている今調べることは出来ない。
「どうしたの?ノヴァ」
考え込んでいるノヴァにウェリタスが問いかける。するとノヴァが顔を上げて「あぁいや」とというがその表情は冴えない。何だと彼に注目していると、軽く頭を掻いて口を開く。
「俺の記憶違いかもしれないけれど・・・ロサが色々教えてくれた時があったではないか。その時ロサは“成人男性の姿”と言っていたけれど、ミールスははっきり“姿は獣”と言っていたのが少し気になってね」
確かにそうだ。
ロサは絵本では“悪の王”と伝わっているのは“原初の厄災”が成人男性の姿で王様のような姿をしていたと言ってた。だけれど、ミールスはそのようなことを言っていない。それに赤い外套の姿を見て“あれは原初の厄災ではない”と断言できないのはおかしい。ロサの言う通りならば、ミールスもその人間の姿を見ている可能性が高いからだ。
皆がシミのような不安を心に落とす。
「・・・今は、赤い外套の情報を集めよう。ロサの言葉なんであれ、あれが一番の原因なのだから」
私の言葉に皆が頷く。
これで、ゲームの大まかなシナリオは終わりを告げた。
だけれど、終わったとは言えないこの現状に胸の中で嫌なものが渦巻いていく。これからは私が知らない続編の世界のなるのだろうか。
不安を隠すようにして、胸の前で手を握る。
ふと、窓の外へと視線を移した。
空は青く、澄み渡っている。




