第1部-52話「生きるための」
目を覗き込まれ、腕を触診されながら目の前の男性を見る。
ライトグレーの髪色とやけに整った顔立ちのこの人は、ゲーム内でも見たことがある。確か名前はストゥディウムと言って、本来なら教師として物語に関わってくる人物だ。だが、プルヌスの我儘によりプルヌスの仕事を肩代わりしている人物。ゲーム内ではマッドサイエンティストのような性格で、クールだと思っていたのだが、どうも実物を見ると印象が違う。
どちらかというと、大人ぶっている子供のような印象だ。
アウローラの腕に触れ何度か軽く押して何かを確かめた後、彼は頷く。
「特段種の影響が残っているわけではない。安心していいぞ。それにしても、やけに変な体をしているな」
「変?」
アウローラが問いかけると、ストゥディウムは首を傾げる。
「変としか形容できない。実に興味深い、が」
後ろから視線を向けているクラース、ノヴァ、プルヌスの方へとちらりと顔を動かして舌打ちし。緩やかに首を左右に振る。
「あまりに貴様に触れていると何かをされそうだ。研究はいつかまたにする。どうせ時間は飽くほどあるのだからな。アウローラ・プラティヌム」
「はい」
「自分の名はストゥディウムという。何かあればこれを開くがいい。喜んで迎え入れよう。あぁ今開けないでくれ。そうさな―」
ストゥディウムが耳元に顔を近づけ耳打ちをする。その言葉に驚き「え」と声が出てしまう。彼の顔を見たが、彼は笑うでもなく悲し気でもなく無表情であった。彼はゆっくりと離れると、ベッドで上半身を起こしているアウローラを少しの間無言で見つめてから、くるりと踵を返した。ドアノブに手をかけると、こちらに振り返り口元に笑みを浮かべている。
「では失礼する。先程の経験を感覚が残っている間に纏めなければいけないからな。良い経験を獲られた。感謝する。では」
口早にストゥディウムはそう言ってまるで倍速をしているようなスピードで扉の外に出ると、足音がすぐに遠ざかっていった。アウローラは渡された手のひらほどの封筒に目を落とす。口はしっかりと封蝋をされているのだが、押されている印章の型に見覚えがない。ある程度貴族の家紋は目を通しているはずなのだが、全く持って今まで見たことがないものだ。
先程ストゥディウムが言った言葉。
「自分が死んだら開けろ」というのはどういうことなのだろうか。ゲーム内では、彼が死ぬような描写などなかったはずなのだが。彼は確かゲーム内でも確か研究命という雰囲気を纏い話しかけると「研究で忙しいのだが」と必ず言葉の最初につくような人だった。攻略対象でもなく、先生と生徒として健全な関係を築いていたはずだ。
そこまで考えて、ふとアウローラは動きを止めて口元に手を当てる。
ゲームの内容の記憶が今までよりもはっきりと思い出せることに気が付いたのだ。
アウローラは起き上がりベッドに腰掛ける。そして皆を見渡して、まず最初に頭を下げた。
「皆に迷惑をかけました。ごめんなさい」
「いいえ!アウローラ様が謝る事ではありません」
フロースの否定の言葉に、アウローラが悲し気に笑い首を左右に振った。
「いいえ。私の落ち度だわ。皆を危険に巻き込んだ。あの時、油断していたし、何より自分の在り方がこの騒動を巻き起こした」
アウローラは顔を上げて、真っ直ぐに前を見る。
「だから、挽回の機会を頂いてもいいかしら?」
皆は顔を見合わせて、頷き合う。その反応を見て、「ありがとう」と言いながらアウローラは安堵する。
正直、自分自身のあの過去を見て皆が一様にして協力してくれるとは思っても見なかった。誰か残るにしても、誰かしらは愛想をつかすのではないかと不安だったのだ。だが、自分はよい仲間を獲ることができていたらしい。
段々と目頭が熱くなり、涙を堪えようと俯くが、まだ体調が万全ではないのではないかとクラースが心配そうな表情でこちらを見てくる。それが何だかむず痒くてアウローラは笑顔で顔を上げて首を左右に振り「大丈夫」と口にする。
体調に関してなのだが嘘偽りなく本当に体調は全く問題なく、むしろ今までよりもいいと思えるほどだ。今までは何か足に重りを付けていたような窮屈さがあったのだが、今はそれがない。
では、まず最初にやらなければならないことから始めようとプルヌスの方へと視線を向ける。
「プルヌス先生。少しお願いしたいことがあるんですけれど」
アウローラの言葉に、壁際で休んでいたプルヌスがいそいそと近づいてベッドのそばに腰を下ろす。
「何?愛弟子の頼みなら何でも聞いてあげる。甘い物でも買ってこようか?」
「いや、特にいらないです」
「・・・そうかぁ。看病というものを体験してみたかったのだけれど」
あからさまに肩を落とすプルヌスであるが、すぐにパッと顔を上げて「それで?」と問いかけてくる。アウローラはちらりと部屋の入口を見てからプルヌスに視線を戻す。
「ストゥディウムさんに私が起きたということは内密にして頂けるように言ってくれませんか?あと、プルヌス先生も私が起きたことは他言無用でお願いします。私が表に出るまで、絶対に誰にも言わないでください」
「誰にも?アルメニウムにも?」
「はい」
「ソルバリアにも?」
「はい。誰にもです」
「アウローラがそういうならば、その願いを叶えるよ」
何故、とか聞かれるかと思ったのだがプルヌスはあっさりと承諾して部屋の扉に手をかける。そして振り返って、手を振って来た。
「またね。諸君」
そしてゆっくりとした足取りで、去っていった。大丈夫かな、と不安になったが、プルヌスならばきっとお願いを叶えてくれるだろうと信頼しているから大丈夫だろう。さて、とアウローラはベッドから立ち上がろうとすると焦った様にして皆に止められる。
「アウローラ様!まだ座っていた方がいいですわ!」
「そうよぉ!さっき戻って来たばっかなんだからぁ!」
「大丈夫大丈夫。元気だから。それよりも」
アウローラは制止しようとする皆を避けて、部屋の脇にある机へと近づく。そこには、メモをする用の紙とペンが置いてある。彼女はペンを取ってそのメモ用紙に何かをさらさらと書くとそれを折りたたみ、先程ストゥディウムからもらった手紙と共にミールスへと差し出す。
「ミールス。ストゥディウムさんから貰ったこの手紙はいつもの場所に。こっちのメモ用紙はお父様とお母様、多分お兄様も家にいると思うから3人に見せて。3人以外には見せないこと。あと、私はまだ目を覚ましていないという雰囲気を出しながら行ってね」
「え?あ、はい。勿論です。アウローラお嬢様」
「渡し終わったら早々に戻ってきてね。その時事情を話すわ。後もう一つ―」
アウローラが手招きすると、ミールスはアウローラの口元に耳を寄せた。アウローラのお願いを聞くと、一瞬驚いたようにして目を丸くした。だがすぐに表情を戻すと「・・・はい。了解しました」と彼女は力強く頷く。流石アウローラと付き合いが長いだけあり、何か考えがあるのだとミールスは察し手紙を受け取ると部屋を後にする。アウローラは「次に」と呟き顎に手を当てて考え込むような仕草をしながら「ロサ」と名前を呼ぶ。
『え?え?何』
完全に油断しきっていたロサが目を丸くしながら自分を指さしアウローラを見る。
「他の大精霊に伝えて。お願いしたいことがあるんだけれど、それはロサ伝いでお願いするわ。この部屋には近づかないこと。そして、私が起きたことを言わないこと」
『お、おぉ。うん。今すぐ伝えに行く』
「お願い。話はアウィスから後で聞いて頂戴」
『ま。君なら悪いことではないでしょ。いってきー』
ロサは軽い口調でそう言うとしゅんっと音を立てて消えてしまった。アウローラは次に部屋の扉を指す。
「部屋の外に気配があるんだけれど、見張りをしているのは誰?」
「ファンス様っすよ」
「運がよかったわ・・・ごめんレウィス。連れて来てくれる?」
「うっす」
レウィスが出ていき、扉の前の人物と何かを話している。先にと、アウローラは一番記憶力が高そうなインベルに問いかける。
「インベル。あの赤い外套、私がどれくらい持つとか言ってた?」
「え、あ、うん。7日くらいって」
あの時すでにアウローラは意識を失っていたというのに、まるでそのような会話をしていたことを知っていたかのように話すのでインベルが不思議そうに首を傾げる。それを見て、彼女は笑った。
「予想しただけだよ。赤い外套と戦った印象的に、あれはこちらの反応を楽しんでいるし、どんな情報を相手に与えれば自分の望むような反応をするのかを理解している。反吐が出るほどに似ているわ。嫌いな私と」
「何か・・・雰囲気変わったか?」
クラースの言葉にアウローラが我に返る。恐る恐る皆の顔を見て、悲し気に俯いて笑みを浮かべる。
「あはは・・・過去に触れたからかな。ちょっと、前の私に戻ってたのかも・・・」
「いや、その。悪いってわけじゃなくて・・・その」
何故か言い淀んでクラースが頬を掻く。すると、ウェリタスが「なるほどぉ」と言いながらニヤついた顔でクラースの顔を覗き込む。するとクラースはふいっと顔を背けるが、ウェリタスはニヤついたままだ。何だろうと首を傾げていると、彼はニヤついた笑顔のままアウローラに耳打ちするような仕草をし、声を小さくしているが皆に聞こえる様な音量を保ったまま言う。
「多分この子。急にアウローラちゃんが頼もしく大人っぽくなっちゃったから寂しいのよぉ」
「おまっ・・!んにゃろ!」
クラースは顔を赤くしてウェリタスを追い回すが、彼は「きゃー」というわざとらしい悲鳴を上げながら部屋の中を走り回っている。
過去を知ってもなお、いつも通りにしてくれる皆に胸が温かくなるのを感じながら、アウローラはふわりと笑う。今まで見たことがない大人びた、だが可憐な笑顔に皆はどきりとする。小さく彼女は「ありがとう」と呟いて、にかっと笑う。
「まぁ一応。皆より精神年齢は上ですからね」
「ん?何の話っすか?」
やっとで部屋の前からファンスを連れて室内に入ってきたレウィスが首を傾げる。ウェリタスを捕まえて関節技を決めているクラースはすぐに彼から離れて、背筋を伸ばす。だが、それをしっかりと見ていたファンスは「元気だねぇ」と言いながら豪快に笑っていた。そして、アウローラが起き上がっているのを確認すると小さく手を上げた。
「よっ。起きたようだな」
丸で起きることを知っていたような口ぶりにアウローラは「あっさりしているね」とため息混じりに言うと、彼は笑いながら近づいてアウローラの頭を撫でた。
「まぁ。お前ならきっと起きてくれるって思ってたさ。お前自身も信じてたし、この子等もお前を起こすために必死だったからな。それに応えないお前じゃないだろう」
「・・・まぁそうだけれど・・・あ、扉は閉めて頂戴」
扉の近くにいたレウィスが「うっす」と言いながら周囲を確認してから扉を閉める。すると、すっとファンスが真剣な表情へと変わる。アウローラが何かを知っていて、何かをすることはすぐにわかったらしい。
流石お爺様だと、アウローラが感心し、咳払いをしてから皆を見ながら一番重要な事をお願いする。
「暫く、私が起きたということは内密にして欲しい」
「え!?どうしてですの!?」
「これから説明する。っとその前に、お爺様には一度全部説明しなきゃね」
これから話すことは自分が前世でプレイしていたゲームの内容についても話すことになる。その話をファンスは知らない。なので、教えなければならなかった。このことを教えることで彼の身に何かが起こってしまうかもしれないと思ったのだが、それはいらぬ心配だということを思い出したのだ。
ファンスにはゲーム内で明かされる一つの秘密があった。正しくは、彼等夫婦についてなのだが。
自分自身がとある別の世界の記憶を持っている事、そこでこの世界の一連の話が物語として普及している事、それらをかみ砕いて説明するが、突拍子もない話に彼は額に手を当てて考え込む。まぁ簡単に信じてはもらえないだろうと理解はしていたので、彼が信じるであろうある事を問いかけた。
「そのネックレスは、水の大精霊から貰い受けた物ですよね?」
「!?どうして・・・それも、別の世界の中で知ったのか」
アウローラは頷く。
ファンスは肩を落として服で隠していた、首から下げているネックレスを引っ張り出してそのヘッドの部分を手に乗せた。キラキラと光る青い宝石のようなそれは、アウローラがフェーリークから貰い受けた物と同じであり、誰の目でも見てわかる膨大な魔力を内包している物だ。
「―これを貰った経緯も知っているのか?」
「えぇ。申し訳ないけれど、知っています」
悲し気にそれに視線を落とす彼にアウローラ頭を下げ「ごめんなさい」と頭を下げる。この世界に生きている人間の過去が多数の知らない人間に見られていると知ればいい気持ではないだろう。代表するようにして頭を下げたが、ファンスは「別にいいぞ」と言って笑う。
「別に隠していたことじゃないからな。だが、まぁ、あの時の関係者以外知り得ない情報だ。信じるしかないねぇ」
ネックレスを服の内側に仕舞い、ファンスは手を叩く。
「よぉし。信じるとしようじゃねぇか!孫娘のその話を!」
「ありがとう。お爺様」
「いいや。可愛い孫の言葉をすぐに信じれなかった儂が悪いな。お前がこんな嘘をつくはずないのにの」
わしゃわしゃと頭を撫でられ思わず目を瞑る。
水の大精霊のネックレス。これは、インベルのルートで出てくる話だ。
アウローラの死後、インベルはアウローラの事件について調べていた。そして調べていくうちに彼女が大精霊について調べていた事実に辿り着く。そして、フロースと合流しアウローラ部屋を訪れる。その時、ある一定の条件の満たせばファンスが登場し水の大精霊の事を教えてくれるのだ。そこで彼女等はどうしてそんなに詳しいのかを問いかけると、幾年か前のとある水の国での事件を話してくれた。
水の国には愛し仔と呼ばれる少女がいて、その少女は魔法研究に関して多大なる貢献をしてくれているのだ。定期的な面会をしていたのが、ファンスの奥さんであるウィオラだった。
だがある時、事故が起こった。
少女と大精霊との魔力の流れを調べていたウィオラの研究チームだったが、その日の条件があまりにも良すぎて少女の魔力が暴走を起こす。それを鎮めたのは水の大精霊ではなく、ウィオラだった。だが、近くで膨大な魔力を受けてしまった彼女は右足の感覚を完全に失い、水の大精霊の力を持っても直すことは出来なかった。
水の大精霊は泣きながら謝るが、ウィオラは「無理な研究をさせてしまった私達の落ち度よ」とって許した。だが、それでは水の大精霊の気が収まらず、二つ水の魔力の結晶を渡してきたのだという。作中でこの結晶の効果は発揮されていないが、ファンスとウィオラはそれを肌身離さずに持ち歩いているのだと言っていた。
その事故以降研究は中止したものの、水の大精霊とその愛し仔との交流は続いている。だが、大精霊と交流があると知られてしまえば面倒な事になりそうなので、もし水の国以外で出会ったときは他人のふりをしているらしい。
水の大精霊と関りが深く、もしファンスが有事の際には水の大精霊が感知しやすいように魔力結晶を与えている。この事実が、ファンスがアウローラ達の味方であり、何かあってもすぐに対処できるので心配いらないと結論付けた理由だ。
ファンスの手が離れて、髪の毛を直すと気を取り直してアウローラは皆を見渡す。
「では、私が目を覚ましていることを表沙汰にしないための理由は、先手を打つためよ」
「何のだ?」
アウィスの問い掛けに、アウローラは腕を組む。
「赤い外套は私が死ぬまでは7日といった。そして、赤い外套と対峙した印象を考えると、恐らくあの人は私が死んだ数日後に魔物の侵攻を開始する」
「何故、そう言い切れる?」
「お爺様。私が赤い外套と対峙したときこのような印象を受けました。人が、人の心がどういうものかを熟知しているようだ、と。もし私が死んだとして、この国の騎士団長を務めているお父様は喪に服すでしょう。そして、葬儀を執り行う。喪に服す場合は最低7日ほどは原則自宅にいるように定められています。これは別段悪いことではなく、葬儀の準備等をするにあたっての措置であるのですが、今回はこれが仇になる」
ゲーム内で騎士団も魔物襲撃での防衛に力を貸していた。だが本来いるはずのアルスやカエルムの姿は最初に無く、暫くしてからやってくる。アルスとカエルムがやってくると魔物が片付き始めるのだが、彼等が来る前に多数の死傷者が出てしまっていた。なぜ、そのような事が起きたのか。それは、騎士団の皆がアルスを気遣い、最後の別れくらいゆっくりしてほしいと願ったからだったのだ。
魔物の襲撃に関する情報は襲撃直後プラティヌム伯爵家には届かず、宮廷魔法士が流石にこれ以上は無理だと伝令を飛ばしたところでアルス達は魔物の襲撃での防衛に加わることとなる。この時プラティヌム伯爵邸にはアルゲント伯爵家の専属魔法士が強力な防御結界を張っており、音も何もしなかった。
赤い外套は、人が持つ優しさ、脆さ、心というものを良く知っているがゆえにこのような人の優しさに付け込んだ作戦を思いついたのだろう。アウローラが邪魔だというのも事実であろうが、プラティヌム伯爵家の人間がどうすれば大人しくなるのかを考えた末に一番効率がいいこれを採用したのだ。
一連の推論をアウローラが述べると、ノヴァが唸る。
「確かに。アルスの指揮は不敗の指揮とも呼ばれている。いるといないとでは大違いだろうさ」
「カエルムにも確かに、それが一番効く」
カエルムの実力はゲーム内でも明らかであった。魔物の襲撃にカエルムが登場した際は単騎で行ったにもかかわらず目立った怪我などなく帰ってくる。ルート次第では一時的に仲間になることもあり、その場合は一撃で魔物を撃退する程の攻撃力を持っていた。アウローラ自身も忘れがちであるが、プラティヌム伯爵家は伯爵家の中でも指折りの実力者なのだ。
赤い外套と犯人がアウローラの殺害を企てるのも納得である。
そして、魔物襲撃の他にもアウローラが早くに攻勢に転じようとしている理由がある。それは、魔物がどうして光の国を守っている守護を破り、学園へと襲撃できた理由である。それも、思い出したのだ。
襲撃が成功してしまった理由は、光の国内部に暴走した闇の大精霊がいることにより光と闇の魔力がぶつかり合い、一時的に守護が弱まっていたからなのだ。光の大精霊ルートではここはどのようになっているのかは分からないが、他全員のルートでここは揺るがなかった。なので、これは必ず起きると思われる。
光の守護が薄れたのは襲撃の2日前。闇の大精霊を無事に助け出せるタイムリミットは、あと5日ほどということだ。
アウローラは意を決して、自分が思い出した闇の大精霊を助け出せるタイムリミットのことを皆に話す。
もっと早くに思い出せたのならと、自分の不甲斐なさに苛立つ。
一番アウィスが取り乱すのではないかと思ったが、思いのほか彼は冷静だった。そして、アウローラを見つめ静かな声で問う。
「何か案があるのだろう?」
彼の言葉に、驚いた。そして、彼は自分を信用してくれているのだと嬉しくなる。アウローラはにっとアウィスに笑いかける。
「えぇ。もちろんよ。君の妹だもの。絶対間に合わせてみせる」
「・・・ありがとう」
呟く様なアウィスに声にアウローラは頷く。そこへ、控えめなノックの音と共に「失礼します」と沈んだ声のミールスの声が聞こえ、彼女が中に入ってくる。何かあったのかと思ったのだが、その声音は演技だったらしく中に入って扉を静かに閉めると足早にアウローラへと近寄った。
「手紙おいてきました。それとこれが旦那様達の返事とリストです」
「ありがとう。助かるわ」
よくもこれだけ短時間で書けたなと思えるほどの返信の手紙の量とミールスへお願いしたことのリストだ。手紙には先程アウローラが家族に当てた伝言の返信と頼んだ名簿、そしてミールスが走り書きした紙には幾人かの名前が書かれている。クラースがそれを覗き込んで「何だ?」と中身を読む。
「騎士団の・・・名簿?」
「そうよ。それと彼等の属性とか戦歴とかの名簿ね。まぁ一度目を通してあるから内容は知っているんだけれど、あった方が考えやすいかなと思ってね」
「そっちは何かしら?」
同じく覗き込んできたウェリタスがミールスの走り書きを覗き込んだ。自分の文字が恥ずかしいのか、ミールスが僅かにそのようなそぶりを見せているが、申し訳ないが今は考慮する余裕がない。
「こっちはさっきお願いしたこと。ミールスが屋敷に戻る道中に私の容体を聞いてきた人の名前」
「?そんなの知ってどうするのよ」
「赤い外套へ通じている人は必ずいるし、犯人も恐らく身近にいる可能性が高い。で、赤い外套は私の生死がとても気になっているはずだから、赤い外套に教えるために情報を集めに来るはずよ」
ウェリタスが感心したようなため息をついたとき、窓の隙間から風が吹き込みロサが戻って来た。
『戻ってき―』
「ロサ!」
『うぇ!?え?え?何?』
ベッドの上に登場したロサにアウローラが詰め寄り、ロサは背に壁をくっつけて後退る。ずいっと息が触れるほどにアウローラは近づいて壁に手を付ける。
「ロサって幻を見せる魔法って使える!?」
『まぼ・・・え?は?突然何?』
「使える!?」
『えぇ・・・いや、使えなくはないけど・・・広範囲は無理だよ?』
「大丈夫。この部屋だけだから」
よしよしとアウローラは頷き、ロサから離れて皆に振り返る。
「絶対皆と生きる未来を掴む。そのために皆、私に力を貸して」
彼等の決意はもうすでに決まっているようで、皆口々に意気込んでいる。
前世では一人で戦ってきた。だけれど、今は違う。皆がいる。
誰かのために死ぬためではなく、皆と生きるためにアウローラは動き出した。




