第1部-49話「迎えに」
アウローラを助ける方法が決まったのだが、今回の魔法のやり方は現代の物と違う点が多かったために教えるのに時間を要した。とはいえ、まだ数時間しかたっていないというのに、あと少しで大丈夫だろうとロサが言っていたのは、やはり彼等の腕がいいからと言えるだろう。
クラースが付きっ切りで看病しているが、アウローラは目覚めることは無く、だが、明らかに衰弱しているように見えた。逸る気持ちと自分だけで助けることができないという歯痒さから、ただ静かに彼女の手を握りしめているしかできない。
「クラース様」
フロースが後ろから声を掛けてくる。部屋の護衛は先生達が交互に仮眠を取りながらやってくれており、皆も疲れが見え始めているため隣室で休んでいる。今は、フロースとクラースが2人でアウローラのそばに付いているのだ。
何か、話をしたがっている様子だということは、クラースは感づいていた。
「どうした?」
委縮させないように声音を優しくして問う。いつもアウローラに「本当は君優しいのに、声音で損しすぎ」と言われたことを思い出して、そのように声を出したのだが、フロースは瞳に涙を溜めて深々と頭を下げクラースはぎょっとした。
「ごめんなさい。アウローラ様を・・・守れなくて・・・」
震える声で何度も謝ってくるフロース。
「・・・フロースとルミノークスを守るためにアウローラは頑張って来たんだから、フロースに守られてお前が傷を負ったららコイツ、すげぇ後悔すると思うぞ」
フロースは押し黙り、唇を噛みしめる。
彼女が、アウローラに対して並々ならぬ感情を抱いているのは既に知っていた。守られてばかりが嫌で、隠れて剣技の練習をしていたのも知っている。一番話しやすいからという理由で鍛錬に付き合わされたから。
アウローラに守られて、フロースもアウローラを守りたい。そのような関係に彼女は憧れているのだろう。だが、今回は相手が悪かった。それに―
「俺だって同じだよ。たった一つの扉も壊せないで、アウローラをこんな目に合わせてしまった」
ぎゅっと彼女の手を握る。
アウローラに面とむかっては言えないけれど、ただ一つの目標に向かって進むアウローラの姿に、皆に優しく仲間想いの姿に、恋焦がれて、誰よりも何よりも彼女の事を愛している。彼女の手を、離すつもりなど毛頭ないほどに。
「クラース様・・・あの」
クラースが振り返ると、フロースは視線を泳がせて何度も手を握り返している。何だと首を傾げると、彼女は何か言おうか迷っているようだった。少しした後、意を決したようにこちらを真っ直ぐとみる。
「聖騎士任命の時、何か―」
「入るよ。先程ロサから話が合って、もう少しで終わるらしいからクラース、少し寝ないかい?」
フロースの言葉を遮り、ノヴァがノックもなしに入ってくる。時折ぞんざいな態度ではあるが、王族故に普段から礼儀作法はしっかりとしているはずであるのに、彼らしからぬ行動にクラースは面を食らった。言いかけていたフロースはちらりと見て来たノヴァと目が合い、ふいっと顔を背ける。
喧嘩でもしているのだろうかとクラースは思ったが、踏み込んで尋ねられるような雰囲気ではない。アウローラを一瞥した後、万全な状態でロサからの話を聞きたいために渋々首を縦に振る。
「・・・そうだな。少し寝るよ。ノヴァ、フロース、少しここを頼めるか?」
「あぁ勿論だとも」
「大丈夫ですよ。クラース様、ゆっくり休んでください」
先程はどこか気まずそうな二人であったが、特に嫌な顔をせずに快諾した。2人きりで話す機会があれば蟠りが解けるかもしれない。自分たちは友人であり、仲間なのだから。
クラースはすれ違いざまに「話はまた今度な」と手を軽く振り、部屋を後にする。部屋を出たとたん張り詰めていた緊張の糸が切れ始め、襲い来る睡魔と戦いながら隣室へとふらふら歩いて行った。
クラースがいなくなった部屋では、2人は黙ったまま、フロースはアウローラの手を握りしめて、ノヴァは入口で壁に背を預けている。
「・・・何故、遮るのですか」
沈黙を破ったのはフロースだ。だが、彼の方へと振り返らない。
「今、言ってどうするのだ」
「確かにそうですが」
「だったら不必要な事を考える余地などいらないさ」
いつもの明るい声ではない。低く冷たい声。普段聞き慣れない声だというのに、フロースにはしっくりと来る。
―それが、堪らなく嫌だった。
歯を食いしばり、己の奥底にある感情を“私の物ではない”と抑えつけて、ただ一言呟くように言う。
「私は、貴方が嫌いです」
精一杯の言葉だった。
あの日、聖騎士任命の儀の際に見た映像、流れ込んできたもの、そして、最初から彼のことが気に入らない所以を理解した全てをひっくるめたただ一つの感情。
「俺も、嫌いさ」
お互いがお互いの顔を見ずに、ただ何の感情も込めずに告白をし合う。
フロースは、彼も同じ気持ちであることに安堵した。そして、あの日見たものも同じであるということもここで分かった。正直、フロースは不安だったのだ。アウローラが倒れた今、自分が見たものと同じ道を歩んでしまうかもしれないと思ってしまったのだ。
アウローラの手をぎゅっと握り、フロースは彼に言う。
「アウローラ様を助けましょうね」
「勿論さ」
ノヴァの声を聞いて、フロースは先程感情のままにクラースに尋ねなくてよかったと、ノヴァに遮って貰ってよかったと口にはしないが心の中で感謝する。
今は、アウローラを助ける、それだけ集中しなければ。
その後2人は会話を交わすことなく、ロサからの説明があると数時間後ミールスが部屋をノックするまで部屋の中はアウローラの寝息だけが部屋の中に響いていた。
部屋にはいつもの全員と、疲れた様子のストゥディウムとプルヌスもやってきた。どうやら、下準備は全て終わったらしく、ロサは説明に入った。
ロサの説明はこうだ。
これからする魔法は繊細で、宮廷魔法士クラス、つまり魔法専門学校を上位で卒業したほどの実力者が最低2人、通常の魔法を使える人ならば4人以上必要になるほどの難しい魔法のようだ。今回は、トップクラスの宮廷魔法士が2人なのでそこは安心してほしいとのことだった。
アウローラに掛ける魔法は、操作系統魔法であり精神魔法の要とも言われた魔法、“夢世界への干渉魔法”だ。
これは精神世界をのぞき見する、その人物の過去の記憶や本質などを見るという魔法の上位版のようなもので、現代は危険と判断されて文献も何も殆ど一般流通していないもので、プルヌスもストゥディウムも宮廷魔法士の書庫にはないと首を振っていた。ロサ曰く、この魔法は夢世界への干渉の為、起きている人間には使えない魔法であり、現代魔法のように自分の魔力の流れを操り行使するという魔法とは異なり、“魔法式”というものを使用するらしい。
紙に書いてロサに見せてもらったが、古代文字を使って、円を描くようにして式を書いているのだがクラースには何が書いているかはさっぱりだ。意味を教えてもらうと全て母なる大精霊マーテルと父なる大精霊パテルへの嘆願の文らしい。
大昔の魔法で特に大掛かりな魔法のみこれを使うが、数は指で数えるほどらしい。それに、全て書かれている文字が違うために当時も使う人はほとんどいなかったそうだ。
何か髪に核とかと思いきや、それは違うらしい。
『言葉に魔力を含ませて、頭の中でこの式を組み立てる。魔法使っている最中は言葉を途切れさせてはいけないんだよ』
つまりは体力と魔力勝負というわけだ。もう1人は何をするのかというと、先程言った魔法はあくまでも夢に干渉する魔法であり、それだけでは夢世界に干渉した際に夢が崩れる可能性が高いために、夢世界を固定化する魔法も同時にしなければならないらしい。本来なら1人で2役をこなす方が効率的だろうが、負担が大きいために2分するのだ。
『簡単に言えば1人は入口を作る係で、もう1人は崩れないように抑える係かな』
「なら、アウローラ様の夢の世界に入る人は誰ですか?」
『それは、アウローラの友人である君達だよ』
ロサの言葉に皆が顔を合わせる。てっきり、自分達ができることなどないと思っていたからだ。皆頷き合い、ロサをまっすぐ見る。
彼等の気迫にロサも頷くが、表情は晴れない。
『何個かいうことがある。1つ目は、全員は無理だ。全員の場合はこの2人に更に負荷がかかるし、この魔法の性質として考えても全員は無理。というのも、精神世界に意識を飛ばした場合、夢の主である人物の影響を受けて“自己喪失”を起こす恐れがある。だがら、夢世界に入る際は2人1組。1人が夢世界を歩き回り、1人が侵入した人と現実世界をつなぎ合わせる鎖となる。鎖となった方は何が起こっているか見ることは出来るけれど、干渉は出来ない』
ここにいるのはフロース、ルミノークス、クラース、アウィス、ノヴァ、インベル、ウェリタス、レウィス、ミールスの9人。
『あ、ミールスはダメだよ。お前は人と少し違った構造をしているから』とミールスは云われ、肩を落としている。ミールスは現代に生きてはいるが、特別な力でこの世界に誕生した存在であり、何より古代の魔力を内に秘めている。なので、逆にアウローラの精神が干渉を受ける可能性があるのだということだ。
アウィスはどうなのかと思ったのだが、『アウィスは入るのは無理だけど、鎖なら大丈夫』ということだった。消去法で残り7人となる。アウィスは腐りに回るので、最高4人は入れるということだ。
誰にすると視線で問いかけていると、インベルが手を上げる。
「だったら、兄さんとクラース、フロース、ルミノークスの4人でいいんじゃないかな?」
「あたしもそう思うわ」
「俺もそう思うっす」
インベルとウェリタス、レウィスが頷く。
クラースがいいのかと首を傾げると、ウェリタスが拳をこちらに向けてくる。
「アンタは特に。婚約者をちゃんと迎えに行かなきゃ」
「・・・必ず、連れて帰ってくる」
力強くクラースは頷くと、彼の拳に己の拳を合わせた。
『決まったようなら説明をするから行く人たちちょっとこっちに来て』
アウローラの夢世界に行く4人はロサへと近寄ると、ロサは幾人への注意事項を述べる。
『注意事項は2つ。1つは夢世界において、魔法は使えない。魔法は基本的に肉体ありきで、夢世界に入るのは意識のみだから魔法は無理。もう1つは、夢の登場人物に干渉しないこと。自分達は、端的に言って異物であるから、目立った行動をすると夢の書き換えが怒ってしまう。そうするとアウローラにどんな影響が起こるかが分からない。この二つは絶対守ってね。正直わえもこの魔法に関して行使したことがないから、実際何が起こるかは分からない。くれぐれも無理をしないように』
皆が口々に肯定の言葉と共に頷く。その様子をインベルが見つめていた。すると、後ろからインベルは肩を叩かれて振り返るとレウィスが小さな声で尋ねる。
「本当によかったんすか?」
「えっと・・・どうして?」
「いや、そのぉ」
聞き返すと彼は言い淀む。するとウェリタスがひょっこりとレウィスの後ろから顔を出す。
「だってぇ、インベルちゃんってアウローラちゃんのこと好きなんじゃないの?」
彼のその言葉にインベルは目を丸くする。驚いてレウィスの方も見るが、彼もうんうんと頷いている。
「いや、まあ好きだけれど・・・多分2人が思っているような好きではないと思うよ?」
「え?そうなんすか?」
「あはは。うん。アウローラに対しては、その、うーん・・・例えるなら、そうだな」
ちらりとアウローラを見ると、ミールスに彼女の髪を整えられている。ミールスはその傍らアウィスと何やら真面目な表情で会話をしているので、あまり視線を送らないように目を逸らす。
「遠い遠い星へ手を伸ばすような、そんな憧憬・・・かな?」
クラース達が抱く様な恋愛のような感情ではない。
傍にいたい、支えたい、触れたい、などなど調べれば出る様な恋の感情ではないと断言できる。誰とだろうが、彼女が幸せで笑っていればそれでいいし、どんなに遠い地で暮らしていても元気ならばそれでいい。ふとした時に、彼女が自分の事を思い出してくればいいなと思うほどの感情。そして、彼女のようになりたいなという自分の目標だ。お互いに背を預け合えるような、お互い頼れるようなそんな関係でいたいのだ。
ほんの少しだけ、あの4人みたいに迎えに行けることが羨ましいけれど。
アウローラに向ける視線にウェリタスは何か察したような表情で、レウィスの肩を叩く。彼は何かわかっていないようだったが、もう野暮なことはよしなさいなと言われているようでそれ以上は聞かなかった。
「取り敢えず、僕等は僕等のやることをやらなとね」
「そうすね」
「そうねぇ。あ、アウィスちゃん」
ミールスと話し終えたアウィスがこちらに近寄ってくる。
恋と言えばアウィスはどうなのだろうかと思ったが、彼の表情の暗く3人は視線を合わせる。
「どうかしたんすか?」
一応他の皆に聞こえないように声を小さくしてアウィスに問いかけると、彼も話をしているロサの方を見てから声を潜める。
「アウローラの容体が悪い。あの赤い外套は1週間といったが、あと1日も持つかどうか怪しい」
「はぁ!?どういうことなの!?」
ウェリタスの思わぬ大きな声に全員がこちらを振り向き、アウィスは額に手を当てる。だが、黙っているわけにもいかず、アウィスが話をする。
アウローラの衰弱が激しいこと、魔力の消費も激しく、今急ピッチでミールスが魔力を分け与えて少し落ち着いているがどれほど持つかは分からないこと。
「恐らく精神魔法による負担が大きいのだろう。衰弱、というか生きる気力というものが削がれている感じがする」
どれほどの精神負担が彼女の中で渦巻いているのか分からない。誰もが息を呑む。
「風の大精霊。手遅れになってはいけない人間だろう?早々に手を施すべきである」
いつでも用意は出来ているというストゥディウムと「こっちは大丈夫」と頷くプルヌス。焦りが表情に滲み出ているロサは、ふーっと息を吐いて顔を両手で覆ってから、自身の両頬を叩く。
『うん。始めよう。鎖の皆の注意事項は特に集中をするということだから、魔法をしながら言う。わえは大精霊の性質上サポートしかできない。助けるのは君達だ。必ず、助けよう』
ロサがアウローラの傍に歩み寄り、泣きそうな表情のミールスに向かって頷く。彼女は無言のままロサに頭を下げ、皆に深々と頭を下げて部屋の隅で両手を組んで祈る。
『まずストゥディウムとプルヌスは魔法準備を』
「力を尽くそう」
「よし、愛弟子の為に頑張るぞ」
ストゥディウムは目を閉じて言葉が聞き取れないほど小さな声で何やら呟き、プルヌスも表情は見えないが微かに声が聞こえてくる。すると、アウローラの下に金色と銀色の光を帯びた文字で描かれた円が出現して部屋を照らす。
『ではまず夢世界に入る全員はアウローラの手に触れて目を閉じる』
クラース、ノヴァ、フロース、ルミノークスはアウローラの手に触れた。
『鎖の諸君、誰でもいいから肩に触れて』
クラースの肩にはアウィスが、ノヴァの肩にはインベルが、フロースの肩にはウェリタスが、ルミノークスの肩にはレウィスが触れる。
『鎖の皆も目を閉じて。絶対に肩から手を離さないこと。そして、肩に触れた人物を“確かにそこにいる”と感じて。鎖の皆は夢世界に入る人たちの目を借りて視界を共有できる。だけれど、言葉は届かないから』
「クラース、頼んだ」
「兄さん、よろしくね」
「ちゃんと無事に帰ってくるのよ」
「ルミノークスお嬢様、ご武運を」
肩に触れた手が、相手の方に同化するような感覚に陥る。
『ストゥディウム、プルヌス』
ロサが2人の名前を呼ぶと、声が僅かの大きくなる。クラースは相も変わらず何を言っているのか分からなかったが、段々とその声が遠くに感じられていき、体がすとんとどこかに落ちるような浮遊感と共に閉じていた瞼の裏が段々と白んでくる。そして、足が地に着くような感覚と同時に、瞼が自然と開いた。
視界が白んできたはずだというのに、そこは暗く、白い雪が降ってきている広場のような場所だ。周囲には、見慣れない2階建ての民家が立ち並び、明かりがついている。
雪が降っているというのに、寒くはなかった。
「そうだ、皆は?」
「大丈夫です」
「こちらも大丈夫ですわ」
「同じくさ」
クラースが周囲を見渡すと、フロース、ルミノークス、ノヴァが空を見上げて立っていた。
真黒な空から降ってくる雪は幻想的で、こんなに降っているというのに地面にはあまり積もっていない。先程振り出したばかりなのだろうか。
≪ありゃ、お客さんだ。あ、もしかして彼女迎えに来た?≫
幼い少女の声が聞こえて、皆がはっとする。ロサに夢の登場人物とは関わるなと注意されたばかりだというのに。
思わず逃げようとしたら、声が慌てた様子で引き留める。
≪あー!まって、まって!!大丈夫!私は話しても大丈夫!!≫
逃げようとした方向の闇の中から現れたのは、レモンイエローの子犬だった。
くるりとした尻尾は上向きでフリフリと振られており、黒々とした丸い瞳がこちらをじっと見つめている。
「可愛いですわ」
驚きと共にルミノークスがポロリと口にする。レモンイエローの子犬は小さな手を器用に口元に当てて「ありがとう」と笑う。表情豊かな犬は初めて見るが、どうも違和感がない。これも夢の影響なのだろうか。
≪私は、そうね。云わば、この子の守護者といったところかな?≫
目の前にいるレモンイエローの子犬が尻尾を振りながら答える。なぜ、犬なのだという疑問が浮かんだが、子犬が「あ」と小さく声を上げた。
≪可愛らしい姿なのは、彼女が犬好きってだけよ。私が犬だという事ではないわ。それでは、この世界について説明するわ。といっても、あらかたあの風の大精霊さんから教えてもらったかしら?≫
声からしてして女性だと思うが、どうも聞き覚えのある様な声だ。だが、記憶の中を探しても全く思いつかない。守護じゃと名乗ったレモンイエローの子犬は周囲を見渡すようにして顔を動かす。
≪ここは彼女の中の世界。彼女の魔力が創り出した小さな世界ね。夢というと脈絡のないものというイメージがあると思うけれど、貴方達がいるこの場所は彼女の魔力が創り出した遠い昔の記憶が再現された世界よ。これからこの世界で起きることは、彼女の記憶にある過去。脚色も改竄もない過去。そして、あの子が貴方達にひた隠しにしてきた過去よ。だから、私はあの子の守護者として貴方達に問わなければならない。返答次第では、貴方達を追い出さなければならなくなるわ≫
「それは、アウローラが死ぬことと同義だと思うのだけれど?」
≪えぇ。そうね。でも構わないわよ。この子が傷つくくらいなら、死んでしまった方がましだと思うもの≫
守護者は犬の姿ではあるがにっこりとノヴァへと笑顔を向ける。犬にも表情はあるのだと思いつつ、その雰囲気から先程の言葉は冗談ではなく、本気なのだと理解できる。
≪・・・これから先、何を見ても、何を感じても、この子に憐れみの目を軽蔑の目を向けないと誓える?≫
皆は目を合わせて口を揃える。
「勿論だ」と。
彼等が返答すると同時に、雪が突如として降りやむ。そして、先程まで感じなかった寒さに身が震えた。
≪そう。いいのね・・・≫
守護者は彼等にではなく、空へと呟く。そして、彼等へと向き直るとくるりと背を向けた。
≪おめでとう。貴方達は彼女の心と同調した。感覚が戻ったのがその証。ならば、私はそれに応えましょう。案内するわ。ついてきて≫
公園の入口まで守護者は歩を進めると、そこで立ち止まる。
≪彼女を捕らえている精神魔法の要は3つの記憶の先。これから起きること、目を背けないで。干渉しないで。声を出さないで。助けようとは思わないで。これは過去の幻影、すでに起きた手遅れの事象。今の彼女を形作った罪の意識≫
ぐらりと視界が歪み、暗転する。
思わず全員が瞼を閉じてから、数秒後、誰かの話し声が聞こえてくる。
瞼を開くと、見たことがない様式だが綺麗に片付いた室内。
薄い板のようなものが、何やら映像を垂れ流している。
そこにいるというよりも、そこに在る光景を見ている、当事者ではないという感覚。
彼女の罪の映像が、始まった。




