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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-45話「夕刻の学園、先生達」

「これと、これと・・・これくらいかな?」


手渡された3冊の本をアウローラは両手で受け取る。分厚い表紙で、頁数も多く読破するには少々時間を要しそうな気がするが、目の前の彼はアウローラの頭を撫でて、笑みを含んだ声で言う。


「大丈夫。君ならすぐ理解できるよ。旧時代の魔法の歴史と言っても今と変わらないからね」

「はい。ありがとうございます。プルヌス先生」


アウローラが頭一つ分ほど背の高いプルヌスを見上げて笑顔でお礼を言うと、彼女の頭を撫でていた手を止めて肩を落とす。


「良かれと思って、というか、愛弟子と共に居る時間を増やしたくて教師という役職を交代してもらったけれど、放課後ぐらいしか時間を作れなくて悲しいよ。それに、君は聖女の護衛でも忙しいし」

「いえ。放課後でも時間を取っていただいて嬉しいです。でも、プルヌス先生が魔法学の教師をするなんて驚きでした」


落ち込む姿はまるで犬の様だと笑みを堪えながら、アウローラは言う。

そう。ゲーム本編では特別講師として登場するプルヌスが、どうもこの世界においてれっきとした魔法学の教師として勤めている。アウローラ達がそれを知ったのは入学式の際に先生方の紹介の際、プルヌスが登場したところでだ。それ以外にも、驚いたことはあったのだがそれはさておき、生徒たちも騒めいていた。というのも彼の存在は勿論国中で有名であり、1年生は目を輝かせ、兄弟のいる生徒たちは上級生たちに羨ましがられていた。

これは何事かと全員でプルヌスに突撃すると、彼は上機嫌でこう言いのけたのだ。


「だって、最近愛弟子と愛弟子の友人達の時間取れてないから」


アウローラ達としては嬉しくないはずもなく、むしろ今まで魔法学を教えてくれていた人が教師になってくれているために願ってもいないのだが、とはいえ、彼は宮廷魔法士の重鎮である。そこはどうしたのかと尋ねると「あぁそれね」と言いながら腕を組む。


「ストゥディウムが暫くは代理をやってくれるから大丈夫だよ。ストゥディウムというのは、ここの元々の魔法学の教師で、ボクの直属の部下なんだ」


確かにゲーム本編においてストゥディウムはプルヌスとの関係について知り合いと回答していたのだが、ここまで密な関係だとは知らなかった。ちなみにストゥディウムというのは、20代後半から30代前半ほどの見た目でひょろりとした長身、髪は銀色で長く、三つ編みにしており、瞳は黒に近い赤という端正な顔立ちをした男性だ。女性人気が高く、教師の中では異例の彼自身のグッズが存在するのだ。どうにかその見た目から隠し攻略対象ではと噂されたのだが、そんなことは無かった。

アウローラとしては、正直直でそのご尊顔を拝見したかったが、それは叶わないことになりそうだ。

こうしてプルヌスは教師として1年間務めることになったのだが、教師というものはかなり忙しい。プルヌス自身は空いた時間でアウローラと会えると思っていたらしいが、一人の生徒だけを特別扱いすることもできず、更には変な噂を立てられる可能性もあるために普段二人だけで会話をすることもない。アウローラ自身も、普段は犯人捜しと聖女二人の護衛で手がいっぱいなのだ。

今日は調べごとがあり、フロースとルミノークスを寮に帰してクラース達にそばに付いてもらった後に、夕方皆が下校した後に許可を貰って図書館に本を探しに来たところ、偶々その姿を見かけたプルヌスがすごい勢いで追いかけてきたのである。

「会いたかった」などと久しぶりに2人で会うことをプルヌスは喜び、彼女を持ち上げてくるくると回り始めた時はどうしようかと思ったが、特段嫌な気持ちにならなかった。だがしかし、クラースにはこの姿を見られたくないなと思ってしまったのは何故なのか、彼女はよくわからなかった。

アウローラの調べごとというのは、図書館奥の扉をロサが解除できるようになったということで、そう言えば現代魔法に関しては知っていたが、失われた魔法というものを知らないと思ったのでそれに関する本を探しに来たのだ。それをプルヌスに告げると、意気揚々と本をピックアップしてくれた。もしかしたら、この人はこの図書館の本を全て把握しているのかもしれない。

分厚い本を抱えて、司書に貸し出しの処理をして貰う。

数分もかからずに処理をして貰うと、何処か寂し気にプルヌスは肩を落とした。


「もっと話をしたかった」


この人はこんなに子供っぽかったかと思いながら、アウローラはクスリと笑う。


「えぇ。私も同じです。ですが、弟子とはいえ教師がたった一人の生徒と一緒にいるということはあまり世間体、あまりよろしくないので」

「うんそうだね。でも、君は大切な愛弟子だ。何かあったら、いいや、何でも大丈夫だから困ったことがあれば相談してね。必ず力になるから」


頼もしい言葉にアウローラははにかみながら「はい」と答えて、頭を下げて図書館を後にする。彼女がいなくなった図書室、そこにはもうすでに司書の姿は無く、プルヌスがただ一人。突如いなくなった司書のことなど気にも留めず、プルヌスは伸びをして、首を鳴らした。そして「さて」と小さく呟いて、鼻歌を歌いながら図書館の奥へと歩いて行った。


アウローラはというと、久しぶりのプルヌスとの会話によって機嫌よく、本を抱きしめながら夕日で橙色に染まっている廊下を早足で歩く。自分自身が襲われるという可能性もあったが、夕方はまだ教師が校舎内を巡回している。なので、メイン廊下のみ歩くのならば襲われる可能性は低いと言えるだろう。


「おや、アウローラ・プラティヌム伯爵令嬢ではありませんか」


穏やかな男性の声が後ろから聞こえて振り返ると、そこにはこの1学年主任兼学園長であるウェール・クリューソプラソスがニコニコとした笑顔を湛えてゆっくりとした足取りで近づいて来た。

彼はこの学園、つまりは専門学校を含めた全体の管理者であり、この学園のトップ。実年齢は知られておらず、恐らく壮年程だろうと思うが、時折青年のようにも見える不思議な男性だ。いつも校章の入った細身のローブを身に着けており、耳ほどで短く切りそろえられている雨に濡れた草花を思わせるような深緑の髪は、渡り廊下を穏やかに吹く風により揺れていた。優し気なグレーの瞳は、アウローラの持っている本に向けられて小さく「あぁ」と呟いた。


「図書館ですか。カエルム・プラティヌム伯爵子息といい、やはりプラティヌム伯爵家の皆様は勉強熱心でよろしいですね」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。学園長先生」

「ふむ。ここでお会いできたのも何かの縁ですし、何か私の授業で至らない点などはありませんか?授業スピードはどうでしょうか?」

「大丈夫です。学園長先生の一般教養の授業はとても分かりやすいと評判ですよ。私も、恐らく友人達も同じ意見です」

「あぁ、よかった。今年の生徒たちは優秀な子達ばかりで素晴らしいですね」


学園長でありながら、ウェールは一般教養の授業を受け持っている。その性格の穏やかさと、物腰の柔らかさから生徒から高評価だ。そして、ことあるごとにこうして授業の感想を求めて、何か不安などがあると直ぐに次の授業に反映してくれる。なので彼の授業が難しいや分かりづらいということは無く、皆一様にして彼の授業を分かりやすいと言っているのだ。


「図書館では何を?」


ウェールに尋ねられて、持っている本の表紙を見せた。“魔法の歴史”、“現代魔法一覧及び応用編”、“初代聖女時代の暮らし”。それを見て、彼は目を丸くする。


「凄いですね。歴史書ばかりだ」

「はい。最近現代では使わなくなった魔法というものを耳にしまして・・・プルヌス先生にご相談したらこの三冊がよろしいと」

「あー・・・」


ウェールは納得したように頷き「確かに彼らしいチョイスだ」と呟く。そして、顎に手を当てて首を捻る。


「確かに初代聖女の時代から徐々に使われなくなった、もしくは危険と判断されて使われなくなった魔法、全てひっくるめて”古代魔法“と言いますけれど、それに関する文献は王城にも殆ど存在しないと言います」

「そうなんですか?」

「えぇ。盗まれたり、消失したり・・・古代魔法、精霊に関する書物などは王城にある記録書庫にも殆どないそうですよ?私も、聞いた話なのですが」


もしかして、時折大精霊達が言っている“人が知っているはずの事”は誰かが意図的に“人に知られないように”しているのではないかとアウローラは考え付く。もっと詳しい話を聞こうと思ったところで、廊下の奥から「学園長!」という凛々しいがどこか可愛らしさのある女性の声が聞こえて来た。

すると、廊下の奥の方から少女のような背格好をした人物と白髪交じりのチェリーレッドの頭で見知った男性が堂々とした足取りでこちらに向かってくる。

目が覚めるような赤髪は適当に首元で結われ、風に揺れて炎が揺らめいているようで、キリリとした鮮やかな緑の瞳にも目が行ってしまう。胸元にチェーンのついたぴったりとして、下部が短冊のように幾重にも分かれている膝丈のコートから覗く黒いタイツは薄いために足の肌色が透けて見え、不釣り合いに見える大きなベルト式の茶色いブーツは見た目に反して脱げる様子もなくしっかりと地を踏みしめている。


「フォリウ・アメテュストゥス先生とファンス・フェッルム先生」

「よ、学園長」

「ファンス。いつも言うが、学園長は学園長なんだ。そのように軽々しく挨拶をするべきではないとフォリウは思うのだが」


フォリウの言葉に聞く耳を持たず、アウローラに気が付いたファンスがこちらにも手を上げてくる。

入学式において驚いたその2がこの人だ。本来ならば1年ではなく2年以降の騎士専門学校の先生であるはずのゲーム本編を考えるとイレギュラーその2ともいえる。後々話を聞くと、実はカエルムに頼まれたのだという。その理由は、隣にいるファンスだ。

ファンスはゲーム本編においても、現在のおいても、この小鳥のような可愛らしいさと背格好とは裏腹に、かなりスパルタの武術教師なのである。カエルムが在学中も彼女が受け持っていたらしく、殆どの生徒が彼女に対して恐怖心を抱き、更には授業を抜け出そうと計画する者もいたそうだ。見つかるとペナルティが凄いというのに。

生徒たちが授業の是正を学園長に具申し、3割ほどは軽くなったがそれでも十分きつかったそうだ。だが、教師としての腕は確かで、全く武術をやったことがない令嬢でも専門学校に上がるころには全ての生徒が魔物数匹ならば一人で対処できるほどに成長していたという。ちなみにカエルムは余裕だったそうだ。

しかしながら、妹にこれほどキツイ訓練をしてほしくない、心配だと彼は思ったらしく、フォリウと面識があって剣術の稽古などを見ているファンスに彼女のストッパーになってくれと頼んだらしいのだ。

ファンスも割とスパルタであるが、フォリウ程脳筋ではなく、生徒たちの具合を見る冷静な目がある。そして、現在は特段忙しいこともないので請け負ったそうだ。

ファンスは仕事とプライベートをしっかり分けるタイプらしく、校舎内では挨拶はするが、自宅のようにベタベタと触ってこない。それにしても、この学園はアウローラの知り合いだらけではないのかと、少々ばかりここまで至れり尽くせりでいいのかと不安になってしまう。

フォリウは親指でファンスを指して声を荒げる。


「武術の主任教師はフォリウだというのに、コイツ口出しばかりするんだ!学園長も何か言ってくれ!」

「いや、お前の授業内容きつすぎるだろ。なんだしょっぱな訓練所20周て。まずは基礎的な訓練をするべきだろうが!」

「はぁ??走るのは基本だろう!」

「多すぎるんだアホが!まずは少ない数から初めて徐々にが基本だろうが!」

「最初キツイのにしていけば徐々に慣れた時に楽になるだろう!それにフォリウは疲れたら休んでいいし、魔法も使っていいと言っている」

「まぁまぁお二人とも」


睨み合って殴り合いになりそうな雰囲気の二人の間をウェールが間に入る。2人を手で制してから、ゆったりと口を開いた。


「フォリウ・アメテュストゥス先生。貴女が仕事熱心で、成績を残していることはよく理解しております」

「当然」

「ですが、午前の授業は武術の授業だけではありません。武術の授業の後生徒たちは結構疲れていて、授業に身が入っていないのをよく見ます。なので、ファンス・フェッルム先生の案を午前中、フォリウ・アメテュストゥス先生の案を午後というのはどうでしょう?」


フォリウがぐっと飲みこみ、腕を組む。どうやら考えている様で、隣ではファンスが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。それに気づいた彼女があからさまに苛立っているが、大きくため息をついて気持ちを静めて「検討する」と短く返事をした。ここで話が終わりかと思ったのだが、「あぁそうだ」と言いながらフォリウが顔を上げる。


「ステルラの授業に助言をしてくれまいか?」

「・・・ステルラ先生に・・・ですか?」


突如として学園長の歯切れが悪くなる。


「どうもステルラは授業中に細かなミスが多いらしい。元々ぽやんとした御仁ではあるが、最近多いと生徒から聞いた」


ステルラは寮の管理人であるが、教師でもあるようで、授業内容は調合。調合と言っても、薬を造るだけではなく錬金術も含まれている。授業中はいつも格好に調合の際に汚れるからなのか薄水色の白衣を身に着けて授業をしており、自分で育てた薬草を鉢ごと授業に持ってくることもしばしば。確かに授業の最初の方はスムーズに授業が進んでいたのだが、最近になって事前に宣言していた授業内容が違っていたり、午後の授業では上の空であることが多い。


「ステルラにフォリウが聞いても大丈夫の一点張りであるし、プルヌスやこれが聞いても―」

「曖昧に笑うだけだった。だから、学園長の方が聞き上手だから。相談に乗ってやってほしいんだ」


押し黙り、逡巡している様子のウェールを見て、フォリウがあからさまにため息をつく。


「何だ。まだステルラの事苦手なのか。そんなに彼女がお前の昔の知り合いに似ているのか?というか、その人と何が―」

「あ、あの、フォリウ・アメテュストゥス先生。その話は、そのぉ・・・」


ウェールがちらりと、後ろに下がって立ち去るタイミングを逃してしまっているアウローラに視線を向けた。そこで、やっとでフォリウがアウローラに気が付いて目を丸くする。


「アウローラ令嬢。どうし・・・あぁ、図書館の帰りか」


本をちらりと見てフォリウは納得したようにして頷く。


「ごめんね。立ち去るタイミングを損じてたのか。そろそろ暗くなる。寮まで送り届けよう。ほら、ファンス、行くぞ」

「フォリウ一人でいいんじゃないか?」

「何を言う。男手がいた方が安心だろうに」

「・・・国で最強と言われている奴が何を言う」

「・・・あとで奥方に愚痴言ってやる」

「あ、それだけはやめてくれ」


フォリウに手を引かれて、アウローラは半ば引っ張られるようにして寮への帰路へとつく。去り際に「学園長、また明日」とアウローラはウェールに言うと、彼は手を振ってくれた。少し歩いた後に「あ!先生方!」とウェールが声を張り上げて来て、ファンスはアウローラから手を離してファンス共々振り返る。


「明日の夜、王城へ業務日誌と巡回連絡を持っていくので朝回収しますからお忘れなく!」


ファンスとフォリウはあぁそうだったと顔を見合わせ、気怠そうに手を上げて「了解です」と口を揃えた。そして、ウェールがその場から立ち去るのを見届けると、三人で他愛無い会話をしながら寮へと足を向けた。

そして寮へと辿り着いたのは日が沈む寸前で、空はもう夜の様相へと変わり始めていた。

フォリウもファンスもアウローラ達がいる寮の部屋への行き方の特殊性を知っているようで、真っ直ぐに庭へと連れて行ってくれた。


「にしても、アウローラ令嬢の所にミールスがいるのか。そうか」

「私的にはフォリウ先生がミールスと知り合いというのが驚きなんですけれど・・・」

「儂、言ってなかったっけ?」

「言っておりませんよ」


そういうことは初めに言ってほしいとアウローラはため息を漏らす。

去り際に道中話題となった、フォリウとミールスが知り合いだという話題となる。彼女の本心を知ったのはほんの最近であるため、彼女が今までどのように過ごしていたことは何も知らないし、交友関係も知らない。なので、このようにミールスの友人だという人に会えて少し嬉しい。彼女は確かに重大な使命を持っているが、ちゃんと日々を楽しく過ごしていたのかもしれないことに安心した。どのような知り合いかと尋ねようとしたところで、「おっと」とフォリウは沈みかけている夕陽を見て声を上げる。


「そろそろ陽が完全に沈む。懐かしい話題は黄昏時にするべきではない。生徒はもう寮に入る時間帯であるし。では、アウローラ令嬢、また暇があるときに話をしよう」

「そうだな。今はもう遅いから。ではな」


どこか似ている2人はひらりと同じように手を振って、何か言い合いながら去っていく。その背に手を振って、ミールスの話を聞けなかったことを残念に思いながら寮の中に入ると、そこにはミールスが心配げな表情でうろうろと廊下を歩いていた。アウローラの姿に気が付くと、駆け寄り、ほっと胸を撫で下ろした。


「あぁ。アウローラお嬢様。帰りが遅いので心配していたのですよ」

「ごめんごめん。途中で先生達と会って、少し話をしてた」

「そうなんですね。本はお預かりして、お部屋に置いておきますね。談話室で皆様お待ちですよ。すぐ、お夕食の準備をします」


パタパタと本を受け取ったミールスが廊下を早足で歩いて行く。

フォリウとの関係を彼女自身に尋ねてもいいが、今は邪魔しては悪い。真っ直ぐにアウローラは談話室に行くと、そこには寮のメンバー全員と、ロサが何やら話し込んでいた。

開け放たれていた扉にノックをすると、全員がこちらに振り返り表情を明るくする。


「アウローラ様!お帰りになられたのですね!」

「お帰りなさいませ。アウローラ様」


駆け寄ってきたフロースとルミノークスに笑顔を向けて「ただいま」と声を掛けると、はにかんで笑う。後ろのクラースに視線を送ると、特段変なことは無かったとジェスチャーで教えてくれた。


「アウローラ、席に着いてくれ。ロサが話をしたいそうだ」


恐らく入口の事だろう。アウィスに頷き返し、空いている席に座る。そこで、テーブルの上に一枚の大きな紙が敷かれていることに気が付いた。その紙には、幾本の線が描かれており、少ししてそれが建物の見取り図だということに気が付いた。間取り的には、恐らく校舎内の詳しい見取り図といったところだろう。


「これは?」


アウローラが尋ねると、ウェリタスが手を上げる。


「アタシが用意したのよ、アウィスとロサに頼まれてね。訓練されているから見取り図描くの得意なのよ」

「へぇー凄いわね・・・」


手放しに感心すると、ウェリタスは得意げに胸を張る。

校舎は2階建てであるが教室の種類は少ない割に、大きい。一つ一つの教室が大きく、天井が高いのだ。先程先生方と話をした渡り廊下の校庭側にあった草花なのだが、アウローラは中庭だと思っていたそれは薬草園で、庭園は図書館の隣にあるらしい。もしかして、ステルラが管理しているのだろうか。

ロサが、図書館に指を置く。


『図書館の扉の封印の解き方は完全に理解した。事前に解いておくとばれた時、警戒を強めることになるし、さらに強固な封印を施された場合に対処する時間が惜しいからまだ解いていないよ。だから、侵入する日にわえが一緒に行って、その場で解くことになる』

「ロサ、その封印を解く場合の所要時間というのはどれくらいなんだい?」

『数分もかからないと思うよ。かなり複雑でもないし。でも、勿論校舎の巡回がある。巡回時間は君とインベルが調べてくれたんでしょ?』

「うん。兄さんと一緒に先生にそれとなく聞いたよ。まず夕方に残っている生徒がいないか確認、先生は職員室で待機、次に深夜だって。深夜の見回りが終わった後に、先生達は校舎から出るんだって。それ以降の時間は、校舎全体に誰かが侵入した際に感知できる用の魔法を発動させるみたい」

「なら、夕方から深夜の間に侵入ってわけか?」


クラースの言葉に「あぁでも」とインベルが付け足す。


「この巡回はいつもの時間は普段の時間で、一月に一度学園の業務日誌を王城の管理課に提出するときは少し違うんだ」

「その場合の巡回は、夕方はいつも通りなんだが、夜は数時間遅くなる。ねらい目なのさ。ただ・・・」

「ただ?なんですの?」


インベルとノヴァが苦々しい顔で顔を見合わせてため息をつく。


「その日誌を提出する日はバラバラなのさ。それにこの時間は生徒に知らされない。俺達は管理課を見たことがないし、日誌提出も知らなかった」

「じゃあ、普段の日に侵入しかないんすかね?」

「うーん。陽があるうちに行動するのは見つかるリスクが高いわねぇ。だからなるべく夜行動すべきなんだけれど・・・日が完全に沈んで、深夜までは3時間くらいかしら・・・その先の部屋がどのような場所なのか見当もつかないからもう少し時間が欲しい所だけれど・・・」

「では、どうにか誰かが先生の気を引くというのはどうですか?」

『いい案だけれどおすすめはしないかな?何かあった場合の戦力を削ることはあまりよろしくないし、この封印を施した奴がうろついていないとは限らない。襲われてしまったら大変だ』


うーんと皆で首を捻る。その時ふと、アウローラは先程の先生達のやり取りを思い出した。


「その日誌提出明日みたいだよ」


え、と皆がアウローラに驚きの目を向ける。


「さっき先生達が話しているのを聞いたの。学園長が言っていたのよ」

「・・・だったら明日行くしかねぇな」


クラースが意気込んで掌を叩く。皆が頷き合った。


「隠密関係はアドバイスはまっかせて!!完璧な計画、皆で考えましょ!」


嬉々としてウェリタスが言ったところで「失礼します」とミールスが皆の文の夕食を談話室に持ってきた。

食事をとりながら、あーでもない、こーでもないと色々と騒ぎ立てる。結局その話は夕食後も続いて、ミールスが用意してくれたお茶を飲みながら話は続いた。会話の内容はおもてだって言えないようなことがないけれど、まるで学園祭の準備の様だと遠い昔の記憶にアウローラは目を細めた。

きっとみんなと一緒なら、明日もこの先の事も全てが上手くいく。なぜだかそう信じられた。

前世の記憶を話さなくても、信じてくれたみんなの期待にこたえたいとアウローラは明日の計画について必死に考える。



あぁ結局、その計画は全て筒抜け何だけれども。

与えられた偶然を偶然だと信じてしまったアウローラは明日起きることは何も知らない。

少し考えればわかる事だったのだ。

何故巡回中の先生があの場に揃っていたのだろうか。

あの場に他の人が誰もいないと何故思ったのだろうか。

たった少しの考えの至らなさが、悪い結果を導くものなのだ。


“私”がそうであったように。



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