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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-42話「これから起こりうること」

この世界においてゲームといった電子機器はいかなる国においても発展していないし、自分自身が誰かになり物語を進めていくという文化がない。だが、創作された物語―主に恋愛もの―はある程度普及しているために、前世で普及していた物語とこの世界が同じであるということから話し始めた。アウローラとしては、自分達の世界が違う世界において娯楽として消費されているということやその筋書き通りに進もうとしていた事実に皆が不快感を示すのではないかと不安になったが、誰も特に気にせず受けて入れていたので胸を撫で下ろすと同時に、彼等が何も気にしていない様子であることが少し気がかりであった。もしかしたら、この世界に創作された物語というものが普及していないために実感がわかないだけかもしれないが、あまりにもあっさり受け入れてしなっている様子で心配になってしまう。

だがまず、先に目先の事を話さなければいけないとアウローラは順を追って説明しようとするが、これから話す内容の悲惨さを改めて思い起こし、右腕をぎゅっと掴む。


「これから話す内容は、皆にとって聞くに堪えない内容だと思うわ。特に、ルミノークス、レウィスにとっては・・・でも、これからのことを考えると、話しておきたいの。皆と一緒に、最善の未来を掴み取るために」


名指しされたルミノークスとレウィスは一度顔を見合わせて、頷き合ってから皆に視線を向けた。他の皆も覚悟を決めた表情で頷いた。


「えぇ。大丈夫ですわ」

「大丈夫っす」


アウローラは悲し気に微笑み「ありがとう」と小さく言って、大きく深呼吸をする。

もうすでに物語から外れてしまっているけれど、これはあり得たこの世界の未来。そして、あり得るこの世界の未来だ。

最初にフロースが主人公であることは話したが、攻略対象者が彼女と恋愛関係になる物語というのは、少しぼかした。フロースがここにいる殆どと恋愛関係になる可能性がありますというと、フロースが多方面においていい顔をしていると思われるのは嫌であったし、フロースの性格から見て、彼女もいい気がしないだろう。

彼等に話したのは物語開始からエンディングまで。全ルートをごちゃ混ぜにして、違和感ないように話したが、光の大精霊ルートだけはクリアしていないために説明不足な部分が多々あったが、それでも皆何も言わずに聞いていてくれた。

アウローラが話した内容は以下の通りである。

物語の開始はフロースが学園に入学する場面から始まる。この時すでに、クリュスタルス男爵家とセレーニーティ男爵家はあのお茶に毒物が混入した事件以降交流が途絶え、仲違いをしている。フロースとルミノークス、アウローラはそれ以前の友人であり、アウローラは学園内部に詳しく彼女がフロースを案内し、皆と知り合っていく。ルミノークスとも再会するが、彼女はフロースに対し冷たい態度を取り取り巻き達とどこかへ消えてしまう。ルミノークスはフロースを聖女の座を奪い合うライバルとして敵視しており、今後学園生活においても交流は殆どなかった。

その後、第一の事件。学園内で切り付けられたという事件が発生する。

その特徴から聖女二人が狙われているのではないかという噂が立ち、フロースは攻略対象達に自分を身代わりに犯人を逮捕することを思いつく。フロースの協力の元事件の犯人の少年が拘束される。犯人の少年は貴族にうらみがあったと供述。その後騎士団の拘置所から行方不明になってしまう。

夏休みに差し掛かるころ第二の事件が発生する。

アウローラが学園内で惨殺されてしまう。その隣にはあの事件を起こした少年が原因不明で死亡し横たわっていた。

アウローラのお葬式の後、フロースはアウローラから精霊についての本を譲り受ける。

本にはメモが挟まっておりメモには「少しでもフロースとルミノークスの力になれば」と書かれていた。

ここの部分で泉に向かうのだが、仲間と一緒に行くと光の大精霊は現れない。アウローラの葬儀の数日後、突如として光の守護が薄くなり、周辺の魔物の狂暴化が起こる。ここで光の大精霊が現れ協力を仰ぐ。光の国に闇の大精霊が暴走状態でいるらしくその魔力の乱れにより守護が薄まっているという。

すると第三の事件聖女を殺そうと魔物が学園に襲いかかってきた。

学園の生徒、騎士団、先生による学園を守る戦いが起こる。仲間や学園の皆と協力し何とか魔物を鎮静化しようとするが戦いは激化し、その時にフロースは聖女の力を解放する。そして、魔物は沈静化しこの事件は幕を閉じるのだが、学園は甚大な被害を受けた。その後光の大精霊と一緒にアウローラの死の真相や魔物襲撃の真相を暴こうと仲間たちと調査を開始するが、フロースが聖女の力を解放したためにルミノークスが偽りの聖女ではないかという噂が立ち、嫉妬したルミノークスはフロースに対して嫌がらせを行い、それがばれて学園に来れなくなり行方不明となる。暫くたった後に、ルミノークスは学園へと現れる。暴走した闇の大精霊と共に。闇の大精霊をルミノークスが自分自身の体に取り込み、学園の皆を襲っているのだ。フロースは仲間と何とか鎮圧する、しかし、闇の大精霊はルミノークスから離れていかない。ルミノークスは「自分事殺して」と言って、フロースは彼女の願いを聞きいれて、闇の大精霊とルミノークスは消滅する。

話し終えて、アウローラはその物語の悲惨さを痛感した。これは本人たちに言うべき物語ではない、だが、知らなければ対処のしようがない。だから話したのだが、皆一様にして息を呑んでいた。それはそうである。

レウィスの名前は出していないが、聡い彼はアウローラを殺したのが自分だということに気が付いたようで、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、ルミノークスはというと言葉を失っている。


「それがあり得た未来。あり得る未来の話なのか?」


沈黙を破ったアウィスが愕然とした表情でこちらを見てくるが、アウローラは頷くしかない。すると、アウィスは小さく首を振って背凭れに深く沈みこむ。


「この私が傍にいるというのに、そのような解決法しか思いつかないとは・・・阿呆か、その未来の私は」

「でも、その物語では時間がなかったからそれしか解決が―」

『そう言うことではないんだよ、アウローラ』


ロサが苦々しい表情のまま口を挟む。どういうことなのかと、アウローラが首を傾げるとロサは尋ねて来た。


『物語はそこで終わり?その後の事は何も書いていない?』

「え、あ、一応世界は平和になりましたで終わりよ。その後の話もあるみたいだけれど、ごめんなさい。それを知る前に私は死んでしまったから」

『それはすまないことを聞いたね。ごめん』

「いえ、いいの。それで?どうして?」

『アウローラ、ここにいる全員に言うけどねぇ。大精霊は寿命が来て代替わりを行う前に殺してはならないんだよ。消滅させてはならないのさ』


メンシスが煙草の煙を吐き出す。パチパチと何かが爆ぜている音が聞こえて、ゆっくりと窓の外に揺らめいて消えていく。


『大精霊が消滅すっと人間が大量に死ぬんだよ。大精霊を作るためになァ』


誰もが、言葉を失う。フェーリークが続けて説明をした。


『大精霊はこの世界の一部であり、この体は高純度の魔力体で、この世界を構成する柱。1つでも欠けるとこの世界はバランスを失う。失った大精霊の属性が統率を失い、属性の波ができてしまう。すると、この世界の全てに悪影響が起きるわ。それを止めるために、もし大精霊が消滅した場合、生を司る母なる大精霊マーテル様が闇の大精霊の記録を元に再構成するの。でも、一度消滅した者を再構成するには、魔力が必要。しかも大精霊は高純度の魔力だから、この世界の植物とか魔鉱石をかき集めても足りるかどうか分からないほど。だから、繁殖力の高くこの世界に生きている自然の中で最も多い種である人間を魔力に戻して大精霊を作るのよ』

「そんな・・・そんなことが赦されるのですの・・・?」


ルミノークスの小さな声にフェーリークは緩やかに首を横に振った。


『赦す、赦されないのベクトルじゃないのよ。ルミノークス。これは、母なる大精霊マーテルと父なる大精霊パテルが決める事。あの方たちはこの世界に生きる全てを愛しているけれど、最も愛しているのはこの世界。この世界を維持するためには、最も合理的な解決を選ぶの』


フロースが小さく「そんな」と呟く。アウローラとしては驚いたのだが、何となく察していた。自分が思っていたよりもかなり重い内容だったが。ふいに黙っているアウローラにアウィスが「驚かないのだな」と言葉を投げかけて来た。そのように見えたのかと少し心外だったのだが、アウローラは頷く。


「えぇまぁね。ある程度は驚いたけれど・・・先日、聖女の記録を再び目を通したのよ。そして、数回大精霊が暴走した記録があったわ。聖女が他の大精霊とそれを鎮静化した後、歴史書を見ると“流行病”と称して人口が激変する記録があった。それが数回続けば、偶然だと思えないわ」

「・・・その話は俺も記録を目にしたことがある。“流行病”の名称は記載されていなかったけれど、首筋に赤い紋章が現れると数日後糸が切れた人形のように動かなくなり、遺体が消失するというものだ」


ノヴァがこめかみに指をあてて記憶を探りながら言う。王族の歴史書の中にあるということは、これは誰かが誇張した記録でも思い描いた空想の記録でもない事実である。


「ちなみの赤い紋章というのは母なる大精霊マーテルが触れた証、赤は高濃度の魔力の色だから。火の属性の魔力の赤はオレンジがかった朱だが、高濃度の魔力の赤は真紅。鮮やかな赤だ」

「僕の目みたいな?」


インベルの質問にアウィスが頷く。


「君の瞳も高濃度の魔力に触れたことによりその目に魔力がたまって真紅に見える。さて、話を戻すが、大精霊を再構成するには恐らく半年はかかる。その間は残りの大精霊で何とか支えるが、それもって1年持つかどうかといったところだ。全く、その物語の私は愚かだな。他に策を考える暇がなかったのかもしれんが、手に掛けるなどと・・・」

『こんなに条件が揃っていればもしかしたら考えてしまうかもよ?』

「条件ってなんだ?」


ロサの発言にクラースが首を傾げた。すると、何かを考え付いたのかレウィスが顔を上げてルミノークスに「少し離れてもいいっすか?」と尋ねて、ルミノークスは首を傾げながら「いいですわよ?」と答える。レウィスは頷いてから、同じく考えごとに耽っているインベルの元へと駆け寄った。そして、2人で何やら話し込んでいる。ちらりとそれにロサが視線を向けたが、すぐにクラースへと視線を戻した。


『大精霊を殺せる条件は3つある。1つ目は実体があること。今のアウィスみたいに肉体を構成してもいいし誰かの体に入ってもいい。2つ目は聖女と大精霊がいること。大精霊は聖女と大精霊にしか倒せない。3つ目は反対属性のエリアにいること。反対属性の場所にいると力が半減するからね』

「それは面白いくらいに条件が揃っているわねぇ。まるでお膳立てされてる・・・まって、それ、もしかして」

「多分それ、誰かがそうなるように仕立て上げたと考えるのが妥当だね」


不意にインベルがそう発言する。

誰かがあのエンディングになるように仕立て上げたという彼の言葉にアウローラは目を見開く。思えば、自分はあのエンディングはゲームのエンディングであり、シナリオライターが決めたものであると思いこんでいた。しかし、今ここは現実、よくよく考えてみれば条件を考えると誰かがそう仕立て上げなければあのエンディングにならないだろう。

何故、あのエンディングが良かったのか、考えられる答えは一つだけ。


「学園の混乱とか聖女を殺すとかではなく闇の大精霊を殺すのが目的だった?」

「そうだけど、そうじゃないっすよ。アウローラ様」


アウローラがどういうことだと首を傾げてレウィスを見た。


「まずアウローラ様に聞くっすけど、その物語の中でアウローラ様を殺したのは俺っすよね?」


頷いて肯定するとレウィスは「あ」と声を上げて、手をぶんぶんと横に振る。


「今の俺はアウローラ様を襲おうとか全然考えたないっすよ!つか、俺がそんなことをする可能性があるっつーことが申し訳ないというか、俺がここにいていいのかとか、めちゃくちゃ自問自答なんすけど・・・」

「うん、大丈夫。レウィスはそんなことをしないって言うの分かっているし、今ここにいる君と、物語の彼は別人だから。私は気にしていないし」

「・・・どもっす」


ここにいる全員もアウローラと同じ気持ちだろう。物語の彼と今ここにいる彼は別人であり、ここにいる彼は大切な友人だ。それは、ルミノークスにも言えることだ。ルミノークスの肩にフロースが触れて、微笑む。先程の話を聞いて緊張していた彼女の顔が僅かに明るくなり、フロースの手に触れて小さく微笑んだ。

レウィスが悲し気な表情を浮かべて軽く頭を下げてから咳払いをする。


「恐らく犯人は、聖女を殺すのは第一の目的だと思うっす。犯人にとって聖女同士が仲たがいしているのは好都合。そのために、聖女二人の橋渡し役になりうるアウローラ様の排除をしたと考えるのが妥当かと。でも、そう考えると、何故学園に魔物を大量にけしかけたのか理由が分からないっすよね」

「確かにそうですね・・・でも、それはアウローラ様の死後警備が厚くなったから強行手段に出たという事では?」

「フロース様の言う通りなんすけど、正直それはあまりにもリスクが高すぎるっす。誰にも知られず、誰にも悟られず、魔物を光の国近辺まで侵攻させ、操るとなると見つかる確率の方が高い。魔法関係は俺さっぱりなんで、インベル様に考えてもらったんすけど、これはどう考えても一人では無理な芸当らしいっす」

「うん。この国の周辺には聖女誕生以降騎士団の遊撃隊が巡回を行っているんだ。報告書は僕と兄さんも目を通しているからわかる。騎士団には宮廷魔法士が創った魔力探知機も導入している。そして、この魔力探知機は半径10kmまで感知できるんだ。魔物の集団を集めるとしたら圏外に居なければならない。アウローラの話だと、犯人は国内にいるんだよね?」

「えぇそのはずよ。犯人は最終的に逃亡したけれど、その人は聖女の動向をずっと監視していたと表現されていたわ」


ゲームにおいて時間の流れは速い。一気に数日飛ぶこともあった。しかし、フロースが何か手掛かりを得る度に犯人のモノローグが入るので、フロース達の事はしっかりと見ていたということは分かる。それに、弟がぽろっと口に出していたことがある。

“犯人は意外な人で、登場人物の中にいるんだよ”

そう言った彼に「ネタバレするな」と頭を叩いたが、彼は痛いと頭を摩りながら笑って舌を出して部屋に戻っていったことを思い出す。生前も今も、彼の存在と言葉に助けられていると感じながら、他に思い出せることは無いかと記憶を引きだすが、他に有益な情報は思い出されない。


「なぁ、おかしくねぇか?」


クラースの言葉に全員が彼に注目する。


「国外って道とか舗装されてないんだろ?殆ど移動は古代魔法の転移だし。そんな中、聖女の監視をして魔物の準備をしてってできるのか?だって、変な魔力反応があれば遊撃部隊が探知機で分かるんだろ?」


彼の言葉はごもっともである。もし徒歩で移動した場合、国外を頻繁に往復するとなれば門番も不審に思うだろう。商人も陸路を使う場合もあるが、古代の遺物である転移魔法を使うのが一般的だ。そうすると食べ物は鮮度が落ちなくて済むし、転移魔法の使用代はかかるが傭兵代よりもずっと安い。陸を使うのは、魔物討伐を行う騎士団か素材などを集める傭兵かこの世界を旅する旅人くらいなものだ。

空でも飛べればいいかもしれないが、それならもっと目立つだろう。昼にせよ夜にせよ、城下町は防御魔法を張っているために空中から出るとなると宮廷魔法士が流石に気付くはずだ。

ならば、考えうることは一つだけ。


「犯人が2人いる?」

「そう考えるのが妥当かと思うよ」


インベルとレウィスも同じ考えに至ったようで頷いた。

「んーっと」とウェリタスが頬に手を当てる。


「犯人の1人は、聖女を殺したい。もう1人は闇の大精霊を殺したいってことね。これは別々に行動していると考えるより、お互いがお互いを利用していると考えるのが妥当ね」

「何故、そう言い切れるのですの?」

「まぁアタシの予測では、利用されているのは聖女を殺したい方だけれどね。根拠はね、アウローラちゃんが言った事件の順番よ」

「順番ですの?」

「えぇ。暗殺って失敗したからと言って諦めたり、強行手段に出たりしないの。もう一度作戦を練って、機会をうかがって実行する。それを繰り返すのよ。色々方法を変えてね。だけれど、この犯人は、1度目は聖女を対象にしたけれど、2度目はアウローラちゃんを対象にした。そして、聖女の暗殺をしないで強行手段に移行した。これは同一人物が作戦を練ったって思えないわ。それにね」


ウェリタスは、悲し気に目を伏せて右腕を摩る。


「暗殺は執行した人物が同士討ちだろうか何だろうが自らの死体を残さないの。仲間が回収したりするのよ。死体は情報の塊、だから死体の回収は鉄則。話を聞いた犯人像、綿密に計画を練る様な人物であると考えると、アタシが考え付いた筋書きはこうね」


彼は腕を摩るのをやめて、顔を上げた。


「1度暗殺に失敗した聖女を殺したい犯人、仮に犯人1、もう一人を犯人2というけれど、犯人1は犯人2にもう一度暗殺をするように言う。それはアウローラが死んだことによって成功したけれど、刺し違えて暗殺に使った人物は死亡。恐らくここの暗殺に使った人物は、お茶会の事件のように操れていた。なので魔法を使っていた犯人1は死体の回収を犯人2に頼む。犯人2はあえてその死体を回収せずに、学園を騒ぎ立てる。犯人1はそれに怒るわよね。せっかく綿密に練った計画が台無しだ!って。すると犯人2はこういう、ならこちらに少し任せてくれないか。その間に計画を再度練り直してくれ。犯人1はそれを承諾。犯人2は魔物の襲撃を行い、学園が立て直しをしている最中に犯人1はルミノークスちゃんに接触、彼女の心を逆なでして闇の大精霊を取り込ませて、計画は最終段階へってところかしら?」

「つまり、犯人2は犯人1の計画に自分の目的も達成させるように仕込んだと?」

「それで犯人の片方は自由に動ける人物、もう1人は学園の関係者ってところね」


さらっと犯人の予測もたててみると、ルミノークスが驚きの声を上げた。


「凄い!そこまでわかってしまうんですの?」

『へえ、名探偵みたいだねぇ』


ルミノークスの称賛とメンシスのからかったような言葉に彼は笑いながら「憶測だけれどね」と呟く。しかし、とアウローラは顎に手を当てる。

理由が分からないが、すとんと腑に落ちたのである。

ゲーム内で犯人が2人いることは言及されていないが、1人だけいるとは語られていないし、少しだけ見た続編の内容では今回の犯人を含めて敵は多かった。正確な数字は覚えていないが、今回の事件に続編の敵が関わっていないという保証はない。しかし、それにしてもだ。なぜ犯人2は闇の大精霊を殺したがっているのだろうか。

いいや、きっとそれは先程大精霊が言った通りなのだ。


「闇の大精霊を消滅させて、世界のバランスを崩すのが犯人2の目的?」

「まぁ恐らくはそうだろうな。そして、その目的を一番とする存在を我々は知っている」


アウィスがちらりとミールスを見た。彼女は今まで皆の会話に口を挟まずに沈黙を貫いている。彼は彼女を一瞥しただけで、何も声を掛けない。その視線に気が付いたのかミールスが顔を上げて、小さくため息をついた後に口を開く。


「“厄災”」


思わぬ人物からその存在の名を言われて、アウローラは目を見開き彼女を見た。アウローラの視線から彼女は顔を逸らして、続ける。


「恐らく“厄災”が手を貸していると・・・思われます」

「ちょっと待ってください。なぜ、彼女が“厄災”の存在を?」


フロースの言葉にミールスは押し黙る。重い沈黙を破ったのは、意外にもルシオラだった。


『そろそろ頃合いなんじゃねぇの?別に黙っててもいいことねぇし。それに、おめぇ悪いことしてねぇだろ』

「そう・・・ですね。うん、そうかもしれない」


すっと、ミールスのいつも閉じられていた瞼が上がる。そこに在った瞳は、アウィスと同じ黄金の瞳。夜を照らす月の様な美しい瞳だった。それと同時に、アウローラ達はミールスの体からにじみ出る強い光の魔力に息を呑む。瞳が閉じられている間は気付くことがなかったその力。それは、明らかに常人のそれではなく、アウィスから感じる気配とほとんど同じ物だった。

ミールスは恭しくスカートの裾を持ち上げてにっこりと微笑む。いつもの無邪気な微笑ではない、やけに達観したようなどこか遠い存在を思わせるような微笑み。


「では改めまして。皆様方。私は元光の大精霊。初代聖女の案内役を勤めさせて頂きました。そして、初代聖女様と初代聖騎士様よりいずれ来る再びの“厄災”との戦いにおいて、アウローラお嬢様、貴女へ力を貸すようにお願いされてここにおります」


優雅な微笑を浮かべて、彼女は言う。ただその微笑はどこか、まだ言いたくなかったとそんな思いが微かに見えた。なぜ言いたくなかったのか、それはアウローラにはよくわかっていた。彼女も、恐らく自分と同じだったのだろう。

語って嫌われるのが怖い。

だが、覚悟を決めたミールスは、重い口を開いたのだった。





私は今日一人で木に登って足をぶらぶらとさせている。視線の先には、アウローラ達がこれから学園生活をおくる場所であり、日々を過ごす場所だ。寮という場所らしいが、私としてはその場所に興味は全くない。というより、赤の他人と一緒に共同生活をおくるなんて気持ち悪いにも程があるというものだ。

だが、友人というものは興味がある。語らって笑うというのはどんな気持ちなのだろうか。もし、アウローラに直接あったならば、幸せそうに笑う彼女に理由を尋ねたいものだ。

もう一つ、尋ねたいこともあるけれど。

どうして、あんなことをしたのに笑えるの?と。

アウローラの過去に目を通したが、なんて気持ち悪い人生を送ったのだろかと称賛の拍手を思わず送ってしまったほどだ。あぁ、他人の為に生きるなんて気持ち悪い偽善だ。自分の人生なのだから、自分の好きなように行けばよかったのに。全てを放って。

さて、なんで私がここにいるのかというと、別にあいつが捕まらなかったとか一人でいたいとかそういうことではなく、アウローラの姿を確認するためだ。

彼女の行動は監視して報告せよとのお達しだ。かなり危険視しなければいけない人物らしい。本来ならば会話も聞いた方がいいのだが、この距離から会話を盗聴するような芸当は私にはできない。

私としては、別段彼女等がどんな予測を立ててどんな行動をしようが興味ないしどうでもいい。私には目的があるが、それに対する意欲などない。そんな私から見ればとある恨みから聖女を殺すと意気込んでいるアイツがとても羨ましい。私もあのように、闇の大精霊を殺すと意気込めればいいのだが。

あの人が連れて来て利用できるからと一緒に組んではいるが、正直言ってあの聖女殺すマンは苦手だ。あの人の参加だというのに、私欲の方が勝っているし、私の計画と逆の事を考えている。

聖女を殺すというのはまぁ相手が人間だから簡単だ。だけれど、聖女は殺してもまた誕生する。あの忌まわしい女の裁量でポンだ。だから闇の大精霊を殺して順番に事を進めた方が確実だというのに。闇の大精霊の事をアイツはまだ“あの女性”として見てしまっているのだろう。

あぁ全く、これだから人間は嫌いなのだ。

取り敢えず泳がせて、いいタイミングで目的をすり替えてしまおう。


「あはっそれいいかも!」


目的をすり替えるというのは何とも面白い考えだろうか。いいや、例えば目的を同時に達成できるように仕向けるのはどうだろうか。どちらかの聖女に闇の大精霊を取り込ませるように仕向けて。


「あ、でもこれ無理だなぁ」


現状2人の聖女はべったりだし、周囲に手練れや危険人物であるアウローラが傍に控えている。すると、誘拐するのも一苦労であるし返り討ちにされる可能性の方が高い。アイツより私の方が戦闘面で勝ってはいるけれど、恐らく私単体では負けるのが目に見えている。

ならばどうすればいいのか。唸りながら考えて、ふっと声が出る。


「じゃあアウローラを殺すしかないかぁ」


まぁそれが一番手っ取り早い。アウローラの友人達はアウローラを心の頼りにしている節があるから、殺した方が統率を失っていいかもしれない。だとしたら、暗殺か大々的に殺すか。

アイツに相談しようと思いいたるが、一つ二つアイデアを考えてから言わないと、何処か憐みの視線をアイツは向けてくる。出来の悪い子を見るような笑みは大嫌いだ。私の見た目は幼いが、アイツよりは遥かに年上だというのに。


「うーん・・・暗殺、魔物をけしかけて襲撃・・・いっそのことどっちもやるとか?だったらどっちが先がいいかなぁ?襲撃起こして、弱らせてからブスリ?うーん・・・私的には一気にどばって殺そうとした方がずっと好みなんだよねぇ。アイツみたいにこそこそネチネチやるよりさ」


一応バディを組んでいることだし、相談を使用と木から飛び降りて着地する。アウローラ達はまだ会話をしている様だ。その時、ふと部屋の奥にいる従者の女に視線が行く。その瞳は金色。強い光の気配が同時に感じられた。


「・・・」


チリリと肌が焼けつくような感じがして、首を傾げる。いいや、今はそれどころではない。

まず、アイツに計画を練って貰わないと。


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