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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-39話「恋と贈り物」

入場は皆と一緒だったのだが、挨拶回りは各家単位でするため一旦別れた。アウローラは両親と兄、そしてアウィスと共に挨拶をしに行き、アウィスのことも少し話して順々に回っていく。挨拶が終わると、会場では音楽が流されてダンスの時間へと移行していく。最初に踊るのは当然だが婚約者であるクラースだった。彼とのダンスが終われば、レウィスは巡回がある野で出来ないが、いつもの皆とダンスをした。アウィスとも踊ったのだが、驚くべきことに彼は完璧に踊れているのだ。大精霊なので、ダンスやらは縁のない者であり、屋敷の中でも練習をしている様子がなかったためのアウローラはかなり驚いた。そのことを尋ねると、何やら触れてほしくなさそうに曖昧に返事をするばかりだった。

さて、流石に全員とダンスをするのは疲れてしまい、声を掛けられては断りを繰り返してバルコニーのある窓辺に背中を預けて会場を見渡した。

フロースとルミノークスは周囲の男性達に寄られて困り果てているようで、それをアウィスやウェリタスが何やら助け舟を出している。ノヴァとインベルはフロース達の傍にいるが、どうやら大人たちの相手をしている様だ。流石に自分が何もしていないのはやばいのではと思い、壁から離れようとするとグラスを持ったクラースが人混みをうまい具合によけながらアウローラの所へやって来た。

ブドウの香りがする炭酸の飲み物が注がれたグラスを差し出され、受け取る。


「ありがとう」


正直助かった。疲れているために甘いものが欲しかったし、喉も乾いていた。アルコールの入っていないシャンパンを一気に煽ろうとしたが、流石にそれははしたないと自重してゆっくり飲み込む。


「疲れただろ?少し休んでろ」


クラースの言葉にアウローラは首を振って笑う。


「明日聖騎士任命される人が聖女の隣にいないなんておかしいでしょ」

「・・・レウィス!」


クラースが軽く手を上げて、会場の壁際を歩きながら巡回しているレウィスを呼んだ。すると彼は周囲を警戒しながら小走りで2人の元へとすぐにやって来た。


「何すか?」


首を傾げるレウィスに、クラースが親指でグイっとアウローラを指さした。


「こいつと一緒にここにいてくれないか?」

「え?まぁいいっすけど」

「何でよ」


不思議そうに頷くレウィスとは違いすぐさまアウローラが眉を顰めながらクラースに詰め寄る。するとクラースはため息をついて、アウローラの頭をポンと叩く。


「結構疲労感がにじみ出てるぜ。こういう時は俺達を頼りな」

「でも・・・」

「別に誰も咎めはしねぇよ。明日もあるし。フロースとルミノークスの周りに適当に言ってここに連れてくるから待っていてくれ」


クラースの言葉に頷くしかなかった。正直、戦闘の時とは違った疲れがあるのだ。クラースは「よし」と言って笑顔を浮かべる。


「レウィス。くれぐれもこいつを休ませておけよ」

「了解っす」


敬礼をするレウィスを横目に、クラースもルミノークスとフロースへ助け舟を出すために歩いて行った。

ちびちびと飲み物を飲みながらふぅっと息を吐く。すると、レウィスは何かを思いついたように「ちょっと失礼します」といってトコトコと何処かへ出かけると、すぐに戻って来た。その手には可愛らしいデコレーションがされたケーキが乗っている皿があった。それをアウローラの前に出すと、笑顔で「どうぞ」と明るく言ってくる。アウローラはくすりと笑いながら「ありがとう」とそのケーキを受け取った。

生クリームを口の中に入れると、甘くてほっと一息ついた。すると、レウィスが会場を見渡しながら呟く。


「パーティーとか初めてきたっすけど、やっぱり華やかっすね」


確かに今日のパーティは一段と華やかだ。王族の前であるし、何より年頃の女の子は婚約者のいないノヴァ達にお近づきになろうとしているし、男の子はフロース達に見てもらえるように、皆が皆気合の入った服装をしている。騒がしいのは嫌いではないが、どうも顔色をうかがうこの空間は落ち着かない。


「そうね。でも、正直肩がこるわ」


思わずぽつりと呟いてしまう。はっとしてレウィスを見ると、案の定目を丸くしていた。慌てて取り繕う。


「こういうパーティーは今世になってからだから。前世ではこういうことなかったし」


苦笑いを浮かべながら言うと、レウィスが首を傾げた。


「そうなんすか?なんというか、アウローラ様気品が凄いから、こういう華やかなもの慣れているのかと」


彼はそんなことを思っていたのかと思わず口を開けたまま黙ってしまう。するとアウローラの触れてはいけないことに触れてしまったのではとレウィスが慌てて、あわあわと手を彷徨ませる。その様子がおかしくて思わず吹き出すと、レウィスの動きが止まり笑いながら頬を掻いた。


「あ、ううん。違うの。ごめんね」

「すみません」

「そんな風に想ってくれているなんて思わなかった。でもね、そんな素晴らしい人じゃないのよ私。前世の話聞いたらきっと幻滅するから」


カチャリとケーキをフォークですくう。バランスを崩したケーキが静かに崩れ、横に倒れた。


「いいえ。アウローラ様は素晴らしい人っす」


気を遣ってくれているのかとレウィスを見ると、彼は真っ直ぐにアウローラの目を見つめた。


「俺は、前世でどんなことをしてようが、今ここにいるアウローラ様に救われたのは事実ですし。なので、これから先何があってもアウローラ様の味方ですし、絶対に幻滅したりしないっすから。もしアウローラ様から離れるようなことや裏切る様な事したら、遠慮なくぶっ飛ばしてくださいっす」

「・・・ありがとう」

「アウローラ様は俺達を助けてくれた恩人なんすから」


にっと笑うレウィスを見ていると今にも泣きだしそうになってしまって、ふいっと視線をケーキへと向けた。すると彼はルミノークスを遠くに見つめながら、アウローラだけに聞こえる声で言う。


「正直、あの日アウローラ様がいなくて、ワポルがぶっ倒れたままだったら、きっと俺は犯人とセレーニーティ男爵家を怨んでいたかもしれないっす」


思わぬ言葉に彼を見ると、苦笑いを浮かべていた。


「こんなこと言っちゃあだめなんでしょうけど」


彼がルミノークスを見る目は優しい。しかしそれは、何かを漕がれているような表情にも見えて、アウローラははっとした。


「俺達が道を踏み外さずに、ルミノークス様を守れる力を付けることができたのは、アウローラ様のお陰なんすよ」

「・・・レウィス、君、もしかして―」


アウローラが言いかけると、彼はアウローラの口に人差し指を近づけて、悲しげに笑う。


「・・・それ以上は、すみませんっす」


アウローラは「そう」とだけ呟いて、まだ何やらかかりそうなルミノークス達を見つめた。レウィスは恐らく、ルミノークスの事が好きなのだ。だけれど、平民であるレウィスは自分は釣り合わないと思っているのだろう。そんなことは無いと思うのだが、ここは前世の世界とは違って貴族という階級がある。恋愛感情だけで、どうにかなるような世界ではない。


「俺は、あの人が笑って過ごせれればいいんす。ただ隣で、あの笑顔を守れたらいいんすよ」

「―そう。でも、何かあったら言ってね。力になるから」

「お気持ちだけ、頂いておくっすよ。あ、お皿おいてくるっす」


空になったケーキの皿を見てレウィスは手を差し出しだ。ありがたくお願いしようとアウローラは笑顔を浮かべて皿を渡す。


「ごめんありがとう。あ、少し私バルコニーに行ってもいい?」

「いいっすよ。俺は皿を片付けたらここに戻ってくるんで、何かあれば言ってくださいっす」


アウローラは頷いて、去っていくレウィスに手を振ってから窓のノブに手をかけた。

ホールから窓の外に出ると、冷たい空気が頬を撫でる。人が多いというのも疲れるが、これは嫌な疲れではなかった。楽しいと心の底から思っているが、ただ、自分が楽しい思いをするごとに、ここの中にしこりの様な物を感じる。前世への罪悪感からなのか、それとも別の物なのかは自分でもよくわからない。


「少し風が冷たいな」


後ろから声を掛けられて、振り返る。そこに立っていたのは疲れ切った表情のクラースだった。彼は見目がいいために、数多の令嬢から声を掛けられていた。彼目当てというのもあるだろうが、彼は将来有望な人物で気さくな人柄のためただお近づきになりたいと思っている人も多いようだ。

彼の表情を見て、アウローラはくすっと笑う。クラースは一瞬驚いた様な表情を見せたが、すぐに笑いながら「何だよ」と言いながらアウローラの隣に立つ。


「いいえ。てっきりクラースはこういう場得意だと思ってたから。疲れているの意外だなって」

「まぁ、別段苦ではないけれどな。いろんな人からの話を聞けるのは楽しいし。だけどなー質問攻めはちょっとな。それで」


クラースが室内を親指で指す。そちらの方に目を向けると、ウェリタスが素敵な笑みで令嬢たちを悩殺している姿が見えた。隣に立っているアウィスも、今まで見たことがない甘い笑顔で男女問わず相手にしていた。


「あいつ等に任せて来た」

「ノヴァ達より目立ってない?あの子達」

「言えてる。ちらっとノヴァ達と話したら、ウェリタスとアウィスが相手をしてくれて助かってるって言ってたぜ」

「あー・・・ノヴァ達も人気だからね。分散されていいのか」


他愛もない話をしているのだが、どうも彼の様子がおかしい。どこかそわそわしているような感じだ。もしかして、フロースを探しているのではないかとアウローラはニヤつく。確かに今日のフロースも可愛かったし、ルミノークスに至っては美しかった。現れたとたん会場が小さく歓声を上げたほどだ。ずっとアウローラが彼女等の傍にいたから、てっきり一緒にバルコニーにいrと思ったのだな。きっとダンスに誘いに来たに違いないとアウローラは何度も頷き。「ねぇ」っとクラースの袖を強く引っ張る。


「誰を探しているの?フロース?ルミノークス?2人なら中に―」

「はぁ?なんであの2人の名前が出てくるんだよ」


全く持って意味が分からないという表情を浮かべる彼を見て、おや、とアウローラは首を傾げる。なら一体どうしてそわそわしているのだろうかと考えるが、答えは一向に思い浮かばない。首を捻りながら考え込んでいる彼女に対し、クラースはため息をついて、周囲をもう一度見た。

いつもアウローラと共に居るときは誰かしら邪魔をして来たり、タイミングが悪かったりする。今日はその心配がないようだ。窓から近い位置で人を止めているウェリタスに感謝をしながらクラースは咳払いして、背筋伸ばした。彼の咳払いに驚いたアウローラは目を見開いてこてんと首を傾げる。

可愛い、抱きしめたいという衝動を抑えてジャケットのポケットから手のひらほどの小箱を取り出した。


「・・・聖騎士祝いと、誕生日プレゼントだ」


言葉の途中で照れてしまい、そっぽを向きながらクラースはぶっきらぼうに言った。ふっと手のひらから小箱の重みが消えて、アウローラの方を見た。彼女の表情は嬉しそうというよりも、ただただ純粋に驚いているようだった。まるで初めてこのような箱を見た子供の様に底を見て、何度か両手で触れて、目を瞬かせる。そして小箱とクラースの顔を何度か見て、小さく笑う。


「開けてもいい?」

「もちろん」


アウローラはそっと小箱を開く。前世で言うところの指輪が入っているような高級感あふれるその小箱を開くと、そこには金細工で造られた髪留めが入っていた。髪留めの紋章はプラティヌム伯爵家とアルゲント伯爵家の物であり、周囲には、赤、青、黄、緑の魔鉱石よりも輝きが強い石がはめ込まれていた。その石は、見覚えがあった。


「精霊から貰った結晶。あれ、アウローラそのまま持ち歩いているだろ?髪留めにしたら、普段にも使えるし、いいかなと思って・・・その、大精霊達に加工を手伝ってもらって、はめ込んだんだ」


朝、大精霊達が石を回収して言ったのはこういうことだったのかと腑に落ちる。

月の光に照らされた髪留めは、自らが発行しているように輝いて見える。

ただただ、嬉しかった。これからもし、クラースがフロースを好きになって、離れていってしまっても、きっとこれだけでこれからも頑張っていけるかの知れないとすら思った。嬉しくなって、なぜか、悲しくなって、入り混じった感情で顔がだんだん赤くなっていく。何か不満があったのだろうか、と不安になったクラースが「アウローラ?」と呼びながら、彼女の前髪に触れた。すると、アウローラは突如として小箱を右手に持ち替え左手でクラースの目元を勢いよく覆った。


「は?何すんだよ!?」


クラースが抗議の声を上げるが、アウローラは「ダメ!見ないで!」と声を張り上げる。一体何事かとクラースはアウローラの手を無理矢理引っぺがして、グイっと腕を退かす。そしてアウローラの表情を見て固まってしまった。

彼女は顔を真っ赤に染めながら、今にも泣きだしそうな表情でそこに立っていたのだ。彼女は小箱を持った手で顔を隠して、蚊の鳴く様な声で言う。


「今、嬉しくて、変な顔になってるから、見ないでよ・・・」


今までどんな言葉を言っても何も聞き流してた、反応の薄かった彼女がこのように照れているのを初めてクラースは見た。存外好感触な反応に悪戯心が湧き上がってきて、アウローラの頬に触れて悪戯っぽく笑う。


「やーだ」

「・・・ぶっ飛ばすわよ」


じろりとアウローラはクラースを睨み付ける。しかしすぐに、2人は吹き出して笑ってしまう。クラースと額が付きそうなくらい近くで笑い合っても、嫌ではなかった、むしろ心地よかった。「つかよ」と言いながらクラースはアウローラの頬からするりと手をどけて、腕を掴んでいた手で空いている右手を遊びだした。少しだけ、くすぐったい。


「一回人生体験してるんだろ?ならこういうこともあったんじゃないか?」

「うるさいわね、無いわよそんな経験。こういうもの貰ったの初めてよ。忙しかったし」

「そうか」


沈黙が流れる。照れるから何か言ってくれよとアウローラがちらりとクラースを見ると、彼は真剣な表情で姿勢を正した。なぜか、とても逃げたしたくなってちらりと会場内へと視線を移した直後「アウローラ」と名前を呼ばれてクラースの方へと再び顔を向けた。


「お前は、婚約者という責任を押し付けたといったな」

「・・・うん」


それは事実である。ゲーム内においてクラースはフロースと恋人になるルートがある。もし、今回恋人同士になれなくても彼女を優先するには婚約者という存在は邪魔になってしまう。彼がフロースの事を本当に心から愛するのだとしたら、アウローラとしては円満的に婚約破棄をするつもりでもある。


「俺は、婚約をそんな風に考えたことがない」


想いもしなかった言葉に、アウローラは恐る恐る顔を上げる。しっかりと、クラースと目が合った。


「俺は、婚約とか、そういうの抜きで、アウローラの事が―」

「おぉっと!2人ともここにいたのかぁ!!いやぁ、探したよ!」


声と共に窓が勢いよく開かれて現れたのはノヴァ達全員だった。

あからさまに嫌そうな顔をしているクラースが、ちらりと後ろにいるレウィスとインベルを見ると、彼等は両手で拝み手を作りながら頭を下げている。

アウローラへとフロースが抱き着いてきて、彼女は笑顔でそれを抱き留める。そのままクラースの方へと背中を向けた。「えへへ」と笑うフロースはアウローラの表情を見て、どきりとした。今まで見たことのない、泣き出しそうな、それでいて嬉しそうな、そんな表情で頬を赤らめされているのだ。

面白くなくて、抱き着いた腕に力が込められる。フロースの様子にアウローラは首を傾げて問いかけようとしたとき、フロースの体がべりっというようにアウローラの体から離された。フロースを引き剥がしたのはルミノークスで、いつもとは立場が逆転したように彼女は腰に手を当ててフロースに指を向ける。


「もうフロース!バルコニーとはいえ、ここは公衆の面前でしてよ。落ち着いてくださいな」

「相変わらずルミノークスはマナーに厳しいですよね・・・」

「淑女たるものマナーはしっかりいたしませんと」

「あーはいはい。分かりましたよ。少し落ち着きますよ」


すごすごとフロースはアウローラから距離を取る。すると、ルミノークスのお小言が始まってしまった。フロースは半分聞き流してるような態度だが、彼女は構わず続けている。横目でちらりとクラースの方へと視線を向けると、何やらノヴァとクラースが睨み合って何やら言い合っている。それをインベルとウェリタスが仲介しようとしているが、止まる気配はない。

窓の近くで面白いものを見るような目で壁に凭れ掛かっているアウィスと呆れながら笑っているレウィスの元へとアウローラは歩いて行き、同じように彼等を見守る。


「何か一気に騒がしくなったっすね」

「そうねぇ。ここにいる殆どが権力者と思えないくらい」

「全くだ」

「でも、これが私達って感じね。悪くはないわ」


アウィスとレウィスが頷く。面白くなってそのまま三人で笑っていると、仲介を諦めていたインベルとウェリタスが「どうしたの」と近づいてきて、徐々にアウローラの元へと皆が集まる。


―私は、個の皆が笑って過ごせる未来を掴みたいのだ


改めて、アウローラはそう思い、背の華やかな光に負けずと輝く、満天の星と月を見上げた。




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