第1部-35話「王城の夜、君の事」
―少し前、深夜、王城にて。
皆が寝静まった夜。といっても王城には騎士が巡回しているため、時折足音は聞こえてくる。
とはいえ、他の人々はもうすでに寝静まっており、開け放たれた窓の闇の向こうから人の声など聞こえてこない。恐らく、今宵王城関係者の私室が並んだこの階にて明かりがついているのはこの部屋、インベルの私室のみであろう。光の魔法を応用した魔法具により、僅かにオレンジかかったライトに照らされた部屋にはインベルの他にもう1人、アウィスの姿があった。
インベルは自分の机に向かい本を読んでいる。アウィスも同様に、いつもインベルが窓辺で本を読んでいる椅子で、真剣な面むちで書類を目で追っている。
静かな部屋に紙の捲る音のみが響き渡り、もうすでに何時間も経過している。ふいにアウィスは書類から目を離さずに口を開く。
「・・・すまないな。夜だというのに付き合ってもらって」
彼がそのような言葉を口にするとは思わなかったのだろうか。インベルはきょとんとした顔で顔を上げてアウィスを見てから、ふっと笑う。
「いや、いいよ。友人の頼みを断ったら罰が当たる」
「助かる。1人で調べるには、このような肉体だと限度がある」
アウィスは書類から視線を外して、忌々しい物でも見るかのような視線で自身の手を見つめた。
このように2人で会うというのは別段珍しいことではない。最初アウィスがインベルの眼に興味を引かれ、さらに様々な記録や本の内容を記憶しているインベルに彼が質問をしてくるようになり、時折図書館で会ったり、王城の書物を見させてくれと頼まれた際は自分の私室に案内している。これほど夜までかかることは、珍しいのだが。
その時も時折今の様に自分自身の体を忌々しい物の様にして見つめることがある。アウローラから話は既に聞いているが、解決は彼女も知らず、アウィスも大精霊達も知らないという。彼自身は早く元の大精霊の体に戻りたいと言っている。この体ではできないことが多すぎる、いざとなった時にアウローラも聖女も守れないとも。
「・・・この調べごともアウローラの為?」
インベルが彼に尋ねる。
彼が今回インベルに声を掛けた時「アウローラに関する記録を見せてくれないか」と言ったのだ。確かにアウィスの行動理由はいつもアウローラに関係することであるが、今回はどうも様子が違うような気がしていた。というのも、アウローラの為というのはアウローラを助けるためでありアウローラの“聖女を守る”という彼女の幼いころからの願いの力になるために情報を集めるといった風だったのだが、今回は、それ以外の目的がある様な気がしてならない。鬼気迫る様な表情であり、何処か苛立っている表情でアウィスはインベルの前に現れたからだ。
皆と行動している時との、何処か余裕のある振る舞いではない、切羽詰まったような振る舞いは今まで見たことがない。
アウィスは読み終わった書類をサイドテーブルに積みあがった書類の一番上に置くと、ふいっと窓から見える闇へと視線を移した。
「よくわからない」
「分からないの?」
「あぁ」
アウィスは闇を見つめたまま、目を細める。
「意味が分からないと思うが、どうも、私自身が思い描くアウローラと共にいるアウローラに食い違いを感じるんだ。明るく、積極的で、時折突拍子もないが聖女を守りたいという想いを抱えたあの少女を見ていると、アウローラは表立って行動せず大人しい少女ではなかったのではないかと、そう思うようになった」
「え?アウローラは、昔からあぁだよ?」
インベルは首を傾げてそういう。その言葉にアウィスは小さく笑い、額に手を当てる。
「そうだ。私が隣で見てきた彼女もそうだと思う。だけれど、何処か、小さな違和感がある。その違和感が何なのか。私が出会う前の彼女の事を知れば何か見えてくるのではと思ったんだ。同時に、彼女がひた隠しにしていることを、抱えているものの片鱗でも見えれば彼女へ近づくような気がして―」
そこまで言ってアウィスが固まる。一体どうしたのかとインベルが心配げに見つめると、彼は耳を赤くして振り返る。
「・・・最後の方は聞かなかったことにしてくれ」
体の年齢と相応な彼の表情にインベルが思わず吹き出して笑う。一瞬アウィスがムッとしたが、インベルはひーひー言いながら涙を拭う。
「うん。分かった。でも、僕も同じだから」
インベルは笑って横を向いて遠くを見た。そちらは、アウローラの家、プラティヌム伯爵邸がある方向だ。
「彼女、僕達の事をすっごく大切にしてくれているけれど、何処か壁を作っているような気がしてた。僕も、彼女の力になりたい。彼女の近くに居たい、近くに感じたい。いつもそう思っている」
「それは好きということか?」
「あはは、それは、うん。兄さん達みたいなあからさまな恋愛感情なのかはわからないけれど、ただ友人としてなのかはわからないけれど、好きだよ。とても大切だ。今の僕を形作ってくれたのは、彼女だしね」
「それも恐らく私も同じだ」
インベルとアウィスは顔を見合わせて小さく笑う。まるで秘密を共有したかのように、幼い少年たちの秘め事の様に笑い合う。
するとインベルは深く椅子に腰かけて天を仰いだ。ぎっと木で作られた椅子が軋しむ。
「彼女と出会わなかったら、僕はきっともっと暗くなって、こういう風に友達と話をしたり、魔法の勉強したり、お茶会したりしてなかったと思うんだ。あの日、当たり前の様に友達になってくれて、笑顔を向けてくれて、この目を肉親の愛と言ってくれた。僕の今は彼女がいてくれたからこそ。だからね、アウィス」
にかっと笑ってインベルはアウィスを見る。
「君のその行動がアウローラの為になるのだったら、喜んでとことん付き合うよ」
「・・・あぁ。頼む」
ふっとアウィスは笑う。そこで、ふと彼の目の話が出たことにより、ふっと疑問が浮かんだ。
「その目なんだが、見たところ魔力が込められている様だ。経緯はある程度聞いたが、後天的な高濃度魔力を得た場合は扱いが難しいと思ったのだが、大丈夫なのか?」
アウィスの言葉に「ん?」とインベルは首を傾げたが、そのご「あぁ」と呟いて微笑みながら赤い瞳に触れる。
「そう言えば言ってなかったね。うん。大丈夫だよ。何年か前にアウローラがね、プルヌス先生に言って制御方法を調べてもらっていたんだ。最初は大変だったけど、今は制御できるようになったし暴走とかはしないだろうってプルヌス先生が言っていたよ」
「彼女はそんなこともしていたのか」
驚き目を見張る。
それにしても、とアウィスは腕を組んで考える。
気のせいかもしれないがアウローラはどうも先回りをしているようなきらいがある。といっても、自分が知っているアウローラの行動は少ないため断言はできないが。
突如変わったノックの音が響いた。するとインベルは誰と確認することもなく扉へ近づくとドアノブに手をかけて何の警戒もなく扉を開いた。曲がりなりにも王位継承者である人間がそうでいいのかと疑問を抱いたが、それはその後の2人の会話ですぐに消えてしまった。
「兄さん。その代わったノックの仕方やめてよ」
「こうすると分かりやすいだろ?それに俺はこれが気に入っているのさ」
「ん?あれ?誰か来てんのか?」
部屋の中にノヴァとクラースが入ってきてアウィスを見て驚きの声を上げる。やれやれと言う風に扉を閉めたインベルにクラースが肩を組んでアウィスにも聞こえるように言う。
「おいおい。婚約者がいないからって、大精霊に手を出すとはインベル君も隅に置けないね」
「そういう仲ならば、俺に言ってもいいじゃないかぁ」
面白がっている彼等の声にインベルは流石にイラっとしたように眉を顰めて、するりとクラースの腕から逃げ出すと近くに会った分厚い本を持って2人の頭を軽く叩いた。軽くと言ってもその本の重量は結構な者なので、いい音が聞こえてくる。2人はほぼ同時にうめき声を上げて蹲り、叩かれた頭頂部を手で抑える。
普段憎まれ口を言い合う2人であるが、結構息ぴったりである。アウィスの頭の中に“類は友を呼ぶ”という言葉が浮かんだが、黙っておく。少しすると痛みが治まって来たのか、頭頂部を摩りながらクラースが尋ねる。
「んで?マジで何でいんの?」
「インベルに調べ物を頼んでいた。伯爵邸では見れないものだからお邪魔させてもらっている」
「ほーん。なんの?」
アウィスが説明することを面倒くさがっているとインベルが苦笑いを浮かべながら事情を説明した。インベルが熱心に2人に説明していると、アウィスの後ろの窓が小さく音を立てたためにそちらの方へと視線を向けると、窓の縁に座っているウェリタスがそこにいて小さく手を上げた。アウィスも手を上げ返すと、彼は唇に人差し指を当てて普通に歩いてノヴァとクラースの背後へと近づく。驚くべきなのは足音が全くしないということだ。
恐らく予想通りの反応をするだろうと思い、アウィスは再び資料に視線を落とした。
「結構アウローラちゃんの事気にするわよねぇ皆」
「「うぁ!!」」
「あれ?ウェリタス?こんばんは」
のほほんとインベルは驚きもせずに手を振る。ノヴァとクラースは軽く飛び跳ねて転びそうになってしまっていた。アウィスはちらりと見ていたが、やはり予想通りの反応で小さくため息をついてぺらりと資料を捲った。
「君もインベルに用事かい?」
すぐに平静を取り持ったノヴァが尋ねると、ウェリタスは懐に忍ばせていた紙の束をインベルに渡す。
「一応用事もあるけれど。国王陛下に報告をしたついでに廊下を歩いていたらここに入る2人が見えたから、ちょーっと驚かせようと思ってね。アウィスがいるとは思わなくてびっくりしたけど」
驚いていたのかとアウィスは聞いていたが、何も言わずに資料を読み続けた。
「ふんふん。流石情報集めは凄いね」
紙の束を確認したインベルは何度か頷く。
「これで最後?」
「そうねぇ最後よ。これ以上調べてもアウローラちゃんの情報とかフロースちゃんやルミノークスちゃんの情報は似たり寄ったりな者しか出てこないと思うわ」
すっかり女性陣に対する“ちゃん”付けが浸透したウェリタスは、何の躊躇いもなく、そして口調を隠すことも無くなった。というよりも、以前よりも増して中性化が進んでいるようなと全員が思っていたが、彼はとても楽しそうだ。最近、服飾関係を新たに始めているという話を女性陣に話をしていた。これも、アウローラの影響なのだという。誰か一人に、お世辞ではない、素直な言葉を貰ったことがとても嬉しかったのだという。こそこそと最近はクラースと何かを作っている様だが、それは二人だけの秘密らしい。
「あの二人の事も調べてんの?」
「ん?んーまぁね。ほら、アウローラってあの二人に甘いじゃない?だから僕等が知らないだけで小さい頃に会ったことがあるんじゃないかって思ってね。うーん・・・やっぱりカエルムさん達も知らないかぁ・・・レウィスにも手伝ってもらったのに収穫無しかぁ」
「結構必死になって会話してくれたのにねぇ・・・あ、でも、庭師の二人とも話を聞いたらしいわ。庭師のコンキリオさんにノドゥスさん、後ばったり会った料理人のルーベルさんとも仲良くなったって言っていたわね」
「あ、本当だ。へーまだ少ししかたってないのに、凄いね」
「どれどれ・・・ほんとだすげぇな」
資料を覗き見たクラースが感嘆の声を漏らす。なぜかウェリタスが得意げな顔になって、腕を組む。
「あの子結構対人能力高いわよ。訓練すれば結構光るんじゃないかしら・・・」
「勧誘はしないでくれないかウェリタス。アイツこの前“俺、騎士になりたいっす”ってキラキラした目で言ってきたからさ」
「あら、本当?残念だわぁ」
全く残念そうではない表情でウェリタスはころころと笑った。ノヴァは訝し気に彼を見たが、ふぅっとため息をつく。
「そういえば、なんでクラースがここにいる?ウェリタスは公爵家、ノヴァとインベルは王位継承者、君は伯爵では?」
資料を読み終えたのか、神の束を上に積んで息をついたアウィスが椅子から立ち上がりながら尋ねた。クラースは「あー」といいつつ腰に手を当てて肩を落とす。
「俺は昔っからノヴァのお目付け役をやっている話をしただろ?大人しそうな顔してコイツ結構逃げ出すから同い年くらいの子供一緒なら少しは落ち着くだろうってことでさ。それがよぉ小さい頃はお目付け役。所謂監視役だったんだが、今はこいつの仕事の補佐なんかをやってんだよ。次期国王はこいつらの兄貴なんだが、国王陛下の教育方針で次期王の教育、つまり王政教育は全員にやらせて、しかも教育方法は実地訓練の方がいいから領地運営をやってんだよ。こいつらがよく王城をいないのはそういうわけ。で、インベルは結構落ち着いた領地運営で国王の確認も一人で行けるほど余裕あんだけど、ノヴァの領地は広いし農耕地だから結構計算とか必要でダブルチェックしてんだよ。こいつらの兄貴も大変な領地だけど婚約者の令嬢が補佐してるんだが、ノヴァは婚約者がいない。なら気心知れたクラースでって言われてよぉ・・・部屋で必死にこいつの補佐するよりもアウローラとお茶したいんだけど・・・」
「給金あげているじゃないか」
「それは有難いが、俺的にはアウローラとの時間の方が大切だ」
再び言い争いになりそうな雰囲気を察したのかインベルがどうどうと声を掛ける。すると「あ」とアウィスが声を上げた。一同が彼の方へと顔を向ける。
アウィスはクラースへと詰め寄る。突如近寄られ、クラースがたじろぎながらが「何だよ」と数歩下がる。
「クラース。君から話を聞いていなかった」
「は?何のだよ」
「アウローラの話だ。君は傍でずっと彼女を見てきたのだろ?」
「あーまぁ。ずっととは言えねぇけど。一番はミールスだしな」
「ミールスとは・・・あの影の薄い女性か?」
クラースはアウィスの言葉に首を傾げて「影薄いか・・・?」と小さく呟いたが、まぁいいやという風にアウィスから距離を取って襟元を正す。
「そうだよ。アウローラの専属だからな。ミールスの話はいいや。なんか変なこと言うと夢に出そう。んで?アウローラについてだったな。任せろ」
そういってクラースは嬉々としてアウローラの話を話し出す。アウローラが騎士を目指すようになったのはいつ頃か。フロースとルミノークスとの出会い、プルヌスとの関係や勉強の風景、一緒に行った場所・・・などなど、彼とアウローラの思い出が語られていく。属性検査の話もして、フロースとルミノークスが襲撃を受けた話をしたところで、アウィスが眉を顰めて「もういい」と声を出した。流石に呆れたのかなとクラース以外の全員が思ったのだが、彼の反応は全く違った。何かを考え、そしてクラースに尋ねた。
「アウローラは、血を使って攻撃したと彼女自身が言ったのか?」
「ん?あぁそだな。後から本人からどうやって戦ったのかと聞いてそう言ってたぜ。いやぁ俺もびっくりしたよ。血って魔法操作できるんだな。血には金属成分が入っているから土の操作魔法と水の操作魔法を併用しなければならないって初めて知ったわ」
「へぇそうなのねぇー医学書とか普及していないじゃない?よくあの子知ってたわね。魔法の先生から聞いたのかしら」
「プルヌス先生に聞いたら笑いながらそんな攻撃方法もあるんだぁって言ってたぜ」
アウィスが振り返り、摘んでいた資料の一番下の書類を掴んだ。それはプルヌスから聞いた情報で、アウローラはに対しどのような魔法の勉強をしたのかという記録だ。彼は結構マメなところがあり、アウローラと勉強した際は勉強の記録をしっかりと取っていた。そこにかかれていたのは、アウローラに対し行った勉強は、基礎学習、単属性の各種魔法、二種の操作魔法と記載されている。次に見たのはアウィスが記録したプラティヌム伯爵邸の蔵書一覧、そこには医学書などない。勿論、家庭教師との学習に人体の構造は含まれていない。臓器の構造はある程度教えられるが、体液の成分の知識は子が親に言うほどこの世界に普及していない。それを詳しく勉強するのは成人過ぎてから。図書館には医学書があるものの、それを閲覧できるのは成人を過ぎてからだと規制されている。
なら、どうしてアウローラは血液の成分など知っている?
自分ではない光の大精霊の記憶を探る。似たような記憶が、なぜかある様な気がしたのだ。両目を閉じて、記憶を巡り、巡って、遥か昔の記憶のその向こう側に、医学など発達していなかった大昔の記憶の中に、ある英雄となった青年が笑いながらこちらに言った。彼の腕からは、だらだらと血が流れており、それを聖女が治療魔法をかけている。
『もう!どうしてあの様な無茶を?というよりも、どうして血を刃にするなんて思いつくんです?』
『いやぁ。はは。漫画で見たもので・・・』
『以前の世界の書物ですか?』
『あぁうん。そうそれ。血って色々成分はあるけど、金属成分が入ってるのを思いついてさ。だからざっくり分ければ、属性は水と風じゃなかなーって思って。なのでやってみたらできました』
『何故お前はこうも確信できないものを土壇場でやってみようと思うのか不思議だ。貴様の世界に興味が湧いて来た』
『え?ありがとう』
『・・・褒められていませんからね。それ』
『え!?嘘!?』
遠い昔の青年と聖女と光の大精霊の記憶。自分の事ではない記憶が思い出された。
手で口元を覆って「まさか」と呟く。いやしかし、と首を振るが、一番それがしっくりと来た。
恐らくこれが、彼女の隠していることである。だが、何故ひた隠しにする?言ってもいいことだろう。
他にも隠していることがあるのかとぐるぐると考える。
「アウィス?」
心配げにノヴァが肩を叩き尋ねてくる。アウィスははっとして顔を上げる。心配そうに見つめてくる友人達に、言おうと思ったのだが、言ってアウローラが傷つくのではないかと不安似なり取りやめる。代わりに首をゆるゆると振ってから、彼等に言う。
「言えないが、恐らく分かったことがある。なので明日、彼女に尋ねようと思う」
「・・・その方がいいの?」
アウィスの暗い表情にインベルがそれでいいのかと尋ねて来た。いいのかは分からない。分からないが、これを先延ばしにしてはいけないような気がしてならなかった。何か、急かされるような気持ちが湧き上がってきた。どうして、そのような気持ちになるのかは、皆目見当をつかないが。
「その方がいい様な気がするんだ」
「そう。なら、明日皆で聞こうか」
インベルの言葉に皆が頷く。
「あ、でも、その様子じゃあまりいいことのような感じではないのよね?あの子怯えちゃうかの知れないから、慎重に行きましょ。あたし達は別にあの子を責めたいわけじゃなくて、少しでもあの子が背負っているものを一緒に背負えればと思っているだけなんだから」
ウェリタスの意見はごもっともだ。全員が、君は隠し事をしているだろうと話をすれば、彼女は傷ついてしまうかもしれない。だから、慎重に行かなければならない。
「なら、朝レウィスとフロースとルミノークスにも言わなきゃな。確か朝からプラティヌム伯爵邸に集まるって話だったろ」
「そうだね。その時に話そうか。なら、アウィスは泊っていくといいよ。整った客室空いているかな?」
「あぁそれならクラースも夜遅くなったから客間に泊まらせるつもりで、その部屋ベッド2つの部屋だからそこに泊まるといい。早朝、使用人には言っておくさ」
「世話をかける」
「ならあたしは家に帰るわーじゃぁねー」
ウェリタスは軽く手を振って入ってきた窓から外に出ていく。全員があいつは窓からしか出入りできないのかと思ったが、何も言わずに苦笑いを浮かべる。
インベルとノヴァと別れると、既に何回か訪れているクラースは慣れた足取りで客室に向かい、アウィスはその後に続いていく。適当な会話をしてからクラースはベッドに潜り込むと、すぐに寝息を立ててしまった。しかし、アウィスは暫くの間眠れなかった。肉体を得てからは、大精霊で会ったときに必要ではなかった食事や睡眠をとるようになったのだが、それ以来初めて“寝られない”いうことを経験する。
「これで、いいのだろうか」
ぽつりと呟く。誰も返事はしない。
彼の心配はごもっともだ。
大切な友人の秘密を面と向かって暴こうというのだ。不安にもなるだろう。
だが、それでいい。それでいいのだ。
彼女は秘密を抱えずている。隠し事をかけすぎている。
いつか潰れてしまう前に、同じ末路を辿ってしまわぬように、誰かが彼女に手を差し伸べなくてはならない。
その手を掴むのを選ぶのは、彼女自身であるけれども。
手を差し伸べた行為だけは、消え去らないはずだから。




