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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-32話「居場所特定」

パンっという手を叩く音が部屋に響く。

手を叩いたのはプルヌスだった。彼は、首を僅かに傾げて小さく何度か頷く。


「さて、我が愛しい弟子であるアウローラの言う通り話を続けよう。さて、闇の大精霊が自らの意思でこのような愚行を行っているわけではないということは理解した。では、ここ数年間世界を調査で回って調べ上げたことを話そう」


プルヌスはアルメニウムに合図を送る。すると彼女は、仕方がないといった風にクッキーを食べる手をやめて腰に付けていたポーチから小さく折りたたまれた古びた紙を取り出した。それをテーブルの上に置くと、ソルバリア以外の全員がそれに注目する。

この世界の地図であった。

中心にある小さな小島を囲むようにして、途中所々海峡はあるものの、円を描くようにほぼ地続きになっているその大陸はさながら少し型崩れしたドーナッツの様だ。

時計で言うところの12時あたりが闇の国、2時あたりが風の国、4時あたりが水の国、6時あたりが光の国、8時あたりが土の国、10時あたりが火の国となっている。丁度対角線上に属性的に相性が悪い国があるということだ。中心の小島は、“神域”、もしくは“父と母が眠る地”と呼ばれており各国の魔法のエキスパートまたは神官、各国のトップのみが訪れる場所である。といっても、気軽に訪れることは禁止されており、何の対策もなしにその島に近づくと高濃度の魔力にあたってしまい最悪死に至るのである。

ゲーム内では全く持って触れられておらず、これもまた、図書館などで調べてやっとで名前が出るという場所だ。もしかしたら、続編で何かあったのかもしれないが、アウローラは知る由もない。

地図には赤くバツ印がつけられていた。

アウローラはそのバツ印の法則性を考えたが、全く見当がつかなかった。


「このバツ印は一体何だよ?」


クラースがアルメニウムに尋ねると、彼女は厳しい顔で闇の国にあるその中でも大き目の赤いバツ印を指で叩いた。


「ここ数年で魔物に襲われた町や村の場所だよん」

「え!?こんなに沢山ですか!?」


フロースが思わず声を上げる。

アウローラも驚いて地図を凝視した。ざっと数えたところ五十はあるだろう。光の国では特段そんな話を聞いたこともないために、世界がこのような状況に陥っているとは知らなかった。


「全て滅んだわけではないよ。滅んだのは三割っといったところだ。現地の兵士が何とか頑張ってくれていて、死んでしまった人間はこちらが思ったよりも少ない」

「でも、亡くなった方もやはりいらっしゃるのですのね」


落胆したルミノークスの肩にフロースがそっと触れる。

聖女として何かできなかったのだろうかと2人は自責の念に駆られているのかもしれないが、今はまだ、どうしようもないことだろう。一つの村や町を守るには、彼女等はまだ力が足りない。

一瞬プルヌスが彼女等の方へと顔を向けたが、何も言わずに地図へ視線を戻した。


「生き残った人間から話を聞くと、魔物を率いていたのは赤い外套を纏いフードを深くかぶった小柄な人間だと言っていた。声を聞いたが、男とも女とも取れるような声で何とも言えないらしい。だけどただ一つ気になるのがあってね。魔物の死骸を調べたら、魔物の内部には闇の魔法の痕が見られなかったんだ」

「つまり、魔物は自分の意志で赤い外套に追随していたと?」


アウローラが尋ねると、彼は頷いて続けた。


「それにどの村の内部にも闇の魔法の痕なんて一切なかった。あるのは、火と風、水の三種類。赤い外套が闇の大精霊を囲っているのだったら、闇の魔法を惜しみなく使うはず。宮廷魔法士は、赤い外套が闇の大精霊の消失事件ではないと結論付けた」

「別に闇の大精霊を捕まえたとしても、闇の魔法を使うとは限らないんじゃないか?」

「確かにそうとも言えるね、アルゲント伯爵家の子息。だけれど、あまりにもなさすぎるのだよ。大精霊を捕まえたのなら十中八九隷属化をしているはずだから、惜しむ必要なんて全くない。君は目の前に無限に湧き出る水瓶があったとして、一切使わないことができる?」

「あーなるほどな」

「・・・あの、隷属化ってなんスか?」


レウィスがこっそりと近くにいたアウローラへと尋ねる。

年齢的には数個上のはずだが、彼は学校へ行っていないと話をしていた。恐らく家の事があったのだろう。戦闘術を教えるついでに、家庭教師も手配させなければいけないなと思いながらアウローラは答える。


「大精霊との繋がりを得るには2種類あって。多分契約の事は知ってるよね?」

「あぁはい。聖女伝とかでよく話に出るので知ってるっす」

「契約は精霊とほぼ対等の契約だけれど、隷属化は全く違って人間が精霊を支配下に置き、隷従させることを言うの。だから主導権は人間にある。本来は禁法に指定された魔法で、その属性にも属さない“無属性”魔法に分類されている。精霊が元は人間だったから、人間のような精神がある。その精神・・・つまり心に作用して精霊の生前の心的外傷や後悔などに働きかけ自我をコントロールして支配下に置くというものよ。あ、ちなみに大精霊が使っているのもさっき言った“無属性”に分類されているの。隷属化は本来精霊が使うような魔法を使えないんだけれど、出来なくはない。まぁでも、精霊魔法を使えなくたって精霊から無尽蔵に魔力を奪えるから使えなくても隷属化する意味はあるってところね」

「へぇー」


レウィスの顔を見るが、今にもオーバーヒートしてしまいそうな顔だ。アウローラは小さく笑いながら彼の肩に手を置く。


「後で色々詳しく説明するわ」

「・・・っす」


アウローラの言葉を待って、プルヌスは円を描くように地図全体をなぞって、顔を上げる。


「この地図全体を見て皆は何か気付かない?」

「全体を・・・ですか?」


全員が僅かに地図から離れて全体を見る。ふと、アウローラはその中にアウィスがいないことに気が付いた。顔を上げて辺りを見渡すと、彼は窓辺で腕を組んでこちらをじっと見ていた。

声を掛けようかと迷ったが、彼にも何か考えがあるのだろうと思い首を傾げるだけに留めておく。

「あれ」とウェリタスが声を上げてアウローラは再び地図の方へと顔を戻した。彼は光の国を指さして、口を開いた。


「襲われた場所・・・他の国は全く法則性がないように見えるけれど、光の国は王都を避けているように見えるわ」


ウェリタスの言ったことに気を付けてアウローラは再び地図に視線を落とした。

確かに、王都を避けているように見える。他の国は中心都市の近くだろうが関係なしに襲撃を受けている様だが、光の国の襲撃を受けた場所は、国境の近くか、海岸都市のみ。しかも、他の国のような大規模な襲撃を表す大きいバツ印が全くない。全て細々としたバツ印のみだ。


「よく気が付いたねー。そうそう、光の国が受けた襲撃の場所は王都から離れていて、しかも襲われた現地の人から話を聞くに、巡回中の騎士団や駐屯している騎士が対処できるようなものばかりだったのよん」

「さらに言えば、現地の人に“赤い外套を見たか”という話を聞いたら、見ていないという。代わりに、枯れ草色のスカーフを口に巻いた浅黒い男たちが魔物に交じっていたと言っていたよ」

「それはもしかして」


フロースがか細い声で呟く。


「あの時の襲撃者」


アウローラがフロースの言いたいことを引き継いだ。彼女等にとってはとてもつらい記憶だ。彼女の口から言葉を紡がせ、はっきりとあの時の恐怖を思い出させたくなかった。


「まぁあの時の襲撃者は全て騎士団で捕らえたがな。恐らく残党だろうな」


遠くでソルバリアが言う。


「つまり、あの時の襲撃者が全ての黒幕ですか?」


インベルの質問にアルメニウムが首を振ってから肩を竦めた。


「そうだったら話が楽なんだけれどねー。戦った騎士曰く、まるでそいつらは操り人形のようだったらしいんだよん」

「料理長の様に・・・ですの?」

「ごめーさつ!その子達、騎士の攻撃を一定数受けると内側から爆発しちゃうみたいでねん」

「ばくっ・・・え?人の体が爆発するのかい?」

「そうそう。多分体内に爆発物詰め込んで、遠隔でぼんっ。掃除大変だわ、騎士に怪我人出るわ、心壊れかける人が出るわ大惨事。あぁまぁこの話はいいや、お肉料理食べられなくなる」


ぶるりとアルメニウムが身震いする仕草をする。具体的に想像してしまう前に、アウローラが首を振って考えを飛ばす。


「つまり、光の国は襲撃が少なく、その襲撃には人間が使われていた・・・さらに言えば“赤い外套”を見ていない・・・と」


インベルが顎に手を当てながら反芻する。そしてなにやら数秒考えこんだ後に、小さな声で呟く。


「闇の大精霊を捕まえている人間は光の国にいる・・・?」

「!?どういうことだ!!」


窓辺にいたアウィスがインベルへと近づく。彼は頷いて説明をし始める。


「えぇっと。他の国は闇の魔法の気配がない。だけれど、光の国は明らかに闇の魔法、あの料理長に使ったと同じ魔法を使っている。しかも、その襲撃はこの事件の前に起こったことでしょ?なら、実験をしたととらえていいと思う。あと、他の国の襲撃は“赤い外套”の目撃情報があるのに、光の国にはない。つまり、今回の事件の犯人が直接行っていると思っていい・・・と思う」

「インベルの言う通りだね。王都周辺で襲撃を行っていないのは、王都に襲撃の情報を掴ませ、警戒をさせたくないから・・・とか?・・・もしかして、闇の大精霊は王都にいて、捕まえた人物の拠点も王都にある・・・?」


アウローラは自分で言って背筋が寒くなった。

アウローラ自身、聖女に関する一連の事件や闇の大精霊の失踪事件は他の国の人物が手を引いていると思っていた。もしくは、色々な場所を転々としているのかもしれないとも。

ゲーム内の登場人物が犯人で間違いはないが、ゲーム開始前までは光の国以外の場所で時期をじっと待っていたのだと。光の国は、観光や一時滞在の場合は正式な書類をすべて書いて出身国、もしくは先日まで過ごしていた国の外交官から一筆もらえれば簡単に滞在できるのだが、長期滞在となれば話が別になる。

長期滞在の場合、問題行動を起こさないようにウェリタスのような隠密行動を行えるような騎士が交代で1年間見張る。アウィスの場合は。滞在先がプラティヌム伯爵家であったために免除と通達があった。まぁ結果的にウェリタスがアウローラの監視を行うついでにアウィスの行動監視も行っていたようだが。他にも必要な書類が数多く存在し、外交官との面接もある。

そこから導き出される答えは一つだけである。

犯人は光の国に滞在中で、ある程度自由の効く人物。


「アウローラと第三王子殿下の推測通りだと思うよ。料理長の事件も踏まえ宮廷魔法士一団も同じ意見さ。正直、同じ国に住んでいる同胞を疑うことはあまりしたくなかったんだけれど・・・こればっかりはしょうがない」

「なら、王都を全面的に捜索とかダメなんすか?」

「そうすると相手さんを警戒させるだろうが。逃げるならまだいいが、闇の大精霊の力を思いっきり使われるなんて事態になったら一大事だろ?」

「・・・そうっすね。すみません」

「謝んなよ。これから覚えておけばいいさ」


レウィスの背中をクラースがにかっと笑いながら背中を叩く。レウィスは申し訳なく笑うが、少しだけ緊張が解れたようだ。するとインベルと同じように顎に手を当てて考え込んでいたノヴァが誰にでもなく尋ねる。


「闇の大精霊の力ってどれほどの物なんだい?正直文献で大精霊個人の能力は乗っていないからわからないのだけれど」

「それは、こちらより光の大精霊が説明した方がいいのではないかな?」


プルヌスがアウィスに顔を向けると、彼はため息をついてめんどくさそうに渋々答えた。


「大精霊個人の能力は生前の属性の相性と能力値に引っ張られるんだ。生前光の属性を持っていれば光の大精霊の適性があるとかそういうものだ。勿論適性がなくてもなることは出来なくもないが、あった方が大精霊時の能力に大きな違いがあるので、大精霊は次期を選ぶときにそれを重要視する。これを踏まえて、闇の大精霊だが、彼女は本来適性がかなり低い。大精霊の力は最低限レベルといったところだろう。といっても、大精霊ではあるから常人よりも数十倍魔力は高い。そうだな・・・闇の攻撃魔法で表現してもいいが、それよりも操作魔法で表現した方が分かりやすいか・・・彼女一人で数百人は同時に操作をすることはできるだろうな」

「「「「「「「数百!?」」」」」」」


ソルバリアとプルヌス、アルメニウム以外の声が揃う。


「だけど、糸を通さなければいけないのでしょう?」


フロースが尋ねると、彼は首を左右に振る。


「いいや。人が使える基本的な操作魔法はそうだろうが・・・大精霊には統べる属性の応じた固有魔法というものがあり、闇の大精霊のみが使える操作魔法では相手に自分の魔力を触れさせるだけで操作できる。と言ってもこれにはいつも通り許可が必要になる・・・のだが、許可なしでも行える」

「ううん?どういうことなの?許可なしでもできるなら、許可をお願いしないですればいいじゃないのかしら」


ウェリタスがそういうと、アウィスは腕を組んで眉間に皺を寄せた。


「固有魔法はかなり魔力を消費する。肉体の器がない大精霊にとって魔力が無くなるということは消滅を意味する。使うときは母なる精霊マーテルに許可を求め、父なる精霊パテルから魔力の補助を受け取る」

「あらま。そうなのね」


あら、というようにウェリタスが口元に手を当てる。彼がやると、どうも少し胡散臭い。

プルヌスが地図を仕舞いながら、アウローラ達に言う。


「何にせよ。宮廷魔法士及びソルバリアの少数部隊は光の国に犯人がいるという想定でこれから動くよ。一応気付かれない程度に王都を調べておく。十中八九、闇の大精霊はこの王都のどこかにいるはずだから、もし大精霊の方で何か気付くことがあればアウローラ経由で話を聞かせてほしい。これからずっと王城にいるから」


アウィスはプルヌスをちらりと見て、頷く。


「仕方なし。そちらも、何かわかるようなことがあれば連絡してほしい」

「それは勿論だとも!あぁ大精霊と協力関係を結べるなんて・・・あとで手記に書いておかなければ・・・」

「ついでに溜まっている書類も書いてくれ。多方面から急かす声がこちらに集まってくる」


喜ぶプルヌスにソルバリアがぴしゃりと言い放つ。その言葉に「うっ」と彼は呟き、がっくりと肩を落とした。それを見てアルメニウムはケタケタと笑う。


「ある程度の情報共有も終えたし、いったん王城へ帰還しましょん。報告書、手伝うからねん」

「アルメニウム!甘やかすな!」

「あははは、ほらほら行くよー」


項垂れているプルヌスを引きずるような形でソルバリアが部屋を出ようとする。出る直前、プルヌスが「またね愛しい弟子」と手を振ってくれたのでアウローラは手を振る。アルメニウムは軽い口調で別れを告げてパタパタと走っていった。静かになった部屋で、アウローラはふと外を見るとすっかり暗くなってしまっていた。


「あれ!?もうこんなに暗いの!?」


ウェリタスが大袈裟に驚く。それを見てインベルとノヴァは軽く笑う。すると、部屋にノックの音が響いて、ルミノークスが「どうぞ」と声を掛けた。扉を開いたのは壮年の騎士だった。彼は恭しく一礼する。


「ノヴァ第二王子殿下。インベル第三王子殿下。お迎えに上がりました」

「あぁ。ご苦労。すまない皆、先に帰宅させてもらうよ」

「じゃ、明日も様子見に伺わせてもらうからね。また明日、会おう」


そう言って2人は騎士と共に行ってしまう。するとウェリタスが背伸びをした。


「それじゃ。アタシも帰らせてもらうわぁ。報告しなきゃだし」

「ウェリタス。1人で大丈夫?」


アウローラが心配げに声を掛けると、彼は一瞬目を丸くして、笑いながらバシバシとアウローラの肩を叩く。


「何よぉ!アタシを誰だと思っているの?でも、ありがと。それじゃね」


彼はそう言って窓から外に出ていってしまった。


「アイツ玄関ってやつ知らないんじゃねぇのか?」

「あははは・・・」


クラースの言葉にアウローラが乾いた笑いを浮かべる。ちらりと横目でルミノークスを見ると、彼女は僅かに寂しそうに微笑んでいた。アウローラはルミノークスに向き直り、尋ねる。


「ねぇルミノークス。今日私ここに泊まってもいい?」

「!え・・・えぇ!勿論ですわ!!でも、いいのですの?」


おずおずと尋ねてくるルミノークスに微笑みかける。


「だってあんなことがあったのに心配だし・・・」

「あの!でしたら私も一緒にお泊りさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「俺もいいか?アウローラ一人じゃなんか不安だし」

「何よ不安って」

「クラースとアウローラがこの場にいるならこちらも共にいよう」


意外にもこの場にいる全員がルミノークスの家に泊まることを所望した。ルミノークスの顔は見る見るうちに明るくなり、笑顔になる。


「えぇ、えぇ勿論ですわ!!あの、お父様にお話してきますわ!!」

「あ、ちょっと!お嬢様!走ると危ないっすよ!!」


廊下を駆け出していくルミノークスの後をレウィスが走って追いかける。

嬉しそうな彼女の足音と忙しない彼の足音が遠ざかっていく。

ゲーム通りに行けば聞こえなかっただろうその足音に、アウローラは心の底から喜びを感じていた。


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