第1部-31話「新しい仲間」
遅くなりました。
ロサの話は大分端折ったが、アウィスは自分と闇の大精霊の関係を話した。その話を聞いた後、アウローラは微かな声で「このことか」と呟く。弟から聞いていたネタバレの話は恐らくこのことであろう。
考え事に耽っているアウローラはアウィスから向けられている鋭い視線に気づいていない。数秒の沈黙後に、アウローラが顔を上げるとアウィスはふいっと顔を背けてしまう。そのことに彼女は僅かに首を傾げながらも、幾つか浮かんだ疑問を彼に投げかけようと口を開きかけた時、「いいだろうか」と今まで沈黙に徹していたソルバリアが小さく手を上げて口を開いた。
「話を止めてすまないが、これ以上の話を無関係な人間がいる場所で話すのはどうかと思うぞ」
ソウルバリアはそう言ってレウィスとワポルをちらりと見る。
「確かに無関係ですが、でも、話を聞く分にはいいのではないですか?」
フロースが恐る恐るといった風に意見するが、ソルバリアは首を左右に振る。
「確かにそこの小さい少年は毒を飲まされ命を落としかけた。その点では関係者だと言えなくもないが・・・光の聖女。この場において関係があるないというのは、この世界の起こっている事、つまりは聖女の事柄と関係がある人間かどうかという話だ。この子等は貴族でもなければ、騎士でも、傭兵でもない一般人だ。この話を聞いたことによって再び命を狙われる可能性も否定できない。一般人を危険にさらすような真似は出来ない」
「それは・・・そうですね・・・」
フロースは視線を彷徨わせながら頷く。その様子を見るに、彼女自身も彼等を引き留めようとした理由が分からないといった風だ。混乱した面むちでフロースは押し黙っているのだが、それを見てルミノークスがそっと肩に手を置いた。
ルミノークスはあるだろうが、フロースにはレウィスと面識はないはずだ。無関係と認識しておきながら、引き留めようとしたのは何故かアウローラには分からなかったが、それを今考えてもしょうがないと首を振る。
それにしても、だ。ここでレウィスを手放してしまってもいいのだろうか。
彼が貴族に怨みを抱く原因というのはこれで阻止できたと思うのだが、それでも、これから似たようなことが起こらないとは限らない。といっても、彼を仲間に加えるための理由がアウローラには考え付かなかった。
ゲーム内では強かったものの、今は一使用人であり剣術の稽古も全くしていない一般の子達だ。さらには、命の危険があったし、身内が命を落としてしまうことを経験した。これ以上、首を突っ込みたいくないと思うのが一般的だろう。
それにもしここでアウローラが引き留めたとして、レウィスが戦おうという意志がなければ引き入れることもできないだろう。
「それもそうだ。うん、えっと、小さい使用人とそのお兄さん。君達はもう帰るといいよ。ソルバリア、送ってあげて」
プルヌスがそういうとソルバリアは頷いてレウィスたちの元へと歩く。
「・・・お兄ちゃん」
何かを感じ取ったのか心配そうなワポルにレウィスは腕を引かれ、レウィスは苦笑いを浮かべた。そして何か言いたげであったが、ぐっとこらえて俯く。
「―わかりました」
小さな声でレウィスは返答する。ソルバリアは扉を開いて出るように促した。
「では、部屋まで私が送っていく。案内してくれるか?」
彼女が優し気な声音で言うと、ワポルは笑顔で頷く。
「うん。大きいお姉ちゃん」
「おおき・・・いいや、事実だからな・・・まぁ」
ワポルの一言に何やらははっという乾いた笑いを零しながら、肩はがっくりと落ちている。レウィスは部屋を出る前に頭を下げて、ソルバリアが扉を閉めると部屋が一気に静かになる。すると不意にロサが窓辺に近寄って、開いた。そこに緑色の光の玉が現れて何やら彼と話をしている。何言か言葉を交わした後にロサは肩を落とす。その後すぐに光の玉は外へ飛んで行ってしまった。
『ごめんね。緊急連絡だ。自国に戻らなければいけなくなっちゃった』
ロサのその言葉に他の大精霊達が眉間に皺を寄せる。
『おいおい。穏やかじゃねぇな』
ルシオラの言葉にロサは腕を組んで頷く。
『ほんと穏やかじゃないよね。闇の国の方で動きがあったみたい』
ガタリとアウィスが動く。そしてロサに近づいて掴みがからん勢いで詰め寄った。
「一体何があった!?」
『あーもー近い近い。動きって言っても、闇の国の魔物が風の国に少し流れ込んできてしまっただけだよ。あそこ自体が何かあったわけではないから、まぁ多分大丈夫。光の国と闇の国は遠いから影響は来ないだろうけど、警戒しておいて。ほらほら、皆。自国に戻って少し守りを固めた方がいいかもよ』
『いや、確かにそうかもしれませんね。少しここに長居しすぎました。では皆様、そしてアウローラ。また何かあれば』
『ウチの兵隊さんに限って負けることは無いと思うけれど、まぁ、戻ってみるかねぇ』
『いない時に自国がやられるのは嫌だしな。さっさと戻るわ』
『ほいほい。あ、小精霊達を何体かここの屋敷周辺に漂わせておくから、何かあったら連絡するよー。じゃ!』
皆思い思いに言葉を発して、流れるように大精霊達はその場から消えてしまった。アウィスだけは不安そうに顔を歪めているが、ふーっと息をついてそのまま窓辺に背中を預けた。その姿を見てウェリタスが声を掛ける。
「様子を見に行かないの?」
闇の国で何かあったのかもしれない。
しかし、アウィスは首を左右に振った。
「この体ではすぐに行けない。それに、闇の大精霊はまだ存命だ。消滅すれば全大精霊に通達が来るからな」
つまりマーテルの方から何か連絡が来るということなのだろうか、とアウローラは疑問に思ったが聞かずに置いた。なんというか、聞ける雰囲気ではなかった。
「結構大精霊達って自由なのねー」
クッキーがたくさん入った袋をガサガサと漁りながらアルメニウムが言う。いや、確かに自由だな、とその場にいるほぼ全員が同意し、それと同時に、彼女が持っている菓子の袋に疑問を抱く。
いや、どこから出したのかと。
プルヌスだけはそれを全く気に留めず、手を叩いて意識を彼に向けさせた。
「さて、では話をまとめると、闇の大精霊がこの世界を滅ぼそうとしているわけではなく、裏で手を引いている人物がいるってことだね?」
「そうなるな」
明らかに警戒している声でアウィスが答える。
「あぁよかった」とプルヌスはほっと胸を撫で下ろした。
「正直大精霊を相手にするのは骨が折れるから相手が人間だとわかってよかったよ。なら、手の打ちようがあるし何をしようとしているのかこれまでの調査から予測ができる」
彼の言葉にアウローラを含めて全員が驚く。
「プルヌス様。それ、本当ですの?」
「ん?あぁ、もちろん本当だよ。大精霊を倒し方は文献があってね。えぇっとどの代だったか・・・」
「あ、いえ、そちらではなく。手の打ちようがある、予測できるというお話ですわ・・・」
「そっち?え?うん」
「具体出来にはどういうことをするんだい?」
「そう急かさないで、第二王子殿下。まずこちらの調査結果を話さなければいけない。ソルバリアが戻ってきてからの方が話しが早いからね。あ、戻って来た」
プルヌスが扉の方を見ると、鎧の擦れる金属音が扉の前で止まり、ゆっくりと扉が開かれた。そこにはソルバリアがおり、彼女が部屋に入ってくると、もう1人部屋に入ってきた。
それはレウィスだった。
「あれ?そいつどうしたんだ?」
クラースの言葉にソルバリアはちらりとレウィスを見てから、彼の背中を叩いで前に出させた。
「レウィスの方が話しがあるらしい」
何やら面白がっているような口調で彼女は言って、扉を閉めた後先程と同じ位置で壁に背中を預けた。しばしの沈黙の後、レウィスが勢いよく頭を下げた。
「無理を承知でお願いするっす!俺も、皆さんと一緒にいる許可をくれないっすか!?」
皆驚くが、その中でもアウローラはこの好機に心の中で喜ぶ。顔には出さずに、厳しい顔でレウィスを見た。彼は頭を下げた間続けた。
「精霊とか、聖女とか、世界の危機とか、正直難しいことはよくわかんないっすけど、皆さんといれば、料理長を操って弟に毒を飲ませた犯人が分かるってことっすよね。なら、俺達は犯人を一発、いいや、五発ぐらい殴らなきゃ気が済まない。だから、どうか、俺も一緒に居させてくださいっす!」
レウィスは一度顔を上げてからもう一度頭を勢いよく下げた。
「お願いします!」
正直、後でレウィスと再び会って何とかして仲間に引き入れたいと思っていたので、これは嬉しい誤算だった。アウローラが言えば周囲の仲間たちは許可してくれるだろうが、だが、それは何故か憚られた。
この場全員が納得して、彼を仲間に引き入れなければいけない。
早く気持ちをぐっとこらえてアウローラは周囲の様子を探る。そんな彼女の様子を他所に、ノヴァが軽く言う。
「いいんじゃないのかい?」
「え、兄さん!?」
一番に反対すると思っていたのか、インベルが隣で素っ頓狂な声を上げる。その様子が面白かったのかノヴァが笑いを堪え、何度か咳払いをして続けた。
「悪戯に首を突っ込むという雰囲気ではないようだ。目を見ればわかる。それに戦力は多ければ多いほどいいものさ」
「でも、彼は一般の子だよ?今まで戦ったことだってないだろうし・・・」
インベルがレウィスを見て首を傾げる。
「レウィス君、戦闘訓練とか魔法訓練とか受けたことがある?」
「い、いえ・・・学校も家のことがあるから通えなくてそう言うのはあんまり」
「うーん・・・やっぱり危険じゃない?うーん・・・プルヌス先生はどう思います?」
ノヴァに言うだけでは埒が明かないと思ったのだろうか、インベルがプルヌス、つまりは大人に意見を求めた。しかし、彼の口から出たのは予想外の言葉だった。
「アウローラはどう思う?」
急にお鉢が回ってきて「私!?」と声を上げてしまう。視線が集まる中、ノヴァの引き入れようという視線とインベルのやめた方がいいのではという視線が痛いほど突き刺さる。
アウローラ自身としては全然ウェルカムであるし、今すぐにでも「いいのでは」と返答したいが、どうも、不安がちらつく。というのも、レウィスの目は何かを守りたいというものではなく、何かを怨み、憎んでいるような目だからだ。もし犯人を前にしたときに、彼は暴走をしないでくれるか、といったらその可能性は低いだろう。といってここで断った所で、おそらく彼は自分の力で犯人を探し出して復讐を遂げてしまうのだろう。そうすれば、ゲームのシナリオ通り彼が失意の中で死んでしまうのではないか、誰かに利用されたまま死んでしまうのではないかという気がする。
ならば、自分が何かあった場合に彼を止める役割を持つしかない。
答えは一つだ。
「―いいよ。一緒に戦おう」
レウィスはぱあっと表情を明るくして顔を上げる。ノヴァに至っては嬉しそうに、そしてドヤ顔でインベルを見た。すると、インベルがアウローラの肩を掴んで顔を寄せてこっそりと話をしてくる。そこへクラースと、何故かウェリタスも近寄って来た。
「ちょっと、アンタ何考えてるの!?」
「もう少し考えたらどうだ?」
「兄さんの言いなりになることないよ!」
三人から続けざまにそう言われ、助けてもらおうとアウィスを見たが、彼に至っては既に窓辺におらず、何処に行ったかというとフロースとルミノークスと同じソファに座って何やら話をしている。そちらの話も気になるが、まずこの三人をどうにかしないと、と思いアウローラは彼等を見る。
「何も考えてなかったわけではないよ」
「だったら何よ」
お説教モードのウェリタスを見てから、ちらりとレウィスを見た。
「ここでダメですって言っても多分あの子、はいそうですか、って引き下がらないよ。1人で犯人捜しに行ってしまうかも。そこであの子が大怪我とか負ったらどうするのよ」
「でも、明らかな危険に突っ込ませるよりだったら、アイツがそんな無鉄砲な事をしない方に掛けた方がいいじゃないのか?血筋とかそういうものが全くない無関係な人間を引き入れたっつったら周囲に何か言われるかもしれないんだぜ」
クラースの言い分も分かる。他の貴族がもしかしたら何か言ってくるかもしれない。だけれど、それに屈して彼を今ここで手放してしまったら、それこそいけないことのような気がしてくるのだ。
「それは、そうね。プラティヌム伯爵家の名を落とすことになりかねない。なら、何も言われないように彼を育てたらいいのよ」
「育てるって・・・今から色々教えるってこと?」
「そういうこと。ねぇレウィス」
「は、はい!」
突然アウローラに声を掛けられて彼は身を強張らせる。
「覚悟は出来ている?」
「え?あ、はい!!」
「ならよろしい!ね?聞いたでしょ?」
“何の”とは言っていないアウローラの意地の悪さに3人は顔を見合わせる。
「では、一人心強い仲間が増えたことだし、話を続けましょ」
何故か楽しいことを前日に控えた子供のような笑顔を浮かべているアウローラに対し、三人は寒気すら覚えるのだった。




