表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
31/86

第1部-25話「来訪と侵入」

遅くなりました。

見上げるとそこに在るのは白く輝き放つ城。

蒼穹がその輝きと壮大さをさらに際立たせていた。

アウローラはそれを見上げながら、いや、睨み付けながら城門の前に立っている。別にその城が憎いとも思っているわけでも機嫌が悪いわけでもなく、これからのことを考え胃が痛み、その表情が出ているだけである。

彼女は現在一人で、光の国の王城の前にある木に背を預けて立っている。昼前で人通りが多く城内へ向かう人の視線が痛いが、それを気にする余裕が彼女にはない。

というのも、朝早く王家の使者がやってきてアウローラに登城するようにと仰せつかったのだ。一体何をしたのかとマグナとミールスに言われたのだが、アウローラは大方分かっていた。

恐らく、昨日ウェリタスに渡した本が原因だろう。

こうなることは大方予想していたのだが、こんなに早いとはアウローラ自身思っていなかったために心の準備はまだ半ばだ。アウィスにも何も説明していなかったために、彼も心配をしてくれて一緒に行こうかと言われたが、断っておいた。これは自分が蒔いた種なので、彼を巻き込むわけにはいかないのだ。

まぁ彼が傍にいても状況が好転するわけでもないし、恐らくだが、彼はアウローラの味方をしないだろう。これ以上責めてくる人を自分で増やすようなことはしたくないのが本音だが。

朝食を終えてミールス以外の使用人の馬車で城の前にやってくると、城門の警備をしている騎士は顔見知りであり、彼に「使者がやってきた」ということを話すと、「待っていて」という言葉と共に慌てた様子で城内に消えていったのだ。

こうして待つこと数十分ほど。

王城は広いのでしょうがないと言えばしょうがないのだが、数十分も一人で待つのは正直堪えるものがある。

暇すぎてこの場所から見える王城の窓の数を数えているほどだ。

アウローラは王城によく来るが、あくまで騎士の訓練所経由で来るために正門からくることはまずない。なので新鮮な気持ちであるが、自分はこんな立派なところに行き来してもらっているのかと少しだけ自分は不相応なのではないだろうかという自身の消失が起こる。と同時に、ノヴァとインベルはやはり王族なのだと、この世界ではあまりない身分の差を感じて寂しくなる。


「いいや」


アウローラは首を左右に振る。

一人で外にいるということと緊張から少しだけナーバスになってしまっている様だ。大丈夫だと両頬を叩いて気合を入れる。ゲームの主要人物ではないけれど、皆の為自分は確かに頑張っているはずだと頑張っているからこそここにいるのだと鼓舞するが、それもあまり持たない。

その時ふと、どこからか視線を感じて周囲を見渡す。


「こんにちは。アウローラちゃん」

「ひゃっ」


不意に後ろから肩を叩かれて体が跳ねる。振り返り見上げると、そこには昨日見たあの美しい顔、ウェリタスが立ってくすくすと笑っている。


「ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなかったわ」

「あ、いえ。こちらこそごめんなさい。こんにちは、ウェリタス様」

「ごめんね待たせちゃって。まだもう少し時間がかかるの。応接室とかも今埋ってて・・・」

「別に大丈夫です。待ってますから」

「そ?なら、あたしとおしゃべりしましょうか」


ウェリタスはそう言ってアウローラと同じように木に背を預ける。スタイルがいいからか、とても絵になる。黒いスラックスに襟にボリュームのあるブラウス、黒いログコートというシックな出で立ちであり、ノヴァ達には悪いが彼の方がよっぽど王子様のように見える。コートをじっとアウローラは見つめており、ウェリタスは首を傾げる。


「あら?このコートが気になるのかしら?」

「あ、ごめんなさい」

「いいえいいのよ。何かおかしいかしら?」


不安げに眉を下げるウェリタスにアウローラはぶんぶんと首を振る。


「ううん。違う違う。ただ、ウェリタス様ってその生地お好きなの?ほら、属性検査の時も着ていたよね?」


アウローラのその言葉を聞いてウェリタスは動きを止め、目を丸くする。するとアウローラは不思議そうに彼の顔を覗き込み、心配そうな表情になる。ウェリタスは口元を片手で覆い、蚊の鳴く様な声で言う。


「・・・わかってたの?」

「えぇ、まぁ、はい」


そう、属性検査の日、アウローラが話をしたレザーのドレスを着ていたあの令嬢は彼と同一人物だ。アウローラはコートを指さす。


「それに、あの時のドレスもこのコートもご自分で作られたのでしょ?」

「なんでわかるのよ!え?ちょっと怖いんだけれどこの子・・・」


彼は若干引き気味に笑う。

ウェリタスのルートで正式な話としては出てこないが、サブクエストをこなすとこの話が出る。ウェリタスは幼少期女の子のように育てられ、更には周りには女性が多かったために煌びやかな服装に憧れを抱ており、いつかこんな服を着たいと絵に描いていた。長男ではあるが家督は引き継げない彼はいつしか服やアクセサリーをデザインする仕事に就きたいと、勉強したいと考えていた。だが、それは彼の影としての才能と家族の愛のある努力によって奇しくも諦めざるおえなくなってしまう。その夢を知っていた姉が2着だけ専属仕立て屋と協力して服を作った。この世界において本来不向きとされる魔物の皮から作り出した布、あちらの世界ではレザーによく似た布で。

属性検査の日に性別と年齢を偽って警備をするための一張羅としてのドレス、普段使い用の黒いコート。この二つはゲーム内で出てくる。形やデザインはゲームで見たままだ。

アウローラはこの知識を勿論覚えている、が、知識なくともアウローラは彼と彼女が同一人物だと確信できていたし服も彼が作ったものだと分かっただろう。化粧や髪型を変えていても顔は同じであるし、それにあの時言いかけた言葉と嬉しそうな表情から推測できる。

何より―


「だって、よく似合っているもの」


貴族の服は全てにおいてオーダーメイドだ。同じ服などないし、色もイメージも指定する。しかしながら、形や細かい所を指定することは無く、そういう部分はデザイナーの趣味と当時の流行が取り入れられる。彼の服は流行が取り入れられておらず、この国の仕立て屋が使わないような記事を使っている。それに、なんとなく上から目線になってしまうが、よく着こなしているのだ。ふわっとした言い方だが、愛があるのだ。服に対しての愛着というもの、といえばいいのだろうか。

何か気の利いたことを言おうとアウローラは考えていると、目の前の彼が一気に破顔した。

腹を抱えて彼は笑い、アウローラは彼の表情の変化に戸惑っておろおろとしている。

いつも言葉が少ないというクラースの叱責を思い出して、頭をフル回転させながら言葉を探す。

すると突然彼は笑いながらアウローラの頭を撫でまわし、撫でまわされている本人は「わ、わ」と言いながら身を強張らせ目を瞑る。


「もー・・・とぉーっても嬉しいけれど、それだけじゃ普通判断できないでしょぉー。変な子ねぇ」


満足したのかウェリタスはアウローラの頭から手を離して、にっと笑う。


「ありがと。あたしの変装見破った人貴女が初めてよ」

「そうなの?あぁでも確かに一見すると、綺麗な顔で化粧もよく似合っていたからとても美人なお姉さんにしか見えないものね」

「・・・貴女、それ素なの?」

「え?何が?」


全く持ってウェリタスが何を言っているのかが分からないと言った風にきょとんとした表情をアウローラは浮かべる。その表情を見て、ウェリタスは少し笑うが、段々と眉は下がっていき悲しそうな表情になってしまう。


「・・・なんであんなものを渡してきたの?」


“あんなもの”というのは、昨日渡したものの事だろう。

彼はふぅっとため息をついて、腕を組む。


「初めて見たわ。本の形をした入れ物なんて。開いてびっくり、中に入っている紙をみてびっくりよ。国王陛下も開いた口が塞がらないし、あの人もそうだったわよ」

「あの人って、誰?」

「貴女のよく知っている人よ。おっと・・・」


ウェリタスが木から背を離し、正門の方へと向いた。アウローラもそちらを見ると、若い騎士が一人こちらへ走ってやって来た。

彼はウェリタスへ敬礼をすると、そのまま口を開く。


「ご苦労様です!国王陛下が準備を終えたとのご報告です!来客共々、執務室へ来られたし、だそうです」

「ご苦労。すぐ移動する。仕事に戻っていい」

「はっ!」


若い騎士は小走りで正門の方へと走り、正門の騎士に挨拶してから城内に消えていった。アウローラはウェリタスの顔を覗き込んで不思議そうに目を見つめた。まっすぐな瞳に射抜かれてウェリタスは面食らったが、気を取り直して微笑む。


「何かしら?」

「いや、私に対する口調と彼に対する口調が違ったから」

「あぁ、そりゃあね。女性の姿ならいいけれど、この格好でこの口調を使うと顔を顰める人もいるのよ」

「そうなの。ウェリタス様の言葉遣い、綺麗なのにね」


アウローラが若い騎士が走っていた方を見ながら本心を口にすると、ウェリタスからの返答はない。何かまずいことを言っただろうかと彼の顔を見上げると、そこにウェリタスの顔はなく、彼は木に手を当てて頭を垂れている。

どこか痛いのだろうかと声を掛けようとすると、大きな、しかも長いため息が彼の口から漏れ出した。


「・・・心臓に悪いわ、この子」


ぼそりと彼はそんな言葉を呟いてから、顔を上げて両頬をぺしぺしと叩いた。そして爽やかな笑顔で「行きましょ」と言ってそそくさと正門の方へと歩き出してしまった。

怒らせてしまったのだろうかと不安になりながら彼の隣に走り、表情を伺う。それに気づいたウェリタスは笑顔で「何でもないわ」という。その顔に怒りはない。ほっとしながら正門に近づいて、門番をしている騎士に挨拶をして城内へと入る。その時、背後から何やら視線を感じた気がしたために振り返ったが、そこには誰もいない。

アウローラは首を傾げて注視しようとしたが、すぐさまウェリタスに名前を呼ばれてしまい、しかたなく彼女は走っていってしまったのだった。





「何故、隠れる?」

「ばっか。見つかったら帰れって言われんだろ?お前堂々としすぎなんだよ」

「私は大精霊なのでな」

「いや、どういうことだよ」


城内へ入るアウローラを見つめる影が二つ。

クラースとアウィスだ。

何故2人がここにいるかというと、それは少し前に遡る。

一人で行ってくるねとアウローラは屋敷を出たのだが、その少し後にクラースがやってきてアウローラの所在を聞いてきたのだ。というのも、クラースは昨日のアウローラの様子がいつもと違うというか、あの日、大精霊の元へ行ってしまった前日に見た顔と同じように見えたからだという。

どこか遠くを見ているような、焦っているような表情。アウローラの事は昔からよく知っているつもりなのだが、彼女は何かを隠しているということをクラースは確信している。あまり責め立てるのは嫌われてしまう・・・もとい、可哀想だと思ってしまっているために聞けずにいたのだ。何かあれば、彼女から話してくれるということを信じて。


「と、思っていたが、それはやめることにしたんだ」


というクラースはアウィスやミールスから話を聞いて、彼女の隠し事の片鱗を見ようとこっそりと後を付けているのだ。ちなみにアウィスがついて来たのはクラースにとって予想外で、気が付いたら一緒にいたのだ。勿論、何故か彼が一緒にいるとクラースが気付いた際に「なんでいんだよ」と尋ねたところ、アウィスはというとシラーっとした表情で答えなかった。

まぁアウローラを心配しているような素振りではあるが、もしかしてコイツアウローラの事が、などと勘ぐってしまう。結局一緒に城の正門まで来てしまい、ウェリタスとアウローラの会話を遠目で見ていたのだ。

何の会話をしてるかはわからないが、やけに親し気な雰囲気を醸し出しているのはクラースにとっては面白くない。

と、いうか・・・


「アウローラって結構他人に対してフランクだよな」

「確かに。それは美徳といえば美徳なのだが、婚約者がいる女性としてはあまりよろしくないのではないか?」

「うーん・・・だけどアウローラに対して悪い噂が立つとかは全くないんだよなぁ。不思議な事に」

「ほぅ・・・?」


クラースの言葉にアウィスが目を細める。何やら考え事をしている風だが、クラースがアウィスの腕を強引に引っ張り思考は中断される。あからさまに不機嫌そうな表情で「何だ?」と抗議するが、クラースが正門を指さして状況を察する。


「あぁ、追わなければいけないのか」

「そのためにここに居んだろ?行くぞ」


アウィスの腕を引っ張りながらクラースは正門へと近づくが、門番である騎士に止められる。


「君達、なんでここに・・・ってあれ?クラース君じゃないか!」


クラースが騎士の顔を見ると、よく訓練所で一緒になる騎士だった。彼は首を傾げてクラースに尋ねる。


「どうしたんだい?今日は君達の訓練はないし、それに、えぇっと・・・特に来城予定はないよね?」


騎士が腰に付けられたポーチから小さな手帳を取り出してぺらぺらと捲りながら言う。しまったとクラースの表情は引きつる。いつもは騎士の訓練所から行き来しているために忘れてしまっていたが、本来、貴族が来場する場合は事前申請が必要なのだ。伯爵の身分であるクラースが騎士になれば免除されるのだが、今はまだ子供であり騎士でもない。


「おい、ノープランか?」

「うっせぇ」


アウィスの微かに面白がっている言葉に短く答え、「えっーと・・・」と言いながらクラースは視線を彷徨わせる。なんと理由を付ければすんなり城に入れてもらえるだろうかとぐるぐると考えていた、その時。


「俺達が呼んだのさ」


聞き慣れた声と共に正門から現れたのは、ノヴァだ。インベルもいると思いきや、後ろにはいない。

笑顔でノヴァはクラースに近づいて、肩を組む。騎士の表情が見る見るうちに驚きに満ち、びしっと敬礼をする。


「ノヴァ第二王子殿下!おはようございます!」

「おはよう。そんな畏まらずにいいさ。朝から門番の仕事、ご苦労」

「光栄であります!」

「クラースとそこのアイツは俺が緊急に呼んだのさ。アイツは今プラティヌム伯爵家で預かっている他国の留学生というやつでね。今日は急に暇になって他国の話を聞きたいと思って呼んだのさ。あぁ、父上はお忙しいから母上に先程許可を取ったからリストには書いていないんだ。俺の我儘で仕事に支障をきたしてすまないね」

「そうだったのですな。了解いたしました。では、クラースと留学生君、通っていいよ」


ニコニコとした笑顔で騎士が通るように促す。クラースとアウィスは口々に礼を言いながら先導するノヴァの後についていく。正門を潜り、各場所に通じている広いホールに出ると、ノヴァに手招きされて隅に行く。少し暗いホールの隅を、忙しそうに行き来する人々は気にしない。クラースは両膝を掴んではぁっと息を吐く。


「すまんノヴァ。助かった」


クラースの素直なお礼にふふっとノヴァは笑う。


「いや、いいさ。実は今日は何も予定ないからインベルが図書館に行っているんだ。俺はあらかた蔵書に目を通してしまっているから行っても意味がなくて暇で窓の外を眺めていたら、何やら面白そうなことをしているから首を突っ込んでみただけさ。それにしても、アウィスとクラースが一緒というのは珍しい。明日嵐でも来そうだ」

「別段クラースと私は仲が悪いというわけではないはずだが」

「うん、まぁ、そうなんだけど・・・いや、いい。クラースが嫉妬深くてアウィスが鈍感だという話だ」


そういってふいにノヴァは周囲を見渡してから、ふむと呟き顎に手を当てる。そして、しばし考えた後に「こっち」と言いながら、先導して歩き出す。すれ違うたびにノヴァに対して会釈をしてくる人に対し、彼は必ず「ご苦労」「おはよう」と言葉を添えている。城内で彼の評判がとてもいい要因を、クラースは垣間見えたきがした。

暫く歩いた後にアウィスが問う。


「一体どこに向かっている?」


ノヴァは一瞬振り返ったが、足を止めることは無い。


「先程窓からアウローラの姿とウェリタスの姿が確認できた。ウェリタスの家の役割は知っている。そして今日、父上は朝重要な客人と会うので昼まで執務室へを通すなと昨夜おっしゃったのさ。総合的に判断するに、アウローラが何やらやらかしたのだろう?父上の事だ、彼女をどうこすることは無いと思うが」


二つほど階段を上った壁際でノヴァは立ち止まる。そして階段を上りかけている2人の方を振り返る。その表情は不満げそのものだ。


「ウェリタスとアウローラが親し気にしてるのが、非常にに気に喰わない。ので、会話の内容を盗み聞きしよう」


にっこりと彼は笑うが、目が全く笑っていない。


「いいのか、それ」


勿論クラースもそのつもりではあったのだが、有無を言わせないようなノヴァの表情に気おされてそんな質問をしてしまう。すると、ふっとノヴァは笑いドヤ顔をする。


「いいかい?執務室に通すなと言われたが、会話の内容を聞くなとは言っていないのさ」

「屁理屈というものではないか?」

「思考が銃何といい給え。おっと、止まってくれ」


廊下に出ようとするクラースとアウィスをノヴァが手で制す。ノヴァが壁に背を付けて覗き込んでいるその先を、2人は同じようにして見る。すると、ひと際大きく装飾の施された扉に丁度今アウローラとウェリタスが中に入って行くところだった。

バタンという音が廊下に響き、続けて、ガチャリと鍵が掛けられる音が聞こえて来た。

三人は頷き合うと、足音を消して扉に近づく。

何かいけないことをしている気分と好奇心が入り混じり、何故か段々とおかしくなってきてクラースの口元は緩んでしまうが、アウローラのいつもの可愛らしい声ではない、冷静な、やけに大人びた声が聞こえてきて一気に体温が下がっていく。

三人はただ、静かに、扉の中の会話に耳を澄ませるのだった。


・・・時を同じくして、王城正門。


「せっかくアウローラ様と愛を深めようお菓子を作って来たのに、なんで王城の使者が来るのでしょう」

「でも、何故アウローラ様お一人という話なのか理解できませんわ。あの方は何もしておられませんのに」

「ルミノークス、まだいけないことをして呼ばれたとは限りません。もしかしたら!アウローラ様はやっとで私達の聖騎士としての称号を頂けるのかもしれないですよ!そしたらまた一層一緒に居られる時間がっ!」

「フロース、嬉しいのは分かりますわ。ですが、その顔は少しだけみっともないですわよ」


フロースとルミノークスは今日1日フリーだということで、アウローラと共にお茶をしようと思ってプラティヌム伯爵邸へと足を運んだ。勿論何も言わずに来るのは失礼にあたると思い、数日前にこの日は少し一緒にいてもいいですか?と声を掛けてあった。アウローラは爽やかな笑顔で「いいよ」と返事をしてくれた、のだが、早朝王城の使者がやってきてアウローラは登城したと玄関先でミールスに聞いたのだ。

今日の予定をアウローラはしっかりと覚えていて、慌ただしい準備を終えてミールスに断りの連絡を入れて頂戴と彼女はちゃんとお願いしていた。が、その連絡を受けるよりも早くフロースとルミノークスはプラティヌム伯爵邸へと出発してしまい、入れ違いとなってしまったのだ。

謝るミールスに「大丈夫です」と言ってから、フロースは笑顔でこう言った。


「王城に行って文句を言ってきます」


こうして、今に至るのだ。

2人は王城についたものの、どうやって中に入ったものかと考えていた。聖女と言っても、まだ聖女の力を発揮していないので聖女の権力を使って王城に入るのは気が引けると意見が一致し、ノヴァが運よくこちらを見て田舎というのも見たがそれも叶わなかった。

街路樹の影から正門を覗き込んで、2人は同時にため息をついた。


「どうしますか・・・」

「どういたしましょう・・・」

「あれ?フロースとルミノークス?こんなの所で何をやっているの?」


不意に後ろから声を掛けられて二人とも小さく「ひゃっ」と声を上げてしまう。フロースが振り返ると、そこには申し訳なさ麻生に笑うインベルがそこにいた。


「ははは、ごめんね。そんなに驚くとは思っていなくて」

「いえ、こちらこそごめんなさい。インベル様はどうしてここにいるのです?」

「ん?あぁ、少し図書館に調べ物をね。司書に兄さんが取り寄せをお願いしていた本が届いたと言われて、兄さん早く読みたいかと思って城に戻って来たんだ。それで?いつもは騎士の訓練所に直接行くのに、どうして今日は正門から?正門からは事前申請をした人しか入れないよ?」

「実は―」


フロースがあらましを話す。すると、段々とインベルの表情が曇っていく。重い本を抱き直してから、眉を顰めた。


「今日国王陛下が昼までお客様とお会いになるという話を聞いたんだ。もしかして・・・うん、2人とも一緒に中に入ろうか」

「え!?いいのですの!?」


天からの救いの様だとフロースとルミノークスは手を取り合って喜ぶ。インベルはその様をニコニコと笑顔で見てから、視線を本に移してから「あぁでも」と口を開く。


「まずこの本、自室のおいてからでいい?少し重くて・・・」

「でしたら私少しお持ちますよ」


手を差し出すフロースにインベルはやんわりと首を振る。


「令嬢に物を持たせるなんてことはできないよ。大丈夫。ほら、行こうか」


先に行くインベルの背中をフロースとルミノークスは後を追う。

この時のフロースの気持ちはというと。


―待ってて、アウローラ様!


まるで悪の君主に姫を攫われてしまった王子様のような心持ちであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ