第1部-21話「神話語り」
一話で纏めようと思ったけれどできませんでした・・・
やっとでロサが落ち着いたと思ったら、今度はアウィスにやけに嬉しそうな笑顔で抱き着きながらしきりにその頭を撫でている。
アウィスの性格上、そんなことをされれば嫌がるのではないかと思いきや、彼は半ばあきらめたような表情のままなすがまま、なされるがままになっている。
その光景を唖然として見ている一同だが、扉がノックされる音ではっと我に返る。
慌ててアウローラが扉を開くとお茶の用意ができたミールスがそこに立っていた。アウローラがあまりにも勢いよく扉を開いたので、相変わらず目は開いていないが驚いた表情のままそこで固まっている。
「アウローラお嬢様?どうなされたのですか?」
ミールスの問いにアウローラが背後を気にしながら「あー」と声を出す。
―ミールスは大精霊の姿が見えていないようだし、中に入ってもいいけれど・・・
しかしながら、大精霊の姿が見えない彼女に今の光景はどんな風に見えるのだろうかとアウローラは思う。恐らく、アウィスの後ろに誰もいないのに髪がぐじゃぐじゃにかき混ぜられているという異様な光景に映るに違いない。正直、それを誤魔化すまたは説明をするのがかなり面倒くさい。
どうしようか頭の中をフル回転しながら考えていると、後ろからひょっこりとインベルが顔を出して助け舟を出してくれた。
「あ、お茶をありがとう。ミールス。お茶の用意を僕にやらせてくれないかな?先日ミールスに教わったやり方をやってみたいんだ。ダメかな?」
「私は構いませんが・・・」
「ありがとう!下がってもいいよ」
インベルが笑顔で言うと、銀色のワゴンを部屋に運んでいく。ミールスはちらりと「よろしいのですか?」とアウローラに視線を送り、アウローラは大丈夫だというように頷いた。
ミールスは僅かに肩を落として静かに「何かあれば呼び鈴を」と言って静かに廊下を歩いて行った。その道中、他の使用人に呼び止められ何やら相談を受けている様子をみつつ、アウローラは扉を閉めた。
「手伝いますわ」
「ありがとう、ルミノークス」
「私も手伝います」
「俺も」
「皆働き者だね。さて、俺も手伝うか」
アウィス以外の全員は部屋の中心にあるソファに移動し、インベルがお茶を注いだティーカップを各々自分の席に運んだ。女子、男子という形でソファに腰掛け、身動きの取れないアウィスだけがベッドの上に腰掛けているという形になった。部屋の中に紅茶の香ばしい香りが広がっていく。インベルがサイドテーブルにティーカップを置くと、彼は「ありがとう」と疲れたような声で礼を言った。そこでようやくロサの動きが止まり、だが、アウィスの頭を抱きかかえたまま明るく言う。
『いやぁ、わえは嬉しいなぁ!口では言いながらも、結局わえを頼ってくれるなんて!』
「風の大精霊、君はどうして私が呼んだのか分かっているか?」
ロサは『もっちろん』と言いながら、アウィスから離れて彼の分のティーカップを持ちながら、先程までノヴァが座っていた椅子をアウローラ達が座っているソファに移動させて、その前にティーカップを置いた。そして、アウィスを見ながら掌を椅子に向けた。
どうぞ、ということらしくアウィスはため息をつきながらその椅子に腰かける。ロサは「よっこいしょ」と言いながら、アウィスのテーブルを挟んで正面の位置に腰掛けた。といっても、そこに椅子は無く、空中椅子のような見た目であるが。
ロサは足を組みながら笑顔で腕を組む。
『お前よりも大精霊の歴が長いわえからこの子達に知恵を与えてほしいのでしょうな。確かに知識よりもこの目で見て聞いた人の方が説明をするに適任だ』
「ん?ちょっと待て、大精霊の歴が長いってどういうことだ?」
クラースの質問にロサがきょとんとした表情になる。そして、んん?というように首を傾げて眉間に皺を寄せながら顎に手を当てる。そして暫く黙ってから、何度か頷き、顔を上げた。
『聖女云々を話す前に、まず大精霊の事を話さねばね。知っていることもあると思うけれど、取り敢えず全部話すね。いいでしょ?』
「構わない。隠したところで益になるわけでもないだろう」
深く腰掛けたアウィスがそういうと、ロサが笑顔で頷く。そして、ゆったりとした口調で話し始めた。
『大精霊とは何か、を語るうえでまず必要なのは“母なる大精霊マーテル”、“父なる大精霊パテル”お二人の話だ。世界神話と呼ばれているこれはれっきとした確かな世界の成り立ち、世界の創造の話。では、話すとしよう。
〚大昔“神”と呼ばれる存在がいた。
“神”は人類を繁栄させては壊す暴君のような人格であった。
そんな“神”はある日気まぐれにパテルとマーテルという存在を創り出し、息絶えてしまう。
代わりにパテルとマーテルは世界を創り直すこととなった。
パテルとマーテルは自分たちの力を織り交ぜ精霊という存在を創り出し、パテルは自分の体を大地へと変え豊穣を世界に与え、マーテルは命あるものを創り出し、パテルは大地から、マーテルは空から世界を見守りこの世界にあるすべてを愛している。
それはお話、昔のお話。これに少しだけ、補足をさせていただこう。
“母なる大精霊マーテル”について。女性体の精霊王であり、全ての生みの親。
“父なる大精霊パテル”について。男性体の精霊王であり、全てを維持する。
このお二方は世界の管理をすることが一番の役割の為に、その体を表に出すことは出来ないとされている。なので世界の管理をしやすいように各属性に意識を持たせようと考えた。そこで出来たのが精霊、そしてその精霊を管理しお二方に報告をする大精霊という存在が出来上がった。だけど一つだけ、お二方が懸念することがあったんだ。
それはマーテルから産まれるものは全てマーテルの性質を受け継ぎ、“終わり”があるということ。つまり、全てにおいて“死”あるいは“消失”を迎えるということが決定されているんだ。
小さき精霊ならいざ知らず、世界を管理する側がそれでは不都合を生じやすい。あ、ならパテルが大精霊を作ればいいじゃないかという質問はなしだよ。パテルは、何も生むことができないんだから。
さて、話を戻そうか。
先程、マーテルから性質を受け継ぎといったよね?
マーテルもいずれは死を迎える。ちなみに、パテルはマーテルの反対の性質を持つから死を迎えることは無いんだ。
では、マーテルが死を迎えるとしたらマーテルが一度死んでからもう一度蘇っているように思うかもしれない。そうではないんだ。マーテルは自分自身の死期を悟ると、自らと波長のある人間を探し出して一つの願いを叶える代わりにマーテルの記憶、知識、経験、力、ありとあらゆる自分自身の情報の全てをその人間に渡して、残りの魔力を使いその人間の記憶を全てリセットして体を精霊体に変化させるということをするのだよ。
大精霊は、その力をマーテルから引き継いでいる。小精霊は違うけれどね。
大精霊の場合は大精霊の力と記憶、経験で性格は元の大精霊に似てしまうけれど、人間だったころの性格のままなんだ。人間だったころの性格もあるしね〛
さて、まずここまでだ。何か質問はないかい?』
話を聞いて全員が押し黙ってしまう。
このゲームをプレイしたこのあるアウローラも例外ではなく、というよりも、このような話は他のルートで話されたことがない。だがしかし、とアウローラは今までの事を思い出しつつ納得した。
全ての大精霊にあった時に感じた僅かながらの違和感。それは恐らく全ての大精霊が生まれた時間、今ロサが説明であったところによると人間であった頃の生きた時代が違っているからだろう。時代が違えば所作も違うだろうし、僅かながらに顔立ちも違っているだろう。
フロースが「はい」と軽く手を上げた。
「あの、大精霊が、その、人間を・・・その」
質問しようとしてフロースが言い淀む。恐らく、どう表現していいのか分からずに必死に言葉を探しているのだろう。すると、察したアウィスが口を開く。
「体を貰った人間によって周期は違う。体を貰った人間の魔力が高ければ、精霊体を維持することができる期間が長くなる。最低で恐らく200年から300年程だろう。私は300年程経過したが、まだまだ維持は出来る」
「アウィスが300年程なのかい?ちなみに、今いる大精霊はどのくらい歴が長いのか教えてくれるかな?」
ノヴァの質問にアウィスは顎に手を当ててからロサを見た。つまりは知らないということなのだろう。
ロサは少し考えてから口を開く。
『正確にどれくらいかというのは分からないけれど、一番若いのは火の大精霊だね。見たらわかるよ』
アウローラとクラースが心の中で「あぁ」と納得をする。
何となく、そんな感じはしていた。
『若い順番で行くと、火の大精霊、土の大精霊、水の大精霊、光の大精霊と闇の大精霊は同時期で、古株なのはわえだ』
誇らしげに胸を張るロサ。
「ちなみにどれくらい長いんだ?」
クラースの質問にロサが少しだけ寂しそうに笑う。
『ちょっと忘れたかな。でも結構昔だよ』
「それにしても、光の大精霊様と闇の大精霊様は同時期なのですのね」
ルミノークスの言葉にティーカップを持とうとしていたアウィスの動きが止まる。だが動きが止まったのはその一瞬だけで、すぐに何事もなかったようにお茶を啜る。
「そうだ」
「知り合いとかだったとか?」
「そんなところだ」
インベルの質問には答える気がないというような素っ気ない態度をしるアウィスは、思いを馳せるように茶色いお茶を見つめてからティーカップを置いて腕を組んだ。
「その話はいい。長くなる。質問がなければ、ロサ、話を続けてくれ」
『もー。そんな態度をとってたいら皆に嫌われちゃうぞ☆』
ぷにぷにとロサがアウィスの頬を突くと、明らかな苛立ちを含んだ視線でロサを睨み付けた。ロサはわざとらしく「こわーい」などといつもよりワントーン高い声で言いくすくすと笑う。
なんというか、威厳満ちたアウィスよりもロサの方がなんというか人間離れをしている、精霊然としているような気がしてきた。アウローラはそんなことを思いつつお茶を一口、飲み込んだ。
一瞬、ほんの一瞬、ロサがアウィスを、侮蔑を含んだ冷たい視線を向けたように見えたのだが、次の瞬間には笑顔のロサがそこにいた。幻覚でも見たのだろうか、とアウローラは目頭をもんでいるとロサが続けて話し始めた。
『では次の話。現状と聖女とは何たるかという話。ここからは結構長いから気を付けてね』
皆が頷くのをロサが見届けると「よろしい!」とにっこりと笑った。
『勉強熱心で良いことだ。さてさて、始まりの話をしよう。
〚まず聖女の話をしよう。
本来は聖女二人がこの世界に誕生した際は大精霊が分かるようになっているんだよ。今回は何か理由があって分からなかったみたいだけれど。それでその子らが誕生した際に、その家族、本人に説明とやるべきことを伝えることになっているんだ。これは別段マーテルから指示されたということは無いけれど、昔、聖女が生まれた時に聖女の使命を話さなかったばかりにその力を悪用した人間が現れてね。聖女は世界の敵になった事件があったんだ。それ以来、聖女が生まれた時に大精霊が姿を現して説明するようになったんだ。それ以来は、聖女が世界の敵になるような事態は避けられているんだ。
そして、聖女は本来“聖女の力”が生まれた時から使えるようになっているはずなんだ。
イレギュラーばかりな今回はそれも無いようだけれど。
あぁ、別段君らを責めているわけでは全くないんだよ。悪いのはそういうことをした奴だもの。
“聖女の力”とはいったい何なのかというのは、ごめん、説明しかねるんだ。その時代の出来事にあった力だから。
怪我人が多く出た時代にはすべてを癒す力、魔物の大軍が襲いかかってきたときは魔物を消し去る力、とかね。
でも恐らく魔法の延長線上にある力ということは確かだよ。全て、魔法の種類に属する者だったから。そして、その力は強大だ。大精霊と同等の力か、もしかしたらそれ以上か。
次に聖女の使命だね。
聖女の使命はその時代によってさまざまだけれど、1つだけ共通していることがある。
それは“世界が終りかけている”ということ。その終わりを回避するために聖女は誕生するんだ。
聖女はマーテルが選ぶ。母親のおなかの中にいるときにマーテルの祝福が与えられ、力が与えられる。生まれながらに力があるはずというのはこういうことなんだ。
今回の使命は恐らく皆勘づいているだろうけれど、闇の大精霊をどうにかすることだ〛
だけどね、聖女にはもう一つ使命がある。どちらかというと、闇の大精霊の事はおまけでこっちの方がメインといっても過言ではないかな』
その言葉を聞いて僅かにアウィスが眉を顰める。
アウィスの反応を見ていたアウローラが、口元に手を当てて考える。
先程からロサが闇の大精霊についてを話す旅にその表情は固くなっていく。これはもしかして、闇の大精霊とアウィスは知り合いというレベルを超えているのではないだろうか。
前世で弟がネタバレを言いそうになったことを思い出そうとするが、それはクラースの質問によって阻まれる。
「他に何か問題でもあるのか?」
『ある。あるよ。大いにある。申し訳ないが正直言うと、聖女が定期的に誕生している時点でその問題は長年経った今でも片付いていないう証明にもなるんだ』
「ん?ロサ、つまりどういうこと?」
思わずアウローラが聞き返すと、ロサは首に手を当てた。
そして風の魔法で本棚から一冊の絵本を取り出すとそれをことりとテーブルの上に置いた。
可愛らしい表紙の絵は、黒い影のような王様に剣を持った少年と可愛らしい少女が立ち向かっているようなものだ。
これは昔よく読んだことがある。
昔本当にあった出来事を絵本にしたものだ。
聖女と勇者の少年が世界に悪さをしている魔物を率いた王様を倒しに行って、最後は王様を倒して世界が平和になりました、というお話で、ヒストリアシリーズ1作目の話と類似していることから、恐らくその時の、始まりの聖女と勇者の話を絵本にしたものだろう。
アウローラが知っている1作目の話とは結構違うようだが。
『一応伝わっている話では、始まりの聖女が悪しき王を勇者と共に倒したというお話が主流になっている様だね。この絵本はよくできている。道中はいいとして、最後は事実と全く異なっている。というか、この話が現代まで残っていないとは由々しき事態だ。今まで聖女と関わってきた大精霊たちの責任でもあるけれどさ』
風でぱらぱらと絵本が捲られ、最後のページが開かれる。
祝福されている聖女と勇者、みんな笑顔でハッピーエンド。
絵本ならば、これが正しい結末だろう。そう、絵本ならば。
『悪しき王、我等大精霊たちは“原初の厄災”と呼んでいるこの初代聖女と戦ったこの存在はね。まだ退治されていないんだ』
え、とアウローラとアウィスの声以外が重なる。
知っていた。知っていたとも。
第1作目でいずれ続編があるのではないかと囁かれた主な理由はそこだ。ラスボスが完全に死んだわけではないのだ。
『聖女という存在はこの“原初の厄災”に対する対抗手段として力を与えられた存在の事。それ故に、この“原初の厄災”がこの世界に存在しなければ聖女が生まれるはずがない。聖女の本来の使命はこの“原初の厄災”を完全に倒すことなんだ。何千年も前からこれの為に聖女はこの世界に誕生し続けているんだよ』
次回も説明回になります。




