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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-20話「ご対面」

「・・・なるほど」


いつもよりも低いノヴァの声が部屋に響く。

食堂での一悶着の後、もう少し落ち着けるところはないかという物言わせぬような笑顔でノヴァがミールスに尋ねて案内させたのはアウローラの自室の隣にある客室。

何かあればこの場所にクラースが寝泊まりをするため、他の部屋よりも色々なものが一式揃っている部屋だ。

最近も使ったのだが、掃除が行き届いており綺麗である。

アウローラの自室と家具は大差がないのだが、やはり客室とあってアウローラの部屋よりも暗めの色で統一されている。

部屋に着くやいなや、ミールスはお茶の準備をしてきますといってそそくさと退出してしまう。アウローラは心の中で「あぁ逃げやがった」と思ったが、本来この状況説明に彼女は必要ないし当事者はアウローラのみだ。なので彼女を非難するのはお門違いなのだが、それでもいるといないでは心のゆとりが違うものであろう。


さて、アウローラの説明、というか経緯を全て聞いたノヴァは低い声を出したもののその顔は笑顔である。因みに今の部屋の中の状況なのだが、ノヴァが1人掛けの椅子に座りその後ろにクラースとインベル、ノヴァの隣に腕を組んだフロースが、アウローラとノヴァの間に少しオロオロと戸惑っているルミノークスが、アウローラはというとノヴァの目の前で正座をしており、後ろにあるベッドにアウィスが退屈そうに足を組んで座っている。

この状況を見れば、誰が屋敷の人間だか全くわからないような状況だ。

恐ろしいノヴァの笑顔を上目遣いで見ながら、ちらりとクラースに視線を送る。

彼は瞳を伏せて首を振るのみだ。

つまり、大人しく怒られろということらしい。

一呼吸の沈黙、後口を開いたのはフロースとノヴァだ。


「馬鹿か」

「馬鹿ですか」


同じ言葉の2人の声が重なる。

一瞬2人の視線が絡んだが、すぐにふいっと逸らしてアウローラに視線を戻す。


「治癒魔法を使っても傷を完治するだけであって、痛みが残るのは理解しているだろう?そんな万全ではない体調のまま屋敷を抜け出してしまうなんてアウローラは馬鹿か?」

「話を聞く限りでは、模擬戦とかそういうものではないのですよね?一歩間違えたら死んでいたかの知れないのですよ?私達を守ってくださると思ってくれるのはとても嬉しいですが、それは少しやりすぎです」


フロースがチラリとルミノークスに視線を移すと、ルミノークスも頷いた。


「そうですわ。とても嬉しいのですが、わたくし達はそこまでして貰いたくはありませんわ」


思わぬ言葉にアウローラは弾かれたように顔を上げる。

驚き目を見開いたその表情はどこか泣きそうな表情だ。

インベルが慌てて間に入る。


「ま、まぁまぁ、アウローラもフロース達のことを想って強くなろうとしたから行動を起こしたみたいだし。あんまり怒らなくても」

「インベル様は少し黙ってください」

「ハイ・・・」


フロースの強い口調にインベルが肩を落としてクラースの元へと下がる。落ち込んでいるインベルの肩をクラースがポンっと叩いて顎でフロース達を指す。


「少し見守ってようぜ」

「・・・うん」


心配そうなインベルの視線がアウローラに向けられるが、彼女はまだ固まったままだ。

何か言おうと何度か口を開ことするが、声が出ないようだ。

するとフロースがアウローラに近づいてそっと抱きしめる。

突然の出来事にアウローラは戸惑いながら「フロース?」と名を呼ぶ。彼女は静かに、諭すような声音で言う。


「私もルミノークスも、アウローラ様のことがとても大好きです。だから、私達もアウローラ様をお守りしたいと思っております。お願いしますから、独りで強く成ろうとせずに、私も一緒に強くさせてくださいまし」

「わたくしもですわ。フロース。アウローラ様、わたくし達は聖女以前に貴女様の友人ですわよ。友達に守らせてふんぞり返るなどできませんわ」


ルミノークスは照れたように笑いながらアウローラの手を握る。

アウローラの視線が泳く。その表情は固く、何かを堪えているようだった。

それは決して、涙ではない。


「うん・・・ありがとう」


暗い声音でアウローラは応え、フロースの背に手を回す。

アウローラの真意に気が付いているのはアウィスだけであり、他の皆は何も気が付いていない。ベッドにいるアウィスはその光景を見ながら、ただ黙って何かを見通すように目を細めている。

ノヴァがため息をつきながら、背凭れに体重をかける。


「今後、命知らずな行動は慎むようにアウローラ。君がいなったり大怪我をすれば俺はとても悲しいし心臓が止まる気持ちになる。俺を長生きさせるためにも、そういう行動はやめてくれると助かるけどね」

「素直なんだか、素直じゃないんだか・・・」


ノヴァの言葉にインベルがため息をつきながら呟く。

ノヴァは小さく「うるさいな」と口を尖らせて肘でインベルの胎をつく。小さく彼は呻きながら腹を抑えて軽く笑った。


「それじゃあ、後はアウィスに説明を頼むぜ」


話が一段落したところでクラースがアウィスに声を掛ける。彼はすっかり飽きているようで室内にあった本をつまらなさそうにぺらぺらと捲っており、クラースの事を完全に無視している。

イラっとしたクラースとフロースが離れ自由になったアウローラはアウィスが持っていた本を取り上げた。


「聞けよ」

「ん?あぁ、終わったのか」

「というか、聖女達とちゃんと会ったのに反応薄くない?」


アウローラの言葉にアウィスはちらりとフロースとルミノークスの事を見る。彼女たちは顔を見合わせてから、アウィスの顔を見るが首を傾げてしまう。


「君、光の大精霊・・・なんだよね?」


インベルが思わずアウィスに問いかける。するとアウィスはすっと目を細めてふっと笑う。


「お前はなんともまぁ奇特な体をしているな。その体は生きにくいだろう」

「!?」

「アウィス」


アウローラが咎めるように名を呼んだ。

隠すように赤い瞳にインベルが手を当てる。

含みのあるアウィスの言葉にアウローラ以外の全員が首を傾げて顔を見合わせた。

インベルはこのメンバーでお茶会をするようになってから、自分自身の目の事と両親のことを話した。あの赤い瞳は胎児の頃に魔力を浴びてしまったためにできてしまったものと説明していたのである、だが、ゲーム本編ではもう一つの彼の力について発覚する。

あの赤い瞳は魔力を胎児の頃に受けてしまっただけではなく、母親の胎が裂かれて瀕死だったインベルに魔法研究員だった父親が魔力を浴びて性質が変わった右目に魔鉱石の純度を最高まで高めた結晶を埋め込んだからである。なのでインベルの魔力は他の人よりも高く、魔力の浸透も高い。つまり、魔法について質も量も一級だが魔力の影響を受けやすく魔法の影響も受けやすいというものだ。

しかしながら、それは外的要因によってできた力の為本来インベルが持つ能力ではない。体内の魔力の循環はインベルが無意識に制御している。インベルが意識を失ったり命の危機がさらされない限り正常なのだが、何かがインベルの身に起きると魔力の制御ができなくなり暴走状態となる。

この様子だとインベルはノヴァにも話していないようだ。

アウローラがちらりとインベルを見ると驚いた様な表情でこちらを見ているようだったが、なにも答えずにアウィスの軽く叩いた。


「もう少し気を遣いなさいよ」

「何故?」

「人間関係を円滑にするには必要な事なの」

「そうか。なるほどな」


うんうんと何度もアウィスは頷く。

本当にわかっているのかと不安になりながら、アウローラはため息をついた。


「まず自己紹介ですかね?」


フロースがそういうと、スカートの裾を摘まみ上げ、恭しく頭を下げる。


「聖女を拝命させていただいております、フロース・クリュスタルスと申します。光の大精霊様にお目にかかれるとは思いもしませんでした。よろしくお願いしたします」

「わたくしも聖女を拝命させていただいております、ルミノークス・セレーニーティと申します」


ルミノークスもフロースに倣い同じようにスカートの裾を摘まみ上げる。

それにしても出会った頃はもう少し自信なさげであったのに、堂々と挨拶を出来るようになったものだと我が子の様にアウローラが感心する。


「光の国第二王子、ノヴァ・アウルム・アルガリータと申します。王族の一員としてこの国に溢れる美しき光の加護に感謝申し上げます」

「光の国第三王子、インベル・アウルム・アルガリータと申します。王家の血は流れておりませんが、王族の一員として過ごさせていただいております。お目にかかれたこと、光悦至極にございます」

「・・・俺はいいか。一回自己紹介したからな」


皆が恭しく頭を下げる中クラースが頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。


「そんなに固くならなくてもいい」とアウィスは言い、皆が顔を上げた後全員の顔を見てからふっと笑う。


「それにしてもまぁ、アウローラの交友関係は広いな。王族の息子と養子、聖女二人に騎士の息子か。これで公爵がいれば完璧だな」


一体何が完璧なのかとアウローラは内心で毒づく。

それに公爵子息はどのような関係になれるかは分からないが、今後現れることは確定している。勿論、攻略対象だからだ。

ウェリタス・コラリウムというのだが、年齢は2つ上で理由があって年齢を偽って学園に入学する。年齢が違う故に接点が全くないのだ。ノヴァとインベルはあるだろうが、一度もあっていない人物の近況を聞くなんてできるわけもない。

見た目は確かすらりと背の高いブルーネイビーのゆるふわパーマで琥珀色の瞳を持った見た目は好青年風な青年、だったはずだ。その性格は女性好きでいろいろな女性と関係を持っていると噂のプレイボーイと紹介されていた。


「別にいいでしょ。ほら、一方的に知っていても皆は君の事知らないだろうから自己紹介しなさいよ」

「アウローラは私の姉か?」

「一応義姉役よ。ほら早く」

「やけに手慣れているな・・・まぁいいか」


渋々と言った風にアウィスはため息をつき立ち上がって胸元に手を当てる。頭を下げるその仕草は、やはり気品がある。


「光の国に住まう国民よ。私こそが光の国守護精霊たる光の大精霊である。諸事情により現在は肉の器に入り、アウローラよりアウィスという名を頂戴した。暫しの間このプラティヌム伯爵家に滞在することになった。以後よろしく頼む」


クラース以外の全員が皆一様に頭を下げた。

すると「つかよ」とクラースが呟く。


「さっきの“認識の改竄”っていうやつをやればよかったんじゃねぇのか?そうすりゃ別段詳しく説明しなくても済んだんじゃねぇか?」


確かにそうだ、とアウローラはアウィスの顔を見る。

“認識の改竄”をしてアウィスをただの留学生と今だけ認識させておいて、また後で説明するという手法でもよかった。

しかしながらアウィスの表情は浮かない。


「あれは少し特別な条件下ではないと使えない。それに、あれを使って風の大精霊にこっぴどく怒られた」


げんなりとした表情のアウィスなのだが、アウローラもクラースも何のことやらと顔を見合わせる。

アウィスは“認識の改竄”の説明を使用としたが、ロサに“説明するとかなりアウローラとか人間は怒るからしない方がいい”と口止めされ“あんな改竄に使うならあれ一回きりにしてくれよ”と念押しされていたのを思い出し口噤む。


“認識の改竄”はただ人間に大精霊の姿を誤認させるだけというものではない。

そもそも、大精霊は魔力を固定し肉体を世界に留まらせることは出来ても、その存在自体を改竄することは出来ないのだ。世界の生命はマーテルによって管理されている。大精霊はマーテルの管理外なので、大精霊が人間の様に肉体を持ち名前を持つとマーテルが管理している数よりも一つ多くなってしまう。

それはダメなのだ。

マーテルが管理しているものを大精霊が勝手に増やすことは出来ないし、マーテルでさえ決まってしまったものは変更を出来ない。

ちなみに大精霊の魔法は“許可された権利”であるため申請をしなくてもいい。

世界に関することは、大精霊はマーテル及びパテルに許可を申請し認可されたものしか世界に行使できないのだ。

では、アウィスはどうして名前を得て肉体を得ることができたのか。

マーテルは“変更”は出来ないが“書き換え”は出来るからだ。

アウィスがこの肉体を得るときに、アルスとマグナが深くかかわったことのある人物で最近この世からいなくなり、条件に合うような人物の情報とアウィスの情報を書き換えたのだ。

つまりアウィスの存在をこの世界にねじ込むために、アルスとマグナの中から一人の記憶を書き換えアウィスという存在を植え付けたというものだ。

ロサが『えげつない』といったのはこういうことである。

2人の記憶の中から一人の存在を書き換えて自分の存在を植え付けるということは、その人物が存在した記録さえものっとってしまうことなのだから。

僅かな時間だからとアウィスは申請を出したのだが、こんなに長期間人間の姿であると思わなかったために、徐々に良心が痛み始めている。それしか思いつかなかったからしょうがないと言えばしょうがないのだが。

特別な条件とアウィスは言ったのだが、正しくはその存在を書き換えさせてもらった人物をノヴァ、インベル、フロース、ルミノークスは知らないために適用されないのである。

ちなみにその人物の生きていた情報は帳尻合わせが行われており、もしアウィスが肉体を捨ててもとの精霊体に戻ったのならばそれは元通りになる。


何かを隠していると確信したアウローラが無言のまま詰め寄るが、彼は口を噤んだままそっぽを向く。


「あのアウィス様・・・とお呼びしてもよろしいですの?」

「ん?あぁ構わない」


ルミノークスの言葉に僅かに安堵したアウィスが応える。渋々、アウローラは詰め寄るのをやめて小さく舌打ちをしながら離れた。


「アウィス様、わたくし達聖女になって日が浅いのですの。知らないことの方が数多くあると思いますわ。なので何か知っていることがあれば、聖女について、この世界について、教えていただきたいのですけれど」


隣のフロースもうんうんと頷く。

聖女の文献は限られているために大精霊本人に聞くのが一番手っ取り早い。

アウィスは顎に手を当てて、少し考え込む。そしてアウローラを指さした。


「アウローラ。風の大精霊を呼んでくれないか?」

「え?ロサを?いいけれど」


アウローラは言われた通りに腰に付けていたポーチから布に包まれた緑色の鉱石を取り出して、魔力を流した。すると鉱石が一気に熱を持ち、窓が開いていないというのに部屋の中に強い風が一瞬吹き、新緑の匂いが部屋に広がった。


『呼ばれてロサ参上!アウローラ!お呼びかな?あれ?今日人多くない?』


小さい姿ではなく等身大の姿で騒がしく現れ、周囲を見渡してからアウローラの頭に肘を置いてけらけらと明るく笑う。


『あーこんにちは!聖女二人に王族2人、あの時の騎士クンもいるんだね。おや?もしかして一人だけ呼ばれちゃった?どうもどうも、風の大精霊ロサだ。アウローラの友人だよ。よろしくね』


一気に喋るとふよふよと浮いたまま順番に握手をしていく。


「・・・失敗したかな」


呆気に取られて握手していく皆と明るくくるくると忙しなく動き、やたらとテンションの高いロサ。

もう少し大人しくしてくれないかと、アウィスは痛そうに額を抑えるのだった。



次回説明回です。

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