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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-17話「改竄」

お説教を終えて甘い匂いにつられてアウローラは調理場へと足を進めた。

一体何時間たっただろうかとアウローラは道中時計を見るが、自分自身が思っているよりも全く時間が経っておらず、更に疲労感が増した。

調理場へと行くと案の定ミールスが焼き菓子を作っており、さも当然の様にお茶の用意もしてくれてそのお菓子を頬張ろうとしたのだが、今回の事において全面的に自分が悪いという罪悪感を持っていたアウローラは、切り分けたものをアルスの執務室へと届けに行った。

残りはマグナ達の元へとミールスが届けてくれるようで、集中して慎重にアウローラは執務室へと運んでいく。

アルスは甘いものを好んで食べる。しかも、愛娘自らが自分の為に持ってきてくれたものだ。喜ばないはずがなく「これを食べ終えたら昼食に降りる」と優し気な笑みを浮かべ、アウローラの頭を撫でた。

静かにアウローラ執務室を後にし、窓の外を見つめながら先程アルスが触れた自分の頭に触れる。

緩む頬を両手で叩き、意気揚々とミールスの元へと戻ろうとしたとき、1階に降りると玄関から声を掛けられた。


「アウローラお嬢様―!」

「あ、ルーベル!!」


アウローラは階段を降りながらルーベルの元へと駆け寄る。

彼女はアウローラを受け止め、くるくると回ってくれる。

ルーベルはミールスと仲が良く、さらにアウローラの訓練時のお弁当を喜んで作ってくれ、何よりリクエストをよく聞いてくるためアウローラもよく話をするのだ。


「ルーベルは買出しから戻ったの?」


降ろされたアウローラは首を傾げながら彼女の後ろを見る。そこには、20代前半で枯れ草色のツナギを身に着けている亜麻色の髪を持つ好青年と体格のいい浅黒い肌を持つ黒髪の屈強な男性が立っていた。亜麻色の髪の好青年は膝に手を当て息絶え絶えで、黒髪の男性はそれを見て笑っている。


「し・・・ししょー、わ、わらわないで、くださいよ」

「いやぁすまんすまん。相変わらず力がないなお前は」


亜麻色の髪の好青年はコンキリオ、黒髪の男性はノドゥスでどちらも庭師兼プラティヌム伯爵家専用魔法士だ。庭師はもちろん家の庭園の手入れを主にし、専用魔法士は主にこの屋敷にやってくる不審者の探知及ぶ屋敷に常時展開してる防御魔法を管理している者たちの事で、家の歴史が古い貴族程雇用している。

2人ともミールス、ルーベルと同時期にやって来たらしく、4人含めて同期となっている。この2人とミールスが話をしているところはあまり見かけないが、ルーベル曰く仲は悪くは無いらしい。

ちなみにコンキリオはノドゥスの事を“ししょー”と呼んでいるかは不明で、2人の実年齢もあまりわかっていない。だが、アルス曰く身元は保証されているので悪い人間ではないとのことだ。


「おーアウローラお嬢様今日も元気だな!」

「あ、こんにちは」


ノドゥスは黒曜石のような黒い瞳を細めて手を上げて見せて、コンキリオは夏の木々のような深い緑の瞳を瞬かせてから弱弱しく笑う。彼等の隣には木箱が8つほど摘まれている。


「これ、全部城下町から買ってきたの?」

「あぁそうさ。本当は昼食の分だけと思ったんだが、豊作らしく安くて。まぁこれくらいなら余裕で持てるから大丈夫かなと」

「それ、ルーベル姉さんとししょーだけですって。あ、あと、ミールスちゃん。俺は二箱で限界・・・」

「もうちーっとお前の体力増やさないとなぁ。鍛錬増やすかー」

「えー・・・勘弁してくださいよー」


げんなりとした表情で大袈裟にコンキリオは肩を落とす。ケラケラと笑うノドゥスは本気なのか冗談なのか傍から見ればどちらかが全く分からない。ルーベルは「はいはい」と言いながら手を叩く。


「ほらほら早く貯蔵庫に入れないと痛む。あと一息頑張れ。酒を驕ってやるから」

「えー!!本当!?よーし、ししょー頑張るぞ」

「そうだな。ルーベルの財布を空にしなきゃだな」


そう言って2人はひょいっと木箱を持ち上げて調理場の方へと歩いて行く。

2箱云々はどうしたんだとアウローラは思いながらその背中を見送り、ルーベルもため息をつきながらその後の続こうとしたとき「あ」と何か思い出したように立ち止まりアウローラへと振り返る。


「アウローラお嬢様。芋、魚、肉、どれがいい?」

「魚!!」


アウローラが即答すると彼女は「了解」と言いながら後ろ手に手を振って去っていく。

この質問はいつもルーベルがメインを考えあぐねている時に尋ねてくる質問だ。どうやら最初にあった人物に聞いているようだ。すっかり静かになった玄関を後にして、アウローラは食堂に足を進めた。

食堂へと辿り着くと、ミールスがすでにそこにいて扉を開いてくれた、が、その直後、調理場から雄たけびが聞こえて来た。


「ミールス!!!!」


ルーベルの怒号が廊下に響き渡り、彼女はしまったと表情を歪ませ、僅かに何かを考えた後諦めたように肩を落とした。


「・・・行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」


アウローラはとぼとぼと歩くミールスの背中を見送って食堂の中に入るともうすでにアウローラ以外が全員揃っていた。アウローラは優雅に頭を下げ、静かに丸テーブルの自分の席に着くと、右隣りにいるクラースが尋ねてくる。


「さっきのルーベルさんの声だろ?どうしたんだ?」

「わかんないけど、多分ミールスが怒られるやつじゃないかな」

「わー・・・」


一度調理場のガラスを割ってしまってこっぴどく叱られた経験のあるクラースが憐れむような視線を調理場の方向に向けて、両手で祈る。

ちらりと、正面にいる光の大精霊を見ると、彼はにっこりとアウローラを見つめてきている。

その美貌で笑いかけられたら普通の少女ならば恋に落ちてしまうだろう、が、彼の正体を知っており、周りが美少女美少年だらけで感覚が麻痺をしているアウローラには全く響かない。

何故昼食を共にするという提案に乗ったのか尋ねたかったが、アルスとマグナがいる前では下手に彼の正体を暴けば自身の国を守っている守護精霊が目の前にいる事実を受け止め切れず彼等が卒倒しかねない。

食事ができるまではもうしばらくかかるようで、使用人が爽やかな香りのフレーバーティーを用意してくれた。

使用人たちが下がり、室内に5人だけになった時にアルスが口を開いた。


「先程の話の続きをしようか。光の国には留学に来ているのだって?」


アルスの質問に光の大精霊はにこやかに頷く。それをクラースは訝しげに見ているが、あまりそんな風に見てはいけないと視線で訴え、肘で小突く。


「はい。闇の国は魔物討伐業が盛んでして、僕の家は魔物の素材を加工して装備品にすることを生業としている商家なんです。昨今はデザインに関するものや他国からの注文も多く、丁度兄弟が5人いるのでそれぞれ他国にわたってその土地で流行しているものを家に持ち帰るということをしているのですよ」

「あら、それは大変ね」


マグナが一口お茶を飲んでから眉間に皺を寄せ心配気な視線を彼に向けた。


「そうですね。宿代もかさみますし」


物憂い気な表情を浮かべて光の大精霊は首を左右に振る。


『うわ、えげつないことするなぁ。流石目的の為に手段を選ばない大精霊ナンバーワン』


アウローラの耳元で声がしてびくりと肩が跳ねる。そちらへ視線を向けると、小さくなった風の大精霊がクラースの肩に肘を駆けながらにやにやと笑っている。その表情からは嫌な予感しかしない。

ふと周辺を見ると、他の大精霊も空中を漂っていた。


『それでもこれはやりすぎでは?』

『べっつにいいんじゃないかい?罰も何も起きていないし』

『それよりオレ帰っていいか?』

『『『だめ』』』

『うそだろー』


他の大精霊から自国に帰ることを否定されてしまった火の大精霊は全く悲しくも何もない様な棒読みで呟いて、ふよふよとアウローラの前にやってきて一緒に出されたクッキーを頬張り始めた。小さく「うめっ」と言いながらクッキーが順調に減っていく。それを見たクラースがアウローラの小皿に自分のクッキーを移すと、火の大精霊は嬉しそうに俺の者だと言わんばかりにクッキーを両手で抱えて一つずつ食べていく。

ここまで派手な動きをしていてもマグナとアルスが反応しないということは、恐らくこの大精霊たちのことは見えていないのだろう。


「厄介な事って何?」


風の大精霊に尋ねると、にやりと笑って顎で光の大精霊を指す。


『見ていればわかるよ』


ふと光の大精霊へと視線を移したが、突如風の大精霊が目の前に来て無理矢理瞼を閉じらせた。


「え?ちょっと、何?つめた!」

「うぉっ」


クラースも同様らしく、2人は小さく声を出すがアルスとマグナは光の大精霊との話に夢中だ。

アウローラとクラースは瞼に何かを塗られたのだが、すぐに違和感は無くなり触れても何も手につかない。

何をしたのだと風の大精霊に視線で抗議したが、素知らぬ顔している。するとアウローラの頭に水の大精霊が、クラースの頭に土の大精霊が腰掛けて口を開く。


『それは土の大精霊お手製の良く見える軟膏さ』

『光の大精霊をよく御覧になってください』


一体何事かとクラースとアウローラは顔を見合わせてから光の大精霊の方へと視線を向けると、微かに光の大精霊の瞳が白い光を帯びている。これは一体何だろうと、ゲームでの知識を思い出すが、光の大精霊ルートをやっていないアウローラには分かるはずもなかった。


「ねぇこの屋敷の部屋を貸してあげるのはどうかしら?」


ふっと光の大精霊の瞳の光が消えた後、突如としてマグナがそんな言葉を言い放った。


「「は!?」」


思わずクラースとアウローラの声がシンクロする、が、マグナとアルスは意に介していないようだ。


「おぉ、いいな。アウローラにも他国の知識を与えるいい機会だし、この屋敷で過ごしてくれればアウローラのいいお目付け役になってくれるだろう」


いつもは警戒心の強いアルスが快諾をしているとアウローラはわなわなと震える。

もしかして、大精霊たちが言っていたことはもしかして、と嫌な予感が確信に変わり始める。


「それは願ってもない申し出ですが、よろしいのですか?」

「えぇ勿論よ!」

「歓迎するよ」

「ちょ!ちょっとまってくれ」


アウローラではなくクラースがマグナとアルスを止めようとする。

正直助かった。これ以上光の大精霊と関わるとこれからの予定に狂いが生じてしまう可能性が高い、クラースが両親を説得している間に何かいい手を考えなければとアウローラは思考を巡らせていく。


「どうしたクラース」


一体何事かと驚いているアルスの顔に、驚いているのはこちらの方だと2人は心の中で思う。

クラースはその“当たり前の事だろう”と言わんばかりの視線に一瞬たじろいだが、アウローラの方に視線を向け、彼女が頷いたのを見届けると咳ばらいをして続けた。


「え、いや、その、見ず知らずの人を屋敷に住まわせていいんですか?それに、アウローラは一応俺と婚約してるし、婚約している女の子が血も繋がってない人としかも婚約者以外の人と暮らすのは・・・ちょっと、世間的にどうかと」


クラースの言葉にうんうんとアウローラが頷く。

しかし、まるでアウローラとクラースの方が間違っているかのような表情をマグナは浮かべ首を傾げる。


「あら、何を言っているのクラース。()()()()()()()()()()()

「!?」


2人は驚いて声も出すことができなかった。

一体どういうことだ、クラースが視線で問うてくるが、アウローラは首を左右に振る。

そもそも光の大精霊が親類だというのは聞いたことがない。そんなことがあったとしたら、貴族という枠具にはまっているわけがない。


「そうだ。何もおかしいことは無いだろう?」


アルスもマグナ同様の表情を浮かべて首を傾げている。

沈黙が流れる中、扉がノックされ料理が運ばれ始める。

テーブルの上に皿が並べていく音だけが部屋に響き、すとんとクラースが席に着く。

一体何がどうなっているんだと、2人が混乱する中、光の大精霊はゆったりと残ったお茶を口に含んでいるのだった。


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