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騎士令嬢は掴みたい  作者: まつまつのき
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第1部-15話「厄介ごと」

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い申し上げます。

朝だろうかと重たい目蓋に手を当てながら彼女は唸る。

あぁ今日は何をする日だったか。

あの書類はもう上司に提出してOKを貰ったからあの案件は終了だ。そういえばあの病院の先生に資料を持ってきて欲しいと頼まれていた気がする。会社に着いたら、メーカーに問い合わせを入れて・・・・


「たばこ・・・」


目蓋を開かずにいつもベッドサイド置いているタバコケースへと手を伸ばそうとした時、体に激痛が走り「いってぇ」と唸り、目を開いた。


「たばこを吸うのか、アウローラ・プラティヌム」


弟のものではない低い声で名前を呼ばれてアウローラは瞼を開く。しかしながら彼女は寝惚けているようで、笑みを浮かべたままアウローラの顔を覗き込んでいるやけに端正な顔をした少年の顔を眉間に皺を寄せながら確認するように両手でペタペタと触れる。陶器のような滑らかな白い肌や肩下まである銀色の絹糸のような髪をさらりと撫でて、やっとでアウローラの意識が明瞭になっていき、彼女の目が段々と大きく丸くなる。


「え?誰?」


起き抜けだからか僅かに低く掠れた声でアウローラが首を傾げて尋ねて来た。銀の少年が返答しようと金色の瞳を細めて口を開こうとしたとき、後ろから部屋の扉が開き「アウローラ、起きたのか?」というクラースの声が聞こえてくる。そして、現在の状況、クラースの視点から見れば見つめ合っているようにもキスをしているようにも見えるこの状況を見て、クラースはどたどたとアウローラに近づいて後ろから彼女の腕を掴んで自らの胸の中に抱き込んだ。

後ろから抱きすくめられたアウローラは小さく悲鳴を上げたが、振り返りクラースの顔を確認するとほっと胸を撫で下ろしたようだった。その反応をクラースは全く見ておらず、目の前にいる銀の少年をじろりと睨みつけている。

銀の少年はやれやれと言った風にため息をつき、ベッドにあげていた右膝を降ろして腕を組んで壁に寄りかかった。

唸るような声を出しているクラースの腕の中で、アウローラは記憶を辿る。

自分は森の中で精霊と戦闘をした。戦闘中に何本か骨が折れ、腕や足もバッサリと切られていた。それ以上は生命にかかわると光の大精霊に諭され、しょうがないからとお礼を言って帰ろうとして何やら大精霊たちに呼び止められて振り返った時、ぐらりと視界に夜明けが迫っていた空を見た気がする。状況から察するに倒れたのだろう。

しかし、とアウローラは首を傾げる。

目の前にいる銀色の少年は一体何なのだろう。

ん?とアウローラはやけに肌寒いと思い、自分の体を見る。身に着けているのは森で来ていたものではなく、寝巻用のものと似ている白いワンピースだ。クラースが着替えさせてくれたわけではないと思うし、ミールスが着替えさせたのだと思うのだが、それにしてはこのワンピースは見覚えがない。

クラースの腕でずるずると肩から落ちていくワンピースを手で掴みながら「クラース、クラース」と彼の袖を引っ張る。鋭い視線のままクラースはアウローラの方を見るが、はだけそうな白いワンピースを見て硬直した。


「ワンピース、ずり落ちるからちょっと離してくれると嬉しいかな」

「わ!悪い!」


ばっと離れてクラースはアウローラに背を向けた。アウローラははだけたワンピースを直しながら、ベッドの上から降りる。その時痛みを感じだが、どうも体は異常無いようだ。恐らく回復をしたのだが、傷の深さにダメージがまだ残っているのだろう。痛みがあると自覚すれば別段我慢できる。

銀の少年が凭れ掛かっている窓の外を見れば、夜が明けたまだ間もないと言った風だ。そして銀の少年に視線を戻して、じっと観察する。どこかで見たような、と考えを巡らせ、アウローラは「あ!」と声を出す。


「もしかして、光の大精霊?」

「ご明察だ」


何故か嬉しそうに笑みを浮かべる森で見たよりもかなり幼い光の大精霊の後ろから、赤、青、緑、黄色の拳大の光の玉が現れてアウローラの前を漂う。


『俺達もいるぜぇ!』


火の大精霊の声がして、ポンっという音と共に光の玉が手のひらサイズで2頭身の大精霊たちへと変化した。大精霊がこの部屋にいる状況にアウローラはついていけず、クラースの方を見る。クラースはこちらに背を向けていないが、アウローラの方を見ようとしない。


「ねぇ、クラース。これどういう状況なの?知ってる?クラース?」


何か知っているから視線を逸らしているのかとアウローラは疑いの眼差しでクラースを見るのだが、当の本人はアウローラの白い肌を直視できないだけで詰め寄ってくるアウローラを見まいと固く瞼を閉じている。何度かの攻防が続き、ため息をついたアウローラがクラースの頬を両手で摘まみ、軽く引っ張る。反射的に目を開き、アウローラと視線を交えたクラースは観念したように小さくため息をついて視線を逸らしたままやんわりとアウローラの両手を頬から放し、自分か来ているコートをアウローラの肩に掛けた。彼の思いもしなかった行動にアウローラは少し戸惑いながら「ありがとう」とお礼を言って、コートをぎゅっと握りしめる。

咳払いしたクラースが、ゆっくりと話し始める。


―約2時間前


ミールスに教えてもらった通りの場所へとクラースは馬を走らせた。どうか無事であるようにと願いながらはやる気持ちを抑えて先へ進んでいく。林の中を馬で全力疾走をできるほど技量が高いわけではないため、馬を縄で繋ぎ足の強化魔法をかけた時突如正面の木々から色とりどりの光の粒が現れクラースを囲み始めた。


『お客様?』

『今日は多い日』

『あれ、この子』

『うん、内の子』

『外の子の友達?』

『多分?』

『光、光、こちらへどうぞ』

『迎えに来た。迎えに来たよ。僕等の愛』


光の粒がクラースからさぁっと離れていくと、林の奥からぼぉっと光る何かがクラースの元へとゆっくりと近づいて来た。ある程度近づいてきたとき、その光は人の形をしており、そしてその光の腕の中には血まみれの服を纏ったアウローラがぐったりとしていた。目は力なく閉じられ、ぞわりとクラースの背筋に悪寒が走り、同時に体の奥から怒りが湧いて出て来た。腰に掛けている剣を光に向かって走りながら抜き、渾身の力で光に切りかかる。が、それは光の脇から現れた茶色の髪の女性に阻まれる。しかも、昔書物で見た土の国で生産されている煙管一本でだ。軽い調子で剣を受け止めながら彼女は笑う。


『おやまぁ血の気の多い王子様もいたもんだ』

「残念ながら俺は王子ではない。伯爵家嫡男だ」

『王子、はそういう意味で言ったわけではないと思うよ。所謂、この娘を迎えに来た彼女を愛しいと思うという意味だろうよ。そのまんまで受け取るとは真面目な男の子だ。うんうん』


早口で横から現れた緑色の髪を持つ人物に言われ、クラースは驚き後方へ下がった。もう一度切りかかろうと剣に力を込めた瞬間、その手をやんわりと誰かに捕まれた。そちらを見ると、青い髪を見た静かそうな女性がゆるゆると左右に首を振る。


『申し訳ないのですが、今は剣を収めてください。今、状況を説明させていただきます』


さらに奥から現れた僅かに疲れた表情をした赤い髪の男性も合流し、クラースはアウローラの事の顛末を聞かされた。色々驚くことや聞きたいことはあったが、取り敢えず詳しい話などは本人から聞くとしてクラースはぐったりと疲れ果てて寝ているアウローラを受け取る。顔や腕を軽く確かめたが、傷はなく呼吸は整っている。そのことに安堵し、クラースは大精霊たちに彼女の傷を治してもらったことにお礼を言いながら、頭を下げた。


「俺の婚約者が迷惑をかけて申し訳ない」

『いや、別にいいぜぇ。俺は結構楽しかったしよ』

『確かにいい運動にはなったけど、ちょっとその娘、命知らず過ぎない?大丈夫?』


風の大精霊に言われ、クラースは小さくため息をつく。

大丈夫かと問われれば大丈夫ではないのだが、クラースは彼女のことを止める術を落ちわせていない。というより、彼女がどうしてこのように自分の体や命を軽んじているのかを知らないので、止めることができないという方が正しい。

抱きかかえているアウローラの顔をさらりと撫でながら、ぽつりと呟いた。


「本当は、こういうことやめてほしいんだけどな。コイツ、聞かないから。多分これも、聖女二人を守るために必要な事なんだろうけどな」


アウローラがあの二人のことをとても大切にしていることも、2人を危険に巻き込んでしまった自責の念も分かるのだが、正直クラースとしてはあまり面白くない。聖女二人のことが嫌いなわけではなく、むしろ、友人として好きだ。だが、もう少しアウローラ自身を大切にして、自分との時間も作ってほしいと思ってしまう。それに、アウローラを婚約者だと周囲に紹介すると彼女はなぜかとても寂しそうに悲しそうに微笑むのが少しばかり気になる。

でもまぁ、今は無事・・・ではなさそうだが、戻って来てくれてよかったとクラースはアウローラを少し抱き寄せて、別れを告げようと光の大精霊を見た。彼は目を丸くしながら、アウローラを見つめていた。なんだろうと首を傾げていると光の大精霊がやっとで口を開く。


『聖女二人と知り合いなのか?』

「え?あぁそうだ。知り合いというか、友達だ。特にアウローラは聖女二人とかなり仲いいぜ。アウローラは一応王家公認の“聖女の守護騎士”って騎士の間じゃ呼ばれてるぞ」


聖女を守る騎士に称号などないが、聖女の為に日夜努力する彼女の姿を知っている騎士の人間は敬意を込めてアウローラをそう呼んでいる。アウローラがこのことを知っているかどうかは知らないが、彼女が成人し武勲を上げたらその称号を正式にするかもしれないと楽し気にノヴァとインベルが語っていた。

ちなみにこの“聖女の守護騎士”というのは初代聖女と共に世界を旅した青年が実際に呼ばれていた呼び名で、ちゃんと記録にも残っている。初代聖女以降は一人の騎士が守るというものではなく、国を挙げて聖女を守るようになったためそのような人物はでていない。もしアウローラがそのような称号を賜ったら歴史的な事に違いない。

クラースとしては、アウローラの身に危険が及ぶような称号は要らないと思っているが。

何やら考え込んでいる光の大精霊は熟考の末、周囲の大精霊を手招きしてこっそりと何やら話始めた。その光景は大精霊の威厳のある行為などではなく、人間らしい、井戸端会議のようでどこか面白い。

アウローラの重みを腕で感じながら何となく彼等の会議が終わるまでクラースは待っていると、何か決まった様に彼等は頷き合いさっと離れた。そして光の大精霊は柔らかな笑みを受けべてこう言い放った。


『少し彼女と話がしてみたい。一緒に我等も付いていく』


こうして全大精霊がアウローラの寝室へと押し寄せることとなった。

彼女の屋敷に辿り着くと光の大精霊は、クラースと共にアルス達へと説明をすることになったのだが、大精霊云々だとアルス達が卒倒してしまうのではとクラースが心配すると、ではとアウローラと同じくらいの銀髪の少年へと姿を変え、見た目はやけに端正な顔立ちの少年と成り大精霊とは誰も気が付かない姿へとなった。他の大精霊はアウローラの部屋をクラースに教えてもらい、窓からアウローラの部屋へと侵入する。

戻っていたアルスと心配そうな面むちで話をしていたマグナが丁度玄関に居て鉢合わせし、クラースが抱きかかえていたアウローラを見るやいなや、クラースに質問を浴びせ、取り敢えず詳しい話は本人に聞くのでとアウローラをベッドに寝かせることを優先させた。光の大精霊についても質問されたのだが、適当にアウローラの発見者で彼からも後で事情を聴くために連れて帰ったと説明をした。

アルス達は納得していないようだったが、アウローラの体が心配なのでクラースをアウローラの部屋へと通す。

ミールスは一度仮眠を取らせているらしく、あと数時間は起きてこないそうだ。

やっとでアウローラの部屋へとだとりついたクラースはそっと彼女をベッドへ降ろした。


『このままじゃ窮屈だねぇ。そうだ』


そう言いながら土の大精霊が魔法でアウローラが着ていた衣服を白いワンピースに変え、ベッドに寝かせアウローラの目が覚めるのを待った。


―これが約2時間前の出来事である。


多少クラースは省略したが、大体の話を聞いたアウローラは額に手を当てて、勢いでやったことに思ったよりも周囲に迷惑をかけていたことと恐らくアルスとマグナが怒っているだろうことに頭痛くなってきていた。自業自得といえばそうなのだが、アウローラ本人としての予定はこっそり抜け出してこっそり戻ってくるというものだった。

予定が狂ったと自分の不甲斐なさを呪いながら、腕を組んで人間の少年になっている光の大精霊を見た。


「あの、話とは?」

「それは後ほど」

「?後ほどって・・・」

「その前に、少し大精霊同士で話し合った結果を話そう」


ふっと光の大精霊が笑い、ゆっくりとアウローラに近づいた。


「君には、我等大精霊と契約してもらう」

「「はい?」」


思わず、クラースとアウローラの声が重なる。

「いい考えだろう」というような光の大精霊の表情にアウローラは内心焦る。

確かに大精霊と契約することは思っても見ないことだ。しかし、しかしだ、アウローラは聖女でなければゲーム内のメインキャラクターではない。本来死んでしまうようなキャラクターだ。それにここで彼等と契約をしたらフロースはどうなるのだと様々な考えが浮かび、消えていく。

沈黙の数十秒、アウローラの頭の中で攻略済みのルートや今まで蓄えてきたこの世界の歴史が高速で駆け巡っていく。ここで「はい」といえばどうなるか、「いいえ」といえばどうなるか。そもそも、貴族とはいえただ聖女を守るために剣を振るっているこの自分が大精霊との契約者になっていいものなのか。家に迷惑をかけないか、友人達に迷惑をかけないか。

色々な考えが巡り、最終的にアウローラの心の中に一言が残る。


―これは、厄介な事になったぞ。



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