第1部-7話「友達とのお茶会」
「へぇ、クリュスタルス家は魔鉱石を扱っているんだ」
「はい。そして、私の所で扱った魔鉱石を」
「わたくしの経営するお店で加工しておりますの。なので小さい頃から一緒に遊んでいますの」
「僕達みたいだね。仲がいいわけだ」
インベルの言葉にフロースとルミノークスが顔を見合わせて笑う。
4人で和やかに会話をしていると暫くして、ノヴァとクラースの方向が静かになる。
アウローラが振り返ると2人は肩で息をしながら無言でにらみ合いを続けている、が、こちらの方が気になるのだろう、ちらちらとこちらの様子を確認するように視線を動かしている。インベルは呆れたように笑い、2人に声を掛ける。
「ほら、兄さん、クラース、そろそろお茶にしようよ」
「・・・ちっ、今日はここで勘弁してやるよ」
「お互いにね。さぁ、疲れたから甘いものを食べようじゃないか」
ふっと笑い合いインベルとクラースがアウローラ達の元へと歩いて来た。のだが、少し手前で動きを止める。一体何事かとアウローラは理解できずに首を傾げる。インベルは彼らが動きを止めた理由に気が付きながらも無視をしてお茶を啜る。
普段ならばここにあるのは丸テーブルで4つ椅子が置かれている。しかしながら人数が増えるにあたり、少し大き目の長テーブルにミールスが変えておいたのだ。勿論、ノヴァに許可を貰ってだ。丸テーブルならば、どの席に座ってもアウローラの傍であることは変わりない、だが長テーブル、長方形ならば、アウローラの近くに座る席は両隣、正面だけとなるのだ。
そして今の状況だが、アウローラの右手側にはフロース、左手側にはルミノークス、正面にはインベルが座っていた。
一向に座らない彼等にアウローラは「どうしたの?」と声を掛けるが、彼等はため息をつきながら肩を落とすばかり。渋々といった風にインベルの右手側にクラースが、左手側にノヴァが腰を下ろした。
ふとノヴァが正面に座っているフロースを見ると、彼女は得意げな顔でにっこりと笑う。確信犯かとノヴァが眉をピクリと動かし、いつもより強めな声でフロースへと問いかけた。
「知り合ったばかりだというのにそんなにくっついて、それほどまでにアウローラのことを気に入っている様だね?」
僅かばかりに棘のある言い方だが、フロースは構わずにさらりと返答する。
「はい。もちろん。この方が剣の練習をしているところを拝見してからずっとファンでしたから」
「ん?どういうことだい、アウローラ?」
まずいとはっとした表情をしたフロースを見逃さなかったノヴァは事情を知っているだろうと予想してアウローラへと問いかける。しかし、彼女は少しばかり考え事をしているようでじっと紅茶の入ったカップをじっと見つめていた。
「アウローラ?おーい」
ノヴァが手を伸ばして彼女の目の前で手を振る。
はっと気が付いてカチャンとティーカップを鳴らしアウローラが顔を上げる。
ちなみにこの時アウローラは別に重いことなど考えておらず、ただ単に、この並び合コンみたいだ、などと考えていただけだった。だがノヴァは聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと不安げに表情を曇らせている。
何を聞かれたか分からないが、アウローラは慌てて顔の前で手を振る。
「ごめんごめん、何でもない。大丈夫!それで?何の話?」
「あ、いや、フロース嬢がアウローラの剣の稽古を見ていたという話さ」
「あー、うん、それね・・・実は」
ちらりとフロースとルミノークスの方を見るが、隠してもいずれは言わなければならないことだと諦める。そして、フロースとルミノークスと出会った経緯をノヴァとインベルに話をした。
騎士の訓練所に無断で侵入していたことや騎士の訓練を覗き見ていたこと、途中彼等は僅かに顔を顰めたが何も口を挟まずに全てを聞いてくれた。
しばしの沈黙。
ちらりとアウローラは両隣にいる2人の様子を伺い見たが、どちらも緊張した面むちで、ルミノークスに至っては僅かに俯き上目遣いで様子を伺っていた。
ノヴァが一口紅茶を飲んでから口を開いた。
「幸い、知っているのは俺達だけ、悪いことも特にしていないようだ。なら、このことは不問にしようか」
「・・・本当にいいのですか?」
罰則を言わるかと身構えていたフロースが震えた声でノヴァに問いかける。
お茶を啜るノヴァの代わりにインベルが答えた。
「うん、別に大丈夫だよ。王城に入ったなら話は別だけど、訓練所なら厳重注意で済ませることが多いんだ。実は結構覗き見ている人っているからね」
「は?そうなのか?」
クラースがお菓子を頬張りながらインベルに聞き返す。
彼はクラースの口元にお菓子が付いていることを指で指してから、頷く。
「うん。結構騎士って人気があるからね。といっても、他の貴族令嬢とか平民の子達は遠くから、こう、望遠鏡で覗く感じで。こんなに至近距離で覗いた子達は初めてだろうけどね」
インベルがくすくすと笑うと、少し恥ずかしそうにルミノークスは顔を伏せてしまう。
アウローラは二人が特に重い罰則を受けないことに安堵しながら、これから彼女達とクラース達の仲を深めてもらいたくておずおずと一つ提案をする。
「あのさ、この子達を訓練所に出入りしてもいいようにできないかな?」
「「「え?」」」
クラース、ノヴァ、インベルが声を揃えて目を丸くし、フロースとルミノークスは勢いよく顔を上げた。
正直どんなに驚かれるとは思っていなかったアウローラは少したじろいでしまう。
この時点でフロースとルミノークスの仲はすこぶる良好で、このままゲーム開始時点に進むのが一番いい展開だ。ゲーム内ではゲーム開始時点でフロースとノヴァ、インベルが面識あるとは言われていなかったが、ゲーム内の設定に忠実にならなくてもいいだろうし、これくらいの年齢から一緒であれば色々と行動がしやすいし、長い間一緒であればフロースが誰を選んだのか、選ぶのかも予測しやすい。
それに、一番重要なルミノークスなのだが、殆ど一緒に行動していれば彼女がゲーム内と同様にラスボスへの道筋を通ろうとしてしまったときに止めることができるかもしれない。いや、止めるのだ。
アウローラは咳ばらいをして、ノヴァにプレゼンする。
「だってずっと意中の人を見たいからってここに通っていたんだよ?だとしたら、少し応援したくなるというか・・・それに、誰かに見てもらってくれた方が緊張感あっていいと思うの。あと、こんなに可愛いんだよ。癒しになる」
ふと、アウローラはプレゼンしながら思った。
そう言えば、自分はプレゼンが苦手でいつも同僚に添削してもらっていたことを。
これではきっとノヴァ達に刺さらないと冷や汗を流し、頭の中をフル回転する。すると、目の前の3人は大きくため息をついて、ルミノークスは顔を真っ赤にして両手で顔を覆い、フロースに至っては嬉しそうに笑いながら「可愛いなんて」など呟いている。わけがわからない反応をしている全員にアウローラは困惑し、静かに脇で立っているミールスへ助けを求めるように視線を向ける。彼女はというと、顔を背けて肩を震わせている。
笑っていやがる、とアウローラは心の中で吐き捨てた。
「まさか、全く気が付く様子がないとは」
「ここまで来ると鈍感なんてもんじゃねぇな」
「うん、まぁ、ね。アウローラはこうだよね」
それぞれ何やら呟いて、アウローラは皆が何を言っているのか何に反応しているのか分からず首を傾げるばかり。
ノヴァが頭をガシガシと掻いてからふっと顔を上げる。
頗るいい笑顔に、アウローラは少し体を後ろに引いた。
「いいとも。あとで国王陛下に申請しておくよ」
「本当!?」
「あぁ、その方が邪魔できるしね」
「ん?邪魔?」
アウローラの問い掛けに笑顔を崩さず「何でもないさ」と言ってノヴァは立ち上がった。そしてポケットに入れている古びた懐中時計を開いてすぐにポケットにしまった。そしてインベルに目くばせをすると彼も立ち上がる。
「そろそろ戻らなければね。俺達は失礼するよ」
何か予定があるのか、少しばかり曇った表情でノヴァは軽く手を振ってテーブルを離れた。インベルもその後に続こうとしたが、アウローラが「ちょっと待って」と声を掛けて立ち上がりインベルの元へ駆け寄って少し腕を引いて皆から少し離れた位置でこっそりと話す。
「フロース達の意中の相手ってクラースかな?」
「・・・はい?」
インベルが思わずアウローラの方を向くと思いのほか近かったのか額がぶつかりアウローラが額を摩る。顔を上げるとインベルは顔を真っ赤にして口元を抑えている。
もしかして額同士かと思ったのだが、鼻の頭とかに当たってしまったのだろうかと心配になり慌ててインベルの顔に触れる。
「ごめん!痛かった?本当にごめん!」
「いや、いい、いいから」
慌てるインベルの顔に血はついていないから鼻血が出たというわけではないようだ。ほっと胸を撫で下ろしてするりと顔から手を離す。
「インベル!!」
怒りを滲ませた声音でノヴァがインベルの名を呼ぶと、彼は慌てて「今行く」と答えアウローラに振り向いて苦笑いを浮かべた。
「その話はまた今度しようね」
「わかった。またね」
インベルはノヴァの元に駆け寄り、何やらお小言を言われている様だ。そんなに大事な用なのだろう。引き留めて申し訳ないという気持ちと共に、少しでも自分たちに時間を割いてくれたことを嬉しく思った。
「インベル!ノヴァ!またね!!」
嬉しい気持ちを素直に言うことは恥ずかしくてできないが、それを声に乗せて大きく手を振った。彼等は少し顔を見合わせ笑い合い、軽く手を振って王城の中に消えていった。
ミールスがお茶の片づけをする中、フロースが不意に頭を下げてきた。
「ありがとうございます」
何に対するお礼なのかよくわからなかったのだが、アウローラは首を振る。
「いいよ。それより、一つ二人にお願いがあるの」
「なんですの?」
アウローラがずいっと二人に顔を近づけて笑う。
「私と、お友達になってくださいな」
ノヴァもインベルもクラースも、全て家が引き寄せてくれたものだ。だから、このように縁の薄い子とはどういう風に友達になっていたのか遠い昔に忘れてしまった。
そして、口に出さなければ分からないことも沢山あるし、何より、彼女たちの幸せを掴み取ろうとしている故に今の関係に名前を付けたかった。ただの顔見知りなどではなく、助け合う友達という名前を付けたかったのだ。
不安で鼓動を早める心臓を悟られないようにしているとフロースとルミノークスはにっこりと笑い、アウローラの両手を取った。
「もちろん、よろこんで」
「よろしくお願いいたしますわ」
アウローラはその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。
これで一歩前進したのだ。
*
「フロース達ともっと話をしなくてよかったの?」
「はぁ?なんでだよ」
呆れたように壁に頬杖をついてクラースは眉を顰めた。
現在アウローラ達は帰りの馬車の中だ。フロースとルミノークスも送ると言ったのだが、近道があると言って訓練所で別れた。彼女達はクラースに気があり、少し遠慮したのだろうか。
アウローラはそんなことを考え、少しばかり胸の内が靄ついていた。
正直ゲームではクラースルートが一番好きだ。
彼のルートでは、アウローラが中盤で死にその後アウローラの敵討ちとして犯人を捜そうとフロースと協力する。その途中でフロースに心惹かれるが、アウローラのことがあり踏ん切りがつけれないもどかしい状況が続くが、ラスボス戦終了後に悲しみに暮れるフロースを傍で支え続けようと決心する。さらに、ルミノークスとも幼馴染のためルミノークスからクラースへ専用ボイスが戦闘中に追加されている。
彼のルートはフロースとルミノークス、アウローラのことが掘り下げられるエピソードであり、彼の誠実さがよくわかる。なので、他の攻略対象には悪いがフロースとルミノークスが生き残った未来で2人を支えていけるのは彼しかいないと思っている。
フロースがクラースを選んでくれればいいのにと思う反面、何やら、引っかかる気持ちが心の中にある。
「・・・なんでアイツ等にあんなに構ったんだ?」
不意にクラースに問いかけられ、言葉に詰まる。
これから起こることがわかるから、彼女たちが聖女だから、自分が二人を守りたいから。
理由は様々あるけれど、それを口に出してクラースが理解してくれる、いや、信じてくれるだろうか。それより、未来起こるであろう様々な困難を今打ち明けて、不安にさせたくない。
何か気の利いたことを言おうとアウローラ思考を巡らせるが、言葉が全く出てこない。
黙っているアウローラにクラースはふっと笑い、腕を組む。
「いや、いい。アウローラが何か隠しているのは分かっているが、話したくないものを無理には聞かねぇよ」
「・・・ごめん」
謝るとふはっとクラースは笑い、ふっと馬車の外へと視線を向ける。
「アウローラが何を考えているのかわからんが、俺は、お前が傍にいればそれでいい」
「・・・」
アウローラは面食らったように黙り、少しの間の後悪戯っぽく笑う。
「言うようになったね」
「惚れたか?」
「さぁね」
お互い笑い合い、馬車の中には笑い声が響く。
クラースは警戒心が強く、初対面の相手や信頼していない相手が傍にいるときは黙って状況を観察する癖がある。恐らく父親から習ったことだろう。だからこのように冗談を交えて笑い合うのは、彼が最大限信頼してくれた証だ。
信頼してくれたクラースに対し秘密を抱えていること、そして、いつの日か彼がフロースのことを好きになってこうしてすぐそばで笑い合う日が無くなってしまうことを、アウローラは少しだけ寂しく思った。




