際限なき世界 1
僕の名前は祇園守仁。ごく普通の高校3年生だ。成績は中ぐらい、スポーツも中の上、当たり障りのない性格のおかげで敵は少ない。と思う。
とにかく目立たないように今まで生きてきた。そしてこれからもごく普通の人生を送っていこうと思っていたんだ…彼女が来るまでは。
「おい、守仁。今日編入生が来るらしいぞ。」
彼の名前は大津真弥。僕が心を許している数少ない親友だ。明朗快活でスポーツ万能、その上頭もいい。勉強が得意というよりも生きていくための頭がいいのだろう。真弥と話しているとこっちが学ぶことも多い。
「へぇ。この私立高校に編入だなんて珍しいな。」
「なんだよ、それだけかよ。もしかしたらスッゲー可愛い子かもしれないぜ。」
真弥が少しはしゃいで言う。
「そもそもなんで女の子だってわかるんだよ。」
「勘に決まってんだろ。間違いないさ。」
真弥の勘はよく当たる。そういうところがまた、彼の賢いところでもある。
そんなことを話しているうちに担任が教室に入ってきた。
「みんなー。ホームルーム始めるぞ―。編入生を紹介するからさっさと席につけ―。」
おしゃべりを続けたままみんなが席についた。その話題は他愛ない世間話や恋愛話から自然と編入生の話へと変わる。
僕にとってはそんなことは心底どうでも良かった。編入生なんかと今さら仲良くしようとも思わないし、それなりに接しておけばいいとしか考えていない。
「よし、みんなに紹介するから入ってくれ。」
担任が教室の外にいる編入生を迎え入れる。
「初めまして。柊美琴です。よろしくお願いします。」
これが僕と彼女の出会いだった。僕は彼女との初めての出会いを無感動で受け入れようとしていた。何の変哲もないただの編入生の存在が、将来僕の人生を180度変えてしまう存在になろうとも知らずに…
「女の子だって言っただろ?しかもめちゃくちゃ可愛いじゃん。」真弥が満足気にニヤニヤしながら言う。
彼女―柊美琴は僕が今まで見てきた同じ年頃の女子の中で、一番可愛いと言っても過言ではない。
しかし、どこか儚げなその雰囲気に僕は違和感を感じていた。
「なぁ、真弥。あの子から何か感じないか?」僕が柊美琴を横目で見ながら言う。
「ん?美琴ちゃんか?」真弥はまだ話したこともない彼女のことをそんな風に呼ぶ。
「別に何も感じないけど。まぁおとなしそうな感じはするな。どうした?さては一目惚れか?」
「ちげーよ。」
真弥が何も感じないってことは僕の思い過ごしか…
そんなやりとりをしているうちにHRが終わり、テスト前ということもあってクラスのみんなは帰り始めた。僕と真弥は家が近いので毎日一緒に帰っている。なので今日ももちろん真弥と2人で帰ることになった。
「やっぱり可愛い子はいいよなぁ。そこにいるだけで気分よくなるし。」相変わらず真弥は正直なやつだ。
「でも彼女、誰とも話してる気配なかったぞ。あれじゃあ可愛くてもなぁ。」
「まぁまだ初日だからな。そんなすぐには新しい環境に慣れないだろうさ。」
柊美琴について存分に話し合い、真弥と別れた。ん…??あれは…??
僕の目の先にいたのはまぎれもなく柊美琴だった。