ダンジョンへ
過去の出来事を思い返していたコウタは、その頃の自分は惨めだったと深く反省している。イリマと呼ばれる現実世界の同級生―――。伊藤と、また仲良くできないものか。そのことについて模索していた時に天からのお告げが来た。
イリマとマリが世界中のプレイヤーから狙われる。世界中といっても、サーバーが別れており、日本サーバーとグローバルサーバーがある。
コウタやイリマ、マリのいるところは日本サーバーで、世界のプレイヤーたちはここまでこれないはずだ。プレイヤー人口の約過半数が日本人だが、彼ら全員がイリマとマリに矛先を向けるだろう。
金に目が眩んで。自分たちの脱出を優先せずに。
「俺はそんな日本人ではない。もう、他人のことを思いやると……違ったんだ」
イリマとマリの居た場所に見覚えがあったコウタはすぐに行動に移した。
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イリマとマリは色々と整えたあと、このあとのことについて考えていた。
「マリ。お前はまだあいつらにはフードで顔を覆っていたからバレてないはずだ。この世界で死ねば、現実の俺たちも死ぬかもしれない。だから、いくら着いてくると言っても危険なことをやらせたくない」
朝食のパンにガブリつきながらイリマはマリに無理して着いてこなくてもいいと訴える。しかし、マリはイリマに対して好印象を持ってるし、なによりコミュ障でもあるため気軽に話しかけてくれた彼の役に立ちたいともおもっていた。
だからこそ、マリは決意を変えることは無かった。
二人の意中を語り合い、そしてフォレストシティを出発する。ダンジョンはこの世界には約何個あるだろうか。考えるだけでも吐き気がしてきたイリマだったが、すぐに調子を整える。
「この辺にあるダンジョンは……。あった、これか」
出発する前に道具屋にて購入しておいた地図を開く。今はフォレストシティを出たばっかりなのであまり近くがいい雰囲気しないが、ダンジョンがすぐ傍にあることに気づく。
「攻略法は、わか、るの?」
「言ったろ?俺は魔王と呼ばれていた男だ。そう易々と攻略法を考えずに気楽にダンジョンに挑むやつらとは違う」
そう言って、一冊の分厚い本をアイテムリストから取り出した。
「こいつはな。表紙にでっかく書いてあるとおり情報屋が提供してくれているものなんだ。俺は道具屋を小豆に調べながらこいつがあるか確認しているのさ」
ページをパラパラとめくる。何処で買ったか定かではない本の中のとある情報を探していた。それは、最初に挑むダンジョン―――。リーフ・ダンジョンという所のものである。
「お、あった」
どれどれと、マリは本を覗き込む。そこには数多の情報が書かれていた。まるで、以前にそこを探索したかのように。
「現れるモンスターは……俺らのレベルなら十分攻略できそうだな。ダンジョンボスの情報が載ってないのがちょっと気がかりだが」
本をパタンと閉じてアイテムリストにしまう。歩いていること数分。道中で花の形をした自分たちと同じくらいの背丈のモンスターと時々会うことがあったが、難なく突破できた。
目の前に、まるで竜のアギトが如く、そびえ立つ巨大な穴があった。その横の壁の前には、リーフ・ダンジョンへようこそという看板が立っている。
「いよいよ、初ダンジョンだな……」
気を引きしめていこうという激励をしたあと、イリマはマリと手を繋いでダンジョン内に入る。
「こうすると怖くないだろ?」
「う、ん」
マリは少し頬を赤くしている。恥ずかしいのだろうか?その気持ちを慰めるためにマリの耳にそっと囁く。
「大丈夫。ここは今はモンスターしか居ないはずだから。なにより、こうしていた方がお前を離さずにすむ」
すると、さらに頬を赤くさせる。からかっているのかと勘違いされてムスッと頬を膨らまされた。
入って間もない頃、モンスターと出くわした。初めてダンジョンに住むモンスターとの戦闘をする。こうなる前でもパーティーでダンジョン攻略をしたことがあったが、言うまでもなくギリギリだった。
(俺は、彼女を守れるだろか……)
握っている手に無意識に力が入る。初めてというのはこの世界に来てからのこと。俺はすまんと言ってマリから手を離して双剣を引き抜く。
「へっ。お前程度じゃ、俺を殺れないぜ。コボルトくん」
コボルトと呼ばれたモンスターは咆哮を上げて一気に迫ってくる。しかし、それを横に難なく交わして通常攻撃をお見舞する。
「通常攻撃で死ぬのか。何度緩そうだなぁ」
そのあとも群れで襲ってくるモグラ型モンスターや、突然天井の異変を感じたかと思うと、今まで静かにしていたコウモリ型モンスターが襲って来たりしたけどもちろん、余裕でした。