懸賞金
夜が明けてパーティーとして初のクエスト挑戦となるマリとイリマ。受けるクエストはこの辺では簡単なクエストで、特定のモンスターを複数討伐せよというものだ。
昨日、イリマはマリに情けない姿を見せてしまったことをとても悔やんでいた。でも、誰かにああやって癒しを貰ったことははじめてだったから心地良かったりもする。
「昨日は、よく、寝れた?」
マリも同様に昨日のことを思っていたのだろう。だから俺を心配して尋ねてきた。
「ああ、大丈夫。ほんとに助かったよ。今日はパフェでも奢るか」
「ほん、と?嬉しい」
頬を赤く染めて今でもはしゃぎたくなりそうなその姿は、乙女そのものだった。
「コホン。今回のクエストはまあまあ簡単なやつだ。心配はいらないだろう。そういえば、ここに来るまでにモンスター、一体も見なかったな」
フォレストシティに来るまでの道中を思い返していた。普通ならばボーン・バットとかいう骨のコウモリがうじゃうじゃ飛んでいるはずなのだが、見かけなかったし、NPCもいなかった。
「たしか、に。やっぱ、変、だよね」
マリもそう思っていたらしい。モンスターのこともそうだが、プレイヤーについても、まだ謎だらけだし、この状況を脱するにはどうしたらよいかもわからない。
それに答えるかのように、突然空から声が降ってきた。とても響く声。まるで、この世界全土に届くかのようだった。
その頃同じくして、他の地域に居るプレイヤーたちもみんな、空を見上げる。そこには、この世界最後の神、パールの姿がある。
『この世界にようこそ。プレイヤーの皆様。私の名前はご存知ですね?説明は省きます。さて、みんなは今、この状況に動揺を感じているでしょう。しかし、この状況になっても、ゲーム感覚で行動している者が二人、居ます。その者達はこの状況をよく理解していないのでしょう。罰を受けてもらおうとおもいます。彼らに私は懸賞金をかけます。見事、捕まえて殺した方には賞金100万を差し上げましょう。もちろん、リアルマネーではなくこの世界の、ですが。そして、この世界から脱する方法を教えます。それは、ダンジョンを攻略して行き、現実への扉を開け―――です』
ザワザワしはじめる。神の隣には大画面でイリマとマリの姿が映っている。どうして神は、俺たちを異端者として認識したのか、わからなかった。
マリは怖がった様子で俺の腕にしがみついて来る。
「あの、神様。こわ、い。私たち、どう、する、の?」
すると、イリマはニヤッと笑みを浮かべる。
「ああ、俺はまだ、ゲーム感覚でいるつもりだ。かかってくるならかかってこい!俺らが、お前ら全員ぶちのめす!」
天目掛けて拳をかかげる。懸賞金、100万?それがどうした。この俺には、関係のない話だ。売られた喧嘩は、買うだけだ。
しかし、イリマは他にも以前のようなパーティーにしたいと思い、あと二人のメンバーを探そうとしていたが、それは諦めなくてはならなくなりそうだ。
「メンバー、増やしたかったな」
マリは俺の心境ん覗き込むかのように見つめてくる。しかし、目を逸らしてこう告げる。
「あなたの、味方が、たとえゼロ、でも、私は、死なないし、あなたと、共に、行く」
昨日も同じセリフを聞いた。もう、イリマは打開策を持っている。
「わかった。なら、俺らはこのクエストを、中断してダンジョンの攻略に行こう。誰よりも先に、元の世界へ帰るんだ」
「……ん。その方、が、安全」
「よし、行くぞ!」
一旦彼らはフォレストシティに戻り、武具や道具を整えて、スキルや魔法の出し方等、それと個々の戦闘スタイルを確認して出発した。
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「こりゃ、でかく出たな」
神からの指名手配という異例の洗礼を受けたイリマとマリ。その状況を眺めていた一人の少年、コウタはヤレヤレと頭をかく。
「俺はお前のことをよく知っているぜ。元ハッピー・フレンズ所属の魔王イリマ。お前、魔王と呼ばれていたよな」
スゥーっと息を吐いてコウタは決意する。
「今回も魔王と呼ばれるようになるかもな?イリマ。俺は、お前のことが性格は好きだ。共に野原を駆けようぜ」
って、俺はホモじゃないからな!?と、だれもいないところに叫ぶコウタ。ハンマーを扱う彼はとても陽キャな性格で色々迷惑を他人にかけてしまう性格でもある。
それでも、コウタはイリマの元で働きたいと思っていた。なぜなら、それは、イリマの同級生でもあるからだ―――。
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とある日の修学旅行。
現実世界のイリマは、一人携帯ゲーム機を用いてバス内で弄っていた。それを睨みつけるようにして眺めていた現実世界のコウタは、その頃はいじめっ子だったため、性格に煽られていじる。
「おい、こいつ陰キャのくせにゲーム持ってきてるぜ!みんなで遊んでやろうや!」
イリマからゲーム機を強引に奪い、後ろの席でつるんでいた仲間たちの元へ戻ってわいわい勝手なことをしはじめた。
これにはさすがにカチンときたのか、イリマは大声でやり返す。
「コウタ!やめろよ!返せ!」
「うるせぇぞ伊藤!」
コウタは怒鳴り返し、食べ終わったパンの袋を伊藤と呼ばれたイリマに投げつける。伊藤というのは、現実世界でのイリマの名前だ。
コウタはネーミングセンスがあまりないので現実世界と同じ名前でやっている。
「うーわ。サイテー」
ギャル風の女子がコウタに向かって踵を返すが、それにも関わらずいじめ倒す。
「伊藤、お前は陰キャのくせに女子によく助けられるよな。それが気に入らねぇんだよ!」
中学生なのに、まるで小学生のような喧嘩である。それを止めようと先生が席を立つ。
「こら!やめなさい二人とも!コウタ、そのゲーム没収!修学旅行終わるまで返しません」
「へーい」
と、コウタは自分の物であるかのように返事をした。そのため、イリマは先生を睨みながら訴える。
「先生、それ、僕のです」
「ふーん、そうなの」
興味無さそうな先生。結局、ゲームは伊藤には返されず、コウタに返された。
それからというもの、勝ち誇ったコウタは散々いじめまくった。伊藤は耐えれずに不登校になるも、毎日のように石を家に投げつけられる。
引越しを検討しようと、親が相談していたある日、突然ピンポンと音がなり、コウタが謝りに来た。
「すまん、伊藤。これ、返すわ。あと悪かった。これからは、俺たち、友達になれるよな?」
泣きながら言うその姿は、実に哀れで吹きそうになった。