ダンジョン・オンライン
―――西暦2050年11月9日。
東京都のとある一軒家。そこには引きこもり続けているプロゲーマーが居た。彼のやっているゲームの名は、ダンジョン・オンライン。
そのゲームは今まで登場してきた数々のオンラインRPG―――。つまり、MMO。そのゲームはMMO界において大きな革命を起こしている。
今までのMMOとは違い、キャラクターのレベリングがまず、やりにくい点がある。だが、それはユーザーをガチらせる一つの要素でもある。レベリングの主な特徴としては人気なのが夜のレベリング。夜になると、昼頃に出現するモンスターよりも強いのが多く出現する。
これは従来のMMOとは変わらない。しかし、そこからが問題なのである。一体を倒すのに手に入る経験値は僅か、1000ほど。これは夜に現れる個々のモンスターからの平均。
レベルアップに必要な経験値はレベルが上がれば上がるほど増えるのは基本中の基本だ。このMMOは、最初から必要な経験値が200と、かなり高い。
朝から昼にかけて出現するモンスターからの入手経験値は普通のより多く手に入るモンスターを除いて、平均20。10体倒さなければレベルは1も上がらない。
彼の持つキャラクターのレベルは91とかなり高い。最近レベル上限が解放され、最大レベルが100となった。解放される前は80が限度だったが。
「ちっ。俺より弱いやつしかいねぇな」
このダンジョン・オンラインというゲームでは定期的にユーザー同士のランキング戦が開催される。今、まさにそのランキング戦の真っ最中だった。
黒髪ロングというニートにあるあるな髪型で、目は自称オッドアイのカラコンの緑色。声色は少し高めの低い声。声変わり期によく聞かれる声だ。ちなみに彼は年齢15と、高校生最初の年。にもかかわらず、すぐにニートとなり、このゲームをしている。
よく親に学校に行けと言われるが、無視を貫きゲームをやり込む。どこからそんな金が浮くのかは秘密である。
「よぉし一本取ったぁ!」
一回戦の相手はレベル82とまあまあ高レベルのプレイヤーだった。使っている武器種は長槍で、防具はそれを活かすように少し重めのオリハルコンを使った防具。
その防具はかなりレアで、オリハルコンの取れるクエストの難易度がレイドクエストの中でも上位の難易度並というのがレアな理由。
しかもそのクエストのボスは、このダンジョン・オンライン最後に登場する最強ボスに酷似しているため、かなり強く一人ではクリア困難である。
それでも持っているということは、かなりの手練だ。それも一式揃えるほどの。
「あぁしょーもな」
しかし彼には通用しない。
彼の持つ魔法にはガード・ブレイクという、物理防御・魔法防御を30秒間無効化するという最上級魔法があるからだ。
だからこそ、あっという間に終わったためにため息をついている。
ランキング戦の予選が終わり、彼は見事ナンバーワンで決勝に出場することとなり、彼の名はゲーム界において大きく話題の一つとなるのであった。
夜が明ける。そして目が覚める。これは、日常においては最も普通のことであり、彼にとっては貴重な休息時間でもあった。しかし、目が覚めると、周りを見渡せば、そこには美しい木々がざわついているでは無いか。
歩く速度に違和感を覚えた彼は、自分の体を見下ろした。見えたのは彼のゲーム内でおける装備だった。
「私服が装備って。てか、さっきまで自宅に居たよな?まさか……」
彼は、ついに確証を得る。ここはダンジョン・オンラインという寝る前までやっていたゲームで、その世界に俺が転移されたということだ。
(たしか、ステータス表記はこうやって……)
左手を上下にスワイプさせてダイアログボックスを出現させる。
「やっぱりだ」
どれどれと、じっくりステータスボードを観察する。ホーム画面には自分の姿とそこに装備とその説明。そして、ステータスがある。
(レベルは91。職業ソードマスター。HP32000、攻撃etc……)
能力値等はゲーム内のキャラクターのままだ。名前も、イリマのままになっている。あと一つ、彼は確認しなければならないことがあった。
(魔法もスキルも。ここでは普通に使えるのか。そして、道具は万全か)
というものだった。彼はすぐにメニュー項目を指で下にスワイプしてメニュー内の道具という名前と魔法、スキルを見つける。
(あったぞ。ゲームのままだ。助かった)
あとは、どうやってそれらを発動させるか。実験することにした。たしか、この特徴的な木々のある場所はあの地名、フォレストシティの側だったはずと思い出してきた彼は、すぐに行動に移す。だとするとヤバいからだ。なぜなら、
(―――ここのモンスターはダンジョン・ボスとほぼ互角の強さを持っている。いくらレベル70以上の高レベルでも……。さすがに一人での攻略はきついだろう)
とのことである。んでもって、彼は辺りにプレイヤーはいないか散策することにしたのだ。草々をかいてかいてかきまくって道無き道をひたすら進む。すると、一人木に背中を預けて座っていて体をブルブル震わせている少女が居た。
「おい、しっかりしろ。もしここが、ほんとにダンジョン・オンラインでフォレストシティの近郊だったら―――。あまりにも危険だ。急いで脱出するぞ。ほら、手を貸せ―――」
しかし、パチィンという甲高い綺麗な手を弾く音が鳴り響いた。
「……。あなた、私が今、どんな心境で……。この場に蹲っているか。分かるでしょ?なのに、なんで、連れていこうと?」
「それは……」
言葉が詰まる。返答の答えはなんなのか、分からないからだ。簡単に答えるのは簡単なことだ。しかし、彼女の心境を察すると、その答えは正しくないかもしれないと思えてしまうからだ。
「理由も無しに、連れて行こうとしたの?犯罪だよね?それ。おバカさんね。まあ、いいわ。私に勝ったら、あなたの言うこと聞いてあげる。もし、あなたが負けたら―――。言うまでも、ないわよね?」
「ああ、受けてたつ」
こうして、ダンジョン・オンラインに謎の転移をさせられたあと彼にとってはじめての対人戦が行われる。