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南の森の来訪者

 三人のレイベランダーがリレイラに飛び掛かる!

 一番早く動いたレイベランダーが、ギリギリまで手を伸ばしてリレイラの左手を掴む。

 力一杯に引っ張られてリレイラは大きく体勢を崩すが詠唱は止まらない。

 次の男が滑り込んで右足を取る。

 詠唱は最終段階だ。もはや右手の先は強く光を発し魔法照明弾の発射は秒読み、リレイラはあえて踏ん張らず股割き状態になって力を逃して耐える。だがこんなに急に大股を開くことなどないから、内股の筋が割けたように痛い!

 そして遅れて駆け付けた最後の男が背中から飛び掛かった!

 男はそのままリレイラを羽交い絞めにして重さに任せて押し倒す。リレイラは大股開きの不安定な状態だ、勢い任せに圧し掛かる男の重さに耐えられるはずもなく、バタリと倒れて取り押さえられる。

 だが、つぶされる寸前に彼女の手から魔法照明弾は放たれていた!

 指先に浮いていた光弾が、ほの暗く曇った空にひょろひょろと昇り、光の帯を残していく。


 リレイラが放ったのは、まだ試作段階の魔法だ。

 魔法照明弾は光の魔法と空気を圧縮する魔法で構成されており、この二つの魔法を魔法結線で接続し魔力を発信させることで、魔法士の手を離れた後も魔力を維持し魔法の顕現を持続させる仕組みになっている。

 圧縮の魔法は空気をスラストとして下方に噴出し、上空に滞在する推進力を生み出すためにプロビジョニングされている。

 だが魔法は物質を直接動かすのには不向きなので推進力は大きくなく効率も悪い。まだまだ改良が必要なので公開を控えていた魔法だ。


「主任っ! んぐぐっ」

 魔法を封じるためにリレイラの口を押えたのがラドにも分かった。

 だがリレイラの捕縛とは関係なく、放たれた魔法照明弾は天空を駆け昇り、突如、輝きを増して辺りを昼間のように照らしだす!


 自分の手足も見えぬ程の闇が、急に真昼の様になり驚くレイベランダーと市民達。


 だがその光輝はあっという間に小さく暗くなっていく。

 強く輝いていた夜中の太陽は、月の明るさになり、星の明るさになり、そしてフッと消えた。

 誰もがきょとんと事の成り行きを見守る中――。


 瞬間! まるで天空で巨大な大砲が発射されたような大爆音!!!

 リレイラが仕組んだ通り魔法照明弾の圧縮エンジンは暴走し、大量の空気を取り込み、遂に圧に耐えきれず自壊したのだ。


 初めて見る魔法現象に驚いていたレイベランダーと市民は、想像すらしなかった爆音に恐怖し完全に思考を奪われた。それはパーン達も同じで戦う事を忘れて固まり、ただ茫然と立ち尽くす。

 その隙にラドはライカに命令を出す。

「ライカ! 僕の前に来い! 仲間を集めて壁になれ! 絶対レイベランダーと市民には手を出させるな!!!」

 ラドが強く命令すると、起き上がったライカはビクンと耳を震わせて我を取り戻し「わかったにゃ」と、すぐさま指笛を吹いて仲間を集める。

 騎士団をやっているのは伊達ではない。一緒に来た八名のマージア騎士団の仲間もこの怪現象に一時は固まったが、ライカの指示に素早く反応し民衆の中を駆け回って、新たに仲間になったパーンをかき集めてラドの前に横陣を敷く。先ほどまで裏街にいたパーン相手だが操兵は手慣れたものだ。


 だがそのどさくさに紛れてイチカとリレイラがカレス陣側に取り残されてしまった。

 機転が利く奴はどんな状況でも俊敏なもので、リレイラを捕縛したレイベランダーはラドの合図に気づいて一足早く我を取り戻し、この危険な魔法士達をひっ捕まえてカレス陣営の奥深くに隠してしまったのだ。

 気づいた時にはもう遅い。だがラドもさっきまで囚われの身。分かったところで打つ手はなかっただろう。そこに拘泥するよりは次の策を考えた方がいい。

 ・

 ・

 ・

 ラドとカレスは二陣営に分かたれ一時の小康を得た。

 寒風遊ぶ夜の荒野に、対立する二つの集団。


 腕を組んでカレスを睨みつけるラドの横にはライカが立つ。

「ライカ、危なかったぞ。手を出していたら僕らはカレスの術中だった」

「ごめんにゃ、しゅにんを助けたくて」

「分かってる。ありがとう。ライカが来てくれて助かった。ここに来てくれて本当に嬉しかったよ」

「にゃ~」

 半分叱られているのだが、そんな一言をかけられてライカはメロメロだ。だが夜目にも分かるラドの血だらけの後頭部を見て、うにゃっと驚く。

「しゅにん! アタマ、大丈夫か!」

「はぁアタマ? カレスほどおかしくないよ! 確かに非常識な方だけど」

「じゃなくて、ケガしてるぞ!」

「うぅん?」

 言われて頭を触る。

 髪の毛がベトベトだ、その手を鼻に持って来ると濃厚な鉄の匂いがする。

「うわ血! うぅいてて……」

 暗くて赤色が見えなくて良かったと思う。掌に付いたヌメヌメの感触からすると出血はかなりのものだ。それにまだ後頭部がドクドクするのだから出血は止まっていないのだろう。

「服も汚れてるぞ。しかもすごくうんこ臭い……」

 うんこって……。

「急に家に暴徒がなだれ込んできて後ろから殴られたんだ。その後大通りを引きずり回されたんだろうな、うんこだらけの石畳を。ヒドイ話だ」

「ライカが居ない間にそんな事があったのか。なら、やっぱりあいつら悪い奴らだ」

「いきなり殴りかかってうんこまみれにするのは悪い事だけど、これは信念や価値観や問題なんだ。それにカレスはレイベランダー達を煽り立てているけど発端は僕だし」

「かちかん?」

「厄介なものさ。どっちも正しいし、どっちも間違ってる類の」

「んーーーよくわかんぞ、やっぱりしゅにんはアタマを殴られておかしくなったんじゃないか?」

「なってねーよ!」


 人は生まれたなら皆、両親や国、時代の洗礼を受ける。ガウべルーアではパーンは奴隷で使い捨ての道具、魔法が使えない人は落ちこぼれのクズ。皆それが当然だと思っているし疑う余地もなく自然に受け入れてしまう。

 貴族は選ばれた民で何をされても逆らう事はできない。騎士団は偉くて頭を下げる対象。働けなくなった庶民は努力の足りない死んでいいヤツら、だからいらない……。

 だが、その価値観に染まってしまったからと言って悪とは限らない。


「でも、しゅにんを殴るのは、やっぱり悪いぞ」

「そうだな。価値観に踊らされるのはしょうがないことだ、でも人を傷つけるのは悪い」

「やっぱりライカにはわかんないや、けど……ちょっと待つにゃ。イオ!!!」

 ライカは顔を歪めてキョロキョロと辺りを見回す。そして背後を見ずにイオを呼び出す。後ろに彼が控えている核心があるのだ。

「はい、団長。自分も気づきました」

「どっちだ」

「風は南です」

 ライカがもう一度顔を歪めて鼻をひくつかせる。そして風を読んで見るべき方向を定める。

「サノハラスの南の森にゃ」

「大分近いです」

「なんで気づかなかった」

「風向きです」

 急に緊張した態度で何かを警戒する二人。


「どうしたライカ?」

「マズイことになったにゃ」

「さきほどの明かりで目を覚ましたのだと思います。それに血と汚物の匂いに惹かれてきたのだと」

「どのくらいだ」

「目視しないと分かりません」

「シャミ! 足音を聞けないか」

 気が付けばシャミがイオの横に立っているのが、ラドの闇に弱い視力でも見えた。

「ムリです人が多すぎますの」


 そんなやりとりの意味など分からぬカレス。

「おい国賊ども! 何をごちゃごちゃと話している! トンズラの算段か? それとも許してくださいと頭でも下げる相談か?」

 ラド陣営に集まったパーン数は百名にも満たない。先ほどまで突然のパーンの襲来と魔法照明弾の爆音にビビッていたレイベランダーと市民は勢いを取り戻し、カレスの言葉にわはははの笑いが渦まく。


「カレスよく聞いてくれ。都合いい話だが休戦にしないか」

 声を張り上げればまだズキズキと痛む頭を推してラドは声を張る。

「はぁ、小僧殴られて頭までやられたか?」

 また哄笑。

「それでお前が納得するならそれでいい。だがよく聞いて欲しい。ここに狂獣が迫っている。急いで逃げないと大変なことになる」

「わははは、なかなかいい言い訳だ。どうやら頭は()()大丈夫なようだな」

「本当だ。信じてくれ。野戦になれば十匹程度の狂獣でも素人の手に余る」

「ならば、どこから、どのくらい来るんだ。言ってみろ」

「それは……分からない。僕らにはまだ知覚できないから」

「それみろ!」

 高笑いがカレスからもレイベランダーからも市民からも沸き起こる。それは心底から人を馬鹿にした下卑た笑いであった。


「しゅにん、もう近い。たぶんコゴネズミだ。足音が多いし早いから」

「ちっ、前も南の森だった。あそこにはコゴネズミの巣があるんだ」

「主君。明かりがないと戦えません。次の魔法照明弾を上げないと」

 落ちても微かに明かりを保っていた魔法照明弾の微光がじわりと地に吸い込まれ、あたりは闇夜に支配されていく。

 イオの指摘は的を射ている。ガウベルーア人は夜目が利かない。この暗黒の中では戦うどころか逃げる事すらできまい。


「しかたない」

 ラドは一か八かリレイラに向かって叫ぶ。

「リレイラ! そこから魔法照明弾を打つんだ!」

 リレイラは遙か遠くで頷き詠唱を始める。だが、

「おいおい、またさっきの爆音はごめんだぜ」

 リレイラを取り押さえるレイベランダーが彼女の頬を平手で叩いて無理やり詠唱を止めさせる。

「リレイラをぶったな! こんのっ! リレイラに手を出すな!」

 ライカが熱くなって怒る。

「大人しくその子に魔法照明弾を詠唱させるんだ。視力を失えば僕らは退路すら絶たれるぞ」

「バカかお前は、そんな戯言にそそのかされるものか」

 カレスはわざわざリレイラとイチカの元まで赴き、二人の髪を掴んでズルズルと引っ張り、見せつけるようにラドの近くに放り投げた。そして自分の優位を見せつけるようにリレイラの頭に足を乗っけてグリグリと虐げる。

「詠唱はさせん」

「やめろ! お前たちのための明かりだ!」



 辺りは闇。

 寒風はいよいよ強く人々の肌感覚を奪っていく。

 だが、それに反して人の耳にも分かる雑踏が聞こえ始めた。

「ん、なんだ」

 それは遂にカレスの耳にも聞こえたらしい。

「ライカ、みんなの夜目は利くか」

「もちろん。見えてる!」

「狂獣は僕らで止める。コゴネズミがくれば彼らも信じる。信じてくれれば彼らも動く。反撃しつつ何とか彼らを逃がす」

「分かった。憎たらしい奴らだけどライカ達はマージア騎士団だ」

「ああ。カレス達を背後に展開し数分だけ前衛で受けきろ!!! あとは僕が市民を説得して火の魔法でコゴネズミを駆逐する」

「にゃ!」

 命を受けてライカが走る。

「イオは僕についてこい、戦端が開かれたらリレイラとイチカを救い出す」

「御意、主君」

「いいか、二人の裏手から回り込んでカレス陣を攪乱。背面についたらイオの咆哮で相手を威圧して、怯んだ隙にリレイラとイチカを助ける。歯向かってきたら気絶くらいさせていい」


 その説明をしている間にライカは仲間達に口笛と手サインで合図を送り前衛を展開、同時に戦端は開かれた。

 突然の狂獣の来襲を認めた市民は悲鳴を上げて恐怖し、カレス陣営は一気にパニックに陥る。

 狂獣とはそれほどの恐怖なのだ。

 ガウベルーアに生きているならば一度は見る事になる。生きながらに狂獣に腹肉を食われ、逃げることもできず蹂躙され殺される人の姿を。あるいはその末路を辿った躯を。

 無防備にもうっかり出会ったのなら、あるのは死のみ。

 それを知っているが故、半狂乱になり、すくみ、思考停止になるのを誰が笑えよう。


 イオはラドを小脇に抱えて、レイベランダーや市民の狭間を走る。

 イオもライカに負けず素早い。それは人を超える圧倒的な早さだ。もちろん我を失った人々がついてこられる早さではない。

 駆け抜ける先は勿論、イチカとリレイラのもと。

 イオは二人を押さえつけるレイベランダー四名の前で急停止、刹那、牙を向いて腹からの大声で吠える!


 野太いドラのような声はもはや音ではない。竦み上がる音圧の暴力だ。

「イオ! 僕を投げろ!」

 聞いたイオはためらいもなくラドを掴み上げると、レイベランダーの一人に向かって放り投げる!

 投げられたラドは弾丸と化して飛んでいく。放物線なんか描かない。軌跡はひたすら真っ直ぐだ。

 咆哮に振り向いたレイベランダーは、まさかの行動に当惑。避けることも叶わずラドの体当たりをまともに食らってぶっ倒れる。ラドも当然ダメージを受けるが想定していれば受け身は取れる。

 すぐさま立ち上がり反対側からリレイラの腕を押さえる、ひょろリとしたレイベランダーのスネを足払い。

 ステンとコケたところでレリイラの手を取りその場から駆け出す。


「イチカ走れ! 離れるな! リレイラ! 走りながら魔法照明弾詠唱!!!」

「はい!」

 命を受けたリレイラは人には不可能な早さで魔法を詠唱する。


 数秒後。

 砂塵舞い上がる空に展開した八重芯の眩耀が映し出したのは、無数のうごめく狂獣の影だった。


 コゴネズミの群れ!

 その数、推定不能!


 側面から押し寄せるコゴネズミの群れを間近に認めたカレスは、腰を抜かして地にへたり込んだ。

 股下の乾いた地面にじんわりと黒いシミが広がっていった。



 一時間前まで裏街の住人だったパーンは戦士となっていた。

 彼らの数名はマージア騎士団が使っていたお古の武装を所持していたが、ほとんどは空手であった。

 前線に戻ったラドは、にわか部隊に指示を出す。

「武器のない者は上着脱いで中に石を詰めろ! 武器にする! そして相手の武装を奪え」

 その声を聞いたパーンの戦士達は上を脱ぐ。

 肉体労働に使役されている者の鍛え上げられた肉体が躍動し、コゴネズミをぶっ倒し、ぶん殴り、迎え撃つ。


 更にラドは暴徒だったレイベランダーと市民に向かって叫ぶ。

「コゴネズミの進行はパーン達が止める! 皆はコゴネズミの奥手に向かって火の魔法を放て!」

 もちろん大事な事は言い忘れない

「半獣人の戦士たちに当てれば戦線は崩壊して全滅するぞ。間違ってもパーンを狙うな!」

 だが人々は魔法照明弾が照らす無数にうごめくコゴネズミに完全に戦意を喪失している。それをがなりたてて後押しする。

「撃て! 撃て! 撃て!!! 死にたいのか! 死にたくなかったら魔法を撃て!」

 イチカもそれを後押しする。

「みなさん、私にならって火の魔法を詠唱してください!」

 イチカは弱った魔力を振り絞って、率先して火の魔法を放つ。

「一人十匹倒せば、この数はなんとかなります!!!」

 その喝に人々はやっと火の魔法の詠唱を始める。



 前線のパーンは硬いと思われたが、鍛えられているとはいえ粗末な武装しか持たない素人であり、ほんの十分も経たないうちに左中央の戦線が破れ、コゴネズミが市民を襲い始めた。

 やはり百名程度では布陣が薄いのだ。

 陣形はコゴネズミの圧に押されて逆雁行形となり、頂点にいるライカをはじめ先端の付近のパーンには多大な負担がかかっている。


 援護に回せるパーンはいない。

 レイベランダーと市民は戦う気力もない。


 破れた戦線には、もはや自分が行くしかないと悟ったラドは、倒れたコゴネズミが落とした錆びた剣を取り援護に向かう。

「逃げるな! 戦え! 戦わないと内部から崩壊するぞ!」

 戦いながら皆を鼓舞する。

 だが鼓舞しつつ思う。所詮は一般人だ。いきなり戦うなんて出来ない。それが普通のガウべルーア人なのだ。

「カレス!!! カレスはいるか! レイベランダーをまとめろ! そっちは任せたい!!!」

 だがレイベランダーと市民の中に認めたカレスは、「ひいい」と情けない声を上げて我先と逃げ出す最中だった。

「くそったれ!」

 つい悪言が飛び出した。余裕があれば引っ張ってもコゴネズミのど真ん中に放り込んでやりたいところだが、残念ながらそんな余裕はない。

 後でとっちめてやる。ただし生きていればだが。


 頭を切り替える。

「誰か手をかせ! 左中央を押し戻す! 誰か!!!」

 ……誰も来ない。

 レイベランダーや市民が来るなど端から期待はしていない。だが期待外れに気が焦る。

 ライカは中央先端で指揮を取っているため動けない。騎士団のメンバーは右翼左翼の押えにまわっていて、ここには居ない。

 援軍を求めても来るはずがないのは分かっているが、苦しければ助力を僅かでも期待してまう。そんな甘えなど戦場は許さないと知っていても。


 敵は容赦なく破れた左中央からはなだれ込んでくる。ラドの手には余る数の敵が。

「くそ!!!」

 その敵に火の魔法が炸裂する。

「助太刀します!」

 助けに現れたのはなんとレイラ! 後方の魔法攻撃の手を止めて前線に上がってきたのだ!

 だがここでは敵に近すぎて魔法が使えない。それにリレイラは魔法士だ、近距離戦は不向きすぎる。

「リレイラにはムリだ! 身を守る物がなきゃやられるぞ!」

「しかし、主任一人では無理です」

「ここ来れば巻き込まれるって!」

「戦線が崩壊すれば同じです。私も参戦します」

「ちくしょう! もう、わかった頼む! そこらへんの武器を拾って使え! そうだ! 地面に向かって魔法鋼を作ったときの魔法を使え。あれば分子結合を変える魔法だ。土の分子を強制結合させて盾を作るんだ」

「はい! やってみます」

 リレイラは地に向かって手をつくと、高速詠唱で分子組み換えの魔法を実行する。

 手の周りに淡い光が現れて、乾燥した土から泥臭い匂いとゆらめきが上がる。強制的に高い魔力をぶち込んでいるので、分子の組み換えに使われなかった魔力が熱になっているのだ。


 それが一分もかからず終わり、リレイラはおもむろに土塊を掴んだ手を持ち上げた。

「アキハが作ったバックラーに似せてみました」

 素焼きの皿か、軽石の板か、どのように形容すべきか分からないが、リレイラの手元には土で出来た一枚のプレートがあった。

「即席にしては、いいデキだ! 僕の背中につけ死角を減らす」

「はい!」

 リレイラの初陣である。

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