任命
騎士団からは順調に剣が届き、マッキオ工房はどんどん効率を上げて剣を生産するようになる。
この工程の中で唯一消耗するのは魔法士だが、欲しいのは魔法士ではなく魔力だから、魔力を売って小遣い稼ぐバイトが成立して、マッキオ工房は朝から魔力を売りたい人の行列ができる、人気スイーツ店のようになった。
魔力が弱くても数名の魔力を束ねれば魔法鋼は作れる。ほぼ全てのガウべルーア人が対象なのと、「ちょっと魔力、売ってくらぁ」的な気楽さがウケて、仕事はないが時間がある無職のお方にはちょうどよい小遣い稼ぎとなった。
そんなこんなの二週間後、ちょうどブルレイド王の公開褒章授与が終わった翌日に、カチャとラドに呼び出しがかかる。
相手はなんとブルレイド王!
「カチャ、今度は何をやらかしたのっ!」
「なんもやってへんって。ちょっとアンスカーリはんに、今回の事、軽る言うといてやって伝えといただけや」
「それだ! それー!」
軽いも重いもあったもんじゃない。耳に入ればみな同じじゃないか!
「ま、カレンファストの旦那が陛下に話したんやろな。あの目ざとい団長のことや、剣の切れ味を実見して我が騎士団の力を見せつけたんやろ。狂獣の合での活躍に上乗せして」
「それで皇撃騎士団に目をつけたのか! カチャ、キミってほんとに!」
「なんのことや~、偶然ちゃう? さーてと、ウチはおめかしして王城にいかな~、そうや! ちょうどラド坊がウチにかわいい、べべこうてくれたんや。ちょうどええわ」
「カチャ~」
呼び出されたら行かねばならないのが、宮仕えの辛いところ。
う~~~、行きたくない。
マジ行きたくない。
お偉い方とは誰であろうと会いたくない。
これがラドの本音だ。
面倒だし会えば会ったでまた面倒を申し付けられる。せっかくの新しい人生、他人の面倒に貴重な時間を取られるのは、まっぴらゴメンだ。
面倒そうな会議に出ないのは、サラリーマンスキルの一つだったのにぃぃぃ。
なにより自分の目指すところと方向が異なる。騎士になりたい。それもカッコイイ騎士に。だが王侯貴族の世界に憧れはないのだ。
たしかにファンタジーの世界に王様と貴族はつきもの。だが同じファンタジーでも騎士と貴族は大違いだ。ゲームなら魔王討伐の発注側。しかも準貴族って発注側の中でもモブだ。
――モブ官僚って……夢も希望もねーよ。
だがたとえモブ官僚でも、リアル王様に呼び出されれば、一刻も早く馳せ参じなければならないのがルールだ。のんきに構えて怒りでも買えば、リアルに首が飛びかねない。
「まったく、僕はえらい迷惑だよ」
「そんなことあらへんやろ。街にぎょうさん人がおっても、王族と繋がれるんは一握りやで」
「握りは寿司だけで十分ですっ」
カチャはそんなラドの愚痴を聞きながら、隣の部屋でイチカとリレイラに手伝ってもらってお召し替え。
時々、「締めすぎちゃう」とか「ちいさあらへん」とか、何をしているのだか女の子の秘密の儀式が繰り広げられている。
カチャがラドにおねだりしたのは服と言ってもドレスだった。買った時に『なんで』と思ったが、このための正装だったか。
ガウべルーア女性の正装は、体のラインを強調したドレスである。
なぜそんな風習なのか?
ガウべルーア人は体は小さいが意外に精力旺盛だ。男も女も十五には結婚して、大抵早々に子供を作る。それも三人、四人は当り前。
そういう背景からか、女性は胸や腰が大きい娘が好まれる。
ナナリーINNで働いていた時に、
『ナナリーのカミさんは、でけぇイイケツしてんなァ』とか、アラッシオ母さんをみて『顔はいいが乳が小せえ』とか、ドストレートな評価をよく聞いた。
初めは個人の感想かと思っていたが、多くの人が同じ感想を持つので、これは王国の一般的な価値観なのだと気付いた。
なのでアキハが『スタイル抜群』と自画自賛していたのは、あながち間違いではない。ただし性格には難ありだが。
カチャのドレスもそれを体現したようなフォルムで、色は情熱的な真っ赤だ。
胸元と腰回りは布で膨らませる。レイヤーのふんわりとしたスカートの裾はバックが膝裏くらいまで切れ上がっていて、歩くとチラチラと太ももが、そしてもう少しでパンツが見えそうな――いやそんなの全く期待していないが、そのくらい扇情的な作り。
前側はベルラインに近いので両手で持ち上げないと引っかかって歩けない。
顔は大きな帽子で隠すのが基本だ。その方がそそられると服屋の店主が言っていた。本当にそうなのかはラドには分からなかったが。
そして真っ白な肘までの手袋をする。
手袋は、“あなたの前では魔法を使いません”という暗示だそうだ。
ちなみにハイヒールはないので普通のハイカットの革靴を履く。この服に革靴では足許がアンバランスに見えるが、そう感じるのはまだラドが前の世界の価値観を引きずっているからだろう。
「お迎えに上がりましたーーー」
下から迎えを頼んだ御者の声が、けたたましく聞こえる。
まさかこんなドレスを着て王城まで歩かせるわけには行かないので、出費だが馬車を取ることにした。そいつが気早くも、もうやって来た。
貴人用の馬車は本当に高い。この馬車で王城に行くだけで三千ロクタンもする。これだけで半月分の食費に近い……。
「僕より上手く馬に乗れる子なのに、馬車なんて信じられないよ」
愚痴ったのが扉越しに聞こえたらしい。
「ラド坊はウチにドレスで馬乗れ言うんか!」
着付に手間取っているかと思えば、意外にもちゃんと聞いていやがる。
「ラド様ーーー、お迎えでございますーーー」
せっかちな御者が二階まで上がってくる勢いで急き立てる。向うも商売だ、待たされれば回転率が下がって損なのだろう。チッチャと送って、次の客を運びたいのがミエミエだ。
「カチャ、馬車が待ってる。もう行くよ!」
「まってぇな、ラド坊。着付け終わったんやけど、うまく歩けへんのや」
扉より大きな真っ赤なフォルムのカチャが、スカートの裾を押さえてヨタヨタと戸口を超えてくる。ドレスの裾を何とか押さえようとコマコマと動き回るイチカとリレイラを連れて。
「ちょっとーーー、勘弁してよ」
「足元見えへん」
何たることか。ドレスをせがんでおいて、しかもこんな接見を仕込んでおいて、いざドレスを着てみたら歩けないだと?
「これで階段は、あかんわ」
「私とリレイラでカチャさんのスカートを持ちますから。ラドは手を引いてあげてください」
「イチカはん、リレイラはんおおきに。頼むわ」
――なんで僕まで!
四人は廊下いっぱいに広がってヨタヨタと階段に向かう。官舎の階段なんてドレス仕様には作られていない、大人二人がすれ違ってギリギリの幅しかないし、しかも急勾配だ。
帝劇の階段を颯爽と降りてくる貴婦人のようにはいかない。
ラドはカチャの手を取って、先に階段を二段ほど降りて気づく。
「ダメ、僕の背丈じゃカチャの手を引けないよ。カチャ、エスコートなしで降りてよ」
手を引いてエスコートしたいが、圧倒的に小さいラドではカチャの手を引くなど到底ムリだ。
「ラド坊、無理や。絶対踏み外す。下、見えへんもん」
「もう世話が焼けるなぁ。じゃリレイラが手を引いてよ。僕はスカート押さえるから」
「わかりました。殿方役を仰せつかりました」
リレイラはどこで覚えたかな、「お嬢さんお手を」なんて、キザなセリフを吐いてカチャの手を取る。
ラドはカチャの一段下に立ち、大きく両手を広げて上から足元が見えるようにスカートを押さえる。だが相手はふわふわの布だ。空気を押すようで、うまくいかない。
「ラド、声をかけたら、一歩降ります。……はい!」
イチカの声に合わせて一歩、そして一歩。
「なんなん、この家。狭すぎやろ」
カチャは愚痴るが言ってもせんない。なんとか降り切って早く馬車に乗らねば。
だがあと数歩というところで、
「あっ!」
ラドのつま先は階段を踏み外してしまう。
ズルっと滑って足は何とか一つ下の階段で踏み留まったが、上体はバランスを崩しあわや顔面強打のところを、つるりとした何かを掴んで難を逃れる。だが、
「きゃん!」
聞き慣れない高い声が廊下に響く。
「アブな、顔面から落ちるところだっ、ん?」
目を開けると何か暗い。
「ラド坊、うちのスカートの中にもぐらんといて!」
「でぇぇぇ!」
という事は今掴んでいる柔らかなサムシングはカチャの足!?
「ご、ごめん!」
慌てて身を引いて、今度は後ろに倒れて階段を踏み外し、そのままゴロゴロと三、四段を一気に転げて落ちる。そして蒲田行進曲の末、ゴツっと一階の床に頭を強打。
「いっっってーーー」
「ラド! 大丈夫ですか!」と、心配そうなイチカに対して、「主任は時々、恣意的におっちょこちょいな気がします」と、冷ややかにあらぬ疑いをかけようとするレリイラ。
「ラド坊ったら、ちっこいのいいことに、もう!」
「違う! 誤解だよ!!!」
そんなこんなもあって、やっとのことで馬車に乗り込む。
「はぁ~、僕はもうヘトヘトだよ。王城では何も喋らないからね」
げんなりと馬車のシートにもたれてカチャに不満をぶつけてみるが、当のカチャは、
「うふふ、ええよ。ウチの横にいるだけで」と微笑みを返すばかり。
「うふふ? 女の子は服でキャラまで変わるんだね。僕はカチャがそんな上品に口元を隠して笑う姿なんて見たことないよ」
「そやな。ええ雰囲気のときは自然とな。ウチだけやない。アキハはんもそうやで」
そう言われて、先日の”不思議の国のアキハ”の姿と口ぶりを思い出す。
確かに工房のアキハより、お淑やかだった気がする。そんな想起をしていることを見透かしたようにカチャは言う。
「ちゃんとアキハはんの姿、みてやらなアカンで。ラド坊も男の子なんやから」
「なんだよ、まるで僕が子供かニブ男みたいに」
カチャはぷにぷにのほっぺたを膨らませて怒るラドを見て、このままここに居座りたくなる気持ちを何度も切り捨てていた。
――にぶいやろ。ホンマ鈍い子やわ。
だが鈍くてよかったとも思う。
――そいでお人好し。ウチのこと、冷たく扱ってくれたら良かったものを。
ムスっと腕を組むラドは十歳の少年に見える。でも瞳の奥は確かに同い年以上を思わせる男性の輝きがある。その瞳の魅力に吸い込まれそうになるのをカチャは何度も止めて、視線を馬車の外に外す。
――メイドリン団長、ホンマいい人に逢わせてもろたわ。でもずっと一緒にはいられへん。みんなをウチの生き方に巻き込んだらあかんのや。だからウチはメイドリン団長の後を継ぎます。きっとそれが一番ええことなんや。
「何? カチャ」
じっと外を見ていたら、ラドが下からのぞき込むように聞いてきた。
「なんでもない。ラド坊はかわいいな思ただけや」
「もう!」
王城の門を通り、これでもかと豪奢な前庭を抜けて馬車を降り、また例の謁見の間に通される。
今度は頭を下げた魔法兵の列を左右に配して、その中を抜けていく。こういう事なのだ。貴族と庶民の違いは。入り口も違えば扱いも違う。
謁見の間には、既に貴族達が集まっていた。部屋の前方に固まるように二十名ほどおり全て男性。若いのもいれば中年もいる。
貴族の名前はほとんど知らないが、アンスカーリの周りに立ち、畏まりつつも普通に話しているということは、決して位の低い者たちではないのだろう。
その勘は間違っていない。あのカレンファストがアンスカーリの脇に控え、品よく笑って受け答えしているのだから、ここにいるのは間違いなくこの国の重鎮だ。
「ちょっと、なんかのっぴきならない雰囲気なんだけど」
ラドの横を歩調をそろえて歩く、頭一つ以上背の高いカチャに声を潜めて話す。
「そやな。思ったより重鎮ぞろいや」
「何を企んでいるのか、そろそろ教えてくれない」
「悪いことなんか企んでへんで。そやなぁ……」
と、少しためらうカチャの話し出しを待つ間もなく、アンスカーリがラドとカチャを見つけて遠くから声をかける。
「ラド、こっちに来い」
石の間に反射した声が、くわんくわんと広間に響く。
「こっちに来いって。僕は犬か?」
そのセリフにカチャは声を殺して笑っている。
アンスカーリの前に寄り付き、片膝をつき跪く。普段は絶対しないが、こういう場ではアンスカーリは自分のボスとなるので、挨拶は跪いて敬意を示さねばならない。
こういう儀礼的なことが嫌だから貴族は嫌いなのだ。
「アンスカーリ公、招来に応じ参上いたしました」
するとアンスカーリは「うむ」と唸る。これが挨拶だ。
挨拶が済んだらアンスカーリの後ろに控える。準貴族など派閥の下っ端の下っ端だ。あとは控えているだけで何もすることはない。
と思ったら、「バカ者、お前はこっちに並ぶのじゃ。前の列に末席に並べ」と言うではないか。
「はぁ? 何でですか」
「カチャ殿、説明をしておらんな」
「アンスカーリ公、このような案件はサプライズが良いかと思いましてん」
「ふぁははは、相変わらず興があるのぉカチャ殿は」
ほほほと笑うカチャとアンスカーリ。またラドだけのけものである。
そうこうしていると、王の従者が脇扉から出てきて辺りが静まる。
続いて一段上の高座からブルレイド王、そしてアメリー王妃が登場。
なんとなくイメージでは左右に正装の儀仗兵が立ち並び、ラッパで登場しそうだが、そんな面倒なものはない。いちいちそんなことをしていたら身が持たないのだろう。そして入室において貴族たちは、ただ頭を下げるだけだ。
一同はガウべルーア式の敬礼で敬意をあらわす。ラドも慣れぬままに居並ぶ貴族の末席に立ち敬礼。その横には真っ赤なドレスのカチャが立つ。貴族どもの服のグレーや浅葱など地味な色なので、カチャはこの中で一等目立つ。
因みに参加者の服装は皆まちまち。ラドは詰め襟の白シャツに赤のスカーフネクタイ。下はダークレッドの綿のパンツだ。それにラピスラズリの杖を持つ。
騎士団の関連行事でなければ服装は自由。ラピスラズリの杖さえ持っていれば貴族と分かる。
「うむ、ごくろうである」
王は玉座に座り左に二列に並ぶ約二十名の貴族を睥睨する。別段、高価そうなマントを羽織るでもない、派手な宝飾を身につけるでもない。ごつい指輪も王冠もない。ここにいる貴族と変わらぬ飾りの付いたシャツに藍染の緩めのパンツルック。
アメリー王妃はさすがにドレスにネックレスはしているが、初めて会った時のロザーラと変わらない程の質素さだ。
王族なのに実に全員庶民的。こういう所だけは妙に前の世界に近いと感じる。
「アンスカーリ」
「はっ」
アンスカーリが王の前に出る。
「本件は既に諸侯に伝えておるか?」
「御意に」
「うむ、ごくろうである」
ブルレイド王はたっぷり余韻をとった後、貴族に向かって話し始める。
「すでに聞いておると思うが、先般、余は皇撃騎士団長、カレンファストより新装備の話を聞き、その実力を模擬戦で見せてもらった。余も使ってみたが素晴らしい武装である」
諸侯は頭を下げたまま、その話を聞く。
「軽量頑強な武装は近接に弱いガウベルーアの戦いに、おおいに変革を及ぼす。よって余はこの武装を全騎士団に配備することにした」
どういうタイミングか、どういう礼儀か分からないが、ラドを除く全員が首を垂れた状態のまま跪き、「ははーっ」と声を合わせて王の言葉を受諾する。
遅れてラドもそれを真似る。どうやら了承のときは、そういう儀礼らしい。
――知るか! だから貴族は嫌いなんだよ。
なんて心の中で唾棄しているうちに、諸侯はまた元のポーズに戻る。また遅れながらも慌てて立ち上がるラド。
「カチャ殿」
「はっ!」
今度は名を呼ばれたカチャが一歩前に出て一旦止まり、カウベルーア式の敬礼。中央まで進み、そこで踵を正五の方(時計回りに九十度)かえて再度、敬礼し跪く。
どこで覚えたか分からないが、カチャはこの場の礼儀を知っているようだ。
「この度の皇撃騎士団への武装供出、誠に痛み入る。まったく素晴らしい。俄に信じられぬ高性能である」
帽子を脱ぎ胸元に控えたカチャが発言を求める。
「恐れ多くも、狂獣の合にて御騎士団に命を助けられた身ならば、報恩謝徳の厚志は自然とあらわれようもの。その表出をマージア殿にご相談したところ、この喜捨とあいなりました」
「そうとは申せ、過分な篤志なるぞ」
「いえ、ならばその宸襟はマージア殿にこそふさわしいかと」
「うむ、マージア」
急に王に呼ばれて畏まる。
「サルタニアに続き、また世話になったな」
「勿体ないお言葉。恐悦至極に存じます」
「謙遜することはない。狂獸の合でのしんがりの件は余も知っておる。ライトニングの魔法を目撃した者が何人もおる。それを世間的には言えぬことをむしろ許してもらいたい」
「ははーっ」
なんで言えないのか、どうやら裏事情がありそうだが、ここは突っ込むと危険過ぎるのいい塩梅にスルーしたい。こういう下手なことを言えないときは、処世術として『ははーっ』とありがたい感じの息だけ吐けばいいと、たしか金田一先生がおっしゃっていたので、とりあえず身のない声だけ吐き出しておく。
「ところでマージアよ、知っておろうが狂獣の合では、ファムカルディガーラ卿が戦死しておる。だがここに集う者どもは誰もが大騎士団を二、三率いておるのだ。これ以上の重荷を持たせられん」
なにやら話は急展開。悪い予感しかしない。
「ついてはお主に皇衛騎士団を率いて貰いたいのだが」
――ほんとに来たよ! 悪い話が!
「ご推薦、ありがたき幸せ。しかし卑職のような若輩がそのような席については、皇衛騎士団の名に傷がつくというもの」
「何をいわんや。臣民の人気はたいしたものだと聞き及んでおるぞ」
「いえ、陛下の御元には相応しい者が多々おりましょう」
「確かに余の元には、まこと信たる家臣が多くおるが。アンスカーリ、いかに思うか」
「はっ、確かにマージアの言うことも一理あります。騎士団を率いるには経験不足もありましょう。なれば団長を折り込み、まずは中隊長を任せてはいかがでしょうか。団長は不在となりますが、皇衛騎士団は王都防衛が本分。小中隊での運用が主ですので問題はありますまい」
「なるほど、あいわかった。では、ラド・マージアに命ずる。汝に皇衛騎士団統合中隊長を任ずる。騎士団の長として努めよ」
――えっ、ええ! ちょっとまってよ! その一声で決まるの? 決まっちゃうの? 急すぎ、急すぎだよ!
動揺のあまりカチャを見ると、彼女は俯きながらもラドにだけに見えるように舌を出してる
――や、やりやがった……。
だが王から「努めよ」と言われたらもう断るはない。諦めてこの職務に就くしかない。就きたくない、就きたくないが……
「謹んで拝命いたします。ラド・マージア、身命にかえて皇衛騎士団の統合中隊長の任を遂行いたします」
「頼むぞ若きマージア卿。魔法鋼の武装については余から魔法局兵站に命を出しておる。六大騎士団への配給は追って沙汰を出す」
カチャの口が魔女のように、にやりと持ち上がった。
誤字報告ありがとうございます!
スマホのちっこい文字だとダメですね。