俺の騎士団
ロザーラが言う通り、数日して例のアンスカーリの使い(キレ者の方)が来て、「マージア殿にはサノハラス街道の街道警備を頼みたいと、アンスカーリ公が申しております」と、さも当然のように仕事を持ってきた。
「僕には魔法研究局の仕事もあるのですが」と、こちらの事情を伝えると、「それは他の方も同じです。アンスカーリ公は、王側近と魔法局局長と国防院、自領の領主に加え、父上から引き継がれたアンスカーリ公閥首領を兼務されております」とスンと言う。
「それはアンスカーリさんだから出来ることでしょ! 僕は準貴族といっても家族しかいないんだから」
「僭越ながら、マージア殿のご身分で『僕』の一人称は軽薄かと。供兵は貴族の義務ですのでわたくしからはなんとも申し上げかねます」
「準貴族!」
「準貴族も義務となっております」
反論の余地なく、冷たい問答集が返ってくる。
「……これシカトしたら、僕はどうなるの?」
「僭越ながら、“わたくし”がよろしいかと」
「僕は僕でいいの!」
「王国への反逆となりましょう」
「反逆! マジ聞いてないよ!」
「いまお聞きなさいました」
「ちょっと、それー。まってよぉ……」
ムチャぶりにも程がある。ぽっと出の田舎者の見ため十歳児に国家を守れだと? しかも実行できなかったら国家反逆罪のオマケつき?
どうすりゃいいんだと、我が家に一つしかない木の丸椅子を引っ張り出し、がっくりうなだれていると、哀れと見かねたかキッチリ従者服を着こなすキレ者が表情を変えずにポツリと言う。
「程々にやればよいのではないですか」
ラドは沈黙のままに顔を上げた。だが当の本人は瞬きもすらなく腹話術師のように素知らぬ顔。
「意外~」
依然、目も合わせず氏はどこか一点を見つめている。
「そんな一面があったんだ。もっと固い人かと思った」
「独り言にございます。お忘れください」
ラドは急にこのキレ者に興味が湧いてきた。ここに使いに来ては、用件のみズバリと伝えて行くので、質実剛健、実直確実に使命を果たすミッションマシーンのような人かと思ったが意外な人間性がありそうだ。
「あなたのお名前を伺っても?」
「庶民のわたくしめに名乗る名はございません」
「なら僕と変わらないよ」
「いえ、あなた様は家名を持たれております」
どうしても言わないつもりである。ならば腹を決めて頑是ない男に命じる。そんなに準貴族と庶民が違うというなら言わせてやるまでだ。
「もう一度言う。あなたの名を教えよ」
威厳を持って問うと、氏はまた表情筋を動かさず答える。
「ドライリーと申します」
ドライリー……。名前の響きに引っかかりを覚え、興味のままに追加の質問をする。
「父の名は」
「スフォルリーにございます」
「祖父は」
「アインリーにございます」
「祖父か曽祖父は改名してるね」
「仰る通りにございます」
名前に“リー”がつくのは、アンスカーリがこの家に与えた名誉なのだろう。ならば代々仕える特直従者だ。彼ならばアンスカーリの腹のうちや貴族の裏事情を知っているかもしれない。
ラドは立ち上がり、少し背伸びをしてドライリーを見上げる。
ガウベルーア人は小さいとはいえ、ラドの身長では近づくと首を大きく反らさないとドライリーの顔は見えない。
そんなラドをマッチ棒のようにほっそりしたドラリーは目だけで下に落とし見る。
「ドライリーさんが僕の所に来ているということは、僕はアンスカーリさんに期待されているのか、それとも恐れられているのかな?」
ドライリーはラドの問いにわずかに眉根を動かす。図星だ。それを確かめるためにカマをかける。
「サルタニアはやりすぎたかな~。その褒美が家名だなんてねー。面白半分に田舎者を準貴族に仕立てて、猿真似を余興に溜飲を下げるなんてアンスカーリさんも趣味が悪い」
そんなおどけムードにドライリーはまた能面に戻る。なるほど、そういう趣向ではないと。ならばと声を低めてズバリと言う。
「魔法の力は想像以上に強力だと今さら気づいたってわけか。いろんな意味で」
ドライリーは僅かに歯を噛み締め、暫く考えた後、天から一糸でぶら下げられた真っ直ぐな首を僅かに落とした。
これはもうひと押しで動く。
「僕はサルタニアにとって英雄だと思わない? それにあの土地の領主の代替わりはそう遠くないとみたけど。新領主は僕の事をどう思っているかなぁ」
ドライリーは靴音鳴らして大きく一歩下がる。そして今度は左手を背に回して跪いた。
やはり、なかなかの忠義者である。さすがに三代も仕えれば、人を信じないガウべルーア気質でも主の狙いを忖度すると。
「貴族など王陛下の名のもと王国にとって脅威となる力を封じるための詭弁でございます。領地のあるもの、金のあるもの、強大な力のあるもの。野放しにできぬならば取り込んでしまうのがこの世界です。マージア殿もまた然り」
「ラドでいいよ。アンスカーリは陛下を抱き込んだね」
「いかにも」
はぁ、まったく……ロザーラは知ってて推したか、知らずに推したか。アンスカーリはサルタニア事変――その後、国防院で命名された――の決着をみたとき、かつてない魔法の力を恐れて、より確実に強大な魔法を封じる方法を考えたのだ。
王の名のもと貴族として封じてしまえば、もはや身動きはとれない。そして強大な力は王国の管理下に。だからアンスカーリの私設の魔法研究所を王国管理の魔法研究局に格上げしたのだ。
しかし、それでは他の貴族が黙っていないだろう。見方によっては王と筆頭貴族が贔屓にも認めたことなるわけで、アクツ・サルタニアのような権力に取り入りたい者からは不満もありそうだ。もちろん矛先は自分。
「はぁ~、僕はラプラスの箱か? やり方が大きすぎるよ」
「ラプラスの箱?」
「それはこっちの話し。中立の者を取り込んで、わざわざ不興を買うこともあるまいに」
呆れてため息をつくと、ドライリーはポツリと一言だけ主のフォローをいれる。
「お察しの事情はございますが、アンスカーリ様は純粋にラド殿をお側に置きたいのです。準貴族は邪推せずにアンスカーリ様のお心と受け止めて戴きたく存じます」
「純粋にって、僕の何がいいんだか」
「アンスカーリ様は、ラド殿のやることを楽しんでおられます」
「楽しむって。こっちは必死だよ。それに代償を払うのは僕で、果実を食べるのはアンスカーリさんなんてズルいよ」
「そうとは限りません。準貴族には平民には与えられぬ自由がございます」
「ハイハイそうですか。なら僕はその言葉を好きにやれと解釈するよ」
「アンスカーリ様もそれを望まれております。特にラド殿には」
なんだそれはと思ったが、魔法開発のアドバンテージを持っている限り自分には自由があるとも読み替えられる。
それにアンスカーリに気に入られているのは、多分そうなのだろう。でなければライカもアキハも今頃街から追放だ。そうならないのはそれなりの力添えがあるからと考えるのが自然である。
なにせアンスカーリには、ロザーラ経由であらゆる情報がダダ漏れだったのだから。
「言質はとったからね。なら僕は本当に好きにやらせてもらう」
「街道警備。ご随意にお遊ばれください」
遊ばれるとは、いい言葉を選んだとラドは思った。実際、アンスカーリはその位を利用して半分遊んでいるのだと思う。
どの世界でも人は遊びを求める。それがモニタの中の遊びか、リアルな世界の遊びか、自分の体を使って遊ぶのか、人の人生を使って遊ぶのかは別として。
――人生なんて、いうなれば遊びの連なり。なら折角なんだ。夢を叶えさせてもらおう!
ラドは心の中で積年したためた想いを形にすることを決意する。
暫くして――。
ラドは街道警備本部に呼び出されて外出する。出かける前にライカに言伝ておく。
「ちょっと街道買警備本部に行くけど、帰りにお土産を買ってくるから皆にも声をかけといて」
「わかったぞ。おみやげは肉がいいにゃ」
尻尾を立てて大喜びのライカに「まかせとけ!」と答えるが、何か買うかは伝えない。
平凡な日常にサプライズは必要だ。人生に遊びの連なりと言ったのは自分自身である。
街道警備本部の用事はあっという間に終わる。
帰路を急ぎ官舎二階の自宅玄関前にお土産を置いて、部屋に向かって呼びかける。
「ライカーーー、イオ達を連れてきたかい?」
するとライカは部屋の扉を少し開けて顔を出さずに答える。
「みんな、きてるぞー」
いつもならラドが帰ってくると、「お帰りにゃ!」なんて飛び出してくるヤツだが、今日は久しぶりの仲間と楽しくやっているらしく、扉の隙間からは楽しげな笑いが聞こえてくるばかり。
短い廊下を抜けて部屋に入ると、それでなくても狭い部屋はイチカやリレイラ、パーンの仲間達でぎゅうぎゅう。二月だというのに暑苦しいくらいだ。
「なんだい、随分、楽しそうだね」
座るスペースがないので、みんな立ち話なのだが、その様子がさながらエレベーターの小箱の中のようだ。
「みんな久しぶりだったからな。工房ができちゃってから、ずっとヒマだったんだ。今日は何があるんだって楽しみにしてるぞ」
彼らが暇を持て余しているのは確かにその通りだった。サルタニア事変のすったもんだの間に工房の基礎工事は終わってしまい、その後の仕事はラドもライカもバタバタで何もお願いしていない。
雇用の体裁はとっているが、いうなれば仲間以上、家族未満の甘えもあり気にかけてあげられなかった。そんな思いもあり久しぶりの再会は嬉しいが、ちょっと申し訳なくも思う。
「みんな待った?」
なんてフランクに聞くと、パーンの子達は口々に「お久しぶりです!」「ラドさん!」「ラドさんの活躍聞きました!」と、やんややんやの歓待。
「サルタニアには、黙って行っちゃってごめんね」
頭を下げる。
「いいえ! ライカちゃんから二万のシンシアナ兵を魔法で蹴散らしたって聞ましたもん!」と、興奮気味な少女の声。
このライカをちゃん付けで呼ぶ女の子は、この中で一番年少のうさぎ系のパーンの子、シャミ。頭からぴょんと生えた長い耳と、真っ白い頭髪がひときわ目立つ。
そのシャミが持ち前の跳躍力で仲間たちを飛び越え、ラドの胸の中にぽんっと飛んでくる。小さい子ではあるが、それでもラドより大きい。その重さをラドはよろけながら受け止める。
「わぁ、シャミ、危ないよ」
「だって、嬉しかったですもん!」
「しゅにんはシャミのヒーローだな」
ラドを慕うシャミを見てライカは自分ごとのように鼻高々だ。どうやらサービス精神を持て余して、サルタニア事変の話を膨らませて伝えたらしい。別に話されて困る事はしていないが、あまり大きく吹聴されるとハードルが上がって苦しくなってしまう。何より皆と距離が出来るのは嫌だ。
「ライカ~、作り話も程々にしときなよ」
「だって、しゅにん! ホントにすごかったぞ、あの魔法は! それに二万くらい倒すって、しゅにんも言ってたし……」
「あれは景気づけの数字。ホントは二千も倒してないよ。倒れた兵達もちょっと火傷を負ったくらいだよ」
「うぅぅぅ、でもそのくらいすごかったのだ!」
自分のドキュメンタリーが、控えめな戦果に言い換えられることに晴れない顔のライカ。そんな悔しそうな顔も今日ばかりは可愛く見える。
「それより、今日はプレゼントがあるんだ」
ラドは肩すりあう仲間たちの中に割り込んで、部屋の真ん中に椅子を置く。そこに座るのかと思いきや靴のままヒョイと座面に立つと、ぐるりとみんなを見回して大きく息を吸った。
プレゼントと聞いてざわざわの部屋は、潮が引くように静かになり、次第に皆の意識は部屋の真ん中に集まっていく。
ワクワクの思い、疑問の顔、憧憬の瞳。
「えー、今日はみんなに重大な発表がありまーす」
返答は返ってこない。みんな次の言葉を待っている。
「お待たせして申し訳なかった。やっと皆との約束を果たせる時がきました」
「なんの約束だ? しゅにん」
「しっ! ライカ、ちゃんと聞いて」
イチカにたしなめられて両手で口をふさぐライカ。ほかのパーン達も近くの者と顔を見合わせて、何の事だとざわめく。
「本日、僕はここにマージア騎士団の設立を宣言します!」
「騎士団?」
騎士団と聞いて、きょとんとする仲間たち。
「ラドさんの騎士団ですか? 凄いですけど、なんでそれをここで言うんですか?」
この発言は年長のライオンのパーン、イオだ。
イオはこの仲間のリーダー格の子だ。大人になりかけているイオは、たて髪がそろいだし金色の瞳も相まって、見た目には猛獣の威圧感を帯び始めている。
ここに来た時は人の子とさほど変わらなかったが、成長の早いパーンはあっという間に大人なり今やこの貫禄である。ここまで獣化が高いとどう見てもパーンなので、昼の表の世界に素顔を晒すことはできない。それでもアキハの話によると、勉強をしたいといって夜になると工房に顔を出し読み書きを教えてもらっているそうだ。
パーンの子は体の成長も早いが頭の成長も早いので、あっというまに文字を覚えてしまい、今では読み書きもできる。
「イオの疑問はもっともだね。じゃタネあかしをしようかな。イチカ、リレイラあれを」
イチカとリレイラは「ハイ」と小気味よく返事をして、玄関外にまとめていたリボン付きの包を一人ずつに手渡した。
「なんにゃ?」
「開けてごらん」
それは人数分用意された服。
各々が袖を通す。
「これ、おそろいですもの」
シャミは少々ダブついた服の胸元を摘む。
紺色の飾りっ気のない、まるで昭和時代の学生服のような上下。それに焦げ茶色のショートブーツ。箱型のつば付の帽子にはオレンジと黄色の組紐の飾りがつく。焦げ茶のベルトには、武装をぶら下げるための穴がたくさん空いていた。
イオが包紙の文字を読む。
「街道……支給……服?」
「あっ!」
気づいたライカが、その言葉を補完する。
「これ、もしかして街道警備隊の制服か!?」
「そうだよ、先日僕はアンスカーリさんからサノハラス街道の警備を言い渡されたんだ。だから騎士団を立ち上げた」
「騎士団を立ち上げたって、まさか私たちが?」
イオが絵に描いたような、信じられないというポーズをラドに差し向ける。その手のひらに肉球が見える。ライカより獣化度が高いイオは風貌もそうだが、こういう要所要所に獣の特徴を持つ。
「イオも、もちろん騎士団のメンバーだよ」
「えーーー!」
遅れて他のメンバーも声を上げた。
「その制服を着ている限り僕らは街道警備隊だ。パーンであっても捕まることはない。もちろん野良半獣だなんて言わせない。耳を隠したり顔を覆ったりする必要もないし、奴隷首輪だっていらない、コソコソ歩く必要もないんだ」
ぽかんとしていた顔にそれぞれの表情が戻ってくる。驚き、畏怖、緊張、喜び、そして不安。
その顔を一通り見て、ラドは話を続けた。
「でも無理強いはしたくない。騎士団に入ったら戦わなきゃならない。それは怖いことだ。ここにはまだ小さい子もいる。だからもし嫌だったらそう言ってほしい。断っても僕は別の方法で皆を守るから」
ラドは皆の答えを待つ。だが見渡す顔には自然な力がこもっている。それぞれに頷き合うどの顔も答えはイエス。それ以外のメッセージは読み取れなかった。
仲間たちを代表してライカが口を開く。
「しゅにん! みんなでしゅにんの騎士団になるぞ」
「ありがとうライカ」
そう言って、ラドは大きく息をついた。
「やっとライカとの約束を果たせたね。随分、待たせちゃったかな?」
約束と言われハテナを浮かべた茶の瞳をラドに向けたライカだが、はっと気づいて自分より遙かに小さなラドの肩を掴んだ。
「そんなことない、そんなことないぞ! しゅにん!!! ライカは全然待ってない!」
ライカは確信に満ちた顔をラドに向け、ラドの言葉を強く否定した。
「覚えてて、くれたんだ……しゅにん」
茶色の瞳がゆるりと揺らめく。
――ライカは思う。
しゅにんは魔法使いだ。
しゅにんは自分をライトの魔法すら使えない落ちこぼれだと言う。でもしゅにんは信じられない所に自分を連れて行ってくれる。とんでもない形で願いを叶えてくれる。
それを魔法と言わずになんと言おうか。
温かい家。
お腹を満たしてくれること。
気持ちを満たしてくれること。
ここにいてもイイと認めてくれて、親友と抱き合うこと。
どれも普通にない事ばかりなのに、しゅにんはそれを何もないところから手渡してくれる。
ライカの魔法使い……。
ライカは目頭が熱くなるのを認めて下を向いた。みんなの手前、泣き顔は見せられない。ラドを抱きしめたい思いも押し込めないといけない。恥ずかしいからではない。仲間たちの前で自分が特別になってはいけないからだ。
自分が特別になってしまったら、ラドと新しい仲間たちは離れてしまう。それはラドの望みではない。ラドが望まない事は絶対しちゃいけない。
「何かあったら、『自分はライカ・マージアだ。文句は言わせないぞ』っていうんだよ。ライカはマージア騎士団の団長なんだから」
またラドは驚くことを言う。
「ふぁ? マージア? それにライカが団長なのか?」
「家族なんだからあたりまえだろ。それに、この中で一番強くて戦い慣れているんだからライカが団長だ」
「それはちょっと困るし怖いぞ」
ライカは及び腰になる自分に戸惑った。団長という響きに臆したのもあるが、胸中をよぎるのは自分が仲間たちの使役者なってしまうのではないかという怖さ。イオやみんなは想いを分かち合える仲間だ。そこには上も下もない。そんな彼らに心を痛めながら命令しているうちはいい。だがいつか自分は何も感じなくなってしまうのではないだろうか。
それに仲間の命を預かる責任の重さもある。
今までもラドやイチカ、リレイラの命を守ってきた自負はある。何かあれば刺し違えてでもラドを守れる。だが団長になれば自分の命ではなく、皆のために仲間の命を使う決断をしなければならない。それは今までラドがしてくれていた事だが、そんな重たい事を自分がすることになる。
今、感じているのはその怖さと重さ。
そんな想いを抱いて止まるライカにシャミのかわいい声がかかる。
「ライカちゃん、団長やってですの」
イオの声もする。
「ライカならできるって」
「僕らをここまで連れ来たのはライカだろ。だからライカにやって欲しいんだ」
この中でイオに並んで年長格となる、猿のパーン、ザファも背中を押す。
あちらこちらかもかかる、ライカ、ライカの押しの声。
なにやら部活の次期部長を決めるような能天気なやりとりに思えるが、その激励にライカは背中を押され、最後は「母さんが適任だと思われます。主任は情に流されやすく、体力的にも脆弱です」の、なぜかラドをディスったリレイラの一言が決めてとなって決意を固める。
「わかったにゃ! みんなが言うなら団長をやる!」
覚悟決めたライカは仁王立ちに踏ん張り、みんなの拍手を浴びて凛々しく真顔で宣言をした。
ふんっと鼻を鳴らして意気込むライカが、ふとラドを見て気づく。
「ところでしゅにんは騎士団やらないのか? しゅにんの服がないけど」
するとイチカとリレイラが、クスクスと笑い出す。
「どうしたんだ?」
「服のサイズがないんですって」
「昨日、仕立て屋に注文をしてきました。リレイラは『弟さんは街道警備隊がお好きなんですね』と意味不明な質問されました」
「もう、そういう事はみんなの前で言わないでよ! コスプレじゃないんだから」
「コス??? でも、しゅにんも一緒なんだな」
「もちろん!」
「なら、ライカはどこまで頑張れるぞ!」
ライカの晴れ晴れとした笑顔が、ラドの心に晴天を運んできた。