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時の景色と地の景色

「気ままな旅ってのはいいねぇ」

「何、言ってんのよ。あれだけヒドイ街の様子、見てきてんのに」

 アキハがさっき寄った街道街、デフィニスで買ったマメ詰め揚げパンをもぐもぐと食みながら呆れた風に答える。

 別にデフィニスの街が住みやすいと言った訳ではない、旅がいいと言いたかったのだ。何かに束縛されない時間は自分にとっての憧れだ。ちょっとした冒険者気分を味わえる。

 もっともお金が凄い勢いで減っていくのだが……。


「なぁなぁしゅにん、次の街は何ていうんだ? 次こそ平和だといいな」

「それは楽天的ではないでしょうか? 母さん」

「わかんないぞ。パラケルスよりもっといい街、あるかもだぞ」

「パーンやハブルの扱いは街それぞれみたいだね。もっとも大抵奴隷以下だけど」


 ラド達はウルック街道を上る途中、片っ端から街に寄って、人々の生活や領主の噂を聞いて歩いた。

 パーンの扱い。ハブルの生活。領主の人柄などなど。

 だがどの街もサルタニアと似たようなものだった。パーンが奴隷として使われ、ハブルは街には住めない。出自の悪い物は農奴になって死ぬまでコキ使われる。

 小さい街道街ではパーンの生存そのものを認めない所も少なくはなかった。そんな街にライカを入れたら大変な事になるので、ラドとリレイラだけ街に入り情報収集だけして出てくる。

 パーンやハブルを奴隷として認めている街ならば、街に入って宿もとれる。それでも四人の顔を見て泊めてくれない宿に何件も出会った。

 行きはロザーラがいたから貴族の従者ということで宿には困らなかったが、一般人のしかも子供姿のラドだけだとアキハとライカを従者だと言うの厳しく、門前払いになってしまう。

 そう考えると初めての王都の旅でするっと宿に泊まれたのは奇跡に近い幸運だった。


 街中ではしばしばハブルが引き起こすイザコザを目撃した。街の外ではハブル同士な奪い合いもよく見た。そんな世知辛い光景を見るたび、アキハは自分の置かれた立場と現実を知り目を逸らした。

 どの街もどの街も貧しき者やハブルやパーンの日常は酷いありさまで、それを見ると何とか救えないかと胸をかきむしられる思いだが、こんな非力な四人ではどうにもならない事も分かっており、ただ唇を噛み締めて誰もが目を逸らし、口を閉ざすしかなかった。


 だが暗い話ばかりではない。政治の酷さや治安の悪さと文化は別だ。

 やはり東は物が豊かで地方それぞれに工夫を凝らした特産物がある。サルタニアは小麦の産地だったが、なんと東には陸稲の産地もあった。

 ウルック街道、第四の都市、ベルロイは米の産地だ。そこの“炒め飯”は、ししとうと岩塩とごま油で味付けされた実に美味なものだった。

 他にもアージュは鶏肉の産地で、広大な農園に鳥――ニワトリではなくウズラのような鳥の風切り羽を切って飼う――を離し飼いしており、卵と鶏肉を各都市に卸している。

 ここの名産はズバリ“親子丼”だ。だが前の世界のそれとは作りがちょっと違う。パスタのような小麦麺の上にほろほろにした焼き鳥を乗せ、その上から半熟の卵のとろりと乗せる。

 これが小麦麺と絡まると実に美味い!

 肉が乗っているのでライカも大満足。リレイラも「これは美味です。幾らでも食べられます」とフォークが止まる気配がない。

 その横でアキハは「がまん、がまん」と唸る。


 城塞都市が狂獣の森に近づくと名産も変わってくる。

 たぶん効果はゼロだろうが、“狂獣よけのアクセサリー”なんてモノが売られ始める。あと半獣人が怖がる首飾りとか。

 ライカに聞いても「全然こわくないにゃ」だそうだが。

 どこでもあるものだ、雑誌の裏側に描いているアヤシイ物販みたいなやつが。


 雑誌で思い出したが漫画もあった!

 漫画というには稚拙だが、白黒の版画で刷られた絵付きの物語である。活版印刷は無いがこの世界にも版画はあるのだ。

 内容は“ドラゴンスレイヤー伝説”みたいなものだ。どこかの勇者が、狂獣の王にさらわれたお姫様を助けに行く。道中には様々な困難が待ち受けているが、勇者はそれを見事に撃ち破り、ついには狂獣の王と対決し勝利。そしてお姫様と結婚しましたというストーリー。

 剣と魔法のファンタジーな世界にいるのに、読まれている物語がファンタジーってどうなんだと思うが、まぁ考えてみれば前の世界でも劉備や曹操が女の子になってる三国志なんてあったのだから、別段不思議はないかと納得してみたり。


 そんなモノに触発されて、旅の暇つぶしにと三人に漫画を描いてやった。こう見えても小説もゲームも漫画も大好きだったのだ。ストーリーには自信がある。

 こんな感じ。

『父王殺害の濡れ衣を着せられて王宮を追放された王子が、村外れに隠れ住む異国の魔法使いの娘に助けられ、二人で力を合わせて自分を貶めた宮廷官吏を倒して王と王女になる』というちょっとヒロイックな話だ。

 クライマックスは、娘を庇った王子が悪役官吏に刺されて命を落とすが、王子を想う娘が自分の命と引き換えの禁忌魔法を使って王子を甦らせ王子は官吏を倒す。だが娘は戻らない。だが王子の涙が娘のお守りに落ちると、そこから光の精霊が現れて娘を蘇らせ二人は末永く幸せに暮らしましたとさ、とっぴんぱらりのぷぅ。という、ありがちーな、強制感動っぽい、お涙頂戴なオチだ。

 これを見せると、ライカは「しゅにん、すごいにゃ!!!」と大喜び。だがリレイラは「後半が甚だしくご都合だと思います。それに話がムダに長いです」と酷評。

 毒舌……。いやそうなんだけど、それがファンタジーってものでしょ。ぼかぁね、魔法があるのにヒールとか蘇生とか無いこの世界の方がおかしいと思うのよ! どこでも開く金色の鍵はないし、小さなコインの入ったツボはないし、勝手に民家に入ったら捕まるし。

 全くこの世界ときたらどーいうコトだっ! こほん、失礼、現実が混乱しました。

 そしてアキハは……。

「ラドってさ、絵ヘタだよね」

 パリーン……。

 いまガラスのハートが粉々に砕けました。



 そんな自由気ままな旅を二十日ほどして王都に戻る。

 ウルック街道に繋がる東門をくぐると、王都の雰囲気が出た時とは明らかに違う。どうやらお祭りらしい。

「なんだろう? 王都では春にお祭りがあるのかなぁ」

「聞いた事ないよ。でも年明けは大騒ぎするのかもね」

「そうですね。ガウベルーアは地域毎に随分文化が違うようですから」

 そんな呑気な事を言い合いつつ、自分達の部屋があるペペルヴォール地区の官舎に戻ると、玄関先にきっちりとした制服の兵が二人も立っているではないか。


 すり抜けようとすると抜刀され声をかけられる。

「ラドだな」

 ああ遂に来たかと思う。ロザーラは国をたばかった罪は重いと言っていた。二十日も経てばサルタニアの情報は王都にも届く。王都に戻ったら魔法局に出頭するつもりだったが、帰りがあまりに遅いのでお迎えが家まで来たのだろう。


「我々に着いてきてもらおう」

 捕まる覚悟はあれど、実際に捕まるとなると事の重大さに流石に慄く。

「わかりました。ただ、この三人は関係ありませんので彼らはここに」

「いいえ、全員連れて来いと国王陛下の命令です」

「国王陛下!?」

 ――おいおい、ちょっと話が大きいぞ。マジやばいんじゃないの。

 アキハも大物の名前を聞いてやっと実感が沸いたか、目を丸くしてライカやリレイラと顔を見合わせている。


 その声を聞きつけたイチカが飛び出してきた。

「ラド!」

 扉を開けた勢いのままに飛びついた。

「ラドが行くなら私も一緒に行きます!」

 二人の兵は困惑顔。

「まあ、よかろう。一行を連れてこいとのことだ」

 イチカはぐすぐす泣いたまま、ずっとラドを抱き締めていた。



 馬車に詰め込まれて王城に連れて行かれる。馬車を使うのはたぶん犯罪者を逃がさないためだろう。

 さして大きくない馬車に重なるように五人も座って、ガンガンゆられながら城下の街をすり抜けて行く。

 祭りの意味は、その道中で分かった。

 サルタニアがシンシアナに圧勝したことを祝う祭りなのだ。

 大通りの交差点では祝賀のパンが振舞われ、その包みには、“十万の帝国軍を打ち破ったサルタニアの快勝を祝う“などと書かれている。

 十万とは随分と吹いたものだ。強国復帰の高揚か戦勝気分の陶酔か、噂なんていつの時代もそんなものだ。大方、アクツ・サルタニアが大勝を喧伝したのだろう。あるいはアージュ騎士団が伝聞を聞き間違えたか、まぁそんなところだろう。

 いずれにしてもラドには関係のない事だ。


 馬車の中は外の喧騒とはうって変わって、誰も喋る者はいなかった。

 道中、だれもが分かっていたが――だからこそ旅は異様に盛り上がっていたのだが――王都に着くなり本当に直参命令が来ると、やはり神妙になってしまう。

 何の罪かは分からないが、ここまでされるのだから主犯はただでは済むまい。だがなんとか残りのメンバーは王都追放くらいで収めたい。そのためには我が身を犠牲にして……でも処刑は勘弁してほしい。せめて終身刑くらいで。いや死ぬまで獄中てのも死ぬほど辛い。

 ガウべルーア王国の刑罰がどんなものか分からないからこそ、その瞬間が近づくにつれて現実は一層リアリティ増して重くのしかかってくる。


 馬車は門を一つ、二つと通過し王宮に入っていくが、豪奢な建物や庭園の景色に心を奪われる者は誰もいなかった。その馬車馬のヒヒンといななきと足を止める。


「降りろ」

 素直に降りる。

「着いてまいれ」

 素直に着いていく。


 武装した兵、四名に前後を挟まれ、暗い石の廊下を足音を揃えてひたすら歩く。建物の構造はわからない、ただ大きいというだけの印象しかない。

 その正面に無駄に大きな扉が見えた。

 ラドの喉がごくりとなる。たぶん玉座の間だ。という事はここが終着地点。ここで自分は断罪される。


 その扉がゆっくりと音もなく開く。こんな時でもこの大扉を軋みなく開ける蝶番を作った職人はいい腕してるなと思ってしまう。いや、そういう事を考えないと緊張で気が変になってしまいそうだ。

 前を進む兵を追いかけ足を進める。石造りの柱を並べた部屋は左右に採光の窓があり、それが石の透かし彫りとなっているため、思ったよりも明るい空間だった。

 その明かりを受けて右に豪奢な服を纏った貴族達が、左に武装した兵が並んでいた。

 その貴族達の顔を追うと前方に長い髭の、ちょっとクレイジーなガンダムカラーの服を着た老人が見える。ブリゾ・アンスカーリ。

 そして正面には大小二つの椅子。玉座だ。


 ぼーっとその構図を見ていると、

「跪け」

 そう左右の兵が言って、ラド達を睥睨しつつその場に膝を折らせた。

「その娘たち、足が逆だ」

 誰もがハイとも言わずに、言われた通りに膝をつく。もちろん顔を上げる者はいない。


 そういえば、アクツ・サルタニアの顔が末席にあった。

 辺境の彼が居るということは、間違いなく彼がこの断罪を提案したのだ。彼はサルタニアの功績を我がものにするために自分達を消しにかかっている。

 魔力が無いことアンスカーリに吹き込んだか?

 城壁を破壊したことを言ったか?

 アンスカーリが怒れば王の側近である彼は、自分のメンツを守るためにあえて王の前でラドを断じることを考えるだろう。


 そんな事をつらつら考えている間に、前方から靴音が響いてきた。足音は正面の左脇から始まり中央で止まる。この足音がフォーレス・ブルレイド王だろう。ならもう一つのカツカツと響く軽く高い足音はアメリー王妃だろうか。たしかそんな名前だったと思う。

 名前もうろ覚えの王族に、なんで片田舎の親なしの子が突き出されているのだろか。前の世界ですら遠目にだって自国の総理大臣に会ったことはないのに。


 ここまで連れてきた兵がラド達の横に並び、抜刀し胸の前で剣を構える。

 その金具が擦れる音が首筋から恐怖を運んでくる。金属装飾の奏でるざわめき立てる音が耳の中に残って離れない。

 たのむから、ここでうち首だけはなしにして欲しい。

 もう脇汗がびっしょりである。


 やや暫く沈黙が続く。何か前方で話をしているようだが、その声は聞こえない。

 そうして、おもむろに。

「ラドと申すな」

 王の声がした。これは「ハイ」と答えるべきなのか。聞き流すべきなのか。もう分からない。分からないから直感で動くしかない!

「はい、自分がラドでございます」

 ホールに響く自分の声。なんてお子様な声だろう。緊張のあまり認識がおかしくなっているのだ。まるで自分のことが自分ではないように感じられる。

「うむ、そなたを王立魔法研究所所長職から解任する」

 響き渡る渋い王の声。

 ――キタ! あかん! これはあかんやつだ! やっぱりロザーラの言ってたの本当だよ!


「そして我が名により命ずる」

 すると左の武装したきらびやかな兵が揃って刀を掲げる音。

 ――ぎゃひー! やるんか! ここでやるのか、王様よー!

「王立魔法研究所を局に格上げし、そなたを局長に任命する」

 ――んぎゃーーー!!!


「……えっ?」


「このたびのサルタニア領でのシンシアナ討伐ご苦労であった。事の次第はアクツ・サルタニア卿及びアージュ騎士団長より聞いている。強大な魔法で敵を一瞬で蹴散らしたそうだな。アージュ騎士団がサルタニアに到着したときは既に敵兵は跡形もなかったと聞いておる。サルタニアは辺境だが狂獣生息領域とシンシアナ帝国との緩衝領として重要な地域だ。兵の強化を行う予定だったが敵に切っ先を取られた。十万の兵力ではサルタニアは持ちこたえられなかっただろう。危ない所をよく救った」

「畏れ多くも、不肖の弟子へのお褒めの言葉、感謝申し上げます」

 そう言ったのは、ブリゾ・アンスカーリ。いつお前の弟子になった!


「ラドよ面をあげよ」

 その言葉に従い顔を上げる。そこには、まだ三十代と思しき、凛々しい王の顔があった。耳までかかった燃えるような赤い口ひげ。何かの物語で赤毛は優秀な魔法使いになると聞いたのを思いだす。隣にはちょっとキツめなスレンダーな王妃。


「さて、そちの活躍に余も報いたいと思うのだが、望みはあるか」

 ナニが起こったか分からないが少なくとも殺されることはない。ホッとするが困った事に何かくれるという。

 望みはある。パーンとハブルに人権を与えて欲しい。だがそんなの言えるわけない! それこそまた大問題になる。

 それに差別は慣習や文化に食い込んでいる国民意識の問題だ。千パーセンあり得ないが、もし王が良しとしても差別はなくならないだろう。

 ならばなんと答えるべきか。


 急展開にかなり面食らったが、ラドは次第に冷静を取りもどし始めていた。

 金や物はいらない。別に困窮はしていないし、前の世界の便利な文化を体験していると欲しいものなど便利なマジックアイテムくらいしかない。そのマジックアイテムも作れる技量があるのは自分くらいしかいない。

 強いて言えば家?

 ふと見回すとサルタニア領主が苦い顔をしている。一方、アンスカーリのじいさんは上機嫌だ。

 これはどうも派閥の駆け引きがあったらしい。サルタニアはアンスカーリに近づきたい。だが小僧の手柄になるのは気に入らない、そんなところだろう。

 ならば庶民の高望みは危険だ。一層サルタニアのおっさんに不興を買ってしまう。

 チラリと横目に見るとロザーラが左の列に封じられている。自分が諸国漫遊でモタモタしている間に先に戻っていたのだろう。

 だがまてよと立ち止まる。ロザーラが左に封じられているということは、この若き娘は魔法騎士に志願したということだ!

 えっ? どういう事? 

 だが待て。ヒュウゴ先生に聞いたことがある。ラドから見て左側は王の右手、魔具を持つ手なので近衛騎士団が立つ位置を意味する。右側に各領を治める領主が立つ、よってサルタニア領主は右側にいる。

 ロザーラから詳しくは聞かなかったが、サルタニアは息子が跡を継ぐのだろう。そしてロザーラはどこかの家に政略結婚で嫁ぐ――ハズだったが、たぶん父親に愛想を尽かして家を出たのだろう。そして王に忠誠を誓うと父に言い放ったにちがいない。

 なら、いい事を思いついた。


「では寛大なる国王陛下の慈悲を乞いたいと思います。この戦果はロザーラ候の機転あってこそ。ならばロザーラ侯に優秀な魔法士の部下を数名頂きたく存じます。さすれば若きロザーラ候の護衛にも、よきアドバイザーにもなりましょう」

「そちではなくか」

「はい、この戦でもっとも活躍したのはロザーラ候であります。彼女の勇気があってこその戦勝ゆえ。わたくしはその手伝いをしたに過ぎません」

「ふむ、そうか。よかろう。アンスカーリ、頼む」

「御意に」

 貴族の娘がいきなり騎士は辛すぎるだろう。仲間がいれば何かと世渡りも楽だ。これで彼女も一銃士ならぬ二、三銃士になるだろう。


「ならばラドよ、お主は家名がないがゆえ呼びにくい。この功績を鑑みてマージアを名乗るがよい」

 ――ん? どういうことだ?

 よく分からないが辺りがざわざわとし始めて、無関心だった人々の視線がこちらに刺さってくるのが分かった。だが意味がわからないし、まぁ名前くらいなら安いものだから貰ってこう。


「ありがたき幸せ。以後ラド・マージアと名乗らせていただきます」

「うむ、益々の活躍を期待しておる。下がってよい」


 下がれと言うが、先に下がるのは失礼だと知っているので、王が下がるのを待つ。そして次々に位の高い物からその場を後にするのを見送る。庶民は跪いたまま最後までいるのが礼儀だ。

 ところが最後の足跡が去ったと思ったら一人、革靴を響かせて駆けてくる者がいた。


「ラド殿!!! やったな!」

 ロザーラ!

「やったなって……ははぁん、さてはこれはロザーラが仕組んだな」

「ああ、仕組んだとも!」

 ロザーラはラドの両手をとって、ぴょんぴょん跳ねて大喜びだ。

「もう、僕らは全員殺されると思って、死にそうな顔でここまで来たんだよ」

「なんで、そうなる」

「だって、ロザーラがあんなこと言うから」

「私が言うと思ったか。逆だ。父上があのような戯言を言うから、アンスカーリ様はお見通しだと言ってやったのだ。アンスカーリ様はラド殿の魔法の知識を知っておられる。戦果を聞けばよもや私の活躍とは思うまい。ラド殿がやったと直ぐに分かる」

 なるほど、確かにそうかもしれない。

「それより家名だぞ!」

「うん」

「なんだ嬉しくないのか? 一般人が陛下から家名を下賜されるなど前代未聞だぞ」

「そうなんだ」

「そうだとも、準貴族だ! ラド殿は十五歳にしてマージア家の持ったのだ」

「へぇ……はいぃぃ? 僕が貴族ぅぅぅ?」

「そうだと言っておろう。だからあの動揺だったのだ。私も驚いたぞ」

 ま、マジか。これはとんでもない事になったぞ。


「ロザーラが推薦したんじゃないの!?」

「できるわけなかろう。陛下が功績をみて下されたのだ。すごい事だぞ!」

 ロザーラが屈んで抱き着いてよろこぶ。余りに喜ぶものだから、なんで騎士団に入っているのか聞きそびれてしまった。


 人生とは全く分からないものである。

 だがその称号がアンスカーリの画策だと、気づくのにそう時間はかからなかった。

 まこと、人生とは分からないものである。

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