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初戦

 メインイベントを宣言する木管ラッパの柔らかな音色が会場に響き、一拍おいて大きな歓声の波がかぶさる。

「諸侯に皆様方、お待たせいたしました。本日は急なお声がけにもかかわらず、ブリゾ・アンスカーリ主催の興行に、快くご参集いただき誠にありがとうございます」

 なんだか司会の宣言がサラリーマン風の堅苦しい挨拶に聞こえるのは、ラドの脳ミソが無理矢理そう翻訳しているからだろう。そもそも貴族の言い回しがガウべルーア語でどうなっているかなど知りもしないのに、それっぽく訳されて聞こえるのは前の世界の知識との照らし合わせが行われているからだ。だから知っている言葉以上のものが出てこないのは当たり前である。


 司会の紹介に合わせて二階席のアンスカーリは席を立ち、一歩前に出て両手を広げ称賛を全身に受け止めると、両手を後ろに回してうやうやしく頭を下げる。これが貴族のマナーなのだろう。

 司会はアンスカーリが頭を上げるのを見定め、動きに合わせた絶妙の間で次の言葉を繋ぐ。

「それでは、本日のメインイベントとなります、スタンリー・ワイズ卿とパラケルスの貧民ラドによる魔法対決を始めます。勝負は三種の競技で勝敗を競い、先に二勝した者の勝ちとなります。対決ではどのような魔法を用いていただいても結構」

 おいおい、いま貧民って言わなかったか?

 正しいが無礼な紹介にムッとするが、ここはアンスカーリの掌の上なのでぐっと我慢する。


 お次は長ったらしい口上を戴いて、スタンリー・ワイズが闘技場を挟んだ対面の控室から、つかつかと出てくる。

 かの人は真っ白な上下に金の刺繍の縁飾りを付けた、ラノベ小説に出てきそうな煌びやかな衣装を身に着けて颯爽と闘技場中央に歩いてくる。

 多分、騎士の儀仗服か正装なのだと思うが、ちょっとかっこよくてムカつく。

 主役の登場に会場からは万雷の拍手――と思ったが、二階、三階は割りと地味めの拍手で、だが四階は総立ちの大きな歓声によるお出迎えとなる。

 権力のあるところに派閥あり。ワイズ家は二位の貴族と言っていたがそれを認めたくない者も多いのだろう。本当に生々しい世界である。

 スタンリーは短いグレーのストレートヘアを手でかきあげ拍手に応えて手を振る。するとうわぁと黄色い声援が盛り上がる。

 ハイハイ、それでも貴族のご婦人の間では人気ってことね。まぁスラッとしてるし、それなりのイケメンだし。それなりにね。


 コレがこれから戦う相手だ。そして自分の主張の正しさをアンスカーリに見せつけ、我々を笑いにきたヤツらをギャフンと言わせるために、コテンパンにやっつけなければならない相手である。

 だが怪我をさせちゃいけないので、直接対決にならなきゃいいのだがと考える。

 多分コイツに大怪我をさせたら、試合に勝っても自分達は全員殺されるだろう。

 剣と魔法のファンタジーっぽい世界だからといって、庶民が偉い人に刃を向けてタダで済むとは思えない。自分の知っている剣と魔法のファンタジーは、オークとかコボルトなどのモンスターを相手に力を振るったり、光と闇の勢力のぶつかり合いだったが、そんなわかり易いのはまさにファンタジーだった訳で、人が生きる世の社会ならば、ちゃんと社会通念とルールが存在しており、仲間だから善、魔物だから悪、悪即斬なんて単純公式では動いていない。


 そんな世界の複雑さに悩む間にも、第一試合の準備は進む。

 闘技場には二十体ほどの人サイズの藁人形が遮蔽物と共に持ち込まれ、点々と設置されていく。

 司会の説明によると、第一試合はそれらを全て撃破するまでの時間を競う競技とのことだ。ようはSWAT部隊の訓練みたいなもので、遮蔽部に隠れた敵を撃破しながら進むアレらしい。


 まずは直接対決でなくて良かった。だが……

「あの藁を狙うの? なんかしょぼくない?」

 アキハが本音を漏らす。修羅場をくぐった実戦経験者からすると、このSWAT部隊訓練はそう見えてしまう。

 いくら高貴な方に怪我をさせたくないとはいえ、こんな激地味な試合で客は納得するのだろうか?

 火の魔法は最も早い詠唱ならば約三秒で発動させることができる。いかに遮蔽物の向こうの藁案山子とはいえ二十体程度ならば数分で勝負がついてしまう。これでは、しょぼい上にあっという間に終わってしまう。

「あはは、だよね。でも困るのは僕らじゃないし、むしろイチカが怪我しな方がいいし」

「ああ、そうね」

 アキハはちらっとイチカを見て軽くゴメンと謝る。本来の目的は新しい魔法のお披露目だ、こんな場に連れて来られて勝ち負けの試合を見せられて、感覚がズレてしまった事を謝っているらしい。



 試合はまずスタンリーから始まった。まずは天才様のお手並みを拝見である

 闘技場にスタート位置にスタンリーは立つと、軽く目をつむって意識を集中する。会場もそのムードに引っ張られて引き潮のように静かになっていく。

 そして全体の呼吸が揃ったのを合図に、試合スタートを告げるドラがボワンと鳴った。


 パッと目を見開いたスタンリーは、いきなり最初の遮蔽物の向こうにある藁人形の的をめがけて火の魔法の詠唱を開始する。的は木柵の後ろでこのまま火の魔法を放っても当たらない。

 どうするつもりなのだろうか、あるいは遮蔽物ごとふっ飛ばすつもりなのだろうか。

 と思いきや! スタンリーから放たれた火の魔法弾は直進する進路をクイッと右に変え、木柵の背後にスルリと回り込む!

 まるで野球のカーブ! いやそんな生ぬるいものではない、随意に動くドローンだ。

 木柵の後ろに回り込んだ魔法弾は柵に沿って直進すると、的の前で鋭く折れ曲がり過たず案山子の的にヒットし炎と化す。同時に撃破を確認した係の者が木柵の裏から赤い旗を上げて撃破を示す。それを見た観客は遠慮ない歓声を上げる。


「なに、いまの……」

「あれはスタンリー様にしか出来ない魔法技です。放たれた魔法は普通行き先を変えられないのですが、それを意志の力で曲げるのですからまったく凄いものです」

 ラドのつぶやきを受けたぽんやり案内人が聞かれてもいないのに薀蓄を垂れる。

 まさか放たれた魔法が曲げられるなんて思ってもみなかった。なまじ物理を知っているものだから、放った魔法弾も慣性のままに運動すると思い込んでいた。だが魔法とは、そんな常識に留まるモノではないらしい。


 スタンリーは的に当たることを織り込んでいたように、赤旗など確認もせず次の的を目指して走り出す。

 その先には三人の兵が待ち構えている。二人は木刀を構え、一人は狂獣の毛皮で耐魔法化した盾を持って的の前でがっちり構える。どうやら三人でシンシアナ兵一人を模したシミュレーションらしい。一対三の圧倒的に不利な条件でどう戦うか。

 たがスタンリーは躊躇いもせず、あえて相手の足元に魔法弾を叩きつけて砂塵を起こす。そして砂に目をやられてスタンリーを見失う三人にあっという間に近づくと、真ん中で的を守る男に一発蹴りを食らわせて後ろに吹っ飛ばすし、背後にあった藁の的を即座に火の魔法弾で射抜く。

「うまい手です」

 リレイラの言う通りだ。目的は的なのだから無駄な戦闘はしない方がいい。


 そして次のエリアに行くまでにランダムに配置された的を走りながら短い火の魔法の連続詠唱で焼き切って行く。その詠唱は恐ろしく早く、一発も外していない。

「走りながら魔法の詠唱かよ……」

「ですよねー、すごいですよねー」

 早い詠唱はそれだけで難易度が高い。その上、ライフルにあるような照準器がないため遠くの的を狙うのは難しく高い集中が求められる。だから早さと正確さを両立させるのは非常に難しいのだ。

 観客から、「ほほー」と驚嘆の声があがるのも無理はない。

 イチカは人と違って体内に完全な魔法陣を持つのでイメージで補わなくても魔法を顕現できる。そんな彼女でも、この早さと正確さで魔法弾を放つことはできなかった。

 それを人の身でやるのだから、この人は本当に魔法の才に溢れているのだ。それは分かる。分かるのだが、脳天気な案内人のコメントが苛立たしい。


 次のエリアは盛土で作った壕の中の的だが、これは森土の土を蒸し焼きにして敵を追い出し、あっさり敵が手に持つ的を宝飾剣で薙ぎ払い撃破。

「ちょっと! 魔法対決なのに剣使っていいんですか!」

「ええ、とにかく的を破壊すればいいので」

 なんか納得できない。


 試合は続く。

 次に遥か遠くにある子供の頭程の小さな的を矢継ぎ早に焼き払い、某ジェットストリームアタック的な素早く複雑な動きで翻弄する敵を氷冷の魔法で動きを鈍らせあっさり倒す。

「あの氷冷の使い方は僕の専売特許だよ」

「いえ、シンシアナとの戦いで距離を詰められた時は割りと使う戦い方でして」

 あ、、、そうなん……。

 なんかココに来て自分が井の中の蛙だった知る。こんな大事なときに精神ダメージなんて受けたくないよ。


 そんな体術あり、剣術あり、着弾点で弾けるオリジナル火の魔法ありの独壇場でスタンリーは敵兵を倒し、藁人形の的を撃破して、最後に櫓の上に潜れて置かれた的をいとも簡単にホーミング火の魔法――勝手に名付けた――で射抜いて、五分そこそこで試合を終えた。

 もちろん全撃破。魔法兵の負傷者ゼロ。外した魔法は一撃も無い。


「アイツ、やるわね」

 アキハが真顔でコメント。

「そ、それなりにやるじゃない。貴族のボンボンだから、たいしたことないと思ってたけどさ」

「いえいえ! ワイズ様のお父上もお母上も魔法の達人でしたので当然の結果ではないでしょうか。しかも武芸は前北進騎士団長殿の直伝ですし」

「へ、へぇ~」

 正直、ちょっと動揺した。くやしいが天才の噂どおり凄いヤツだと認めてやらねばならない。サラブレッドとはいえ、本人も周囲の期待に応えて大いに努力をしたのだろう。

 十代の自分だったら、こんなヤツをみたら諦めか対抗心しか沸かなかった。たが働き始めて色々な凄い人に出会って気づいた。

 努力しない天才などいないという事を。

 結果を出すには、それだけのインプットとプロセスの工夫がある。

 努力そのものへの苦楽の程はあるものの、因果は間違いなく存在しているのだと。

 だからコイツは間違いなく人並み外れた努力をしたのだ。それは認める。だが『当然だ。どうだ、見たか貧民め』と言わんばかりに、こちらを見る態度はいただけないのだが。



 歓声を浴びて退場するスタンリーの余韻を残しつつ、続いてイチカの出番。

 イチカに同じような戦い方を求めるのはムリだ。かと言って一撃必殺の電撃魔法でも放とうものなら、敵役の魔法兵や赤旗係も殺してしまう。それに通常の魔法では本来の目的を果たせないので一工夫する事にする。

 魔法は動作原理が判ってしまえばひねりを加えるのは、さして難しいことではない。科学知識とアイデア次第で魔法のバリエーションはいくらでも広げられる。


「イチカ!」

「はい」

 呼び止められたイチカは、格闘場に向かう足を止めて女の子走りでふんわり駆け戻ってくる。あんな走り方はアキハもライカも教えていないのにどこで覚えてしまったものやら。

「なんでしょう」

 イチカは少し上気した顔をラドに近づけ、食い入るように黒い瞳を見る。

「イチカこの勝負だけど――」と、作戦を下知。


 作戦を携えたイチカは、表情を引き締めて闘技場に戻る。

 真っ黒い出で立ちの小さな対戦者が格闘場に現れると、観客の貴族はざわめき立つ。

 すっぽり羽織った黒いローブに深めに被ったつば広の黒いとんがり帽子は、体の弱いイチカを日差しから守るためにラドが仕立てた服だが、お陰でイチカはすっかりミステリアスな出場者になっており、顔の分からぬ対戦者の登場に観客は大いに興味をそそられ、あれは誰だと隣の者とヒソヒソと言葉を交わしている。

 ラドにしてもイチカにしても素性がバレると色々面倒なので、あの衣装は顔を隠す意味もあったのだが、どうやら狙い通り。


 ローブの合わせからは、チラチラと木肌色の杖が見える。

 これはラドが前回の旅で拾った、ただの木の棒だが、家まで持ち帰るとイチカは「無事に帰ってきたのですから、これをお守りにさせて下さい」と、ラドから譲り受けたものだ。

 今回、イチカが旅のお供にこれを持っていくと言うので、ならばとトグサでキレイに磨いて、にぎりにガラス細工の飾りつけをしてあげた。


 会場のざわめきが落ち着く間もなく、試合開始のドラが派手に鳴る。

 砂時計の留めが外れてカウントが開始するのを確認したイチカは、スタンリーが通ったルートとは反対側に走り出す。当然、何だ何だとなる会場。

「まぁそういう反応だよな」

 だが作戦通りだ。最初に落とすのは奥手にしつらえられた櫓だ。スタート位置からは遠いが、別に順番に倒せとは言われていない。


 例の女の子走りで櫓の前までたどり着くと、イチカは杖をくいっと前に差し出し静かに詠唱。そして火の魔法を放つ。

 だが初弾は外れ。

 櫓は高いので近づき過ぎて仰角が大きくなり、狙えなかったらしい。


 いきなりの外れ攻撃に会場からは失笑が漏れる。いや笑う気があるからせせら笑いだ。

 クスクスと悪意の笑いが聞こえる中、イチカは少し離れて位置を取り直し、今度はよく狙って高所に置かれた藁の的を射る。

 バカにしたようなスカスカの拍手が客席からチラホラ。


 イチカは杖を腰の紐に絡めて櫓を登り始める。それを見た貴族達はまたもざわつく。何故、先を急がず櫓を登るのか意味が分からない。そして櫓の丸木に抱きついてモタモタと登る姿が滑稽なのか、また笑いが起きる。


 イチカはやっとの思いで櫓台まで登ると、白木の杖を突き出しておもむろに魔法の詠唱を開始する。それを見てやっと上から狙うつもりだと気づいた客が「なるほどね」なんて声を掛け合う。


 ……だが何も起こらない。


 一分待っても。

 二分待っても……。

 

 遠目には櫓に上がった黒服の子供がブツブツと念仏を唱えている姿にしか見えないので、試合放棄の貧民対戦者にヤジが飛び始める。

「何も起こらないぞ」「どうしたんだ」

 声を上げるのは貴族ではなく、呑気に座るエライさんの横に立つお付きの者達だ。

 どうやら貴族達は部下の魔法兵や従者にヤジを飛ばすように指示をしているらしい。

 だがイチカはそんな声を無視して詠唱を続けるものだから、その態度にまた非難が上がり、今度は野外演劇場を大きく揺らす怒りの足踏みになっていく。


 さすがにこの騒がしさではイチカの集中を乱されるのではないかと心配するが、彼女にそんな心配は杞憂だった。

 イチカは体の前にささげた杖を大きく振り上げる。そして伏せていた顔を上げ、青い瞳に煌めき宿して視線を闘技場に点在する二十体の藁人形の的に走らせる。

 その微小な変化に観客が気づく前に、それは起こった。


 二十体全ての案山子の頭上に、目も開けられぬ程に輝く金色の輝点が現れたのだ。

 それは二段階に脈動してズンっと大きくなり、イチカが振り上げた杖を櫓台の床にトン突くと同時に走り出し、全ての案山子達を瞬時に射抜いた!

 当然、藁の敵は燃え上がり、同時に芥となってボロリと地に落ちる。


 余りに一瞬で、だが余りにインパクトのある出来事に、誰もが目を見張り声を出すことすら忘れてその場に静止する。


 未だかつて見たことのない魔法。

 敵の直前に突如現れて避ける間もなく敵を穿つ同時攻撃。

 魔法を見慣れた貴族達であっても、こんなものは見たことがなかった。


 大型の火の魔法は存在する。範囲に影響を及ぼすエリア魔法もある。だが現存する全ての魔法は顕現点が一つに限定されている。ゆえに魔法士は“魔法の顕現点は一か所に限られる”という思い込みに囚われる。

 そして術者はキャストという言葉にも惑わされる。魔法とは相手に投げ放つものなのだと。

 だが魔法の顕現は、ある場所に物理現象を惹起させているに過ぎないと分ると、必ずしも手元で顕現させて相手に投げつける必要はないと簡単に気く。そして特定のポイントに顕現させられるなら、それは一つでなくてもいいのではと気づく。

 事実、魔法陣には”特異点”と呼ばれる部位があり、このリピートを増やすことで単純に顕現点を増やすことが出来る。もっとも増やした分だけ魔法の詠唱は長くなり、魔力の消費も逓増するのだが。


 ニヤリとほくそ笑むラドとは対象的に呆け返る会場。

 試合を進行する司会の男も、終了を知らせるドラを鳴らし忘れて呆然と立ちすくむ。もちろん砂時計も止まっていない。

 その放置状態に気づいたラドは、控室と闘技場をつなぐソデに立つと、大きく手を振って司会に、「全ての的を焼き尽くしました。この試合終了にございます!」と叫んだ。

 我を取り戻した司会は闘技場に目を走らせる。同じくやっと現実に帰ってきた闘技場の係の者も慌ただしく的を確認し赤旗を上げて撃破を示す。司会はあわてて砂時計を止めて、お手玉をしながらドラを鳴らした。

 どう考えてもイチカの方が早い。初戦はコチラの勝ちだ。


「ぜ、全滅を確認しました。時間は……」

 係の者がワタワタと陶器の器から受け皿に落ちた砂の高さを測る。

「えー四十五秒です。ワイズ卿五分三十五秒、他方ラド五分四十五秒。よって初戦はワイズ卿の勝利といたします」

「はぁ??? ちょっと待て!!!」

 思わず大声が出た。そんな話があるか! 今のは審判役の司会がぼんやりして砂時計を止めなかった時間じゃないか!


 ラドは抗議をするために司会者の元へ駆け出すが、ソデから躍り出た兵士に両脇をガッチリ押さえられ動きを封じられる。

「ちょっと! 離せよ!」

「結果は既に発表されました。取り消しはできません」

 低い声が毅然と答える。

 ラドと一緒に試合を見ていたアキハも、「どうみたってあの人、十秒以上ぼんやりしてたわ!」と当然の抗議。だが相手は「落ちた砂をご覧下さい。山の高さは四十五秒です」と恫喝にも似た口調で受け付けない。

 ラドは暴れたり、目で抗議をしたが、兵士は頑としてラドの腕を離しはしなかった。


 誰も異を唱えない。

 ステージの上の者も。

 客席の客も。


 見回しても味方はいない。

 どうやら反駁の余地は無いらしい。

「分かりました。確かに何秒ぼんやりしていたかは測りようがない」

「ちょっと! ラド!」

「そういうルールなんだ。ここは。引いてくれアキハ」

 闘技場から戻ってきたイチカも、僅かに表情を曇らせながらもうんと納得する。


 黒いカラスも白と言えば白か。こりゃアウェイ感ハンパねぇ。

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