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 ゲニアが指揮する装甲車中にて。


「アムセンはよく半獣どもを包囲している。そろそろエクスプロージョンの使い時だ」

「本当にいいんすか、皇軍の奴らも巻き込んぢまって」

「構わん。戦いに犠牲はつきものだ。一を滅して敵に撃たれるのと、百を滅して同胞に撃たれるとどちらに価値があるか考えよ」

「そりゃ数で言えばそうですが」

「貴様ら旧勢力はその弱さで帝都を追われた。私もまた同じく仲間を失った。同じ轍は踏まん」

「全部消し飛ばすためのエクスプロージョンでしょ。仲間の事なんか考えたら使えないじゃない。バッカじゃないの!」

 アヴェリアの見下した言い方に、中年男は舌打ちしつつも頭を下げる。

「……わかりやした」

「砲はお前らに任せる。合図があるまで待機しろ。私はヤツに会ってくる」



 乱戦だというのに、ラドの前には戦場を二分する一本の道が出来ていた。その道を一人の大男が悠然と歩いてくる。

 手にはラドの身の丈ほどの長剣。装備は黒の胸当てのみの軽装。

 全身から漲らせた殺気は凄まじく、男の間合いには近寄り難い空間が出来ていた。

 その男の足がラドの前で止まる。


「久しぶりだな。ラド・マージア」

 低くもおどけた調子で呼ぶ。

 一方、急に声をかけられたラドは怪訝そのものだ。なにせシンシアナに友人はいない。久しぶりと言われてもどちら様といったものだ。

「わからんか、さもありなん。私は第七皇軍が将、ゲニア・セネガ! 貴様の起こした雪崩から蘇った男だ」

 そこまで言われて思い出す。

「豪雪の陣の生き残りか? 僕はアンタと会った事はないと思うけど」

「そっちは知らぬとも、こっちは知っている」

「そりゃ大層有名になったもので。そのゲニアさんが何のご用?」

「なに大した用件ではない。貴様をこの手で倒しにきた」

「そりゃ全く大した事のない用事だ。ご覧の通り僕らは風前の灯だというのに」

 イオに放り投げられたラドは、直後正気に戻ったパーン部隊の統制を取り戻すので必死だった。我が所業に愕然とし手足の止まったパーン部隊は、三方からの凄まじい圧に屈し、防戦もままならぬまで戦況は一気に悪化していた。そんな瓦解寸前の中にレイドボスが登場。

「己の手でなければ貴様にしてやられた汚名を濯げんのでな」

 ゲニアは周囲のパーンやシンシアナ兵の存在を全く気にせず長剣を抜く。輝きから得物は魔法鋼だ。

 そいつがタクトのように軽々と振るわれると、恐ろしく鋭利に研ぎ澄まされた白刃は、うっかり間合いに入ったパーンの大胸筋をいとも簡単に切り裂き、勢い余ってシンシアナ兵の腕をも刎ねる。


「おい! 上官なら弁えろ! 僕との勝負だろ! 仲間を巻き込むな!」

 ゲニアを危険と感じたシンシアナ兵が慌てて場を開ける。その間にパーン兵が入りラドを守ろうとするが、これが決闘じみた戦いであるとシンシアナ兵は理解しているらしく、パーンの動きを阻止せんと割り込み、辺りには即席の決闘場が出来ていく。

「我が部下はよく分かっている」

「ちっ、こんな所で私恨晴らしかよ、僕を殺して何の溜飲が落ちる!」

「私恨に非ず! セネガの家の因縁を断ち切るためよ!」

「セネガ? ああ、サルタニアで会ったシンシアナの男もセネガと云ったっけ。あんたと同族か?」

「いかにも。当時はガリウスを愚かと断じたが、貴様の卑怯な戦いを知った今、奸計に落ちた一族の復興を担うは我と悟った!」

「知るか! 戦争を個人に転化するな」


 だがゲニアはラドの言葉を無視して剣を振う。怪力から繰り出される剣は力強く早い。体が小さいから当たり難いが、間合いに入ればすぐさま猛攻が来るので逃げるのがやっとだ。

「一刀のもとにと思ったが、存外楽しませてくれる」

「冗談じゃないっっっての!」

 軽量な魔法鋼とはいえ長剣には慣性があるので、大振りは無理せず避けて、どうしても避けられない一撃は杖で受け流す。その戦い方がゲニアには気に入らないらしい。

「おのれ姑息な戦いを。ならば……」

 ゲニアは剣の持ち方を変え、振りをコンパクトにして矢継ぎ早にラドの顔や胸に切り返しを放つ。

「ちょちょちょ!」

 それを千鳥足になりつつも何とか杖で捌く。

 手首を返したコンパクトな攻撃は確かに鋭いが、右左右左と単調な撃ち込みになるので、幾ら早くても剣の行先は読める。

「ふむ、貴様は目が良いようだな。受け切りと腹を決めているのが良い。では……」

 今度は低く構えると、剣を高いポジションに置きラドに向って突き立てる。

「行くぞ!」

 繰り出される突きの嵐。

 それを時にハジき、時に後ろにステップして間合い取り続ける。

 ――よし行ける。相手は大男だが間合い入らなければ問題はない。

「なかなか大したものだ。だがっ」

 やられた! と思った時にはもう遅い。剣先がぬっと伸びてきて拳一つ分、ラドの間合いに入り込んでくる。

 ――さっきまでの間合いはフェイクだ! この一撃のために偽の間合いを!

 体を斜めにして仰け反り、無理やりかわすが、

「うっ!」

 剣先がラドの胸に突き刺さった!

 遅れて体は後に倒れ、傷痕に熱い痛みが襲ってくる。

「やはり実践は乏しいと見える」

 ゴロゴロと転がり一旦距離を取る、胸からじわりと血が滲んでくる。だが急所は外している。急ぎ立ち上がり腰にあった短剣を抜き右に構える。左手には杖。


「やっと武器を構えたか。愉しむ気になったようだな、かかってこい!」

「こっちは短剣だ。楽しいワケないだろ!」

「一撃くらって動転せんとは増々気に入った。それでこそ殺りがいがあるというもの」

「そりゃどうも」

 とは言ったものの流石に短剣では分が悪い。せめてショートソードでもあれば杖に代わって攻撃を受けつつ攻め手にも使えたが、帯刀を拒んだのもまた自分。

「いくぞ!」

 ドンと踏み込んだ真っ向切りが来る。

 それを体を回転させてひらりと避けてゲニアの脇を走り抜ける、その行きがけに短剣で横っ腹を切りつける!

「んぬ!」

 ゲニアの一声がこぼれ、二人は位置を入れ替えてまた向き直る。

 ゲニアが脇腹に手を当てて傷の様子を探る。手に付いた血の跡。

「油断をした」

 指先の血をぺろりとなめる。

「小さいなりも貴様も将だな」

 向こうはラドの反撃を計算に入れていなかったらしい。

 一方ラドは、この一撃でゲニアの警戒意識を高めてしまったことに舌打ちしつつも、武人ではないが故に自分がどう出るかわからない意外性が武器になる閃きを得ていた。一方で短剣では余程クリティカルな攻撃でない限り致命傷にはならないと理解させてしまった事も。

 短剣と杖を構え直す。

「お前より僕の方が早い。あんたが攻撃するたび少しずつ急所を突いてやる!」

 ゲニアは挑発に乗らず脇を締めた素早い攻撃を繰り出す。ようするに近づけなければよい発想だ。たゆまず軽い攻撃を繰り出し続ければ、避ける体力はいつか尽き隙が出来る。

 その読みは正しく、次第に足が鈍ってきたラドは、致命的にでないにしろ捌き切れない攻撃に腕や脇を赤く染めていく。

「避けているだけでは我は倒せんぞ! かかってこい」

 そう煽られても真っ当に戦ってなんとかなる相手ではない。

 かくなる上は……。


 杖を咄嗟に持ち替えて、ゲニアの顔の前にズイっと突出す。攻撃ではない単なる脅しだが、急に来られてゲニアは一瞬顎を引いた。

 ここがチャンス!

 ラドは態勢を崩したゲニアの懐に飛び込む! 近づけば短剣が有効になる。逆に長剣は振り回せない。そして短剣では致命傷にならないというのは思い込み。パラケルスのホムンクルス工場でやったアレだ。足の太い動脈や腱を切れば屈強な兵士でも戦力は極端に落ちる!

 そう読んで踏み込んだ時だった。

「ごふっ」

 腹部の強い打撃!

 その勢いを殺せず後に吹っ飛ぶ!


 眼前には片膝を上げたゲニアの姿。

「ヒザ蹴り……」

「その選択は悪くない。だが遅い」

 考えてみればシンシアナ人にとって格闘は日常だ。剣が繰り出せなくても手も足は出せる。

 ふっとんだその先に向けてゲニアの横一文字が走る。

 切られる!!!

 身構えた眼前でゲニアの剣はガキンという音を発し、仕込みの鋼を入れた杖に当たって僅かに軌道を変える。そして杖は勢いのままに跳ね上がり、残像を残して空の彼方へ消えて行く。

 ゲニアの銀閃は首を縮めたラドの眼前を抜けて行った。その後、ラドの視界の半分が消えて噴き出した痛みに気を失いそうになる。

 目か額を切られた!


「これで終いだな」

 残った視界はゲニアの剣先が自分の喉元を指す構図を捉えていた。

 喉の感覚を言葉にすると圧迫。

 痛みは感じないが、押される強さは喉仏に剣先を突き刺さしているそれ。

「僕に勝って満足か。こんな子供一人を殺して満足したか」

「満足はせぬ。お前にも私が味わった、目の前で手も足も出せず仲間が死んでいく無力という名の屈辱を味わってもらいたい」

「……」

「エクスプロージョンはお前が作った魔法らしいな。それを魔法士三十名の魔力で放つ」

「お、おい! そんな事をすればお前の仲間もムンタムも壊滅だぞ!」

「それがどうした。こんな街など始めからいらん。それにどのみち証拠は隠滅せねばならん。ならば道連れは多い方がいい!」

 ゲニアは手を高々と上げて装甲車に指示を出す。

 答えて大きなミトンの手が装甲車から出てきて鉄の扉の縁を掴む。遅れてボサボサ頭、そして無精ひげの鍛えられた太くたくましい体が出てきた。

 そのシルエットを見忘れるはずはなかった。



「なんで……」

「ははっ! 決まっている。その箱を作ったのがそいつだからだ」

「ゲニア様、整備は完了してます。いつでも発射可能です」

「親方!!! なんでムンタムにいるんだよ!」

 マッキオはラドと目を合わせず、遥か向こうの鉄箱に身を預けた。

「こっちにも事情ってのがある。お前がホムンクルス工場のウィリスを殺してのし上がったように、俺もシンシアナに帰って日の光を浴びてぇ」

 装甲車から、今度はひょこっと女が顔を出す。

「何、ちんたら喋ってんのよ」

「アヴェリア! 無理矢理ですよね親方! 無理矢理その女に連れてこられて」

「なに言ってんの坊や、騙されてたのよアンタは。もうずーっとパラケルスの頃からコイツに」


 ……ああ、いま全てを理解した。

 確かに幾度か怪しい事があった。イチカの事。あれはウィリスがシンシアナにイチカを売ったのだと思っていた。だが良く考えるとイチカの秘密を知っている者がもう一人いた。そして、あのタイミングではウィリスはまだイチカのことを知らない。

 ホムンクルス工場の凄惨な夜も、初めての王都への道中でシンシアナに襲われたのも、親方だけが僕らの動きを知っていた。それに誰かが予め仕込まなきゃ幾ら危険な街道でも、偶然シンシアナやゾウフルと出会うはずがない。

 シンシアナに魔法鋼製錬魔法陣を売ったのも親方だ。あの魔方陣を一番使っていたのは親方なのだから。

 そしてエクスプロージョン。


「親肩……、僕ら、もう何年も一緒にやってきたじゃないですか。街の人達に疎まれても、差別されても王都まで行って、一緒に新しい物を一杯作って……」

 幻惑を覚えるほどの衝撃と痛みで思考がまとまらない。

「そうだなぁ……、いろいろやったな。ガラスを作った。ホムンクルスの培養槽も一緒に作ったな。望遠鏡に窓ガラス。ベアリングやサスペンションも作った。魔法鋼は凄かったな。ありゃ大分儲けさせてもらった。全部シンシアナにいっちまった技術だがな」

「……」

 口はもうパクパクとしか動かず、声を形にする事はできなかった。

「まぁ、声にならねーか」

 目が泳ぐとは至言だ。自分が今どこを見ているのか自分でも分からない。

「僕を騙してきたんですか。ずっと。今まで」

「人聞きの悪りぃコトを言うんじゃねぇ。オレは騙しちゃいねぇ。オマエが勝手に信じたんだ。俺は一度もガウベルーアに忠誠なんざ誓っちゃいねぇ」

 その通りだ。勝手に信頼して、彼がシンシアナ人だという事を忘れていた。スタンリーの言っていた事は正しかった。一番怪しいのは自分自身だ。知らずに十年来ずっとシンシアナのスパイをやっていたのだから。


「アキハも親方を心の底から慕ってたのに」

「知らねーよ、あんなガキなんざ……」

「あなたを頼りにしてた。親父のように思ってた」

「生憎だが俺にはシンシアナに家族がいる。娘はもう十七だ。俺はゲニア様の元で仕官して本国に帰る。もう家族ごっこはお終いだ」

「マッキオ、いつまで喋っている! エクスプロージョンを放て」

 ゲニアが声を荒げる。

 はいと返事をしたマッキオだが、魔法結線の接続スイッチを握る手はなかなか動かなった。

「何をしている!」

「ここでエクスプロージョンを放てばゲニア様も巻き添えになります! それにコイツは殺すには惜しい。コイツの技術はシンシアナに役立ちます。ガウベルーアにも詳しい。仲間に引き入れりゃ――」

「阿呆め! そいつは同胞を何万も殺した敵だぞ!」

「しかし……」

「じれったいわね、ほんとグズなんだから! 私がやるわよ!」

「うるせぇ! てめぇとは話してねぇ!!!」

 マッキオはアヴェリアを刹那に認めると彼女の頬に裏拳を放った。当然だが圧倒的な体格差にアヴェリアはいとも簡単に装甲車から吹っ飛ばされる。


 マッキオは明らかに苦悶していた。

 このレバーを倒せばエクスプロージョンが放たれ、ここにいる同胞も含めたほとんどの命を奪うだろう。

 ――同胞? 仲間は誰だ。シンシアナか? 顔も知らないやつらが仲間なのか? それとも目の前でラドを守ろうと奮戦しているやつらか? こいつらガウベルーアだ、半獣人だ、バブルだ。だがヴィルドファーレンに行けばこいつらは自分を慕って出迎えてくれる。


「もうよい!!!」

 ゲニアの目がチラリと動いて、ラドから離れるのが見えた。瞬間、ラドの思考が走る!

 ラドはゲニアが突き付ける剣先を右手で掴んで横に流す。喉に突き刺さったまま剣を動かすのだから喉が切れて血が噴き出すが、気にせず蛙飛びのように地面を蹴ってゲニアの開いた股の内をもぐりこむ。

 狙うは内股!

 果せるかな短剣は柔らかい内股に突き刺さり、通る太い血管を切り裂いた!


「くっ! 貴様はちょこまかと!」

「親方!!! ゲニアは僕が殺る! 親方は戦場を離れろ! 分かってるだろ! 親方の年で仕官なんてない! こいつは秘密を知っているアンタを殺す。アンタなら判るだろ!!!」

「マッキオ、小僧の言葉に耳を貸すな。エクスプロージョンを放て」

 ゲニアは切られた足を引き摺ってラドを追う。

「止まれゲニア!!! 動けば魔法でお前を焼き殺す!」

「戯け! お前が魔力なしだと知らいでか」

 ゲニアはニヤリと笑った顔をラドに向ける。

「オマエの事は全てマッキオとアヴェリアから聞いている! 撃ってみろ。さあ、撃ってみろ!」

「本当にやるぞ」

「構わん。魔法の直撃を一度食らってみたかったくらいだ」

「親方! 行ってくれ!!! 裏切ってたとかシンシアナとかどうでもいいんだ! 僕はアンタが好きだ。あんたには自由に生きて欲しい。それだけなんだ!」

「自由? そんなものはココにはねぇ!!!」

「その通りだ! そこまで欲しいならお前には死という自由をくれてやる!」


 ラドは左手を構えて右手を手首に添える。右手からは血がだらだらと流れていた。信じられない程の勢いで。

「インエルアルト……」

「マージア……」

「フォルスエンゲルト……」

 ゲニアが内股から短剣を抜き、ラドに投げつける。

「あぁぁぁぁぁ! アルゲルトウレ……」

 太ももに一矢受けても詠唱を止めない。

「その足では歩けまい。あと一歩で俺の間合いだ。どっちが早い」

「トジンクゲッテン……」

 ゲニアの剣が夕日を浴びて頭上に煌めく!

「死ね! マージア!!!!!!」

「カテーロ!!!!!!」


 長剣がラドの眼前に落ちてきて、荒んだ戦場に似合わぬ済んだ音を響かせる。

 その白刃には炎の揺らめきが写っていた。


「なぜ……魔法を……」

「これは僕じゃない。イチカの血がくれた魔法だ」


 あのときイチカが自分の口を噛んで血を分けてくれた。ホムンクルスの血は魔力の元だから。いつでもラドを守りたいからと。


「僕は一人で戦ってるんじゃない。お前とは違う」


 ゲニアは燃える体で足を進め装甲車へ向かう。

 肺は焼け、眼球も破裂して目も見えない筈だが、おそるべき執念を秘めた足は止まらなかった。そして遂に装甲車に辿り着き、魔法結線に繋がるレバーに手を伸ばす。

 炎の中のゲニアの顔が笑っている。火を吐く口が「俺の勝ちだ」と言っている様に。


 スイッチに手がかかり、もうレバー倒れされるかという刹那だった。

 マッキオがゲニアに向かって体当たりしたのは。

 揉みあう二人が業火に巻き込まれていく。


「アキハを頼む!!! あいつはオレの! あいつがいたからオレは――」

 最後の言葉はもう聞き取れなかった。

 二つの塊を包んでいた炎は急速に勢いを失い、白い煙をあげていく。

 火の魔法は体に浸潤し全身を内側から燃やし尽くす。それはあっという間で、四十年の人生など一スシュの重さみもなく消し去ってしまう。


 ラドが呆然とする中、狂気の瞳をしたアヴェリアがゆっくりと装甲車に歩み寄り、こちらに顔を向け口許を歪めてニヤリと笑った。

 左手がゆるりと上がりレバーを掴む。

 そして何の躊躇いもなく左腕はだらりと落ちた。


 キンと音がして周囲の空気がビリビリと帯電し産毛を立たせる。

 突如現れた白い靄が甘い味を漂わせて鼻から口に広がっていった。


 どこかでピシッと音がしたと思う。

 それをきっかけにして強い力に押し出され……そして全てが静止した。

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