崩壊していく世界の中で
ー早く死にたい。
青年はつぶやく。誰かに向けた言葉ではないため、誰かに届いてほしいとも思わない。
ー死なせない。
隣にいた少女は青年にしがみつく。
必死に半泣きになりながら懇願するその姿に青年はわずかに笑みを浮かべる。
ーまだ死なないさ。心残りがたくさんあるからな。
その言葉で少女は安堵する。
ーそれでも、いつか人間は誰だって死ぬさ。だから俺はさっさと死にたいだけだ。ただ、心残りがあれば後悔しちまうからな。やれることはやっとこうってことさ。
少女は難しい顔をする。やはりまだ少し理解できない内容だったか。
ー『にんげん』は生に貪欲だって言われてるけど、やっぱ生に貪欲じゃない「うぉーかー」は『にんげん』じゃないのかな?
ーお前だって大人になれりゃ分かったかもな。
そう答えて、髪を掻き回しながらニヤっと笑う。
その行動に少女は頬を膨らませて
ーボクだって立派な大人だよっ!
と反論するが当の本人はケラケラと笑っているだけだった。
一息つき、やりたかったこと、やり残したことを思い浮かべる。
ーそういえば、結局アルシェとは会えなかったな。
崩壊していく世界の中心で、青年と少女は静かに眠りについた。
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「うっへぇ…」
と一言漏らしながら軍服を見事に着崩してカリアは眉間にシワを寄せる
好物の饅頭を頬張りながら無断で基地外の山の上から外門を見つめる。
そこには、怒鳴るもの、棒で門番を殴り倒して中に入ろうとする者など様々だ。
リミットはあと3年だ。
そう上からは通達された。なんのリミットかと尋ねれば誰しも口を揃えてこういうだろう
「人類が滅ぶ…か」
そう、人類が滅ぶとされている。
魔力とは生命力だ。人間を含め、生あるものは魔力を失えば命も失う。
その魔力が近年減ってきているのだ。
「つっても実感ねぇよなぁ」
通常使ったとしても、その後灰となり、地に還り、おおよそ24時間程度で魔力に戻る。もし灰が消えてしまっても、生物は毎日死んでいる。その屍体は骨から肉まで全て魔力に変換される。
だから基本的に永遠になくなることはなかったはずだった。
子供が生まれても魔力不足で生きられず、死に絶えることが多くなった。
魔力量の少ない地方の村などは殆どが地図から消すこととなった。
国を挙げて原因調査をするも未だ原因がつかめず、このまま魔力枯渇すれば後3年が人類存亡の限界だろう。ということだ。
その土地ごとで魔力量の違いがあるため王都は魔力量が最も多い場所に建てられている。
おかげで地方の魔力が危ないと勘付いた人間は揃って王都に助けを求めてきている
だが魔力があっても住む土地がないためにこうして暴徒と化した村人たちが奪いにきているのだが…
「殺すな、傷付けるな…だったか…まったく相変わらずここの王様ときたら相変わらず甘いな。」
これはカリアの言葉ではない。
じゃあ誰か。
「あんま実力があるからって舐めた真似してるとてめぇ減俸どころか無給になるぞ?」
カリアの直属の上官のエリックだった。
「はいはい、二位兵長殿勝手な真似して申し訳ありませんでしたー以後忘れない限り気をつけまーす。」
「まったく…お前は反省って言葉は…ないか。やるんならバレねぇとこにいろよ。」
怒りを通り越して呆れた上官にヒラヒラと手を振りながら去ろうとするが。
「なぁ、カリア。お前この地上、この世界は好きか?」
突然の質問に動揺し、答え損ねた
「…まぁいい。答えたくなったら、教えてくれ。あともう見つかるんじゃねぇぞ?」
「…この世界は、好きか…か。」
ははっと軽く笑い
「嫌いだよ。なにもかも」
外門を見つめ小さく毒突く。
先程まで茜色に染まっていた空はいつのまにか紺色に塗りつぶされて、点々と星が光っていた。
つい先日まではこの時間でもまだ明るかった時間だ。
「…帰るか。」
秋が近づき、若干冷えた体を魔力を煉して温めながら帰路につく。
「…ああ、早く死にたい。」
呟き、また今日も生きていく
崩壊していく世界
運命に抗う人類
死にたい青年
「人類は世界を救えるのか」
カリア・ウォーカー (21)
性別:男
「早く死にたい」が口癖