ピュアニート森田
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朝、ニート森田は家を出た。森田は日の眩しさに驚いた。しばらく家を出ないと、太陽は目に刺さる。
森田は遠く離れた公園に向かった。小学校の遠足で行った公園だった。ただ広いだけの、名物も何もない所だ。
ニート森田は、言うまでもなくニートである。日がな一日、家にいる。
森田は人が怖かった。ニートになった理由は大方そこに原因がある。だが、同時に森田は人が好きだった。時々、森田は人に餓える。そんな時、この公園へ行く。
そこにはだいたい、知らないジジババが写真を撮っていたり、散歩をしていたりする。中にはジョギングをする、それもやたら速いジジイのがいて驚かされたりする。だがそこにギラギラとした活気は無く、ほとんどが皆、小鳥を見つけては喜ぶような人たちだった。そんな空間が森田は気に入っていた。
その中にいると、森田は目立つ。ニートながら清潔にはしていたし、何より若い。だから、暇なジジババは彼に話しかける。他愛のない話をする。そんな時間が好きだった。
そんな中森田は、初めて若い女を見た。歩いてはしゃがみ、歩いてはしゃがむ。何かを観察しているのだろう、小動物のような動き。
森田は目を疑った。どうにも腑に落ちない森田はスマートフォンを見た。平日の午前十一時。身長からして学生だろうか。だが、学生がこんな時間にいるのだろうか。もしかすると自分のように、学校に行けないのだろうか。
いくら考えても、そんなことが分かるはずはなかった。ただ彼女が可愛いという事実と、そんな女がこんな場所にいる。それらの事実が残っただけだった。だが、ただそれだけのことが、森田はなんだか嬉しかった。
森田はおもむろに足を止め、水滴の着いたベンチにも構わずに座った。森田はピョンピョンと跳ねる黒髪を視界の端に収めた。森田に話しかける勇気は無かったが、それでも満足だった。
やがて、隣に一人の婆さんが座った。
「あの子、可愛いわねぇ」
しみじみと言った。森田は照れて、まともな返事が出来なかった。婆さんは大口を開けて笑っていた。そして婆さんは飽きもせずに、昔した恋愛の話をした。真偽のほどは分からないが、しかし楽しそうに話す婆さんの話に森田は耳を傾けた。気づけば少女はいなくなっていた。深入りはせずとも、心地良かった。
やがて、じゃあね、またね、と言って婆さんは去った。正しく森田の求めていたものだった。
それから、いつものようにぶらぶらとして、いつものように公園を出た。
家への帰り道、森田は少女の顔が思い出せなかった。少し後悔して、また明日見られたら、なんて考えていた。
その日の森田はいつもより早くに眠った。ただ、なんとなく。
*
気付いたら森田の足はまた、公園の入り口を踏み越えていた。空は暗く、既に夜になっていることを知った。けれど公園は、相変わらず何もなく、ただ植物が茂っているだけだった。
少し歩くと、森田は目を剥いた。入り口からは分からなかった。だがその実、公園の中身は大きく変貌していたのだ。いつもの、朝の公園ではありえない光景が広がっていた。
電飾がひかり、若い男女が遊んでいる。それも、ただの遊びではなく、野性的な、妖艶な、汚らわしい――。
森田はベッドの上にゴキブリを見つけたような感じがして、吐き気すらも覚えた。
自分の第二の居場所だとすら思っていたそこが、森田を拒んだのだ。
朝になればそこは元に戻るのだろう。森田は考えた。けれど、だとしても、森田にとってそれはどうしようもなく悲しいことだった。
森田は怒りに狂った。拳を握りしめた。
森田は一人の男にその大きな拳を振り下ろした。
隣の女が叫ぶ。だが他の奴らは平然としていた。
森田はさらに怒った。怒りのままにそこらじゅうの人を殴った。
けれど何も変わることは無く、数えきれないほどもいる彼らは、ただ平然と遊んでいた。
森田は途端に怖くなって、走った。すると彼らは突然に追いかけてきた。
森田が走るのは速くはなく、捕まるのはすぐだった。
一人の男が拳を振り上げ、来たるべき痛みを予見した森田はぎゅうと目を瞑った。
だが待っていたのは、家のベッドと、朝の日差しだけだった。
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