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ニート森田のアイデンティティ  作者: たけのこの里の山のきのこの親戚の友達の友達の母親の知らない人のごぼう
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ピュアニート森田

1.15更新しました

 朝、ニート森田は家を出た。森田は日の眩しさに驚いた。しばらく家を出ないと、太陽は目に刺さる。


 森田は遠く離れた公園に向かった。小学校の遠足で行った公園だった。ただ広いだけの、名物も何もない所だ。


 ニート森田は、言うまでもなくニートである。日がな一日、家にいる。

 森田は人が怖かった。ニートになった理由は大方そこに原因がある。だが、同時に森田は人が好きだった。時々、森田は人に餓える。そんな時、この公園へ行く。

 そこにはだいたい、知らないジジババが写真を撮っていたり、散歩をしていたりする。中にはジョギングをする、それもやたら速いジジイのがいて驚かされたりする。だがそこにギラギラとした活気は無く、ほとんどが皆、小鳥を見つけては喜ぶような人たちだった。そんな空間が森田は気に入っていた。

 その中にいると、森田は目立つ。ニートながら清潔にはしていたし、何より若い。だから、暇なジジババは彼に話しかける。他愛のない話をする。そんな時間が好きだった。


 そんな中森田は、初めて若い女を見た。歩いてはしゃがみ、歩いてはしゃがむ。何かを観察しているのだろう、小動物のような動き。

 森田は目を疑った。どうにも腑に落ちない森田はスマートフォンを見た。平日の午前十一時。身長からして学生だろうか。だが、学生がこんな時間にいるのだろうか。もしかすると自分のように、学校に行けないのだろうか。

 いくら考えても、そんなことが分かるはずはなかった。ただ彼女が可愛いという事実と、そんな女がこんな場所にいる。それらの事実が残っただけだった。だが、ただそれだけのことが、森田はなんだか嬉しかった。

 森田はおもむろに足を止め、水滴の着いたベンチにも構わずに座った。森田はピョンピョンと跳ねる黒髪を視界の端に収めた。森田に話しかける勇気は無かったが、それでも満足だった。


 やがて、隣に一人の婆さんが座った。

「あの子、可愛いわねぇ」

 しみじみと言った。森田は照れて、まともな返事が出来なかった。婆さんは大口を開けて笑っていた。そして婆さんは飽きもせずに、昔した恋愛の話をした。真偽のほどは分からないが、しかし楽しそうに話す婆さんの話に森田は耳を傾けた。気づけば少女はいなくなっていた。深入りはせずとも、心地良かった。

 やがて、じゃあね、またね、と言って婆さんは去った。正しく森田の求めていたものだった。

 それから、いつものようにぶらぶらとして、いつものように公園を出た。


 家への帰り道、森田は少女の顔が思い出せなかった。少し後悔して、また明日見られたら、なんて考えていた。



 その日の森田はいつもより早くに眠った。ただ、なんとなく。




 気付いたら森田の足はまた、公園の入り口を踏み越えていた。空は暗く、既に夜になっていることを知った。けれど公園は、相変わらず何もなく、ただ植物が茂っているだけだった。


 少し歩くと、森田は目を剥いた。入り口からは分からなかった。だがその実、公園の中身は大きく変貌していたのだ。いつもの、朝の公園ではありえない光景が広がっていた。

 電飾がひかり、若い男女が遊んでいる。それも、ただの遊びではなく、野性的な、妖艶な、汚らわしい――。

 森田はベッドの上にゴキブリを見つけたような感じがして、吐き気すらも覚えた。

 自分の第二の居場所だとすら思っていたそこが、森田を拒んだのだ。

 朝になればそこは元に戻るのだろう。森田は考えた。けれど、だとしても、森田にとってそれはどうしようもなく悲しいことだった。


 森田は怒りに狂った。拳を握りしめた。

 森田は一人の男にその大きな拳を振り下ろした。

 隣の女が叫ぶ。だが他の奴らは平然としていた。

 森田はさらに怒った。怒りのままにそこらじゅうの人を殴った。


 けれど何も変わることは無く、数えきれないほどもいる彼らは、ただ平然と遊んでいた。

 森田は途端に怖くなって、走った。すると彼らは突然に追いかけてきた。

 森田が走るのは速くはなく、捕まるのはすぐだった。

 一人の男が拳を振り上げ、来たるべき痛みを予見した森田はぎゅうと目を瞑った。

 

 だが待っていたのは、家のベッドと、朝の日差しだけだった。

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