1ー③ 初めての受肉化
ここからが本編
「うーむ、なんか一々ジョブ補正「死神」って…、そんな強調されるとうんざりしてくるな…。」
ちらほらと人(死神)が増えてきた路地で1人呟く。
大体なんだこの攻撃力の低さ、200?!死神補正ないのかよ?!
…いや、そうじゃない。
まぁ成人男性を100とする場合だから普通の人よりは強いのか。それでも、なんかまだ普通の人間にもいそうなくらいの強さだから解せない。まぁ、骨の姿だからかもしれない。いや、逆に受肉化したらその体の身体能力しか使えないんじゃないか?
…また考えすぎてしまった。
とにかく、早くテレポートして、地上界に行こう
「テレポ…」
ふと、今の自分の姿を見る。骸の姿、大きな鎌、黒のボロボロのローブ
あ、この体で行ったら死ぬな。
「受肉化」
目線の高さが10cm、いや15cm程低くなった。なぜだかわからないが、前回初めて受肉化した時よりも小さくなった気がする。前回は小さくなった自分を見て、すぐに解除したが。
あぁ、世界が大きく見える。
隣にあったショーケースを見る。そこに写り込むのは1人のボロボロのローブを着た男の子。記憶状生前に見た―――1つ前の人生はわずか数時間で死んだので顔は見たことないが―――自分の姿に似ているが、確かもうちょっとホリが深くてダンディーな、それにそばかすもあった気がするのだが、それに髪も長いし――前より小顔になった?
まぁいい、前世より整った顔になったのは間違いない。
ただまぁ子供の姿、っていうのが気に入らない。第一自分はもう人間の一生分以上の人生経験は積んでるはずだ。もう立派の漢なのである。なのにまだ子供の姿…。
とりあえず、この姿を誰にも見られない内に、早く行こう。
「天地移動」
突如、周りが砂嵐のようになり、落ち着いた頃には、周辺の景色は変わっていた。成功である。というか今の自分の声、声変わりしてなかったな。
まだ地球の時間で言うと6時過ぎなので、人通りは少ない。ちなみに今は3月上旬である。この街―――13区ヘルセト―――は王国、アヴァロンの最南端にある地区である。正確には現在、アヴァロンの最南端にある。
意味がわからない人にもわかりやすく言うと、昔は全国が統一されてたが、今は分裂して、王国アヴァロンの最南端が、13区のヘルセトになったということだ。
さて、来たは良いものも、これからどうしようか。大体、この世界のお金なんて一銭も持ってない。というか今の俺はローブの下は何も着ていない。下着というものはあるのか?いや、そんなのどうでもいい。とりあえず、お金が必要だ。
俺は何も準備もなしに来たことを軽く後悔していたが、実は柵が無いわけでもない。靴舐め?そんな汚いことできるか。
その1つは特殊スキルである。
俺には、特殊スキルを3つ持っている。その1つに《創剣》というものがある。これは魔力を使って、それ相応の剣を作れる能力である。
それを闇市で売って…。いや、まてよ?闇市なんてあるのか?曲がりなりにも少し前まで全国を統一していたこの王国に。逆にあった方が不思議だ。
仕方ない。ここらで売ってもいいだろう。バレてもテレポートで帰れるし。
そこで一つ大事なコトに気付いた。
「あれ、剣ってどんなやつがあるんだっけ?」
形が思い付かないのである。いや、厳密にはどんなものかはわかるのだが、それをうまく想像出来ないのである。
なぜだろう。あんな容易に想像出来るものなのに。
と、そこに
「おい、見ろよこれ!今日新しく買ったんだよ。」
年は20代前半だろうか。金髪の男はその腰についてる鞘から長剣を抜いて掲げていた。
あ、あぁいうのだよ。なんで想像出来なかったんだろう。
「へぇ、良いの買ったんじゃん。いくらしたん?」
「新品のとこで、5800リトンかな。中古の店にもあったけど、2000リトンだった。」
「まじかよ、中古でも宿2泊分かよ!」
宿2泊分が2000リトン(?)、売るときの値段はその少し少なめの1700リトンくらいが丁度いいかな。よし、そうと決まったら創るか。
俺は、路地裏に入り、10本ほど、さっきの形そのままの剣と鞘のセットを作った。後は売るだけなのだが…。
「うーん、どうにも緊張するな。」
実際人前に立って物を売るって言うのはかなり緊張する。でも、ここで頑張らなきゃ…。よし!
「っ…」
と、そこで
「おぉ、そこのお嬢ちゃん良いもん持ってんじゃねぇか、一本くれよ。げへっへっ。」
なんか、いかにも金に物を言わせてそうな髭を生やした小太りのおじさんが、5人の傭兵?を連れてこっちにやって来た。
勘弁してくれよ、とタナトスは思う。
ていうかさっき俺に何て言った?お嬢…ちゃん?
でもまぁ、買ってくれるなら何でもいいか。
「あっ、えっと、その…」
あぁ、もう緊張して言葉が出ない。自分が嫌いな前世からの癖だ。
「お?なんだ?俺様には売れねぇってのか?そんなボロボロのローブ着やがって、どうせ、金がないからどっかから盗んで来たんだろ?」
別に盗んではいないのだが…。というかさっきから体が動かない。この俺が緊張してる…のか?
「俺は次にこの13区の市長の座に座る男、ベイリン様だ!」
えぇ、自分で様付け、後他の人の視線が痛い。見るな、見ないでくれ。
「ふん…、お前、よく見たら可愛い顔してるじゃねぇか、金がねぇってんなら俺がくれてやろうか?そのかわり、俺様とイイコト…」
「そこまでだ!」
ヒーローは遅れてやって来る。というがそれは本当だったようだ。
「俺の名は、ランスロット!悪しき者を倒せし者だ!」
ランスロット…、どっかで聞いた名前だ。ランスってことは槍?
「ちぃっっ!お前兵士か?!ふんっ、俺はそこの子供に、社会的な授業をしようと思っただけだよ!ほらっ!お前ら行くぞ!」
そうして、そいつら―――ベイリン達は、地団駄を踏みながら去っていった。
俺は、緊張がほどけたせいか、そこにへたれ込んでしまった。
「少年、立てるか?」
全身をマントさえ真っ白な鎧で身を纏った金髪の兵士(?)、ランスロットはこちらに手を差し伸べ話しかけてきた。
「…うん。」
その差し伸べられた手を握って立ち上がる。身長は190くらいだろうか?頭1つ以上越されている。年齢は20過ぎだろうか?なぜかわからないが、少し怒りが湧いてきた。
「そんなに、剣を持って、重いだろ?近くに俺の宿があるんだが、寄ってかないか?」
宿、か。まだ日が沈むのは早いが、というか今が早朝なのだが…。そういえばハデスさんが「人の親切には報いよ」、とか言ってた気がする。まぁ、悪くない話だし、寄ってみてもいいかもしれない。
「いきたいです。」
ランスロットはニカッと笑う。イケメンすぎだろ。
「よし、じゃあついてこい。その剣は俺が持ってやるよ。」
「ありがとう」
そして、ランスロットさんの宿に行くことにした。
歩くすがら、さっきまでのことを考える。
あの、ベイリンとか言う人、俺のことをお嬢ちゃんと言っていたな。確かに自分は日本人で全国的に見ても、身長は低い民族だった。髪も長いし、見間違えてもおかしくはないか。なるほど、俺は俗に言う「びしょうねん」というやつになったのか。
だとしたらランスロットさんは俺のことを、よく男だと気付けたな。イケメンというのは補正があるのだろうか。ジョブスキル「イケメン」、とか。じゃあ、そのジョブスキルには他にどんな効果があるのだろう。「絶対絶滅でも生き残れる」とか「どんな場面でも有利に事が進む」とかだろうけど、他にも大事なものがあった気がする…喉まででかかっているのだが……………
「ついたよ。」
俺が考えにふけってる間についたようだ。前には豪邸があった。
いや、別にそんな大きい訳ではない。例えで言うと、外国のプール付きの二階建て建築みたいだった。
「おっふ…。」
こんなの宿やないだろう…。
「ははは、よく驚かれるんだよ。宿と言ってもここは貸切でね、王国から一時的に住むことを許されてるんだ。」
頬を人差し指でかきながら言うランスロットはどこか苦笑いだった。
鎧から、どっかの貴族かと思ったが、まさかここまでとは…。
「ささ、物はそんなに置いてないけどとりあえずあがってよ。」
ランスロットはその白い歯を出し、そう言った。
ユーサー王にランスロット、どこかの英雄譚で聞く名前ばかりですね!