1-① 死神狩り
少し長くなってしまった…
「いったたたぁ…あっ、タナトスさんじゃないですか!」
俺が物思いにふけっていると、急にぶつかってきた少女―――ヴィオラは、橙色のその少女の頭にしては大きめのキャスケットをさすりながら自分のところまでやってきた。
あれ?ぶつかってきたのはわざとじゃないの?まぁそんなことはいいか。
「おう、こんな時間帯にお前がくるなんて珍しいな、なにかいい情報でもあったのか?」
彼女はここらへんの、いわゆる情報屋というものだ。地上界のことは監視者が常日頃警備に当たっているので情報とかは入って来やすいと思われがちだが、その本業はやはり、警備なので情報とかそういうのは大したコトじゃない限りこっちまでこない。なのでこうやって情報屋というものが地上界、それと天界のコトとかを探してその情報で商売をしている。この子は見た目は15か16くらいで情報屋の中ではぶっちぎりの最年少だ。その年でやってる理由とかは気になるが色々とありそうなので今のところ深くは聞かないでおいている。(そもそも天界の寿命は普通の人間の数十倍はあるので実際の年齢はわからないが)
まぁ、一番下の年齢ということもあって、死神として下っ端な自分としては緩く話せる人の1人でもあった。
「んー、最近は何やら『死神狩り』をする集団というものがまたちらほらと出てきましたよ。今は昔と違って人もいろいろなスキルをもつようになってますしねー、」
死神狩り…そういえばさっきミルクがなんか聖騎士…戦士?団みたいなやつがどうとかいってたような気がする。その当の本人はヴィオラがぶつかってきたときからニヤニヤしながらこちらを見てるが気にしないでおこう。
そんなことを思ってると、ミルクが急にはっとしたような顔をして、こういった。
「あ、そうそうハデスさんがタナちゃんが帰ってきたらこっちに早めに報告しにくるようにって言ってたんだった!」
「まじか、それもうちょっと早くいってくれよ…。」
「ごめんごめん、うっかりしてた☆」
「はぁ…。今すぐいくかな。じゃあなヴィオラ、また会いに行くよ。」
「あっ、うんっ!」
俺は2人に背を向け、その場を立ち去った。
天界の死神広場から東に数キロ行くと、街が見えてくる。名前は確かコロニーだったかな?うん、多分違う。
とにかくその街はいろんな人(神)達が住んでいて、大いに賑わっている。その中には勿論ハデスさんの家もある。
え?なんで冥界の王なのに天界に普通に家があるの…という質問には黙秘権を行使させてもらうことにしよう。
ちなみに自分は死神だから細胞や皮膚、脳はないので、寝る必要はないし、アカとかも出ないし疲れもしない。…精神は疲労するが。まぁ、だから俺は特別自分の家などはない。
…まぁ、そんなこんなでハデスさんの家についた。
家は洋風な感じで、他の家々よりふた周りほど大きく、家は左右対称で壁は白。屋根?というかお城の突起(旗とかついてる奴)の色が水色でそもそも家というか教会?のような見た目である。
ドアにある丸い奴を壁に2回ほど打ちつけてから勝手にドアを開けて中に入る。
やはりというか中も教会のような作りで、白い壁や柱、教壇、ステンドグラスの窓、よくわからない十字のマークなどが見える。地上界で見るモノとの違いはほぼ裸の人たちの絵がないことか。
「なんだ、タナトスか。急に入ってくるもんじゃから、悪魔が襲ってきたのかと思ったぞい。」
そんなことを考えてたら教壇の横の道からハデスさんが来た。ちなみに、受肉化した後の姿になっていて、見た目は40代後半だろうか、それでも髪と髭は白く、伸ばしている。
「冗談はよしてください、それにちゃんと言われた通りノックしましたよ?」
「だとしても、我が返事をする前に入ったら意味がないではないか。」
「そんなもんですかね。」
「そんなもんじゃよ。」
そんなどうでもいいことを2,3回程交わし、さっさと報告を済ませる。
今回の魂を刈った相手の地位や立場、今後想定される地上界の騒動、それと今回は特別なやつなので、残りの寿命などを報告した。こう見ると自分勝手に出来ないのは大変なもんだ。
「それと、確かその人が…えーと、他の死神にも知られるのはまずい?みたいなこと言ってたけど、やっぱり最近噂の自称『聖戦士団』ってのと関係あるのか?」
さっきもミルクがそのことについて言っていたが、所詮受け付けの娘だ。そんな口から口へと伝わってく噂よりかは当事者、つまりはハデスさんに聞いた方が良いというものだ。
「あぁ、その通りじゃ。どうやら裏で計画が進んでたようじゃな、そうというのに今の今まで気づけなった。」
「そんな簡単にあいつらの目をごまかせんのか?」
「容易ではないだろう。それくらい、警戒していたのだろう。人がそんなことをできるかはわからぬが今回は夜、偶然灯りのついてる場所で話していたから見つけられた。運が悪けば死神狩りにあう者もいたかもしれない。」
そんなヤバいのか、というか少し口調が若返ったな。そんくらい緊急自体なのか。
「それで、俺を呼んだのもそのことでなのか?」
「あぁ。お主はまだ死神になってから2ヶ月くらいだったか。お主の成長は全盛期の頃の死神の成長にも匹敵するくらいだと思う、でもまだ経験が浅い。そろそろ実戦も踏まえた方が良かろう。」
「なるほどな、まぁ分かったよ。そいつらは抜魂対称なのか?」
「場合によっては構わない。だがごうm…尋問もしたいので一人リーダー格は残しておいてくれ。」
今なんて言おうとしたんだろう、まぁハデスさんのことだから間違っても拷問とか言うはずがない。
「わかったよ。全員殺したらすまん。」
「問題ない、それに魂さえあれば、少しはわかることもあるだろう。」
そう言うハデスさんの口元は若干つり上がっているが、気にしたら負けである。
「そうか、じゃあ準備が出来次第、言ってくるけど、聖戦士「団」ってつくんだから複数人だろ?俺以外に誰かいないのか?」
「まぁ、相手はたかが人だ。特殊スキル持ちじゃなければ、てこずりはしないだろう。」
「魔法持ちもやっかいなんですけどね。」
「?あぁ、そうかお主はまだ魔法の勉強はしてなかったか。」
ハデスさんは1人で何かを納得した。
「まぁ、魔法は一つも知りませんね、ジョブスキル以外。」
「その気になったら魔法を学ぶ場所、といっても専門は魔法以外にもたくさんあるがそこに入れてやろうか?俺も卒業生だから頼めば入れさせてくれるだろう。」
卒業生、ということは学校なのだろうか、壁に向かって走ったら行ける、別次元にあるとか。
「まぁ、今んとこ必要ないと思います。」
「そうか、ならジョブスキルを一段階解放させてやろう。本当は自ら成長するものだが、今回は手伝ってやる。皆には内緒だぞ?」
そういうと、ハデスさんは俺の合意も聞かず、手の平を俺に向けて何らかの特殊スキルを使った。
――――ジョブスキル『寿命付与』を獲得。
――――ジョブスキル『再生』を獲得。
「本来なら死神としてジョブスキルを使って新たなジョブスキルを解放するものなのだが…、今回は特別に力をかしてやった。存分に使うと良いが良い。」
「おう、それでこれはどんな能力なんだ?」
「うむ。『寿命付与』というのは我ら―――死神は人の魂を捕り、残ったその体の寿命を自分の寿命として補っているのだが、逆に人に自分の寿命を分ける力だ。しかし監視者に見つかると、こっぴどく叱られるので、使うのはオススメ出来ない。…あんなこともう二度とされたくない…。」
何があったんだよ。というかなんでそんな能力解放したんだよ…。
「ん?今なぜそんなもの解放してくださったんですか?と、思っただろう?」
えぇ、エスパーかよ、というかそんなかしこまってねぇよ。
「大事なのはそっちじゃなく、『再生』の方、『寿命付与』はジョブスキルを解放するときのおまけみたいなものじゃ。」
「あぁ、なるほど。リジェネ…ってことは回復?」
「まぁ、そんなもので使用してる間だけ自然回復速度を上げる力だ。これはジョブスキルじゃなく、魔法に該当するんだがな、人間でも数時間は使用し続けられるそうじゃ。我らなら普通の戦闘くらいの時間なら問題ない。」
なるほど、「おまけ」って言ってたけど、ジョブにもレベルみたいたものがあって、レベルごとにスキルを解放できるのだろうか。
「そうなんですか、ではまた、後ほど。」
「あぁ、行ってらっしゃい、それでは良い知らせを待っている。」
ハデスさんに軽く頭を下げる動作をして、その協会――もとい、家から出て行った。
「さてと、さっそく行きますか…いや、その前に…」
そうだ、ジョブスキルを手に入れたんだから一回、「鑑定屋」にでも行ってみるかな。
そう思い、俺はその街の路地のある店へ足を運んだ。
ドアにある丸い奴、とはドアノッカーのことです。
ちなみに設定上、タナトスは常識に欠けてる部分があります。