その名は
倒れた男から淡い光の粒子のようなものが出てくるのが見えた。
死神はそちらに手をかざす。
「『魂奪』」
そう唱えると、たちまちそれらの粒子は骨しかない骸の手の中に吸い寄せられていく。その光景はある意味美しさをも醸し出していたのだが、何者かがこれを見ていたとしても絶句する者はいてもその光景に見とれるほど余裕を持てる者はまずいないだろう。
死神は誰もいなくなった通りで1人呟く。
「これで14人目…か」
さっきまでの機械音のような声とはまったく違う、人間らしい、それでいてけだるげな魂の抜け落ちたような声音で死神は呟いた。
「さてと、日が昇る前にさっさと報告しにいくか――『天地移動』」
そう唱え、死を擬人化させたようなそれはあとかたもなく消え去った。
―――『天界』―――
広場の魔法陣の1つから光が発せられた。といってもその光は先程のマイヤーズが発生させた光魔法と比べると微小のものだ。
そんなことはどうでもいい、俺は魔法陣から出て、死神広場受付に立ち寄った。
「はぁい、次の方ぁ、今回は何のご用ですかぁ?」
早朝は人(死神)が多い、だからまだ日が昇らないこの時間帯はほぼ並ばずに済む。と、ある方が言っていた。
「うっす、特別なヤツ終わった報告しにきたんだけど」
「あっ!その声はタナちゃん?もう受肉化できるのはずなのになんでまだその姿のままなんですかぁ?」
「こっちの方が怖いだろ?、それに受肉可した体は子供だし、人の心を折るにはこっちの方が良いかなって」
それとタナちゃんって呼ぶのやめてくれる?とも言ったのだがそれは完全に無視された。
「あっははー、タナちゃんはまだ死神の中じゃ子供ですしねー」
そう、子供。まぁ現にまだ死神というモノになって2ヶ月しか経っていない。先輩は山ほどいるが後輩は1人もいない。しかも一番近い先輩の死神でも100年以上は経っている。
関係ないが前にいる受付の娘も見た目は随分と子供に見える。金髪で前をぱっつんにし、肩まで伸ばしたストレート、ぱっちりした二重の目、小柄な体。体の比率から考えるとなぜ170cmもある骨の状態の自分と同じ目線、高さで話せているのか凄く謎である。受付で上半身しか見えないが、台にでも乗ってるのかもしれない。
「どうしたんれすかぁー?…もしかしてこのミルクちゃんに見とれちゃいましたかぁ?」
黄金色に光る目を細めてはにかむ姿がなんとも愛らしいが、俺にはロリコン属性は存在しない、大丈夫だ。うん…多分ロリコンではない、と思う。
「そんなことより早く確認してくれ、ほら」
話を変えられたことで、ぶ~、といってアヒル口にしてほっぺをふくらまし、上目遣いをしてこっちを睨んできたが俺が魂袋、通称たまぶ、、やめておこう、…を出すと仕方なさそうな顔をして中身を確認した。
そんな目で見られると何かに目覚めそうな気がするからやめてもらいたい。まぁ自分も子供だしいいか……やっぱりダメだと思う。
「あそこの依頼書にあった『マイヤーズ』ってやつのなんだけど」
「あぁ~、あれれすかぁ、どうもありがとうございましたぁ」
そう言い、魂袋と引き換えに神の世界の金貨5000Gを受け取った。ちなみに、Gというのはゴールドではなくゴッドである。日本円にすると多分6万とちょっとか。
それをローブの内側にある収納ポケットに入れながらふと気になりミルクちゃ、ミルクに聞いてみた。
「なぁ、ただの抜魂なのになんで依頼が張り出されたんだ?」
そう、抜魂というのは普段死神が寿命、力を得るために自然にする行為である。
勿論、仕事であるので決まった者、死が近いものしか普通は選んではいけないが…。しかしそれをするにも申請が必要であり、もし仮にも無断でやった場合監視者によってすぐ報告されるらしい。
監視されているというのは見てて良い気はしないが。
過去に何度かタブーを犯した者がいて果ての世界に永久に隔離されたとも聞く。
「あーと、なんかれすねぇ、最近ちまたで噂の自称聖戦士団とかいうのがなにやら裏で『悪魔の使いの死神を成敗するんじゃ~!』とか言い出したんれすよ。それでそいつらに資金を投資してたのが13区の市長、マイヤーズだったってことをちょっと前に監視者が掴んだらしくて「特別な依頼」として貼りだされたんれすよ」
そういや、確かマイヤーズとかいうのが勝手にいろいろと喋ってたな、話にのって何か引き出した方が良かったかもしれない。
「へー、じゃあこの件は不問に終わったのか?」
「それがそうもいかないんれすよ、なんでももう、資金を援助してしまったらしくて、市長が死んでも、いずれ行動に移す可能性が高いようです。タナちゃんも気をつけて下さいねぇ?、その件が解決するまではあんま出歩いちゃダメれすよぉ?」
「うるさいなぁ、子供じゃあるまいし、自分の強さくらいは自分が一番知ってるよ」
「そう言う人ほど、子供っぽいとこあるんれすよー、」
「まぁ、否定はしないかな」
もー、と困った子を見るような顔でミルクは言った、仕方ないのである、俺は昔からそうだったのだから。
「それにしてもタナちゃんってやっぱり不思議れすよねー。人間から急に死神になっちゃうなんて、神様はなんでそんなことしたんれすかねぇ」
そう、俺の名は死神「タナトス」。
身長170cm、体重13kg、ウエスト11cmの死神は、
《転生者》である。




