2ー② 噂
長い時間開いて申し訳ないです…
この章のプロットを再修正していたのですが、…うーむ偽善者と思われそう(キャラが)
「えーと、とりあえず何したらいいんですかね?」
特になんの考えも持たず、ハデスさんの家を出てしまったが本当にどうすればいいものか。
「うーん、とりあえずもう一度7区に行ってみるのはどう?現地をみた方が良いだろうし。」
「それもそうですね。」
死神広場の中央にある移動魔法陣を目指す。ちなみに天界での瞬間移動は、各主要地点以外では基本禁止されている。
広場えの道すがら、ミルクとはどういう関係だー。とか、その隻眼はいつの傷なんですかー。みたいな事について話していると、広場に着いた。
「自分はこのまま行くことにしますけど、ラッドさんはどうしますか?」
俺は7区を見たことはないが、ラッドさんは元々管理下なので、また見に行く必要はないはずだ。
「んー、そうだね。俺はもう7区の状況は知ってるし、別行動した方が効率がいいかもな。」
「わかりました。では、日が暮れる頃、ここに戻りますので。」
「おう。じゃあまた後でな。」
ラッドさんは身を翻し、どこかへと去っていった。
俺も他にすることもないのでさっさと移動することにする。
「天地移動」
なんというか、ジェットコースターの落ちる一瞬のような感覚が来た。フワッとするような感じの。
目を開けるとそこは、見知らぬ土地だった。
まぁ、7区に行ったことがなかっただけだが。
周りを見渡す。家々はボロボロで、所々後から付け足したような跡が見て取れる。地面の石もごつごつしていて非常に歩きにくい。足の肉にめり込んで少し痛い。
ん、足?
下を見る。そこには人の足があった。まぁ自分の足なのだが。
そうか、俺、受肉化したままだった。まぁ、住民がいたらいろいろ聞きたい事もあるし、このままで良いか。
素足(でローブだけを来てる姿)のまま、とくに宛もなく歩く。昼間は日光がつらくて自分で言うのもなんだが、白魚のような肌の俺にはキツい。
フードを被る。真っ黒だからそれでも熱い。
天界に戻ったら服でも買おうかな。
しかし今はこの服装で良かったのかもしれない。いかにも『スラム街の住人』てきな服装で。
5分ほど歩いたのだが、結果的に数10人の人しか見つけることは出来なかった。前回13区に言ったときは、道にたくさん人が通っていたのが、ここはまばらだ。同じ国なのにここまで差があるとは思わなかった。
人の服装もどこか貧しく、幸せそうには見えない。おそらくそれと、『眠り病』とには因果関係はないだろうが。
前方に中年くらいの男性が下を向きながら歩くのが見える。服装もさっき通り過ぎてった人達とあまり変わらないぐらい薄汚れている。
少し聞いてみるか。
「あの、すいません。」
声をかける。
その男性はこちらを向く。顔も、なんていうか…汚い。
そして、次の言葉を発そうとしたその時、
「ん?てめぇ、女か?!」
ガシッっと、自分の両手をつかまれ押し倒される。
え、え?!女?!ちゃんと男だよ!
俺は一気に混乱の渦に飲み込まれる。
しかし、フード(ローブの一部分)を脱がされ顔が露出した瞬間、その男性の動きが止まった。
「あ?…おいおい男かよ、っざけんなよ…」
「お前こそ、っざけんなよ」…なんて口が裂けても言えない。今は聞きたいことがあるのだからそんな相手を逆撫でするような行為は避けたい。
「あ?てめぇ、もういっぺん言ってみやがれ!」
バリバリ口が裂けてたらしい。
中年の男性がつかみかかってこようとする。しかし、筋力だけで言えば、大人2人分の力がある俺はそれを軽々しく避け、相手の手首を力いっぱい握り締めた。
おりゃ。
「ぐきぃ!?、痛い!痛い!痛い!痛い!わかった、俺が悪かったから!許してくれぇ!」
大声で叫ばれたのが、生憎というか運良く、他の人は見当たらなかった。
本当に痛そう…。後で格闘技でも覚えた方がいいかもな。ちなみに大人の男性の平均握力は45くらいだったから俺は90くらい出せてたのかもしれない。リンゴだったら潰してた。
涙目で懇願する男を見る。
なんか急に小物臭くなったな。まぁ、中年ってだけでそんな気がするけれど。
「おう、じゃあ一つ聞きたいことがあるんだけど、もちろん聞いてもいいよね?」
少しだけ力を強くする。
「い゛っ?!わかった、なんでも答えるから許してくれぇ!」
手を話す。俺って優しいな。痴漢および、強姦未遂で天国送りでも良かったんだけど。
「じゃあ、とりあえずさっき俺のことを襲おうとしたのはどうしてなんですか?」
当初は考えていなかった質問をする。
男は手をさすりながら言った。
「金がねぇから…、連れ去って売ろうと思ったんだよ。それがまさか男だなんて…。がっかりだぜ」
売る?つまり奴隷にするというのだろうか、それか売春?しかしこの国に奴隷制度はなかったはずなんだが…まぁ、そんなことはいい。
「それじゃも一つ、『眠り病』って言われてる物のことなんだけど。」
刹那、男性は目を細めた。
「…おめぇ、この街の住民じゃねぇのか?」
よそ者を見るようにその男性は俺を見つめた。確かにこの町の人ならこんな質問はしないだろうしな。
「一応、そうだけど、それで?眠り病のこと教えてほしいんだけど。」
一瞬の静寂。男は間を置いて、やがて決心をつけたかのように言った。
「詳しいことはよくわからねぇが、数日前から急に眠ったやつが目を覚まさなくなっちたった。最初は数人、どうやら同じ日に起きなくなったらしいが…。」
「数日前というと、どのくらい前だ?」
「一番早かったやつは確か…、6,7日くらい前だったと思う。それから毎日、次第に発症する人数も多くなった。」
まるで病気のように範囲が拡大しているな。
「そうか。眠った人達に何か共通点はあるのか?老人、子供、男、女とか。」
何か共通点があれば手がかりを見つけれるかもしれない、そう思って聞いてみたのだが…
それを聞いた男はフッと、鼻で笑った。
「共通点?そんなもん、このスラム街の住人…つまり難民ってことくらいだよ。」
まぁ、確かにそうだな。隣の地区には1人も発症者はいないらしい。つまり、何らかの病原菌があるというわけでもないはずだ。つまり、外の者しかない体質でか、それとも意図的に誰かが仕組んだとか…。
「わかった。最初の発症者達を見たいんだが、何か手がかりがあるかもしれない。誰か知ってるやつはいるか?」
「…もう、皆死んじまったよ。」
「え?確かに死ぬ人もいるかもしれないけど…まだ数人くらい生き残りがいるはずだろ?寝てる状態なら7日くらい大丈夫な気がするんだが…。」
寝てる状態なら体力はさほど消費しない。さすがに年齢的に死んでしまう人がいるかもしれないが、さすがに全員が死ぬとは思えなかった。
男は首を振る。
「本当に全員死んじまった。…一回直で発症者の亡骸を見たことがあったが、目の下にクマがあった。なぜだかわからねぇが、けっこう披露してるように見えたぜ。まぁ、この町じゃ朝から晩まで仕事してる奴は珍しくねぇが…。」
そうか、死んでしまったなら仕方ない。
もう、これ以上聞き出せることもないだろう。
「わかった。情報ありがとう。」
身を翻し、その場を去ろうとする。
「おい、お前はいったい何をするつもりだ?」
呼び止められる。
何って…、神様の命令で眠り病の人を起こさせることだけど…。そんなストレートには言えない。
「いや別に…。ちょっと、皆のアラームを鳴らしに行こうと思ってるだけだよ。」
ちょっと、かっこよかったかもしれない。まぁ、アラームって単語を知らないかもしれないが。
「おう?まぁ、そう言うならそうなんだろう。」
「じゃあな。」
今度こそ去ろうとする。
「…寝てるときの方が幸せなこともあるよな。」
男は何か言っていたが、自分の人間の耳にはもう聞こえなかった。
あれから、30分が経過した。
足が止まる。
「うん、熱い。」
熱すぎる。ローブの隙間から湯気が出そうである。あれ以上、有益な情報はもうないだろう。今日はもう諦めてもいいんじゃないだろうか。
天を仰ぐ。
まだ、太陽は高い位置にある。待ち合わせにはまだ時間が有り余る。
…ちょっと、暇でも潰すか。
「瞬間移動」
体がグワっと引っ張られるような体感がくる。
あー、この感覚。くせになりそう。
目を開ける。どうでもいいけどテレポートするときって目を勝手に閉じちゃうんだよな。
当たりを見渡す。
薄暗い路地裏。しかし、人の騒がしい声がよく聞こえる。それに、この場所もちゃんと見覚えがある。
そう、第13区だ。そしてここは前天地移動して居た場所の近く。
騒がしい声を便りに、迷路のような道を進み路地裏をぬける。
人間の姿で最初に来た場所。そして、ランスロットさんと出会ったところ…
――俺はお前が何者だろうと、そんなの気にしない!…いつでも、俺のとこに来て良いからな――
ランスロットさんが別れ際にいった言葉を思い返す。
そう言われたとき、…うまく説明出来ないけど、救われたような気がした。なんていうか転生してからの2ヶ月間、ずっとひとりぼっちのような気がしていた。
周りには確かにハデスさん、ミルク、ヴィオラ、グリムさんやラッドさん。鑑定屋の猫っぽい奴、いろんな人がいた。けれど、皆どこか自分とは少し違う気がして素の自分を出せないでいた。
だけどランスロットさんは違って…多分彼が自分のペースに合わせてくれただけかもだけど、初めて心を許せる相手が出てきたような気がしたんだ。
…いつでも、行っていいんだよな?
「ちょっとだけ…、ちょっと様子を見に行くだけだから…」
そう言い俺は、記憶を頼りにあの場所へ向かうのであった。