1ー⑪ 帰還
ひどい目に合った…。こんなことなるならハデスさんの忠告をちゃんと聞けば良かった・・・。いや、本当そうおもう。良いことをしたと思ったらすぐこれだ。
イザベルっていう女性の命を助けようと、自分の寿命を与えたら、無理やり飛ばされて監禁。その後メンヘラと出くわすわで、踏んだり蹴ったり?ってやつだ。
死神広場に着く。
もう日は昇っており、人(死神)もちらほらと見える。
出来る限り誰にも見つからないよう、前屈みの姿勢を保ったまま受付まで行こうとする。
「あれ?お前タナトスか?」
一瞬で見つかってしまった。もしかして溢れ出る強大なオーラが…、そんなの無いか。
俺は振り向いて、声の聞こえた方に顔を向ける。
「あれ、グリムさんじゃないですか。」
いたのは、グリムさんという人だった。
「おう、久しぶりだな。あれから元気にやってるか?」
彼はグリムさん。人で言えば30歳前後の見た目で、髪は茶髪で若干くせっ毛、身長は180cmくらい、そしてちょび髭を生やしたダンディーな感じの人だ。まぁ、人なのは見た目だけで、中身はちゃんとした死神であるが。
ちなみに、自分の魂を天界まで送ったのもこの人である。
「まぁ、ぼちぼちとって感じですかね。」
ありきたりな返事を返す。
「そうか。これから地上に行くのか?」
「あーと、もう行ってきました。それに地上に行くのは日が沈んだ内が良いって、そう教えてくれたのはグリムさんじゃないですか。」
「そうだったな。」
ガッハッハと、高らかにグリムさんは笑った。
「まぁ、俺はこれから家に帰るから。じゃあな。…そういえばお前が受肉化してるなんて珍しいな。なにか心変わりすることがあったのか?」
「あ、」
言われて自分の姿が受肉化してるのに気づく。ちなみに男性の姿である。そうだった、さっきまでヘルセトのとこにいて、その姿のままここまで来てたのか。さっきあったことの精神的ショックが大きすぎて、姿のことなんか全然気にしてなかった。
「まぁ…、ちょっとした気分転換ですよ。」
考えていることを悟られないよう、出来るだけ済ました顔で言う。
「そうか?…まぁ、じゃあな。」
グリムさんは受付と反対の方向に進んでいく。ちなみに、そちらの方向は天界の街の方角である。
その後ろ姿をぼーっと見ていた自分に気づく。いかん、受付が混む前に用事を済まさねば。
そのまま受付に直行する。
良かった。まだそんな並んでない。
俺はその列―――自分を合わして三名しかいないが―――の最後尾に並ぶ。
ふと受付の女性、つまりミルクを見る。透けるような白い肌、薄い金髪。そしてツインテール。あれ?ツインテールだったか?
ミルクと目が合う。軽く小首を傾げ、少しだけはにかみながら笑った。あれが営業スマイルというやつなのだろうか。
あんな風に笑うこともあるんだな。と、普通に感心した。
自分の番が来る。ちなみに後ろにはまだ誰も並んでない。
「では、次の方~!はい、ご用はなんでしょうか?」
営業スマイルで返される。本当にミルクか?もしかして双子とか?それかついに、頭がおかしくなったのか?いや、まともになったのか?本当にミルクだとしたらなんかちょっと、大人っぽくなったような…。
「あぁ…、えぇと、『特別なヤツ』なんだけど、一応11人分入ってます…。」
そうして俺はローブに腕を突っ込んで魂袋―――通称……やめておこう。―――を取り出した。
「はいはーい、えーと…?って、え!?もしかしてタナちゃん?!
ミルクは取り出した魂袋に書いてある俺の名前を見て驚く。えぇ、気付いてなかったのかよ…。
「そうだけど…、というかその髪型どうした。それになんか大人びてるように見えるし…。」
ミルクはニヤリと笑う。その笑い方はいつも見る笑みの方だったので少し安心する。
「ふっふっふっふっ…今は朝!時刻によって髪型や態度を変えることによって、職場の長時間労働を少しでも誤魔化すことが出来るのだ!」
「まじかよ、というかそんなつらい職場だったのかよ。」
俺は呆れと哀れみの気持ちを込め、そう言った。
「まぁ、死神さんの数は全盛期と比べて減ってしまいましたからねぇ、受付の人員は天界と冥界の方でたくさん割いてますから、ここは極力少なくしてるんれすよ。」
まぁ、冥界は地上界の人間なみに幽霊がいるし仕方ないか。
そんな世間話をしながら、ミルクちゃ・・・ミルクは、魂袋の中身を確認する。
その瞬間、ミルクは眉をひそめた。
「どうした?」
俺はそう聞く。
「いやれすねぇ、多分なんですけどこれ、10人分の魂しかないと思うんだよね…。」
「え?」
俺はミルクから魂袋を取り、魔力感知を利用して、中身を確認する。
余談だが、魔力は寿命と切っても切れない関係にあるらしい。魔力は普通、体にためこみ、時には周囲の四大精霊を利用して魔法として発動するのが主である。
しかし、その魔力というものは本来、魔法を使うためではなく、健康に生きるために無意識に使っていたものであるのだ。それを人は、魔法を使うための糧としただけなのである。まぁ、神々は昔から使ってたそうだけど、、、。
賢者や勇者、神などが長寿なのは単純に魔力量が多いから、それか精霊に愛されているからなのだ。
ちなみに、魔力量とMPは少し違う。魔力量は自分の持つ最大限のものをさしていうが、MPはその人が魔法として使える量のことをいう。魔力量が多くても、MPがなくて魔法が使えないという話はざらにある。まぁ、MPなんて言い方は前世の世界でしか通じないのだが。
えーと、なんの話をしようとしたんだっけか。
あ、そうそう。で、さっきのイザベル?さんの例で言うと、お腹の子供は酸素もだが、魔力で命を繋いでるといっても過言ではない。
母親からへその緒を繋いで酸素と魔力を送られているわけなのだが出産が近づくと、産まれた後、一人で生命維持できるようにと、魔力が大量に胎児に送られるらしい。
そこで今回は女性の魔力が少なかった―――つまり最初から寿命が残り少なかった―――か、子供が大量に魔力を貰ってったかのどっちかで魔力切れをおこし、倒れたということだ。そして俺がスキルによって魔力を分けたことで解決した、ってことだと思う。
まぁ、勇者とかそういうのは魔力の使い方がうまいから長寿だが、普通の人に意識的に魔力を使って本来の寿命より長く生きるなんて、そこまでの技量はない。だから、寿命を付与だとかいうけど、別に体が若返るわけではないし、人間には気休めにしかならないかもしれない。今回うまくいったのは本来寿命としてあった魔力そのものを奪われて、、、いやそもそも少なかったのか?まぁなんであれ、そのほぼ空っぽの部分に魔力を注いだからである。
関係ないが、死神の間では自分のもつ寿命で賭け事をしてる者達もいるらしい。そういうのにはあまり興味が湧かないが…。
中身を確認すると、魔力の塊のようなものを確認できる。数は、1、2、3、4‥‥10。10?
もう一度確認したが、確かに全部で10つ分の魂しかない。
どういうことだろうか?魂の質から考えると、全部同じ質に思える。…そういえばあの転生者、えー・・・・ケンタって言ったか?多分違う。
で、そいつは確か特種スキル持ちだった気がする。前世の記憶だが、転生してスーパー能力に目覚めるキャラは魂が強い者と聞く。まぁ、本とかはあまり好きではなかったし、詳しくは知らないのだが。ちなみに魂が強い者ってやつは自慢ではない。第一、自分は転生したときに失敗したようなもんだし…。
話を戻そう。そんな特種スキル持ちならば魂の質は高いはずだ。少なくとも周りの人よりは。そしてこの中の魂の質は大差ない。ならばきっと、消えたのはそいつの魂で間違いないだろう。
なんで、そいつの魂は消えたんだ‥?年齢が若かったから?魂がボロボロで体から抜けたときにバラバラになったから?それともまさか転生者だから?
「……ぉ-ぃ……、おーーい!!!ターナーちゃーんー!!!!」
「おぉっ?!」
ミルクの大声に驚き、俺は意識を取り戻す。まぁ別に失神とかはしてないのだが。
俺は考え事をするといつもこうだ。自分だけの世界に入ってしまう。半分、治すことを諦めているのだが。
「あぁ、悪い。えーと、それでなんの話だっけ?」
「はー…。その魂袋に10人分しかないって話れすよ。」
ミルクは半ば諦めたようにこめかみに手を当て言う。
「あ、そうだった。うん、ごめんやっぱ10人分で頼む。」
「はいはーい。今回は特別なモノなので、報酬はハデスさんから貰って下さいねー。」
「はいよ。じゃあまたな。」
「はいはーい。またのご利用お待ちしておりますですー♪」
俺はそのまま、ハデスさんの下に行く。特に急ぐ用事もないのでのんびり歩きながら行った。
30分くらいたっただろうか。目の前には大きな協会のような洋風の家がそびえ立っている。
「やっぱ大きいな…。」
いつみても呆れてしまう。
玄関をくぐり、ドアをノックして中に入る。今回は呼ぶまでもなく、協会によくありそうな正面の色付きガラスがあるとこでハデスさんは椅子に腰をかけていた。
「ん、タナトスか。今回はいろいろと大変だったようじゃな。」
ハデスさんは若干、悪巧みをしてそうな目でそう言った。
もしかして、ヘルセトの話も知ってるのか…。まぁ、冥界の王なら監視者からそういう連絡は来るか。
「えぇ、まぁ…。ハデスさんが苦手と思うのもなんとなく理解しましたよ。」
ハデスさんは今現在は独身だ。なんというか女性に対するアレが苦手なのかもしれない。
「わしも、あやつらが出来て間もないときにお主と同じような体験をしたぞ。案外、わしとお前は似た者同士なのかもしれぬな。」
冗談混じりにハデスさんはそう言った。似た者同士、か。実のところ俺はハデスさんのことはよく知らないし、まだ数ヶ月の付き合いなのでよく掴めていないのが本音だ。
「…さて、今回の件はうまく行ったのかね?どうやら誤算があったようじゃが?」
誤算?なんのことだろう。
そう疑問に思ったが、すぐに思い出した。
「あぁ、そういえば、本当は11人倒したつもりだったんですけど、魂袋には10人分しか入ってなかったんですよ。」
ハデスさんの片眉がぴくりと動いた。
「ほう?その消えた1人に心当たりはあるか?」
「はい、おそらくリーダー格のやつだと思います。」
「なるほど…」
ハデスさんは顎に手を当て何か考え事をしている。
「可能性としては、あらかじめ死亡したら違う場所…つまり、仲間のもとへ転移できるようにしていた、とかかのう。あるいは…」
チラッと俺を方を見る。
「…まぁ、、他の魂は無事なようじゃからソウルイーターということは…」
ぶつぶつ何かを言っていたが、残念ながら俺とハデスさんの距離は数メートル以上離れてるのでうまく聞き取れなかった。
ゴホン、と一つハデスさんは咳払いをした。
「まぁ、なんじゃ。今回は十つも魂を持ってきてくれたんじゃ。それでよしとするかのう。」
「はぁ…。」
生返事をする。そんな、中途半端でいいのだろうか?
「よし、なら報酬を上げねばならぬか。どのくらい欲しい?」
ハデスさんは話を変えて、そう訪ねてきた。
報酬か…。まぁ10万Gくらいかなぁ…。
しかし、そのときの俺はなんていうか魔が差したというか、転生者としての性なのかもしれないが、好奇心には逆らえなかった。これも、受肉化したしたせいなのかもしれない。だって、異世界だぜ?
後で思うとこれは因果の法則というものだったかもしれない。その言葉は後に大きく運命を変えることになるともしらずに…。
「…なぁ、ハデスさん。」
「ん、なんじゃ?」
俺は真っ直ぐとハデスさんを見つめる。
口を開き、一つ深く息を吐いて、大きく吸う。そして…
「俺、魔法学校に行ってみたい。」
以上で第1章は幕を閉じます。
一応第2章の案はあるのですが、他の作品(派生)も書いていて、投稿ペースは遅めです。
友人が何やら夏に向け小説をかいてるそうです…。それを自分のアカウントで投稿したいそうで…。