1ー⑦ 骸
今回は短め。
ランスロットさん視線での話です。
「死神狩り?え、…は?」
ランスロットは眉をひそめる。
どういうことだ?死神狩り…まさか、最近裏でささやかれてる聖戦士団のことか?
「わかったならそこをどけ、命を落としたくはないだろう?」
自分より、やや若そうな少年がそう言う。
今度こそその集団がタナトスへ近づこうとする。だが、自分も騎士に憧れここまで来た身。ここで引くのは間違っている。
「まてまて、それがそうだとして、この子と何の関係があるんだ?」
黒髪の少年は軽く舌打ちをする。
「めんどくせぇなぁ…。おいお前ら、殺れ。」
白いローブを羽織った集団が一斉に剣を抜き、こちらに近づく。その構えはおびえさせるためだけのモノではなく、完全に人を殺すそれであった。
仕方ない…。本当は抜きたくなかったが、今は緊急事態だ。手段は選べない。
「まて、こいつを狙うってんならまずは俺を殺せ。」
「ほう?」
黒髪の男が、ニヤリと笑う。
「そいつをかばっちゃってもいいのかよ?そいつは子どもの顔をしてるが…」
「構わない。」
俺は言葉を遮る。タナトスはうつむいているが、そんなことはどうでもいい。この子が何であれ、無抵抗の人間に剣を向けるヤツらは間違っている。
「それに…、さっき俺を殺せと言ったが、別に無抵抗で殺される筋合いはないぞ。」
抜剣の構えをとる。
黒髪の男が、ニヤリと笑う。
「ほう?」
「そして、俺は死ぬ気はない!!!」
抜剣する。その瞬間俺は二度驚いた。
まず、抜いた剣に刃がなかった。実際にはあるのだが、ニムエさんに貰った魔法石の上から綺麗に無くなっていた。
そして、二つ目は……。
突如、魔法石が水色に光り、その切っ先から水が吹き出す。いや、吹き出すというよりかはその出てきた水で剣の形を創り出した感じだ。
それは一秒と経つことなく形がまとまり、刃渡り1mほどのロングソードとなる。
「これは…?!」
初めて見る魔法だった。確かに剣に属性魔法を付与するものもあるにはあるのだが、これは完全に魔法そのものが剣になってる感じだった。
「なんだか、よくわからねぇ剣だが、そっちが動かねぇならこっちからやってやるよ!」
一番接近してるフードを被った男が、横から剣を振るう。
俺はとっさにそれを剣で受け止める。いや、受け止めようとした。
スパッ、。
その瞬間、相手の剣が綺麗に切れ、宙にまった。
剣で受け止めようとしただけなのだが、まさかこれほどとは…。いや切れ味が良いとかそんな程度じゃない!
ランスロットは驚いた。しかしそれ以上に彼ら聖戦士団も驚いていた。規格外過ぎる…、その剣は一体どこで…。と、誰もが思った。
敵の動きが止まる。
それに気づき、俺は不覚にも笑ってしまった。
「ハハハ…。凄いなこの剣は…、おい、お前ら!俺は無駄な殺しはしたくない!死にたくないなら、おとなしく剣を下ろせ!」
「ふざけるな!確かにその剣自体は強いが、俺達がいっせいにかかればどうってことはない!」
7人の男が、いっせいに切りかかる。
それでも俺は余裕を崩さない。右にいる者の右腕を断ち切り、そして左からくる者の腕の腱を切る。1人ずつ冷静に戦闘不能、しかも致命傷をほぼ与えず、対処していく。
その剣は水が放出と吸水を繰り返し、それはまるで決して刃こぼれのしないチェンソーのようだった。
「ぐはぁぁ!こ、いつ、これは鉄の鎧だぞ?!」
「剣の力だけじゃねぇ!こいつ自身も規格外の強さだ!」
俺は勝利を確信する。
やれる、この剣ならどんなやつも敵じゃない!
しかし、黒髪の少年―――タクマは、冷静に判断する。
―――さっきの剣から落ちてきた水滴から見るに、やはりこれは水魔法によるものだ。原理がわからないと解除は出来そうにない…だが、あの男自身に魔力はそんなにないように見える。ならば!
「『煉獄之炎』!!!」
ランク5の炎系魔法最大の魔法を無詠唱で発動する。
突如感じる熱気、その何かとてつもないものから体を守るように剣を眼前で構える。
そして炎は瞬く間に俺の剣を包み込み、剣の刃とともに蒸発する。
湯気が消えた頃には、さっきまで有った刃がなくなっていた。
「なっ、!?」
そんなっ?!、この剣をたった一回で!?
見ると、周りのローブを着ていたヤツらの皮膚はただれ、肉は焦げ肉となり、それでも生きてる様はまるで地獄の囚人のようだった。もしかしたら今回自分が助かったのはこの剣が火と消し合ったからかもしれない。もし、普通の剣で戦っていたら…、そう思い背筋から嫌な脂汗が出てくるのを感じる。
「はっ、いくら強い剣と言え、所詮は水。お前も多少は火傷すると思ったのだが見事に相殺されてしまったな。」
「チッ!!」
まずい、俺はこの剣の直し方を知らない。もうこの剣は使えない。そして俺は他には武器を持っていない。逆にもっていても、あのクラスの魔法を使える相手には勝てない。
「やはりお前は水魔法を使えないようだな!この俺!選ばれし者、タクマ様にひれ伏すがいい!」
「…選ばれし者?」
そこで初めてタナトスが声をだす。その顔は若干の動揺があるのが見て取れた。
タクマは笑う。
「そうさ!なんたってこの俺、タクマ様は全属性魔法を使うことができる、転生者なのだからな!」
転生者?!しかも全属性魔法を使える…だと!?
タクマは笑う、それはもうおかしい物を見たかのように何回も高笑いをする。
「はっ!はっ!はっ、はぁ~。」
タクマが俺を見る。その目はさっきのものとは違う、遊び飽きたおもちゃを見るような目だった。
「そこの男、お前はもう飽きた。俺様の寛大な心に免じて見逃してやる、死にたくないならそこをどけ。」
俺は歯をくいしばり睨みつける。
「ふざけるな!人を見殺しにしてまで、生きてる価値なんてない!
「そうか、なら死ね」
タクマが右手を前に出す。
くっ、もはやここまでか…。せめて、せめて彼だけは…。
「タナトス…、俺のことはいい!だから今の内に逃げっ…!?」
そこにはタナトスという人も、黒いローブを被った子供も、何もなかった。
ただ、そこにはあきらかなる"死"があった。




