1ー⑥ 終焉の兆し
終焉ってなんでしょうね
「それで、今回の件だが…」
暗い部屋の中、大理石の長テーブルを囲み座ってるものがいた。しかしその長テーブルは数十メートルはあるのに対し、今はその端に5人座ってるだけだ。
「聞けば昨日、死神があのマイヤーズを抜魂したらしいじゃないか。」
右端の男が腕組みをし言う。
「あぁ。彼にはランク4の光魔法、《浄化閃光》を使用できる魔法石を渡してたのではなかったのか?、それなのにこのざまとは…。」
左端後方の男が、額に手を当てうめく。
それを聞いた右端後方の男が、机を叩き叫ぶ。
「そんなことはどうでもいい!大事なのは秘密裏に計画してた『死神狩り』がバレてしまったということだ!この時のために、何年の時間を費やしたというのだ、やはりこんなの馬鹿げているんだ!俺は降りる!後はあんたらだけで…」
「黙れ。」
その一言で、場は静まり返った。言葉を発した端の席の男、違う言い方で言うと誕生日席の男が言う。
「バレたからといって、我らのことはまだ知らないはずだ。やつらだって、全能ではない。そして、死神も死ぬ。」
そういう男の眼孔は鋭く、幾たびの戦場を超えてきたような王者の風格が見て取れる。
「それに…我らにはこやつがついてるではないか。のう?タクマよ。」
左端の男に向かい言う。タクマと呼ばれた男は不適に笑う。
「フンッ、どんな死神と言えど俺の敵ではない。聞けば相手は魔法は多彩らしいが、物理攻撃の方はからっきしらしいじゃないか。」
タクマは一歩ためて再度口を開く。
「全ての属性魔法を使える俺にかてる魔法使いは、、、この世にいない。」
口々に安堵の声が聞こえる。
「そ、そうだよな。我らにはタクマ殿がついている。なんたって特殊スキル持ちの『転生者』だものな。」
そう、山崎拓摩、15歳。
彼は転生者である。
「ではタクマ、いってくれるか?」
「任せろ。それで?目星はついてるのか?」
「あぁ。」
真ん中の席の男は筒状になった紙を取り出す。
それを開き、タクマに渡す。
開いた中身には、似顔絵と体格、目撃情報などが書いてあった。
「これは今日の朝、急に13区に表れた者だ。ボロボロの黒ローブを着た姿、そして13区では見たことのない顔だったから死神で間違いない。」
「名前は?」
「わからぬ、おそらく新しい死神だ。強くなる前に狩ってほしい。」
「ふん、楽な仕事そうだ。」
「だが、決して油断するなよ?情報が無い分、強さは未知数だ。こんな雑魚にやられては元も子もないからな。」
「わかってる。兵を10名ほど持ってくがいいか?」
「構わん。」
朝目が覚めた。
俺は寝相が良い方らしく、またランスロットさんも悪くは無い方なので何事も起こらず朝を迎えることが出来た。
「んん…。」
俺はゆっくりと伸びをする。若干日は昇ってるかもだが、まだ外は明るくはなさそうだ。今は冬の終わりだから4時くらいだろうか。
ふと、隣を見る。まぁランスロットさんが寝てるだけだった。イケメンというのは寝てるときも様になる。ちなみに、顔はハンサムと言った方が適切かもしれない。
ちょっくら、外をぶらつくか。
乱れてる着衣(といっても、黒いローブだけだが)を綺麗にし、外に行く。やっぱり、ほぼ全裸だと寒い。
辺りは霧が立ち込めている。どこかハロウィンを思い出させるのは前世の記憶からだろうか。
ふと、視線を右に動かすと、10mほど先に少女がいた。
袖とスカート?の端がオレンジ色だが他は治のように赤いシンプルなロングワンピース、黒いタイツかニーソ、某有名店の赤いドナ○ドがはいてそうな靴。
後は視界がぼやけて見えないが、結構長めの髪だった。何やらぶつぶつ小声で何かを言ってる。
向こうはこちらに気づいていないし、また、こっちにも声をかける理由はないのでなんとなくその少女が霧に溶け込むまで眺めていた。
さて、とりあえずもう一眠りしよう。そう思い、俺は睡眠欲に負け、またベッドに身を預ける。
次に起きたときはもうすっかり日が登っていた。
ランスロットさんが料理をする音が聞こえる。
「おはよう、ランスロットさん。」
「ん…。おはよう、えーと、あれ?」
ランスロットさんは、渋い顔になる。
「どうしたの?」
「そういえば君の名前、なんだっけ?」
あ、そういえば言っていなかった。なんで気づかなかったんだろう。なんか急展開すぎて、言うのを忘れていた気がする。
「あー、えーと、」
タナトスっていって良いのだろうか。別に悪魔みたいに人に取り付いてるときは、真名を名乗っちゃいけない、みたいなルールはないので言っても良いか。
「タナトス。そう皆には呼ばれてる。」
「タナトス…か。うんカッコいい名だ。」
「そうかな?ランスロット、って名前もカッコいいと思うよ。」
「あぁ、えっと、そのことなんだけど…」
ランスロットさんは苦虫を潰したような顔をする。
「ランスロットっていうのは偽名でね。本当は別の名前があるんだ。」
え?そうなのか、槍とかカッコいい名前だったのに。
「そうなの?」
「うん、だけど真名だとね、前も言ったとおり、前は貴族の家計だったんだ。だからその名前を使うとすぐバレちゃうから偽名で通してる。」
あぁ、なるほど。なんだかよくわからないが、ややこしい関係なのだろうか。俺もこれからはタナトスと名乗るのはやめた方がいいのだろうか。
「それで?名前はなんていうの?」
「うーん、言いたいんだけど事情があってね…。悪い!」
まぁ、なんとなくそういう事情のことは察せる。
大方、今は任務中だからとかそんな感じか、それとも王から極秘にせよとか言われたんだろう。
「まぁ、いいですよ。ランスロットさんの方が絶対に名前的にカッコいいと思いますし。」
不適に笑う。
それを聞いたランスロットさんも笑う。
「あ、」
「ん?どうしたんだい?」
そういえば笑うのは久しぶりだったな。前世振りってやつ?なら初笑いか。
ハデスさんがそういや言ってたな。『何事も始めが肝心、そして最初にやった者には責任をとらないといけない。』って。
「責任、とってくださいよ。」
「え?なんの?!」
「自分、初めてだったんで。」
「え?えぇ?!」
ランスロットさんはたじろぐ。何か物凄い勘違いをしてるような気がする。
「冗談です。」
とりあえず、俺は責任とかそういうのにはうといので、冗談もほどほどにしておこう。
ランスロットさんは胸をなで下ろす。
「なんだ、嘘かぁ。」
「嘘ではありませんが、冗談です。」
「え?えぇ??!!」
さっきよりもびっくりする。どういうことだろうか。
「さてと、実は今日は仕事はないんだ。君さえ良ければ、ちょいと散歩でもしないか?」
話を変えて、ランスロットさんは言う。「さてと」って強いな。
散歩、か。確かに自分ひとりで町を探索するのは大変だからそうしよう。
「うん、実はこの街のことはよく知らないから、よろしくです。」
それから俺達は朝食をパパッと食べ、出掛ける準備をした。といっても、ランスロットさんが鎧を着ただけなのだが。
「よし、出掛けるか。」
「うん。」
ドアを抜ける。すると、ランスロットさんは家の方に向かって、
「行って来ます。」
といった。
「誰も人がいなかったらいわなくていいんだよ。」
ランスロットさんの顔が赤くなる。
「え?!そうだったのかい?…でも、いなくても行って来ます、って言った方が良い気がするんだけどね。」
「そんなもんですかね?」
「そっちの方が良いと思うけどなぁ。」
歩きながら自分たちの会話は続く。川や橋、甘味どころや武器屋など13区にあるいろいろなとこに寄った。
そして、
午後の5時に差し迫ったころだろうか。
急にランスロットさんの足が止まる。
ランスロットさんを見ると、前を見たまま動かない。
視線の先を見ると、白いフードつきのコートを羽織った集団が道を塞ぐように立っていた。大半がフードを深くかぶり、そのコートの胸元にはロングソードを天使の羽が覆うような刺繍がある。
「見つけたぞ。」
その集団の中で、1人フードを被っていない黒髪の少年がそう口にする。
「俺に何かようですか?」
ランスロットさんが前にでる。
「お前じゃない、その黒いローブを着たヤツに用がある。」
その集団が、俺の方に行こうとする。そこにランスロットさんが止めるように真ん中に出る。
「俺はこいつの親みたいなものだ。要件があるならまずは俺を通してから言え。」
黒髪の男は答える。
「そうか、ならばこう言えば良いのか?………死神狩りをする者だ。」




