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魔王、蟻に転生す  作者: 蟻村 和希
蟻の争い
22/23


 「ではアリシアお姉さま、もう一度お願いします」


 『はい! ええとですね、入口の警備に四人――』


 とりあえず単位のことも教えてみた。

 一度に色んな単位を教えるとそれも時間がかかると思ったので、自分たちのことは一人二人、他の生物は一匹二匹、物などは全て一つ二つで統一して教えることにした。

 また後日他の物の単位も教えてみることにする。


 『――交代要員として同数。 ご飯の調達はそれら二つを合わせた数に近いです。 この外に居る数は、(いえ)の中の人数の十二・三人に一人くらいの割合で決めています。 (いえ)の中の仕事が(おろそ)かにならないため、人数的にその数でご飯は賄えるためと理由は色々ありますが、だいたいこのくらいですね!』


 おお!

 少しばかりアホだと思っていたアリシアがこんなにも知的な言い回しを!

 これが進化というものか!

 素直に俺は感動しているぞ。

 で、つまるところそれを踏まえて計算するとすれば。

 やはり入口周辺に二十、交代要員に二十で合わせて四十。

 それと同数くらいが餌の調達に出ているため更に四十で、合わせて八十。

 その八十は、巣の中に十二・三匹につき一匹ということなので、計算すると――。


 「およそ、千・・・」


 クッ、数字にしてみるとなんて絶望的な数字だ。

 

 「百が十集まると千なのね?」


 うむまあそうだけど、アリアンナ今はそれはいいんだよ。

 今はその千匹の蟻をどうやって潰していくかを考えねばならんのだ。

 一度に千匹が出てくることはまずありえないだろう。

 現在外に出ている数にプラスアルファ、百匹前後か。こちらも戦闘員の数はそれくらいを出せないこともない。

 その敵の百匹前後とこちらの戦闘員を当て、徐々に減らしていくということはできる。

 しかしだ。それだと十回程度の戦闘を繰り返すことになる。

 こちらの被害状況を見越すなら、百対百の戦闘など何度も行えるものではない。

 良くて二回だ。だがその時にはこちらの数は半分を切っているだろう。

 できるわけがない。

 ――ではどうする?

 蟻共(やつら)の大半は地面の中、どうにかしてその大半を地上に引きづりだすことができれば、魔法でどうにでもできるのに――。


 「あ――」


 その時俺は素晴らしい案を思いつく。

 

 「アリアンナお姉さま、例えば私が魔法で爆発を起こし――」


 「だめよ」


 まだ全部言ってないではないか。


 「え、お姉さま」


 「その爆発に驚いてやつらが出てきたのを、また魔法で一網打尽に――とかでしょう?」


 「う、その通りでございます。 ダメなのですか?」


 「ダメ。 まず一度に全部が出てくることはないわ。 必ず中にはいくらかが残るの、一番重要なのは外の異常よりも女王(おばあさま)の安全だから。 あと確かに同じことを数回行えば、かなりの数を仕留めることはできる。 でも、同じ規模の魔法を何度も撃てば、あなたの消耗も激しいと思うの。 私たちが一番大切なのは、奴らを倒すことではなく、あなたの安全。 解るわね?」


 「ですがここは魔力の濃度も高く、魔力量の回復も早いはずです。 十発二十発程度なら容易く――」


 「それでもよ。 少しでも危険が及ぶというのであればそれは反対します。 今はそれ以外の方法を考えて、お願いアンス」


 ぐぬぬ。

 考えろと言ってもだな。

 相手は千匹近い軍勢だぞ?

 どうにかして一気に叩き潰す方法を考えねば、兵力に劣るこちらはどう足掻いても太刀打ちできん。

 何かあるか・・・?

 外の異常では駄目。となると中で何かが起こるくらいでないといかん。

 しかし中に入るにはあの入り口しか無い。

 現状、あの入り口をどうにもできないから、こうやって蟻共(やつら)を引きずり出す方法を考えているというのに――。

 他にも入る手段があれば中からでも火を放ちいぶり出すのだが――。

   

 「――ん? 他にも?」


 「何か思いついた?」


 「アリアンナお姉さま。 火はどう思いますか?」


 「え? 火は、怖いわ。 全て消してしまうし、囲まれれば逃げることができない。 あなたがお母様の前で火を放ったとき、正直恐ろしいとも思ったわ。 ――まさか火であの入口を囲うというの!? 意味がないわ! 余計に出て来なくなる!」


 「いえ何も外で火をおこすということではありません」


 俺はそう言って、自らの小さな顎で地面を叩いた。

 

 「まさか、中で?」


 こくりと頷く。

 つまりはそういうことだ。

 元来、生物というのは火を怖がる。元々弱々しい人間共が繁栄したのは、その恐るべき火を我が物としたためだとも聞いたことがある。

 その恐るべき火が、逃げ場の無い巣の中で燃え広がったとすれば――。

 パニックになった蟻共(やつら)は慌てて外に飛び出してくるのではないか?ということだ。


 『でも姫ちゃん? そうなるとお婆様の(いえ)に入らないといけないんじゃない? 入るにはあの入口しかないのに、どうやってえ?』


 「ふふ、アリアーデお姉さま、入口が一つなら、もう一つ作ってしまえばいいじゃない」


 『――ああん。 なるほどねえ・・・』


 お、どうやらこれだけで解ったようだな。

 つまるところ、俺の考えはこうだ。

 あの入口から少しばかり離れたところから、あの巣の深奥近くに続く穴を掘る。この辺の土壌は掘りやすくそれでいて適度な湿度もありしっかりとしている。巣の建築に適しているほどに。

 あの地面の硬い土地で巣を造ったお姉さま方だ。時間もそれほどかからないはず。

 そして巣の深奥近くまで到達すれば、適当に空間を作り、燃えやすい木や枯草を運んでおく。

 この時、空気が流れず火が上手く燃えないということがないように、換気用に複数地上へと続く穴もあけておく。

 そして自分たちの逃げ道となる穴を空けておかないといけない。煙は上へと逃げる性質があるから、一度さらに下に掘り、そこから弧を描いて地上に通じるようにあければいいだろう。

 それで準備が整えば、お婆様の巣と開通させ、運んだものに火をつけ煙と焚き、奴らをいぶり出す!

 いきなり巣の中に発生する煙に、蟻共(やつら)はパニックとなり地上へと這い出てくるだろう。

 さすがの女王(おばあさま)も、逃げ場も無い地下の巣の中にはずっとはいられないはずだ。

 出てきたところを一気に――。


 「仕留める!」


 と、俺は三人のお姉さまに説明したわけだった。


 「でもアンス。 そうなるとあなたがその穴に入り火をつけないといけないんじゃないの? あと、右も左も解らない地下でどうやって正確にお婆様の(いえ)の近くまで・・・。 それに近づけたとしても、奴らに気づかれたりは・・・」


 なんだアリアンナ。意外と用心深いじゃないか。


 「多分気づかれることはありません。 トカゲを運んでいる時の奴らを見ていたら、天敵などの存在を全く気にしていませんでした。 おおかたずっとこの辺の生態系のトップに立っているせいで麻痺しているんでしょう。 警戒するということを忘れているようでした。 それと、火を付けるのもお婆様の巣の在り処を探るのも、アリアンナお姉さまにお任せしようと思っています」


 「えっ。 私はそんなことできないわよ」


 「いいえできます。 お姉さまには、私が分けた魔力がありますから」


 そうだ。アリアンナには俺が分け与えた魔力がある。

 それを上手く使えば、魔法を放つことも敵の居所を探ることも造作もないはずだ。

 

 「そう、なの?」


 「ええ。 そういうわけですのでアリシアお姉さま、アリアーデお姉さま、お婆様のテリトリーの外から、お婆様の巣まで掘れそうなところを見つけてきてもらえますか? その間に私はアリアンナお姉さまに少し魔力の使い方を教えておきますので」


 『りょーかいよ』

 

 『はい姫様ー!』


 そういって二人は藪の中へと消えて行った。

 特に反論がないところを見れば、この作戦に同意してくれているということだろうか。

 はたまた、俺が新女王であるからなのか。

 ただまあ、この作戦が失敗に終われば、新女王もクソもないのだがな。

 さて、俺たちは自分たちのことをするか。


 「ではお姉さま。 まずは気分を落ち着かせてください」

 

 「ええ、わかったわ」


 「そうすると次第に感覚が敏感になってくると思います。 自分の呼吸音さえ大きく聞こえ、近くの物体が鮮明に見えはじめ、そして自分の体の中にある大きな力に気づくはず」


 アリアンナは静かにコクリと頷いた。


 「それが魔力。 私がお姉さまに分けた力」


 「とても大きいわ。 荒々しくも、それでいて優しく、包み込むような力」


 いやそんなはずはないんだが。

 アリアンナに移ったことで性質が変わったのか?

 まあいい。


 「イメージしてください。 その力が、血液のように体を廻るようなイメージを」


 それを聞いたあと、アリアンナの中で変則的に渦巻く魔力が、すぐに落ち着きを持ち、静かに膨れ上がったのが解った。

 俺から急に与えられた魔力は、これまで扱い方が解らずただ体の中で眠っていただけだったらしい。

 しかし、コツをつかんだのか、アリアンナの魔力は全身を廻るように流れ始めている。

 素晴らしい。こいつは素質があるようだ。


 「では、今度はその廻るものを、目に集めるようにイメージしてください。 遠くを見るように目を凝らすような・・・」

 

 見るだけでわかる。アリアンナの魔力が目の辺りに集中している。

 基本は魔力による身体強化と同じようなものだ。

 腕に集めれば単純な力が上昇するのと同じ。目に集めれば視覚が急激に上昇する。

 そしてそれは、ただよく見えるようになるというわけではない。他の生物の持つ魔力も鮮明に映すことができるのだ。もちろん、影に隠れている生物の魔力もな。

 

 「凄い・・・」


 感心するようにアリアンナが呟いた。

 

 「どうですか? 今までよりも更にはっきりと見えるはずです」


 「ええ、あたりに居る兵士の姿も木々を通して見ることができるわ。 でもそれ以上に――」


 「なんです?」


 「アンス・・・あなたの力がまぶし過ぎるの」


 ああそうか。

 この場合基本的に生物の持つ魔力がシルエット状に光って見えるが、その度合いは自分の魔力に応じて変わる。

 ドラゴンが小虫を――というやつだ。

 自分より弱い生物は淡く光って見え、自分より強い生物は強烈な光を放つように見える。

 俺が与えた魔力は一割程度、その状態で俺を見れば十倍違うはずだからな。そりゃ眩しいわ。

 それで同じようなことで、この役目を俺じゃなくてアリアンナにやってもらう理由でもある。

 俺がやったところでお婆様の魔力は眼に映らないんだよ。あまりにも差がありすぎて。


 「すみませんお姉さま。 少し抑えてみます」

 

 とは言ったものの魔力を抑えるなんて難しいんだよな。

 魔力は生命力みたいなものだから、使うか死に掛けるかしないと抑えるなんて。

 むむむ、こうか?ちょっと俺も落ち着いてみよう。


 「ありがとうアンス。 少し和らいだわ」

 

 おお適当にやったが良かったのか。


 「はい。 というわけで、その状態で地面を掘れば、お婆様の巣の近くまで正確に行けるはずです」

 

 「なるほど、ね。 じゃあ次は火? 魔法かしら?」

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