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EndingB ~惑わすもの~


真円を成す「神託の間」。

一切の日光を拒絶するこの部屋を照らすのは、紫の燐光を放つ氷柱のみ。


並ぶ八脚の椅子は全て空席。


中央の玉座にはぞっとするほど美しく儚い少女が、自らの髪と戯れている。


その足下にひれ伏すのはミュシルゥ。

赤の長髪は乱れ放題で、勝ち気そうな顔には抑えきれない歯がゆさが燃えていた。


「……以上です、神王しんのうさま」


本来はここにいるべきではなかったのだ。


報告を終え、ミュシルゥはそっと腰の刀に手を伸ばした。

本来なら敵の機装に切られて死んでいた身。

妹と共に〈大教授だいきょうじゅ〉に助けられていなければ、こんな無様な姿を神王に晒す事もなかった。


「アトラテア万歳!」


曲刀を抜き、自らのノドに突き立てようとして。


「なにをしているの?」


神王の言葉が、輝く刀身を砂か何かのように吹き散らした。

柄だけの剣を取り落とし、ミュシルゥは敬愛する主を見上げる。


「し、神王さま……」


「ミュシィ、なにをしているの?」


その顔には慈愛以外の感情が見えない。

そしてミュシルゥの行為を理解したそぶりもない。

ただ純粋に行動の意図を訊ねていた。


「私たちは、もう神王さまの八神将を名乗る資格なんて」


敵に負けただけではない。生き恥をさらした事でもない。

彼女が最も悔やむのは神王から賜った〈嬰児みどりご〉の事だった。


〈神殺し〉を受ける直前、敵の王子はいかにしてか妹、ファッギィに宿る〈嬰児〉を葬り去った。


彼女たち姉妹が魂を分けているように、その身に宿った〈嬰児〉も根は一つ。

半身を奪われたミュシルゥの〈嬰児〉はすでに虫の息で助かる見込みはない。

だから独力で逃げられず、〈大教授〉の手を借りざるを得なかった。

いや、そのような状況なら素直に切られた方がどんなにマシだったか。


私にもっと力があれば……


「そんな顔しないで」


ふいに神王が彼女をかき抱く。


「私の〈妬み〉はそんな事で死んだりしないわ。

 だからあなたも、命を粗末にしないでちょうだい」


神王の冷たい唇がミュシルゥの唇を奪った。

ズルリと身のうちから〈嬰児〉が引きはがされ、神王の胸に納まる。


赤髪の麗人は黒いもやになって形を失い、神王が口を離す頃には別の人物、さび色の髪をした幼い少女となって立ちつくす。


「この子にはもっと力を与えます。あなたは〈大攻勢〉まで休みなさい」


本来の身体に戻され呆然となるミュシルゥに、神王はあくまでも穏やかに話しかける。


「心配しないで、あなたはまだ私の八神将。かわいい私の妹だわ」


その時、玉座の後ろで闇が解け、中から一人の影が歩み出す。

全身を真っ黒なローブで覆い隠したそれは、頭巾の奥で丸い二つの光を湛える。

ただの人間に戻ったミュシルゥの目にも、異様な丸メガネだけで誰かはわかる。


「〈大教授〉……」


「おや」


男とも女ともつかぬ不気味な潜み声が、顔を見せる事なく嗤う。


〈嬰児〉がいたなら強気にもなれただろうが、今の自分はその姿に恐怖しか感じない。

そして相手は、ガラス越しの冷徹な瞳でミュシルゥのなにもかもを見通している。


「……ふん、所詮はガキか。

 神王陛下に世話してもらえないと泣く事しかできないのかい」


「ハーギ、おやめなさい」


神王にたしなめられ〈大教授〉は慇懃に頭を下げる。

だが侮蔑と憐れみの気配はミュシルゥに向けられたままだ。


「放置するには少し厄介になったわハーギ。仕留めるられるかしら」


「御意。こちらの予定とも噛み合います。

 この際ですからまとめて片付けてしまいましょう」


自信を持って答えた〈大教授〉。

神王はそっと頭巾の奥の闇に手を伸ばし、そのかんばせを撫でる。


「侮ってはだめよ。

 相手は〈全ての衣装と神話を司る者〉、〈屠神の両性鬼アンドロギュノサイダー〉の異名を持つ〈反抗者〉でも指折りの強者なのだから。

 そう、ちょうどあの子が、ティジが仕上がったから連れてお行きなさい」


一瞬、〈大教授〉に不服の気配が見えたが、それがなぜかミュシルゥにはわからない。


〈大教授〉すぐに頭を下げ、そして満足げに微笑みの気配を漏らす。


「ありがとうございます神王陛下。ついてはひとつ、褒美を欲しても?」


「なにかしら?」


「あの王子、〈御使い〉ですが、生け捕りにできれば私がいただきたく思います」


「いいでしょう。……かわいい子、ハーギのお眼鏡に叶ったのね」


「ええ」


頭巾の下で、暗闇から舌なめずりする音が確かに聞こえた。


「とても美味しそうです」


「それはよかったわ」


黒衣の人物のぎらつく欲望に、答える神王はどこまでも無邪気。


〈眷属〉になって久しく感じる事がなかった怖気に全身を震わせ、ミュシルゥはその場にへたり込んだ。


氷柱に灯された燐光が消える。


ミュシルゥは、考えるのをやめた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

「巻之三:白き帝都の七変化」はこれにて終幕となります。


だいぶ話が軽くなる、とはいったいなんだったのか、書けば書くほどキャラの過去が陰鬱にのし掛かってきてしまい、気づけばシリアス展開に……


どうもじんべいには底抜けに明るいギャグはまだ遠い目標のようです。



そして次巻なのですが、これもあまり明るい話にはなりそうにない。

もともとベースプロットでも一大転機に位置づけられている話ですから……



ちょっと話を変えて、今回の〈レイ君の七変化〉はいかがだったでしょうか。


好評のメイドに始まり、ナース、ウェイトレス、パティシエール、アイドル、ダンサー、最後はモルガン・ル・フェイという流れで七変化。

男の娘としてはセクハラとパンチラ程度しか見せ場がなく、ちょっと色気不足でしたかね。

セクハラ描写も文量に押されてかなり削ってしまったので、正直、不完全燃焼です。



トドメの必殺技もちょっとあっさり気味。

魔法なのに剣で切るってどうよ……


〈ドリーム・ヒーラー〉の元ネタはジャーマンメタルバンド〈Gamma Ray〉の楽曲から。

幻想世界の魔法はこの曲からインスピレーションを得ています。

七分ちょっとの長い曲ですがオススメです。



他にも小ネタは仕込み放題に仕込んでいるので、気づいた方は指摘していただけるとじんべいが喜びに水面から飛び跳ねます。



評価、感想、ブクマ、コメント、そしてレビュー。

これからも歓迎いたしますゆえ、どうかどうかモチベ維持にご協力のほどを。



それでは皆様、「巻之四:生徒会の戦争(仮)」のあとがきでまたお会いしましょう。



文を書く魚類 じんべい・ふみあき より

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